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スクウェア・エニックスは巨大なトキワ荘。レジェンド開発者が登場した,ユニークな中途採用説明会をレポート
ここでは「FINAL FANTASY」(以下,FF)シリーズのドットグラフィックスを手がけた渋谷員子氏や,「クロノトリガー」のディレクションで知られる時田貴司氏らのクリエイターが登場し,「FINAL FANTASYと仕事をする - FINAL FANTASY制作裏話」と題したトークセッションを行ったので,その模様を中心にレポートしよう。
今回の中途採用説明会は,スクウェア・エニックスの第8ビジネス・ディビジョン(以下,第8BD)が人材募集をするために開催されたもの。第8BDは「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」(以下,FFBE)や「聖剣伝説2 SECRET of MANA」「インペリアル サガ」といったタイトルに加えて,VR体感型音楽アトラクション「バハムートディスコ」(関連記事)などの開発も手がけている。
当日は著名クリエイターが登場することもあってか,多くの参加者が集まった。トークセッション終了後にはプランナーやディレクター,アーティストといった希望職種別に分かれての座談会が行われたが,そこでは“レジェンド開発者”から仕事に求められる心構えや必要とされる技能などについて,直接アドバイスを受けられるという,貴重な機会になったようだ。
以下で,トークセッションの内容をレポートしよう。
●トークセッション出席者(敬称略)
広野 啓
スクウェア・エニックス第8BD ディビジョン・エグゼクティブ/プロデューサー
「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」プロデューサー
渋谷員子
第8BD CGデザイナー/アートディレクター
「FINAL FANTASY」シリーズ キャラクタードット絵/デザイン
時田貴司
第8BD シニア・マネージャー
「ライブ・ア・ライブ」ディレクター
「FINAL FANTASY IV」ゲームデザイン
「半熟英雄」シリーズ ディレクター
「ナナシ ノ ゲエム」エグゼクティブプロデューサー
野間崇弘
第8BD マーケティング&PR マネージャー
「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」プロモーション
スクウェア・エニックスに求められる人物像とは
スクウェア・エニックスには第1から第10までのビジネス・ディビジョンが存在する。第1なら「FINAL FANTASY VII REMAKE」,第2なら「FINAL FANTASY XV」,第6は「ドラゴンクエスト」……といったように,それぞれが違う作品を手がけているのは想像できるだろうが,単なる「事業部」との大きな違いは,それぞれが予算・収支責任を持っていること。
今回,第8BDが募集しているのはプロデューサー,ディレクター,プランナー,アーティスト(デザイナー),プロモーションの5職種だ。まずは広野氏が登壇し,それぞれの職種に求められる人物像について,以下のようにまとめた。
●プロデューサー
責任者ではあるが,支配者ではない。皆を引っ張り,成功に導いていくリーダー。好奇心と熱意があり,サービス精神を持っているとなお良い。
●ディレクター
プロデューサーが収支を含めた売り方を担当するなら,ディレクターはゲーム自体の面白さを設計する。ゲーム作りについて,確固たる意見を持ち,我が強いほど向いているが,チーム作業なので独りよがりになってはならない。
●プランナー
ゲーム開発における何でも屋。今は作ったものを提供するだけではなく,提供したものをどうしていくかという運営的な考え方が必要。データマイニングの数字からユーザー動向を読み,新しい施策を作るというレベルでの視野も求められる。作品作りのあらゆる所に携われるコミュニケーション力を持ったアイデアマンが向く。
●アーティスト(デザイナー)
技術の進歩が早いため,最先端技術を常に追いかけることが必要。UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンを扱った経験があると,スムーズに業務に関われる。
●プロモーション
スマートフォンの台頭で広告手法も変化しており,マーケティング的手法が必要。その一方で,オフラインイベントなど,ユーザーに直接会ってのコミュニケーションも重要。第8BDではプロモーションとマーケティングの両方を手がけるため,自分が扱う商品に研究熱心であり,作品の「ここが面白い」という意見を自分で持てればユーザーに伝わりやすい。
