海という雄大で厳しい自然を象徴しているためか,海に棲息するモンスターは,その多くが巨大で,それに見合った圧倒的な力を持っている。その中でも特筆に値する力を秘めているのが,リバイアサン(Leviathan)である。
リバイアサンは,近年のゲームや小説などによく登場しているので,名前くらいは知っている人も多いことだろう。
リバイアサンの一般的なイメージは,「水棲のドラゴン」といったところだろう。また,炎属性や水属性のブレスを吐くことも多く,なかには魔法を使うタイプもいるようだ。
リバイアサン像は作品によってまちまちだが,実はこれには理由がある。本来,リバイアサンには明確なイメージは存在していないのだ。これは少々極端な例だが,神話や民間伝承の世界では,リバイアサン=大怪魚という認識もあったりする。ともあれ本稿では,リバイアサン=ドラゴンに似た海棲のモンスターとして話を進めていく。
リバイアサンは,どちらかといえばユニークモンスターとして扱われることが多く,登場する際にはボスキャラクラスの役割を与えられている場合が多い。昨今のゲーム世界を見てみると,かつて最強のモンスターであった「ドラゴン」は,そのポジションから若干下降している印象がある。しかしそうした中にあって,リバイアサンはその地位を失っていないとも考えられる。これは,称賛に値する健闘ぶりといってもいいかもしれない。
リバイアサンのルーツを断言することは難しいが,どうもバビロニアの神話で生まれ,のちにユダヤの神話に取り込まれて現在の形になったらしい。
神話や聖書によれば,世界ができてから5日目に,神が海辺の生物を支配する存在としてリバイアサンを作ったとされている。口には鋭い牙を持ち,怒れば海水を沸騰させ,泳げば波が逆巻き,そのあとには光の軌跡ができる,などと表現されている。
当初は二匹のリバイアサンが存在していたようだが,彼らはあまりにも強力な力を持っていたので,神は「このままでは世界が破滅してしまう」と考え,雌のリバイアサンを殺してしまった。
また,リバイアサンが無敵にならないようにと,神は天敵として「トゲウオ」を生み出したという。神話では,鉄の武器などでは傷つけられないとされるリバイアサンだが,トゲウオの背中にあるトゲだけは,苦手としているのだ。
アリストテレスの「動物誌」などを見ると,リバイアサンの生態や,捕獲方法についてのエピソードが掲載されている。「〜あごにくつわをかけて捕獲する」といった表現はワニの捕獲方法と同じだし,「小鳥と遊ぶ」はワニとワニチドリの関係を連想させ,「背中に盾が」といった表現は,爬虫類の鱗の古い表現方法である。これらを見る限りでは,リバイアサンはワニがベースとなって生まれたのではないか,とも考えられるだろう。
なおリバイアサンは,悪魔として扱われることもある。聖書などを見ると,初期のリバイアサンは,神の遊び相手だったとされている。これは悪魔というより,どちらかといえば神に近しい者という扱いだった。
しかし,神が食料として人々に分け与えるとか,終末の日には神がリバイアサンを殺してテントを作るといった逸話があることから,「神に倒される者=神の敵対者=悪」といった図式が成り立つようで,しだいに悪魔として扱われるようになったのである。
悪魔としてのリバイアサンは,本来は位の高い天使である熾天使だったが,天界から落ちて堕天使となり,七つの大罪のうち嫉妬を司る存在となった。その力は,悪魔としてよく知られるルシファーやベルゼブブなどに比肩するともいわれ,魔界の大公として恐れられる存在でもあるのだ。