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ゲームと科学技術の融合が社会に及ぼす影響とは?「第4回FOST賞授賞式」の模様をお届け
開会にあたり,FOSTの理事長を務めるコーエーテクモホールディングス 代表取締役社長 襟川陽一氏が登壇した。“シブサワ・コウ”の名でも知られる襟川氏は,本日の授賞式の前に行われたFOST理事会にて「FOST社会貢献賞」の新設が承認されたと発表。この賞はエンターテイメント作品としてのゲームソフトの中から,とくに社会貢献度の高いものを表彰し,ゲームソフトの社会的有用性について周知を図る一助にしたい,という意図によるものだ。
「“面白さ”については多くの賞がありますが,“世の中の役に立つ”という点に着目した賞は初めてだと思います」と語る襟川氏は,今後について「ゲーム業界の方々にもFOSTの活動に参加していただくよう,私も説得を進め,仲間を増やしていきたい」と強く述べた。
菱山氏は参加者の母国語によって共有可能な,インターネット環境で利用できる広域型ゲーミングシミュレーションを開発。この研究が,将来グローバルな集合知形成による問題解決への応用に繋がるものとして評価され,今回の受賞となった。
菱山氏は自身の研究について,研究者や市民が交流できるサイエンスカフェの運営を行っていた頃に,理学系の話題にハードルの高さを感じたことが研究のきっかけであると話す。その高いハールドを乗り越える力として,ゲーミングシミュレーションを利用できないかと考え,研究を続けてきたのだという。
評価のポイントは,言語・非言語インタフェースのための基盤技術と,それを適用するための小型モバイルロボットを開発し,触覚による人間・機械インタラクションなど多分野にわたる複数の研究課題に取り組んだことだ。
受賞にあたり松本氏は,画像処理/音声処理/ロボットといった研究分野について,一見ゲームと関係がなさそうに見えるが,ゲームの世界とロボットの世界とが実は少しずつ距離を縮めているのではないか――と語る。近年,WiiやXbox 360のKinectといったデバイスが一般家庭に普及する中で,画像処理/音声処理/ロボットの技術もゲームの世界に次々と生かされていくのを目の当たりにして,嬉しいと感じる一方,身の引き締まる思いをしているとのことだ。
前村氏は今回の受賞式のために東京へ来たところ,コンビニや薬局などで日本語以外の言語が飛び交っていることに大きく驚いたという。日本国内から海外へ留学する人がカルチャーショックについてどう対応していくのか,といった「異文化間接触」が前村氏の研究分野であるが,今回のそうした体験を通して「とくにどこかへ行こうとしなくても,国内において異文化間接触の起こる時代が来ているのだ」と実感したそうだ。
FOST賞やFOST熊田賞の選考対象となっているのは,各専門分野での研究成果であるため,どういった研究なのか,いまいちピンとこない読者もいるだろう。しかし,記事内で紹介した松本氏の言葉からも分かるように,専門分野での研究が一般のゲームプレイヤーの手元に届く形で,フィードバックされている例は少なくない。また一方,襟川氏の言葉を借りれば,エンターテイメント作品としてのゲームソフトが社会貢献を果たすことは,これからも充分に起こり得るはずだ。科学技術とゲームとが相互に影響しあい,さらなる技術の発展に繋がることに期待したい。
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