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デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
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印刷2009/06/22 15:24

イベント

デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏

鈴木銀一郎氏を講師に招いた
ゲームデザインワークショップ


会場となった産業技術大学院大学
画像集#001のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
 6月20日(土),産業技術大学院大学において,ゲーム開発者を主な対象にしたゲームデザインワークショップが開催された。これは,「アナログゲームのデザインをワークショップ形式で学ぶことを通じて,デジタル,アナログゲームにわたるゲームデザインの本質を理解する」ことを目的として,IGDA日本のボードゲーム部会が行ったもので,こうしたメーカー,職種の垣根を越えたイベントはほぼ初めての試みとなる。講師は4Gamerでもおなじみの鈴木銀一郎氏だ。
 ある意味,とても特殊なイベントでありながら,定員を大きく上回る申し込みが殺到し,参加者が抽選で決定されるという盛況ぶり。当日は「見学のみ」の参加が出たほどだった。

 イベントは,鈴木氏の講演に続き,それを踏まえたうえで,世界中で大ヒットしたボードゲーム「カタン」をプレイし,その改良案などを考えるワークショップを行うという二部構成だった。

鈴木銀一郎氏(左)と会場の様子
画像集#003のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏 画像集#002のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏

 講演で鈴木氏は「学者ではなく研究者でもなく,ゲームデザイナーでありゲーマーとして思うこと」を述べると前置きしたうえで「アナログゲームとデジタルゲームには,基本的に差はない」という大胆な言葉で話を切り出した。
 講演の詳しい内容は長くなるので割愛するが,印象的だった言葉をいくつか編集してお届けしよう。

 「ゲームをなぜプレイするか? それは勝つためだ。コミュニケーションのためというのは,格好はいいが,お題目であるといっていい」

 「ゲームの本質の一つは,生物として自己のテリトリーを守るという攻撃本能にある。しかし,この本能が実社会で発揮されては困るので,ゲームによって代替することになる」

画像集#004のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
 「歴史的な道具立てが出てきたり,そこに数値的な差が与えられたりする,それをもってシミュレーションというのではない。シミュレーションか否かは,戦場における原理原則が適用可能になっているか否かによって決定される」

 「これは面白いと思ったゲームは,三回はプレイする。最初はプレイヤーとして。次はゲームデザイナーとしてそのデザインの本質を解き明かすため。三回目は,より深くデザインを見るため」

 「アナログゲームの設計は,三段階に分かれる。コンセプト,テーマ,そしてテクニックだ。良いコンセプトとテーマが決まれば,あとは他人に任せても問題はない」

 「プロとしてゲームデザインを始めたのは,40歳になってから」

 「日本人はゲームが大好きだし,ゲームの改良に長けている」

 「ゲームデザインにおいて重要なのは,誇張と省略だ。なんでも詰め込もうとするのではなく,むしろ何を削れるかから入り,あとからフレーバーを足す」

 「デザインするときは,プレイヤーの視点に立ってデザインすべきである」

画像集#005のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
 これは全体のごく一部であり,講演ではより具体的な技術や考え方が語られていった。いずれもとにかく具体性の塊のような話ばかりで,いわゆる「ゲームの理論」的な抽象的/思弁的講義はほぼ皆無。まさに「生涯いちゲーマー」であり,またつい最近も最新作をリリースした(「新・戦国大名」)ばかりの現役ゲームデザイナーなればこその講演といえるだろう。


遅れている日本のゲームの学術的研究


 ワークショップでは,参加者が七つの班に分かれてカタンをプレイし,

  • 面白さの基本はどこにあるか
  • ルールをどう修正するとさらに面白くなるか
  • 舞台を日本に置き換えたらどうなるか
  • 発展ゲームを企画するならどうするか
  • その他,自由

 といった点についてまとめ,最後に発表を行うという企画だった。

 班によって,カタンに習熟していたりいなかったり,また全体にプログラマが多い班や,プランナーが多い班など濃淡があったりしたが,いずれも優れた発表がなされた。ランダム要素を排除したもの,逆によりダイナミック(かつランダム)にゲームが動くようにしたもの,戦国時代を背景としたもの,温暖化現象を取り入れたもの,そして交易ルールの整備に焦点を絞ったものなど,発表内容は多彩だった。全体として「初心者にとってより簡単にプレイできるようにするためには」という視点に立っていたのは(おそらくアナログゲームの世界にいる人にとってはとくに)興味深い結果といえるだろう。

