インタビュー
プロゲーマーのネモ氏がスクウェア・エニックスに入社。社会人プロゲーマーとして活躍を続ける氏が示すプロゲーマーの1つの可能性
社会人ゲーマーとして活躍を続けていたネモ氏だったが,2017年の7月に自身のTwitterにおいて,10年間務めた会社を退職したと報告。以降はとくにこれといったアナウンスも無く,転職をしたのか,はたまた専業プロゲーマー1本で活動しているのかは不明な状況となっていた。
しかし今回4Gamerが入手した情報によると,ネモ氏は7月の退職の3か月後の10月に,スクウェア・エニックスに入社し,以前と変わらない平日の昼間は会社員,就業後やオフの日はプロゲーマーといった“二足のわらじ”スタイルで生活を続けているとのこと。
4Gamerでは,これまで沈黙を保っていたネモ氏に取材を依頼し,直属の上司にあたるスクウェア・エニックスの柴 貴正氏を交えたインタビューを敢行,入社の経緯や今後の活動などについて聞いてみた。
社会人プロゲーマーのライフスタイルを継続
ネモ氏が示すプロゲーマーの1つの可能性
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず最初に自己紹介をお願いします。
ネモ氏:
4Gamer:
2017年7月のTwitterでの報告以降,とくにこれといったアナウンスが無かったため,専業プロゲーマーとして活動を続けていると思っていた人が多かったと思いますが,Capcom Cup 2017の時点ではすでにスクウェア・エニックスで働いていたということでしょうか。
ネモ氏:
はい,どこかで発表だったり,報告をしようと考えていたのですが,これといったタイミングが無く,今日まで引っ張ってしまいまして……。Capcom Cup 2017は入社後1発目の大きな大会参加になりましたが,いい結果を残せてうれしく思っています。
4Gamer:
スクウェア・エニックスへの入社ですが,これはどのようなきっかけで実現したのでしょうか。
柴 貴正氏(以下,柴氏):
自分が所属する弊社の第7ビジネス・ディビジョンは立ち上げて5年目くらいになるのですが,いろいろなタイトルを制作しています。人材の確保も大切でして,一緒に仕事をしたい人の最低条件が「ゲームが本当に好きな人」,細かく言うと「現役でゲームを遊ぶことが大好きな人」になります。いるんですよね,ゲームは大好きですって言うから,今何を遊んでるのって聞くと,最近は忙しくてあまりゲームしていませんって人が。それ本当にゲーム好きなの? って(笑
ただゲームが好きで,プレイも上手い人ってパラメーターの振り方が極端な人が多いんですよ。地頭がよくて要領もいいんだけど,苦手なことはやらないって人ですね。逆に苦手なことをこなせる人が何をしてるっていうとサラリーマンだったりするんです。ネモ君の場合は,ゲームはずっとやっていてプレイもトップクラス。さらにプロゲーマーとして活躍しつつ,サラリーマンとしてもずっと働いているって聞いていたので,これは一度会って話を聞かないともったいないなと。
4Gamer:
なるほど。豊田氏は「ガンスリンガー ストラトス」などでスクウェア・エニックスとは交流がありましたね。ちなみに前職の退職理由は何かあるのでしょうか。
ネモ氏:
正直,以前の職場にはこれといった不満はありませんでした。SEとして働いていたのですが,定時に帰れましたし,プロゲーマーとしての活動を認めてもらえていましたし,周りの人たちとの関係も良好でした。ですが,今後のプロゲーマーとしての活動を考えたときに,もっと活動できる,より理解のある職場に行きたいなといった気持ちが強くありました。
それに加えて,自分のプロゲーマーとしての活動を会社にも活かせる職場で働くことで,今後のキャリアアップや収入の増加にもつながるのじゃないかと考えまして。転職を考えたのはかなり前ですが,今後の自身のキャリアを見つめたときに,ゲームを生かした仕事をしたほうがいいのではないかという結論になりました。
4Gamer:
「ALIENWARE ZONE」の記事内でも,以前の会社や上司の話が出ていました。居心地のよかった職場を退職をする時に葛藤などは無かったのでしょうか。
ネモ氏:
葛藤などはまったく無かったです。というのも,自分のやりたいこと,目指していることに対して以前の職場が納得してくれていたという部分が大きいですね。上司に退職の話をしたときも,同じ職種で転職をするのであれば止めていたけれど,ゲーム業界に行って活動を広げていくのであれば,それは素晴らしいことだと思うし,応援したいと送り出してくれました。
4Gamer:
ネモ氏がスクウェア・エニックスを選んだ理由はありますか。格闘ゲーマーとしてのイメージが強いのですが,格闘ゲームを制作しているメーカーに行くという選択肢はなかったのでしょうか。
ネモ氏:
豊田さんに紹介をいただいたというのももちろんあるのですが,格闘ゲームの制作に対して積極的に関わりたいという気持ちはそれほどなかったんです。格闘ゲーマーだから格闘ゲームのメーカーに入れたんでしょって見られたくないというのもありましたし,自分はいつまでもプレイヤーサイドで活動したいという気持ちも強くありました。それと単純に会社が家から近いというのも大きいですね(笑
そして,なにより一番大きかったのは,働くスタイルを相談したときに,プロゲーマーとしての活動を全面的に認めてくれたところでした。柔軟な勤務形態のおかげで,自分の能力で時間を作ることができ,スケジュールの管理がしやすい。これはプロゲーマーとして活動していく上でとても魅力的に感じられました。
4Gamer:
プロゲーマーとしての活動を全面的に認めるとのことですが,スクウェア・エニックスとしてはネモ氏のプロ活動をなんらかの形でサポートする予定はありますか。また,ネモ氏は今後どういった業務に携わっていきたいと考えていますか。
柴氏:
弊社としては積極的にサポートする気はとくにありません。ネモ君ができる範囲で自由に活動してもらえればそれでいいと思っています。うちの部署では全員に「早く帰ってゲームをしなさい」と常々伝えています。それがゲーム作り,ユーザーとのコミュニケーションをする糧になると自分は考えています。だからネモ君が早く退社して「ストリートファイターV」をやり込むことは,ネモ君にとっても,会社にとってもメリットがあることなんですね。会社にとってのメリットというのは,プロゲーマーとして活動するネモ君が持っている知識や考え方を共有して,ゲーム開発や運営に活かせればと考えています。
なので,ネモ君の仕事とプロゲーマーの両立を双方にとってベストな形で実現するために,例えばプロゲーマーのネモ君がプレイするゲームタイトルの関係で海外遠征をする場合は,仕事は自身の休暇の形で対応してもらっています。先ほどのサポートの話につながるのですが,プロゲーマーのネモ君と一緒に働いているのではなく,ネモ君と働いていて,そのネモ君が兼業でプロゲーマーをしているといった感覚です。
大きなゲーム大会に出るからといってスクウェア・エニックスのユニフォームを着て出場してくださいとか,そういったことを強制することはないです。もちろん,考えるには考えたんですけどね(笑
ネモ氏:
今後の業務についてはまだ模索している段階となりますが,ゲーム運営とプロモーションにおいて,プロゲーマーの活動を生かせないかと考えています。プロゲーマーとして活動していて感じるのですが,ユーザーとの距離感がとても近いんです。これは自分が主にプレイしているタイトルはもちろんなのですが,ちょっと触ってみるかって始めたタイトルでも同じことがいえまして,開発だとなかなか分かりにくいユーザーが抱える問題点なども伝わってきますし,そういった部分を開発や運営にフィードバックできればと考えています。ただ現状は与えられた仕事をこなしつつ,いろいろな会議に出席して勉強している段階ですね。
4Gamer:
スクウェア・エニックスに入社したことで,今後ネモ氏の活動はどのように変化すると考えていますか。
ネモ氏:
会社員としての仕事があるので,専業プロゲーマーのように常に海外に遠征するというのは厳しいですが,スケジュールを管理してこれまで以上に積極的に活動していきたいですね。前職では海外遠征も年に数回が限界でしたので。
柴氏:
国内外問わず,できるだけ大会には出てほしいですね。
4Gamer:
そうなると今後はこれまで以上に世界的に活躍するプロゲーマー・ネモが見られるという認識で大丈夫でしょうか。
ネモ氏:
がんばりますとしか言えませんね(笑 もちろん,大会の動画配信などで見られる機会は増えると思いますので,応援していただければ励みになります。
4Gamer:
スクウェア・エニックス入社後に印象に残ったエピソードは何かありますか。
ネモ氏:
今でも印象に残っている入社後に一番辛かったエピソードがあります(笑
Capcom Cup 2017の3日前に部署の忘年会があったのですが,その時のサプライズで「ネモさんがCapcom Cup 2017に挑戦します。みんな応援してください!」って壮行会みたいなものが開かれたんですよ。まだ予選も通ってないのにいきなり注目を浴びてしまって,しかも予選を抜けても初戦がpunk選手っていうすごい条件で……。正直すごいネガティブになってしまって,表向きには「予選取れるようがんばります……」ってコメントしたんですが,予選前は不安でしょうがなかったです。ただそんな中でもいい結果を残せたので,あらためて自信につながりました。
4Gamer:
プロゲーマーの登場やe-Sportsの発展など,ここ何年かでゲームプレイヤーの地位がめざましく向上しているように感じられます。ここからさらに10年後,ゲーム業界はどうなっていると思いますか。
ネモ氏:
これはどうなってほしいかという話になると思うんですけど,e-Sportsがオリンピックの種目になるかもって話がありますよね。それが実現してオリンピックの種目になって,ゲームが強い,ゲームが上手い,そう思われるだけで子供に夢を与えられるような世界になっていてほしいなって思います。例えばプロゲーマーが日本代表としてオリンピックに出場するとして,その代表ユニフォームを子供が着ている,そんな世界になっていてくれればすごく夢があるなって。
4Gamer:
最後に応援するファンやユーザーに何かメッセージをいただけますか。
柴氏:
今回の試みは,かなり変わっていて新しいんですけど,正直何も計算していません。ただ業界にとっては前向きな一歩になるんじゃないかなって考えています。もちろん,結果的に自分たちのタイトルや弊社の商品がより良いものになって売れたらうれしいんですが,もっと大きなところで動きがあってほしいですね。
少なくともネモ君の人生にとっていい方向に傾いてくれればうれしく思います。みなさん今後ともネモ君の応援をよろしくお願いします。
ネモ氏:
プロゲーマーになる前の話になりますが,当時はウメハラさんやマゴさん,ときどさんといった第一線で活躍するプロゲーマーとも対等に戦えていたのに,自分は将来に不安でプロゲーマーへの道を閉ざしていました。そんな中でプロゲーマーとして活躍する仲間をずっとうらやましいと思っていたし,がんばってほしいとも思っていました。
それって今ゲームを遊んでいる若い子や,社会人でも同じことを思っている人ってたくさんいると思うんですよ。自分はプロゲーマーになれる能力は持っているけど,将来が不安だから前に出れないって人が。そういう人たちに対して,今回の事例は1つの可能性を示せたのかなとうれしく思います。
今後は今まで以上にプロゲーマーとしての活動をがんばれると思うので,引き続き応援のほどよろしくお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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