― 連載 ―


日本号(にほんごう)
 天下五剣/天下三槍 
Illustration by つるみとしゆき

 日本には「天下五剣」「天下三槍」と呼ばれる業物(わざもの)がある。これに属する武器は,どれも由緒正しいものばかり。銘を挙げると,天下五剣は「大典太光世」「鬼丸国綱」「数珠丸恒次」「童子切安綱」「三日月宗近」で,天下三槍は「御手杵」「蜻蛉切」「日本号」となっている。少しでも武具/刀剣に詳しい人であれば,銘を見ただけで頷いてしまうほどの名刀/名槍ばかりである。
 それぞれ興味深い逸話があるが,その中でもとくに銘が目立つのは日本号であろう。日本の名を冠する槍とは,一体何者なのか? 今回はこの日本号にスポットを当てて,エピソードを紹介していく。
 本来,日本号は天皇家に伝わっていたという。正親町天皇から足利義昭,織田信長,豊臣秀吉,福島政則,母里太兵衛などの手に渡っている。一説によると,秀吉は後陽成天皇から授かり,最初は太刀だったのだが,腰に提げるのは恐れ多いと槍にしてしまったのだという。槍にすれば頭上に掲げることから,礼を欠くことがないと考えてのことである。「日本号」という名前も,あまりの素晴らしい出来に感嘆した秀吉がつけたという説がある。
 さらに驚くのは,槍でありながら朝廷から位を授けられたことだろう。日本号は槍でありながら正三位の位に就いていたのである。さて正三位という立場であるが,これは大納言に就任し得るものであり,人間であれば公卿の中でも相当な名家だけに与えられるものである。こうしたことから考えても,日本号に対する評価は非常に高いことが窺える。

 

 黒田節と日本号 

 民謡の黒田節をご存じだろうか? 少々変わった民謡なのだが,歌詞は次のようなものである。

酒はのめのめ のむならば,
日本一の この槍を
呑み取るほどに 呑むならば,
これぞ真の 黒田武士

 これは日本号の逸話に基づいて作られた歌である。酒と日本号に,どういった関係があるのか紹介していこう。
 福島正則といえば,豊臣秀吉に仕えて数々の武勲を立てた人物だ。とくに賤ヶ岳の合戦では目覚ましい活躍を見せたことから,賤ヶ岳の七本槍と称された歴戦の勇将である。その福島正則は,天正18年,小田原攻めで大きな功績を挙げたことから日本号を授かることになった。だがこれは,ひょんなことから失う羽目になってしまう。
 黒田長政の部下に母里太兵衛という豪傑がいた。合戦で敵の首を獲ること76回,黒田二十四騎に数えられた人物で,戦だけではなく江戸城の困難な石垣修理の指揮を執ったうえに,手際の良さから徳川家の褒賞を授かった人物である。実はこの工事,徳川家が諸大名の資産を減らすために画策したもの(といわれている)にもかかわらず,逆に褒賞を受けるとは大した人物である。
 ある元旦のこと。母里太兵衛は黒田長政の代理として福島正則に挨拶に伺った。めでたい席ということと,主君の代理であることから,酔って粗相があってはいけないと,母里太兵衛は酒を断っていた。酔った福島正則は,最初は飾ってあった日本号の自慢をしていたが,やがて暴言を吐き始め,やがてその内容は主君の黒田長政にまで及んだという。さらに福島正則は三段に重ねた大杯で酒を飲み干したら,好きなものを取らせようと挑戦的な態度を取ってきたのだ。
 これを聞いた母里太兵衛は密かにほくそ笑んだ。というのも,母里太兵衛は黒田家の中でも酒豪として知られる人物だったからである。次から次へと注がれる酒を一気に飲み干すと,武士に二言はないはず……と,飾ってあった日本号を片手に,まったく酔ったそぶりも見せずに帰っていったという。のちの朝鮮出兵のとき,母里太兵衛の窮地を後藤又兵衛が救ったことから日本号は後藤又兵衛のものとなり,後藤又兵衛が黒田家を出奔するとき,母里家に返却された。

 

 現存する日本号 

 日本号が合戦などで振るわれ,活躍したという逸話が見られないのが残念だが,本来天皇家に秘蔵されていた槍であり,数々の大名や豪傑に好まれたことを考えると,相当な業物であったことは間違いないだろう。残念なことに銘も彫られておらず,(諸説はあるが)製作者については不明である。
 現在,日本号は福岡市博物館に保管されている。その姿は刃長79.2cm,全長は321.5cmで,刃の真ん中くらいから根元にかけて剣に絡みつく龍が彫られており,その名に恥じない優美で力強い姿をしているという。

 

ガラティーン

■■Murayama(ライター)■■
いよいよ寒くなり,Murayamaの季節がやってきた。そう,鍋の季節である。毎年1個のペースで土鍋を割っているMurayamaだが,割るといってもうっかり落として割るなどの事故ではなく,単に鍋料理のやり過ぎで,土鍋の耐久度が1年で限界を迎えてしまうのである。オリジナル鍋料理の創作にも余念のないMurayamaは,3個めの土鍋を購入して今年の冬に挑む。

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