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選択肢が増えた今,ゲームクリエイターはどうあるべきか。独立やクラウドファンディング,IPの意義などが語られた「黒川塾(二十八)」レポート
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印刷2015/08/21 18:47

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選択肢が増えた今,ゲームクリエイターはどうあるべきか。独立やクラウドファンディング,IPの意義などが語られた「黒川塾(二十八)」レポート

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 トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(二十八)」が,2015年8月20日に東京都内で開催された。

 このイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものである。

メディアコンテンツ研究家 黒川文雄氏
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 今回のテーマは,「クリエイターのシンギュラリティ(技術的特異点)」。低価格の開発ツールや,クラウドファンディングなどの新たな資金調達手段が登場したことにより,大手ゲームメーカーに所属しなくともゲームの開発が可能になった昨今の状況を,実際に独立した3名のゲームクリエイター達が,各自の考えや現在の活動を交えて語った。

ArtPlay 代表取締役/プロデューサー 五十嵐孝司氏。代表作は「ときめきメモリアル」「悪魔城ドラキュラ」シリーズなど。現在は「Bloodstained: Ritual of the Night」PC / PS4 / Xbox One)などの開発を手がけている
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ストーリーテリング 代表取締役 イシイジロウ氏。代表作は「428 〜封鎖された渋谷で〜」「タイムトラベラーズ」など。現在は,「モンスターストライク」「Under The Dog」(いずれもアニメ作品)などを手がけている
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内田明理氏。6月にユークスに入社すると発表されたが,それとは別に個人の会社を立ち上げる予定とのこと。代表作は「ラブプラス」シリーズ,「ときめきメモリアル Girl's Side」シリーズなど。現在はゲームの枠にとらわれないデジタルコンテンツのあり方を追求しているという
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 トークの冒頭では,登壇者達が何を考えて独立を決断したかが語られた。五十嵐氏は,それまで会社に守られていた立場だったからか,いきなり独立してフリーになることに不安を感じていたという。しかし,稲船敬二氏がKickstarterで「Mighty No.9」の資金調達に成功した事例などを見て,「パブリッシャさえ見つかれば何とかなるだろう」と,2014年3月に思い切って独立を決めたとのこと。

 イシイ氏は,自身が独立したきっかけが,レベルファイブの日野晃博氏とニトロプラスの虚淵 玄氏がアニメ業界に与えた影響にあったとする。日野氏が「イナズマイレブン」や「妖怪ウォッチ」,虚淵氏が「魔法少女まどか☆マギカ」と,いずれもアニメ作品でヒットを飛ばしたせいか,アニメ業界には「ゲームクリエイターにアニメを作らせるとヒットが出る」という空気が生まれていたようで,イシイ氏にもアニメのシナリオを手がけてみないかと声が掛かったという。
 当初は会社と並行しての作業は無理と考えていたとのことだが,その後もアニメのオファーが次々と寄せられ,4年先までのスケジュールが埋まったことから,独立を決めたそうだ。

 またイシイ氏は,ゲーム開発の大規模化に伴って,自身がシナリオ制作に専念できなくなったことや,新作を4年に1本くらいしかリリースできなくなっていたことも,独立の理由だったと語った。ゲームの開発期間中は,面白いことを思いついてもなかなか形にできないが,アニメであれば1年に2本程度,4年あれば8本の異なるストーリーを書けるため,新しいアイデアを表現しやすい点も大きな魅力だったという。

 内田氏は,自身の得意とするゲームの制作スタイルと,会社から求められる制作スタイルがマッチしなかったことを挙げた。一口にゲームと言っても,たとえば世界観やストーリーを提供して楽しませるタイプと,ギャンブルのように射幸心を煽ってアドレナリンを放出させるようなタイプでは,乗用車とトラックと同じくらいアプローチが違うと内田氏は表現。もちろん,どちらが良い悪いという話ではなく,内田氏も実際にさまざまな制作スタイルにチャレンジしたが,思うような結果が出なかったという。
 そこで自分の得意な部分を活かしつつ,個人と企業の中間地点で何かできないかと独立したところ,ユークスから「一緒にやろう」と声が掛かったとのことである。

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 イシイ氏と内田氏の話から,話題はコンシューマゲームのクリエイターがアニメやスマートフォンゲームを手がけることに移った。
 五十嵐氏は,自身が手がけてきたタイトルのファンはゲームそのものが好きなコアな人達なので,コンシューマゲームで勝負しなければ誰も見向きもしないと話す。また五十嵐氏自身はずっとゲーム開発に携わってきたため,ゲームのシナリオなら書けるが,アニメのシナリオにはまったく自信がないという。