ワークショップの模様。プレイ中,気がついたことをどんどん書き出すというスタイルで話し合いが進められた
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 鈴木氏も「商品化するなら別だが」と前置きしたうえで,「発表としては総合で97点」と大変な高評価であった。さすがに現役のゲーム開発者が集まっただけのことはある。鈴木氏が,発表内容を評価するのと同じくらい,ほぼ全チームが5分という制限時間内での発表ができていた点を評価したことも,重要なポイントだろう。

 なお,このワークショップで提示された課題は,鈴木氏がゲームデザインを初めて行ったときのプロセスそのままであるという種明かしは,さまざまな共感を呼んでいたようだ。
 あとで行われた懇親会の席では「このプロセスはデジタルゲームにおいても理想的な開発プロセスだ」と評価する声もあり,その一方で「しかしこんな理想的開発環境は現状では手に入らない」という生々しい話も出ていた。ある意味,アナログゲームとデジタルゲームが,その開発プロセスにおいてもシェア可能なノウハウを有している証拠であるのかもしれない。

取材に来たはずなのに,なぜか仕事そっちのけてカタンの説明を始めるライターの徳岡氏
画像集#013のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
 4Gamerでも何度か紹介してきたが,鈴木氏は日本で初めてプロとして「ゲームデザイナー」を名乗った人物であり,それまではゲームをデザインする人間の名前が表に出ることはなかった。現在我々が,「△△氏のディレクションによる最新作○○」といった文法で話をしている流れの一つは,日本においては鈴木氏から始まっているのだ。
 また,日本でいわゆるウォーゲームがブレイクし,キャラクターカードゲームが流行するその基盤を作った(作品的にも,売り上げ本数的にも)重要な一人として,「鈴木銀一郎」の名前を外すことはできない。
 ところが現状,デジタルゲーム制作の現場にあって,鈴木氏の名前を知らない制作関係者は,ままいる。これはその人の不勉強という個人的問題に留まらず,ゲームデザインにまつわる数多くのノウハウの継承に現在進行形で失敗しているという悲しむべき事実を示していると思う。

Paradox Interactiveが2009年8月の発売を予定している「Hearts of Iron III」。このスクリーンショット,見た目はボードゲームそのままだ
画像集#011のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏

 現状,日本におけるゲームの学術的研究が,世界から見て遅れをとっているのは,多くの研究者や開発者が認めている事実だ。その一方で,「それはそれで構わない,日本は日本人を顧客として職人芸で生きていけばいいのだ」という意見も存在する。筆者は個人的にその意見にあまり賛同できないのだが,仮にそれを採用するならば,過去のノウハウを継承するという作業の重要度はより一層向上するだろう――現実には,学術的研究で遅れをとり,ノウハウ継承においてもつまずいている。
シンズ オブ ア ソーラー エンパイア
画像集#012のサムネイル/デジタルゲーム開発者を対象に,ボードゲームのデザインを考えるワークショップ開催。講師は“あの”鈴木銀一郎氏
 アナログゲームの開発プロセスや,そこで発生しているデザインノウハウは,それを取り入れることで無条件にデジタルゲームの発展に寄与するものではない。例えば「シンズ オブ ア ソーラー エンパイア」「ハーツ オブ アイアン II」のように,アナログゲームの文法を取り込むことで成功した作品はあるが,逆にアナログゲームのテイストを取り込むことで致命傷を負った作品だって少なくはない。

 しかし,我々のゲーム体験の原初的な部分を作ってきたノウハウがこのまま散逸してしまえば,ゲーム開発は――アナログ/デジタルを問わず――果てしない「車輪の再発明」を行い続けることになるだろう。あまりにも多くの才能と資産が,すでにシステム化された「革命的な新システム」の発明に投じられてきたし,現在もそれは繰り返されていると思う。

 ゲーム開発の現場は,常に先を見続けねばならない。そうであればこそ,誰かがどこかで,過去の歴史(成功例/失敗例を問わず)を組織的に編纂しアーカイブしておく必要があるように思える。こういったワークショップが,そのきっかけの一つとして育っていくことを期待したい。
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