連載
これは夢か現実か……あなたに忍び寄るホテルの怪。iOS向けサウンドノベル「人を呑むホテル」を紹介する「(ほぼ)日刊スマホゲーム通信」第286回
スマートフォンには相当な数のゲームが存在しているが,「じゃあ,どれが面白いの?」「そもそも,数が多すぎて好みのタイトルが探せない!」と思っている人も少なくないはず。 そんな問題を解決すべく,スタートした連載が「(ほぼ)日刊スマホゲーム通信」だ。話題の新作タイトルからネタ要素多めのオモシロ系まで,スマートフォンのゲームを片っ端からプレイして(ほぼ)毎日お届けする。
「弟切草」や「かまいたちの夜」に始まり,その後も多数の作品が生み出されているサウンドノベル。背景とBGMがついたテキストを読み進めるだけというシンプルな内容ながら,根強い人気を誇っているジャンルだ。
本日の「(ほぼ)日刊スマホゲーム通信」で紹介する「人を呑むホテル」は,人物がシルエットで表示されるという懐かしい雰囲気のサウンドノベル。
観光地にやってきた女性が,チェックインしたはずのホテルに戻ると,従業員は自分のことを覚えておらず,自分の部屋には半年以上前から老婆が暮らしている……という謎に満ちた物語が展開する。
「人を呑むホテル」ダウンロードページ(App Store)
最初に触れておくが,本作の物語は選択肢がない一本道の展開となっている。いわば音と絵のついた小説のようなもので,ゲーム性はほとんどないといっていい。
また,夏樹静子氏の作品に同名の小説があるが,まったく関係はないので,ご注意を。
主人公は通信機器メーカーに勤める「涼」と,彼の恋人である病弱な「綾美」。休暇で「帝東ホテル」へ宿泊するため,2人で観光地を訪れるシーンから物語は幕を開ける。しかし,涼はどうしても終わらせないといけない商談があるため,早々に職場へ戻り,1人残された綾美は,2人の部屋を取るため,ホテルへと向かう。
ホテルのフロントにいた「葛西」と軽いやり取りをしたあと,無事にチェックインを済ませ,3階に取った部屋で横になる綾美。一眠りしたあと,綾美は美しい夕日が沈む海岸線へと散歩へと出かけた。
日も暮れ,ホテルに戻った綾美は,フロントにいた葛西に部屋の鍵を渡してほしいと告げる。だが,ついさきほどチェックインの手続きをしてくれた葛西が,まるで今初めて綾美と会ったかのような対応を取る。宿帳を確認するも,そこには綾美の名前がない。
納得できない綾美は,さきほど入ったはずの部屋に通してもらうも,そこには半年以上前から部屋を借りている画家の老女がいた。いったいこれはどういうことなのか……。
このように,物語は奇妙な出来事に巻き込まれた綾美を中心に展開していく。果たしてこの事件は現実なのか,それとも綾美が見た幻覚なのか……。そういった視点でこの物語を追っていけば,より楽しめるだろう。背景や音楽による演出が物語をグッと盛り上げてくれるので,小説が苦手という方でも問題はないはず。
物語のボリュームはやや物足りなさを感じるくらいで,個人的には,一気に読んでしまうよりも,待ち時間にのんびりとページを進めるほうがいいのではと感じた。文章にところどころぎこちない部分があったり,背景が明らかに状況と合っていなかったりと,まだまだ改善すべき点は多いが,「自分のことを誰も覚えていない」という設定は,それだけで十分に引き込まれる魅力がある。
ほかの作品も読んでみたいと思わせてくれたので,シリーズ化に期待したいところだ。
著者紹介:トリスター/目代将規
ゲームやアニメの書籍企画,編集,シナリオライティングや広告制作なども手がける編集プロダクション「トリスター」所属。スマートフォンならではのゲームや,一瞬で遊べてしまうゆるいゲームが大好物。好きなゲームのジャンルはRPGとアドベンチャー。“モンハン”好き。
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