― 連載 ―


ガラティーン(Gallatin)
 円卓の騎士の双璧ガウェイン 
Illustration by つるみとしゆき

 アーサー王伝説には,魅力的な人物が数多く登場する。聖剣エクスカリバーを振るったアーサー王はもちろん,魔力によってアーサー王をサポートした魔法使いマーリン,円卓の騎士の筆頭であり愛に生きたランスロット,妖艶な魅力を持ち,マーリンを誘惑した湖の淑女モルガンルフェイなどなど,どの人物も実に個性的である。今回はそんな中から,円卓の騎士の中でも実力者として知られる,ガウェイン(Gawain)にスポットを当てて紹介してみよう。
 ガウェインはアーサー王の甥であり,オークニー国のロット王(Lot),アーサー王の姉モルゴス(Morgause)の間に生まれたとされている。ただしガウェインは王の息子として,幸せなエリートコースを歩んだわけではなかった。彼が生まれたのは,ロットがまだ王ではなく,モルゴスに従者として仕えていた時代であり,生まれたガウェインは樽に入れられて流されてしまうという苦難に遭っている。
 やがてとある漁師に拾われ,すくすくと成長した彼は頭角を現し,教皇スルピキウスによって騎士に任じられると,のちにアーサー王の宮廷へと赴き,円卓の騎士の重鎮となった。

 

 ガウェインとランスロット 

 ガウェインはランスロットと並んで円卓の双璧ともいえる人物で,二人はアーサー王をよく盛り立てた。が,ランスロットがアーサー王の后であるギネヴィアと親密になってしまい,それが明るみに出てしまったためにランスロットはフランスへと逃走。さらに逃走のときに処刑寸前のギネヴィアを救うため,ガウェインの兄弟であるガへリス,ガレスを斬り殺してしまったことから,ガウェインはランスロットを激しく憎んだ。
 本国にはモードレッドを残し,ガウェインはアーサー王に付き従ってランスロットを追撃した。だが本国を預かるはずのモードレッドは謀反を起こしてしまったため,アーサー王とガウェインはモードレッドとランスロット,二つの敵と戦わなければならなくなった。
 ガウェインとランスロット,かつての双璧は激しく戦った。この戦いでガウェインは大怪我を負ってしまったが,ガウェインには一つの収穫があった。剣を交える内に,まだランスロットにはアーサー王に対する忠誠心が残っていることを感じ取ったのである。そこでガウェインはランスロットに「アーサー王を助けてほしい」という一通の手紙を書き終えると,この世を去った。この手紙によってランスロットはアーサー王を救うために兵を動かしたが,時すでに遅く,アーサー王はモードレットとの戦いで致命傷を負い,死んでしまうのだった。
 アーサー王伝説は広い地域に渡って愛されたことから複数のバリエーションが生まれ,そのせいでストーリーに矛盾が生まれてしまった。ガウェインについての逸話は多く,ブルターニュの伝承ではガウェインは戦いに生き残り,アーサー王の地位を継ぐという話もある。フランスではゴヴァン(Gauvain),ラテンではワルガヌス(Walganus),オランダではヴァレヴァイン(Walewein)などと呼ばれたほか,しばしばウェールズの英雄で,五月の鷹/平原の鷹と呼ばれたグワルフマイ(Gwalchmei)と同一視されている。

 

 太陽の騎士ガウェインとガラティーン 

 ガウェインは剛直な人物として描かれることが多い。剣術に卓越しているとか,馬術がうまいのはもちろんだが,彼の最大の特徴は,時間帯によって能力が変化するというものだろう。夜明けから正午までは力が増して,最盛期では3倍にもなり,正午を回ると次第に能力は下がっていくのである。これにはランスロットも手を焼いたようで,最盛期のガウェインの前では,攻撃どころか防戦一方になってしまったという。
 戦場では,本来妖精の持ち物であったとされる愛馬グリンガレット(Gringalet)を駆り,ガラティーン(Gallatin)と呼ばれる剣を振るったとされている。ガラティーンについては資料が少なく,どうやらエクスカリバーと兄弟にあたる剣らしい。本来の所有者は湖の精とのことで,入手した経緯も不明である。一説にはガラティーンもガウェインと同様,正午に最大の力を発揮するとのことだ。
 夜明けから正午までに力を増し,正午から力が弱まるというのは,ずばり太陽そのものを指している。アーサー王伝説はさまざまな神話伝承を吸収して生まれたことを考えると,ガウェインのルーツは太陽神など太陽や光に縁のあるモノであったに違いない。そういう意味では,本記事ではガウェインを太陽の騎士と定義してみたいと思う。ちなみにイギリス発祥と思われるガウェインのエピソードは気の良い人物として描かれることが多く,フランス発祥と思われるエピソードではなぜか野蛮で好色に描かれることが多い。ひょっとしたらランスロットの本国がフランスであるため,ランスロットと剣を交えたことが影響しているのかもしれない。

 

七支刀

■■Murayama(ライター)■■
Murayamaのフェイバリットムービーは,「ラスベガスをやっつけろ」というジョニー・デップ主演の映画。現在「ブラザーズ・グリム」が絶賛上映中のテリー・ギリアム監督作品で,ハンター・S・トンプソンというジャーナリストの自伝を映画化した作品である。具体的には,ドラッグなどでトリップした光景を強引に映像化したもので,「さっぱり意味が分かんない」と評されることが多いのだが,酒で記憶を飛ばすのが日常茶飯事のMurayamaには「痛いほどよく分かる」という。この映画が理解できれば,キミもMurayamaと話が合うだろう。

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