連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第40回:メドゥーサ(Medusa)

 ギリシャ神話には多種多様なモンスターが登場する。それらは実に魅力的で,今日のファンタジージャンルでは,ギリシャ神話ベースのモンスターは欠かせないものとなっている。
 ギリシャ神話出身のモンスターの中でも,独特な容姿と能力を持つメドゥーサ(Medusa)の人気は非常に高い。容姿に関しては諸説あるものの,蛇の頭髪とイノシシの歯を持ち,体が青銅のウロコで覆われている女性,というのがオーソドックスなスタイルだ(なかには,背に翼を備えたタイプや,頭髪が蛇になっているだけの美女タイプも存在する)。
 メドゥーサの攻撃手段としては,鋭い爪や,頭から生やした蛇のかみつきなどが一般的だ。ちなみに,頭髪の蛇はメドゥシアナ(Medusiana)と呼ばれている。これは単体でも活動可能で,なぜか女性には噛み付かないとされている。
 また,メドゥーサの代名詞ともいえる攻撃手段として,石化能力を忘れるわけにはいかない。メドゥーサと視線を合わせた者は,たちまち石になってしまうのだ。視線を合わせただけで敗北が決定してしまうのだから,実に手強いモンスターである。
 ただし,裏を返せば,直接視線さえ合わせなければ,問題はないわけで,鏡などを用いて,間接的にメドゥーサの動きを確認しつつ戦えば,対応は可能だろう。
 なお一説によると,メドゥーサの涙には石化を解除する効果があるらしい。とはいえ,それを採取するのは,どう考えても非常に困難だろうが……。

 ともあれ,メドゥーサの石化能力は強力なので,その生息地域には多数の石像が乱立することになる。もしも,生者と見まがうような石像群に出くわしたら,メドゥーサとの遭遇に注意したほうがいいかもしれない。

 

 ギリシャ神話によれば,最初,メドゥーサはモンスターではなかった。ここではメドゥーサが,モンスターになってしまった経緯を紹介しよう。
 あるところにゴルゴンの三姉妹(ステノ,エウリュアレ,メドゥーサ)と呼ばれる少女達がいた。なかでもメドゥーサはとくに美しく,海神ポセイドンに見初められ,女神アテナの神殿で交わってしまったのである。
 これを知ったアテナは激しく怒り,メドゥーサを化け物にしてしまった。さらに,そのことに抗議したほかの姉妹も,醜いモンスターに変えられてしまったのである。
 ちなみに,これにはいくつかの説があり,メドゥーサがアテナよりも美しいと公言していたためにモンスターにさせられてしまったとするものや,メドゥーサがアテナの神殿で淫蕩にふけっていたためにモンスターにさせられたとするものもある。
 メドゥーサの末路については,ファンタジーに興味がある読者ならばご存じだろう。モンスター化したメドゥーサは英雄ペルセウスによって倒された。その首はアテナに献上され,イージスの盾にはめ込まれたのである。

 もともとポセイドンとメドゥーサは夫婦の神であり,ギリシャの先住民族があがめていたらしい。それがやがてギリシャ神話に取り込まれることになるのだが,ポセイドンは海神としての地位を獲得したものの,メドゥーサに関してはアテナなどと立場が競合していたためか,モンスターになってしまったようだ。
 なおメドゥーサという名は,ギリシャ語で「支配者」という意味があり,このことからも,神であった時代には,かなり高い神格だったことが伺える。
 ちなみに,メドゥーサからは多数のモンスターなどが生まれている,死に際しては,流れ出た血からペガサスとクリュサオルが生まれているし,英雄ペルセウスがメドゥーサの首を持ち帰る途中に滴り落ちた血は,海では珊瑚になり,砂漠ではサソリになったと伝えられている。そんなエピソードを見てみても,かつてメドゥーサが女神であったことは間違いなさそうである。

 

次回予告:リバイアサン

 

■■Murayama(ライター)■■
先日,仕事の関係で,某家電量販店の一日店員をしたというMurayama。実際には,イベントの担当者として一日店員という立場になっていたのだが,そんな都合は一切知らないお客さん達は,「プリンターはどこに売っている?」「万歩計はどこにありますか?」と,Murayamaを質問攻めにしたそうだ。とはいえ,フロアの構成などをすぐに覚え,普通に対応していたというのだから,本当に器用なライターである。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/040/sam_monster_040.shtml



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