IPをリスペクトし,時代で最高の品質を持つスマートフォンゲームを生み出す
続いて渋谷氏,時田氏,野間氏が加わり,トークセッションがスタートした。最初の話題は,「『FINAL FANTASY』『聖剣伝説』など,歴史の長いIPをスマートフォンで展開する時にどういった工夫があるか」だ。
第8BDでは「IPをお借りする」という意識のもと,オリジナルの制作者にヒアリングに行くのだという。特にFFは作品ごとにシステムやカラーが異なっており,「FFらしさ」を一口で表現することが難しい。さらにFFBEは,歴代FFのキャラクターたちがドット絵スタイルで登場する,ユニークなタイトルである。つまり,3DCGで描かれている最新作のキャラクターたちを,FFらしいテイストを持つドット絵に翻訳することも必要……という,難しいチャレンジをしているわけだ。
トップクリエイターが切磋琢磨するも,社内の風通しは良好
続いてのテーマは「社内から見たスクウェア・エニックスらしさとは何か」。時田氏はスクウェア・エニックスを「巨大なトキワ荘」と表現する。説明するまでもないかもしれないが,トキワ荘とは,手塚治虫氏や藤子不二雄(藤本 弘氏,安孫子素雄氏),石ノ森章太郎氏といった漫画家たちが一つ屋根の下で切磋琢磨し合った伝説のアパートだ。
多数のクリエイターたちが在籍し(広野氏曰く「いろいろなジャンルのトップクリエイターがゴロゴロいる」),作品を作り続けているスクウェア・エニックスは,まさに現代のトキワ荘かもしれない。
現在でも多数のRPGを開発・運営しているスクウェア・エニックスだが,一口に「RPG」といっても,ターゲットとする層や作品のベクトルには違いがある。現在どんなRPGが作られているのか,そしてまだターゲットにされていない層はどこか……といったことについても,スクウェア・エニックスの中にいるからこそ,よく分かるのだという。
自社作品どうしのコラボも多いことから社内の風通しは良く,さらに第8BDでは沢山のグループが動いているため,オープンな雰囲気だそうだ。アートディレクターの技術交流会や英語の勉強会,ヨガ教室や社員の家族が集まってのファミリーデー,スタッフがオフィスを巡回してストレッチを呼びかけるなど,交流も盛んだという。
最後には質疑応答が行われた。レジェンド開発者たちの貴重な意見をお伝えして,本稿の締めくくりとしたい。
Q.ゲームシナリオを書くのに必要なものは何か?
ゲームのシナリオは小説でもなく,脚本でもなく,「プレイヤーがどういう気持ちでバトルをするか」を考え,これを構成することだと考えていて,お化け屋敷やジェットコースターのレールを作るような面白さがある。
世界観やキャラクターの設定は,ある意味「バトルシーンを盛りあげるための装置」であり,ゲームの遊び心地からキャラクターの役割を作ることも多い。
「ドラゴンクエストII」を初めて遊んだとき,「ゲームで出会いと別れを経験できるのか!」と感動した経験から,「他のメディアで物語を作るより,ゲームのストーリーを作ったほうが,遊ぶ人は気持ちを入れて見てくれるのではないか」と考え,独学でゲームシナリオを作り始めた。
Q.「本格RPG」「王道RPG」といったコピーを掲げたアプリが増えている。スクウェア・エニックスは,本格・王道の代表であるFFやドラゴンクエストを手がけているが,第8BDの考える「本格」「王道」の基準を教えてほしい。
広野氏:
個人的には「主人公の成長を体験できること」「重苦しい気分でゲームが終わらないこと」が王道であると考えている。
時田氏:
ここ数年で分かったのが「ちゃんと期待に応えること」の大事さ。クリエイターはどうしても(プレイヤーの予想を)裏切りたがるし,自分自身もキャラクターをひどい目に遭わせるシナリオを書いていた。
しかし,プレイヤーの予想や期待に応えてちゃんと楽しませたからこそ,裏切ることが効果的になり「ここまでやるか!」というインパクトを与えられる。見た人が面白さを想像でき,期待を抱けることが,本格や王道ではないか。
渋谷氏:
自分はゲームをしないので,特に基準はない。目の前にある仕事を誠実にやり遂げた結果がそう呼ばれるのは嬉しいと思う。
プロモーションを考える立場としては,いつも作品の魅力を言い表す(本格や王道とは)別の言葉を探している。ただ,スクウェア・エニックスの看板タイトルには本格・王道というだけのパワーがあるので,あえてコピーに使うときもある。
コピーを作るうえでは,開発陣の思いを汲み取ったほうがインタビューなどの初出以降のプロモーションでも良い結果が出る。王道を志向して作っている作品であるならこうした言葉も使うが,売るためのキャッチコピーとしての“本格・王道”なら付けないほうがいい。
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