 イシイ氏は,自身がスマートフォンゲームに関わってきた過程で,IPの重要性を再認識したとのこと。しかし,IPがキャラクターやストーリーを通じて構築されるものとするならば,既存のスマートフォンゲームはストーリーがあってないようなもので,なおかつキャラクターを次々に消費していく構造を有している。
 そこでイシイ氏は,アニメという形でゼロからIPを確立し──つまりストーリーを作り,それに最適化した形でスマートフォンゲームのシステム作るほかないという考えに至ったそうだ。

 そうしたイシイ氏の持論を実現した例としては,先日配信がスタートした「Fate/Grand Order」iOS / Android)が挙げられるという。イシイ氏は,「Fate」シリーズのストーリーがキャラクターを消費財として扱える構造になっているとし,もともとスマートフォンゲームにマッチさせやすい状況があったと指摘した。
 さらに「Fate/Grand Order」は,30分近く連続でストーリーを読ませるという,これまでスマートフォンゲームでは御法度とされてきた内容でありつつも,セールスランキングで10位内をキープしていることから,イシイ氏はスマートフォンゲームが「適正なターゲットに対してアピールすれば,物語を重視してもきちんと結果を残せる」という段階に入りつつあるのではないかと語った。

 加えてイシイ氏は,現在のスマートフォンゲームがコンシューマゲームの培ってきたIPのノウハウを活かしきれていないことにも言及。たとえば「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などは5年10年経っても「人の心に残るもの」として話題になるが,スマートフォンゲームでは社会現象と呼ばれるほどヒットしても「このタイトルに憧れて,ゲーム業界を目指しました」というようなタイトルはまだ生まれていないかもという。

 イシイ氏は,そうした「クリエイターのループ」を生むようなタイトルの先駆けとして「Fate/Grand Order」が登場したところであるとし,また自身もそれに続くべく,アニメ版「モンスターストライク」に取り組んでいると語った。
 なお「モンスターストライク」のアニメ化に関しては,表面上,先にゲームありきの形となっているが,ゲーム内にて消費されないキャラクターをアニメ内に新たに立ててストーリーを構築していく──すなわちIPを確立していくという取り組みになっているそうだ。

 ちなみに五十嵐氏は,世界観やストーリーを,ゲームの理不尽さを納得させるものとして用意しているという。たとえば「ときめきメモリアル」は,最終的に女の子から告白されることを目的としているが,リアルで考えると「なぜ自分から告白しないのか」という疑問が生じる。そこで疑問を解消するために「伝説の木」を用いた世界観やストーリーを作っていったとのこと。

 また,世界観やストーリーには,ゲームを攻略する過程を楽しませる側面もあるという。今のところ,スマートフォンゲームは数多く並んだ単純な計算問題のようなものを次々に解いていって快感を得るものが多いが,五十嵐氏はやがて解く過程をも楽しむようなものに移行し,それに伴って世界観やストーリーがしっかりしているIPが定着していくのではないかと見解を述べていた。

 話題はクラウドファンディングにも及んだ。五十嵐氏の手がけている「Bloodstained: Ritual of the Night」はKickstarterにて550万ドルの資金調達に成功したが,自身はまったく予想していなかったという。結果として,バッカー(支援者)に対するリワードも当初予定していた以上に増え,開発スケジュールやプロモーション計画などを見直すこととなった。
 五十嵐氏は,自身の作るゲームに期待してこれだけの支援が集まったとし,まずその信用を裏切らないようなものを作らなければならないと気を引き締めていた。

 イシイ氏もまた,Kickstarterでアニメ「Under The Dog」の資金調達に成功しているが,やはりスケジュールや予算の見直しを行うことになったという。とくにKickstarterが北米のサービスであるため,バッカーと英語でコミュニケーションを取るためのコストが想像以上に高くつくとのことだ。ほかにもパッケージや特典の制作,世界全土への輸送に掛かるコストなども再計算し,見直しには何か月もかかったそうである。

 そうした苦労がありながらも,Kickstarterという資金調達オプションの存在は,クリエイターにとってプラスであるとイシイ氏は語る。たとえばパブリッシャーとの間で企画の方向性に違いが生じても,ほかに資金調達手段があれば交渉も可能だし,最悪でも自分で資金調達できるからだ。

