― 連載 ―


七支刀(しちしとう)
 石上神宮と七支刀 
Illustration by つるみとしゆき

 特殊な形状をした刀剣は世界中にあるが,日本のもので有名なのが七支刀である。この剣は「ななつさやのたち」「六叉の鉾」(ろくさのほこ)とも呼ばれていて,全長74.9cm。鉄でできた刀身の左右には三つの牙のような枝刃が出ている。あまりにも特殊な形状に,目を見張る人も多いことだろう。
 七支刀が世に広まるきっかけになったのが,石上神宮における発掘だ。石上神宮といえば,以前に紹介した布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)が保管されていることで知られている神社である。石上神宮には禁足地と呼ばれる特殊な場所があり,ここにはさまざまな宝物が安置されていた。明治時代に,石上神宮の大宮司であった菅政友が宝物の確認/点検のために宝物庫に足を踏み入れたが,そのとき目が留まったのが七支刀であった。独特の形状はもちろん,刀身の表裏には金象嵌(きんぞうがん)による文字が施されていた。もともと学者でもあった菅政友は興味を覚えると,刀身に施された金色の文字を確認してみた。

 

秦■四年五月十六日丙午正陽造百練鋼七支刀■辟百兵宜供供侯王■■■■作

先世以来未有此刀百済王世■奇生聖■故為倭王旨造伝■■世

 

 ところどころ文字が欠けていて読めないが,なんとか上記の文字は読み取れたので記録したという。それがのちに,多くの学者達によって解読され,この剣(七支刀)は,秦和4年に百済王の世子が,倭王のために鍛えたと解釈された。さらにこれは,日本書紀に登場する七枝刀と同一の物と解釈されたのである。ちなみに日本書紀によると,七枝刀は七子鏡や勾玉などの宝とともに,百済王から神功皇后に贈られた宝であり,倭国と百済の同盟の証であったらしい。

 七支刀とファンタジー 

 このまま話を進めると歴史の話になってしまい,どうもファンタジーらしさがない。同盟の証という事実はさておき,ファンタジー的な解釈を考えてみたい。まず注目してもらいたいのが,七支刀が七子鏡や勾玉などと一緒に贈られた点だ。
 アジア圏で広く信仰される道教では,剣や鏡は特殊な存在である。古い書物をひもとくと,そこには鬼神を打ち払うために剣を振るい,鏡を使って見えないものを見,また鏡で悪鬼から身を守る道教の導師の姿を見ることができる。また道教では,導師から弟子へ奥義を伝授するときに,剣,鏡,勾玉(印?)の三つを与えることもあったという。つまり剣,鏡,勾玉は,破邪の力を持つ道具として重要視されていたわけだ。
 剣,鏡,勾玉にはいったいどんな意味があるのか。それは古代の信仰が大きく関係している。もともと古代の信仰は自然を対象にしていた。だが自然には明確な形がないし,目に見えないものも多かった。そこで神が宿るとされるものを信仰するようになった。これが「ご神体」である。そして剣,鏡,勾玉は,どれも神が宿るご神体として考えられたのだ。それは草薙の剣(クサナギノツルギ),八咫鏡(ヤタノカガミ),八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)といった「三種の神器」も同様で,これらはご神体として熱田神宮などで祀られている。こうしたことを考えると,七支刀は同盟の証としてだけではなく,神が宿る神剣であったと考えてもいいだろう。
 いろいろ調べたところ,七支刀の枝刃が龍神の牙を象徴してるため龍神が宿るとか,道教では北斗七星に勝利祈願をすることが多く,七支刀には北斗七星の力が封じ込められてるといった興味深い諸説も見つかったが,内容にばらつきがありすぎて,明確な七支刀の姿を見いだすことはできなかった。とはいえ,単なる同盟の証だけの剣でないことは明らかだろう。
 現在,七支刀は国宝として石上神宮に秘蔵されているが,残念ながら一般公開はされていない。

 

エペタム

■■Murayama(ライター)■■
「今年こそ生牡蠣をジョッキで飲み干す」と豪語するMurayamaは,大の牡蠣好き。2005年も寒い季節に突入し,いよいよ牡蠣三昧の日々か? と思いきや,今年はまだちょっとしか食べていないとのこと。というのも,周囲で牡蠣にあたる人が続出し,飲み屋などで牡蠣を注文しようとすると,周りから猛反対を受けてしまうらしいのだ。冬の定番だったキムチ鍋も,例の騒動のせいで控えており,楽しみにしていた冬の味覚を楽しめず大いに荒れている模様。

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http://www.4gamer.net/weekly/sandm/036/sandm_036.shtml