モンスターの頂点に君臨する存在といえば,真っ先に思い出されるのはドラゴンだろう。しかし,一口にドラゴンといっても,その種類は千差万別。トカゲに毛が生えたようなレベルから,世界を滅ぼすほどの力を秘めたものまで,さまざまなものが存在する。
そうした中でも,ドラゴンの亜種として高い知名度を誇っているのが,ワイバーン(Wyvern)だ。
ワイバーンといえば,機動力の高い「飛竜」というイメージが一般的である。トカゲのような体と,コウモリのような翼を備えるところは,通常のドラゴンと変わらないが,ワイバーンはドラゴンよりもやや小柄で,4本足ではなく2本足であることが多い。鈍重そうな通常のドラゴンよりも,飛行に適した(と思われる)体型といえるだろう。
ワイバーンの知性は,さほど高くない場合が多い。凶暴な本能のままに行動しているので,交渉に応じることはないだろう。ワイバーンにとって人間は,基本的に獲物でしかないのである。
とはいえ,ゲームや小説などでは,騎乗生物としてのワイバーンが登場する。これは,竜使いの一族が特別な技術を用いて手なずけていたり,強力な魔法具を利用してコントロールしていたりすることがほとんどなので,一介の冒険者がドラゴンライダーになることは,かなり難しそうだ。
ワイバーンの攻撃スタイルとしては,牙と爪によるヒット&アウェイが一般的だ。上昇と下降を繰り返しながらの攻撃ということで,これに対処するには,飛び道具や魔法が不可欠といえるだろう。
なお,ロールプレイングゲームの原点ともいえる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」では,ワイバーンの尾には毒針が付いている,という設定もある。またゲームによっては,竜の眷属らしく,ブレスを吐いてくることもあり,モンスターとしてはかなりの強敵に含まれる。「劣化ドラゴン」などと侮っていると,大きな痛手を受けることになるだろう。
ワイバーンは,神話や民間伝承には,あまり姿を見せないモンスターだ。それもそのはず,ワイバーンは本来,紋章のモチーフとして人気を博したモンスターなのである。
中世ヨーロッパでは,ドラゴンは王族を意味する紋章のモチーフとして人気があったのだが,ワイバーンの紋章は,ドラゴンに次ぐ存在として,騎士達などによって好んで使われるようになったのだ。
名前の由来についてははっきりとしないが,マムシを意味するViperの古語「Wyver」が変化したのではないか,というのが通説だ。
ワイバーンのルーツを考えるとき,ドラゴンの変遷を考えるとわかりやすい。ドラゴンは,土地や時代によって姿が異なる種族である。本来ドラゴンは,世界各国にある蛇信仰から生まれたと考えられる存在で,土地によっては単なる巨大な蛇だったり,バジリスクのように鶏冠を持っていたり,羽が生えた蛇であったりと,その姿はさまざまなのである。そう考えると,ワイバーンのルーツがマムシにあったとしても,それほど不思議ではないと思う。
ちなみに中世ヨーロッパでは,ワームという名称は,足のない虫だけではなく,ドラゴンをも指す言葉として用いられていた。ファンタジーファンならしばしば耳にするワイアーム,リントウルム,ストアーウォームといったモンスター達も,ドラゴンの原型だったのである。