 内田氏は,クラウドファンディングとは別の形で,ゲームクリエイターが作りたいものと,それを支持するファン(購買者)の関係を形成し,ビジネスにつなげていくようなモデルの構築を考えているという。
 それを受けて,イシイ氏がクラウドファンディングには支持者の存在を証明する効果があると指摘。また五十嵐氏も,Kickstaterを使うことにした最初の理由は,資金調達よりも,自身のゲームにどれだけニーズがあるのかを数字で示し,大手パブリッシャから投資を受けやすくするためだったと明かした。

 一方,クラウドファンディングにも課題はある。五十嵐氏とイシイ氏は,Kickstaterの問題点の1つとして,アメリカの社会に適した仕組みになっているため,北米で話題にならないと成功しにくいし,制作物の著作権はアメリカの法人を作って管理しないといけないなどといった点を指摘した。
 一方日本では,クラウドファンディングやドネーションの仕組みがなかなか定着しないという現状もあるが,イシイ氏は現在9600万円以上の資金調達に成功している「Dies irae」のアニメ化プロジェクトを例に挙げ,今後こういったケースが増えるかもしれないと展望を述べた。

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 では,大手パブリッシャが個人のゲームクリエイターと組んでゲームを開発したり,あるいはクリエイターがパブリッシャを選んでゲームを作ったりといった状況は実現するだろうか。
 五十嵐氏は,企業は信用を通じて投資することが一般的になっているので,過去に実績を残しているクリエイターであれば十分あり得るとし,イシイ氏はクリエイターの価値を上げる仕組みがうまく機能すれば可能性があるとの見解を示した。
 また内田氏は映画や音楽などの例を引き合いに出し,個人対パブリッシャという形式になったほうがお互い幸せになれるのではないかと展望を語った。

 さらにイシイ氏は,そうしたケースの先駆者として,ソラの桜井政博氏の名前を挙げた。イシイ氏はゲーム開発においてもっとも大変なのは環境やチームを作ることであるとし,良いゲームを作ろうと思ったら,一般的にはスタッフを囲い込んでチームを法人化するというリスクを追わなければならないと説明。そうした意味では,さまざまなプロジェクトでディレクターとしてその都度環境を整え,チームを率いていける桜井氏のような人材が増えてくれば,クリエイターとパブリッシャの関係も変わるだろうというわけである。

 なお,この話題に関連して,イシイ氏は「Under the Dog」に海外から様々なオファーが来ていると聞いている事と明かした。しかしこのプロジェクトでは,まず作品を作って支援者の期待に応えることを優先しているとのことで,そうしたオファーは作品が完成するまで保留しているそうだ。

 トークの終盤では,内田氏が「時間の奪い合い」に言及。内田氏は「決して暇つぶしを否定するわけではないが」と前置きしつつ,スマートフォンゲームが良くも悪くも空き時間を潰すために利用され,生活のさまざまなタイミングでプレイされていることを指摘した。
 一方,コンシューマゲームは,どんなに最新技術が盛り込まれ,万人を感動させるストーリーを持っていたとしても,プレイできるタイミングは限定される。たとえばレストランで料理が出てくるのを待っている間にそうしたゲームをプレイできるかと問われたら,常識的には無理だろう。そうした場には,やはり手軽に遊べるスマートフォンゲームに分がある。

 内田氏は,生活の中で結構な時間を使ってプレイされているスマートフォンゲームに,果たしてコンシューマゲームが割り込む隙があるのか,愛着を持ってもらうにはどうすればいいのか,再考する必要があるのではないかと問いかけた。

 トークのエンディングでは,登壇者がそれぞれの今後の活動について言及。内田氏は,自身が取り組んでいることについて今はまだ明かせないとしつつも,「お客様に評価されてこそのものなので,詳細が発表されたらリップサービスでもいいので“いいね!”と言ってください」と冗談めかして語った。

 イシイ氏は,アニメ版「モンスターストライク」の放映開始に向けて尽力しているほか,2015年内にもう一つ大きな発表をする予定があることを明かした。こちらはイシイジロウ作品のファンにも納得のこだわりの作品になるとのこと。

 そして五十嵐氏は,近いうちにモバイルタイトルを披露する予定があること,そして「Bloodstained」に関しては,8月28日にアメリカのシアトルで開幕するPAX Prime 2015にて新情報を発表することを明かし,ぜひ期待してほしいとトークを締めくくった。

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