2012年3月12日,関東経済産業局は,ネットワーク系ゲームデベロッパに向けて,
海外市場進出に関する情報提供を目的としたセミナーを開催した。このセミナーでは,カナダ,ルクセンブルグ,アイルランド,オランダ,シンガポールのスポークスパーソンが,
「ネットワーク系ゲーム開発事業者が各国で事業展開した際のメリット」ならびに
「各商圏におけるネットワーク系ゲーム市場動向」をテーマとするプレゼンテーションを行い,各国に進出した場合のインセンティブやメリットなどを披露した。
在日カナダ大使館 ダンカン・ライト氏
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在日カナダ大使館 ダンカン・ライト氏は,カナダのゲーム産業がアメリカと日本に次いで世界第3位の規模であることを示し,ゲーム関連企業数は約3000社で5万2000人が従事しており,売上規模は4000億円であると述べる。
ライト氏は,カナダのゲーム産業の最大のメリットとして,アメリカと一体化した巨大な北米市場を構成している点を挙げた。
またカナダのゲーム関連企業はモントリオール,トロント,バンクーバーの3都市に集中しており,いずれもアメリカの主要都市から飛行機で1.5〜2時間程度とアクセスがよく,時差がないこともメリットである。
さらにライト氏は,カナダでゲーム産業が盛んになった理由として,産官学が連携してゲーム関連の人材および企業の育成に努めていること,そしてデジタルコンテンツ制作に対する税制優遇措置がなされていることを紹介した。
なおライト氏は,先日行われたGDCに参加していたそうだ。日本でのGDCに関する報道では「日本のゲーム業界の凋落」という面が強調されがちだが,現地では北米のゲーム開発者/企業が日本のゲーム業界に対して非常に期待していることも強く感じられたと,氏は話していた。
ルクセンブルク貿易投資事務所 松野百合子氏
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ルクセンブルク貿易投資事務所 松野百合子氏は,世界のゲーム市場の約3分の1を欧州および中東アフリカが占めていることなどを紹介。またEU加盟国の全人口の30%近くがデジタルコンテンツのダウンロードサービスを利用しており,その中でもゲームに関しては80%前後が有料サービスを利用しているとのことである。
さらに松野氏は,欧州のデジタルコンテンツ市場は,2015年には,2010年の約2倍となる42億USドル規模に成長するとの予測を披露し,ゲーム市場ではPCパッケージゲームが頭打ちになる一方で,オンラインゲームの成長が見られるだろうと話していた。
また欧州のゲーム市場について,北米および日本の大手パブリッシャが支配的であるが,今後,市場がオンラインゲームにシフトすることで,欧州企業にもチャンスが到来すると展望を述べる。
その一方で,松野氏は欧州でゲーム事業を展開する上での課題を指摘する。まず,さまざまな言語が使われている欧州においては,英語のみで全域をカバーすることはできず,言語圏ごとのローカライズは必須である。
さらにオンラインゲームに関する法規制が整備されていない点や,国によって主流となる支払い手段が異なる点も大きな課題だ。後者に関しては,例えば西側ではクレジットカードが普及しているのに対し,ルーマニアではモバイルペイメントが主流になりつつあるなど,欧州全体でビジネスを展開するとなると実に100種類以上の支払いオプションを考慮に入れなければならないそうである。
そうした状況下において,ルクセンブルグでゲーム事業を展開するメリットとしては,支援/助成制度の充実やインフラの整備,EU加盟国の中で最も低い実質税率,IP収入に対する最大80%の免税などが挙げられた。
アイルランド政府産業開発庁
ダイアン・フォーリー氏
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アイルランド政府産業開発庁 ダイアン・フォーリー氏は,Google,Activision Blizzard,Gala Networks Europe,マイクロソフトといったIT企業の事例を紹介し,アイルランドで事業を展開するメリットを紹介。その中でも12.5%という定率の法人税や,25%の継続的な研究開発費の税額控除は,企業にとって大きな魅力といえるだろう。
駐日オランダ王国大使館 松田俊宏氏
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駐日オランダ王国大使館 松田俊宏氏は,2011年にFacebookとGREEがオランダに事業拠点を設けた事例や,DeNAがモバイルゲームデベロッパのRough Cookieを買収した事例を紹介。ゲーム/コンテンツ企業がオランダを拠点とする理由として,欧州の中央に位置し,短時間でEU各国にアクセスできることや,さらに特許取得またはWBSO認定を受けた無形資産から得られた利益については実効税率が5%になる「イノベーションボックス」制度などを挙げた。
在日シンガポール共和国大使館
バーナード・ウィー氏
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在日シンガポール共和国大使館 バーナード・ウィー氏は,シンガポールが過去50年間の歴史の中で,労働力の向上やIPの確保に努めた結果,最もビジネスに適した競争力の高い国となったことをアピール。ゲーム産業に関しては,2000年頃から欧米/アジア各国の企業がアジア地域の拠点をシンガポールに置くケースが増えており,ウィー氏はそれを“A PLATFORM WHERE EAST MEETS WEST”と表現した。
また東南アジアは総人口に対してゲームで遊ぶ人の割合8.6%がまだまだ少なく,今後の成長が見込める市場だ。その中において,シンガポールは2009年のゲーム/アニメ産業は,2005年と比較して22%成長したとのことで,ここでもウィー氏はシンガポールの優位性をアピールした。
ライト氏の言葉にあるとおり,今でも日本のゲーム/コンテンツ産業に注目している海外企業/国家は少なくない。むしろ,1990年代においてゲーム/コンテンツ市場を大きく成長させた日本企業のノウハウは,現在,大きな予算を割いてコンテンツ産業を推進している国々にとって,最も必要とされているのである。そうした状況の中,海外展開を目指す日本のゲーム企業と,彼らの培ったノウハウを求める諸外国との関係が良好に発展し,最終的にゲーマーにとって喜ばしい結果となることに期待したい。