連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第36回:ジャバウォック(Jabberwock)

 ファンタジー世界に登場するモンスターといえば,神話や民間伝承を由来とするものが多いが,中には著作物から生まれて,後に市民権を得たものもいる。代表的なところでは「指輪物語」のバルログや(これはモンスターではないが)ホビットなどが挙げられるが,今回は変り種として,ジャバウォックというモンスターを取り上げてみよう。
 ジャバウォック(Jabberwock)は,ルイス・キャロル著「鏡の国のアリス」の,ジャバウォッキー(Jabberwocky)という詩に登場するモンスターだ。詩の内容を見る限りでは,ジャバウォックは森に生息しており,鉤爪と牙による攻撃を得意とし,燃えるような赤い目を持つモンスターのようだ。
 そこから全体像を想像することは難しいが,同書にはジョン・テニエルによって描かれたジャバウォックの挿絵がある。挿絵によると,ひょろっとした体は鱗に覆われており,背中にはコウモリのような翼,額には触角のようなもの,口元にはヒゲのようなものが確認できる。

 ゲームに登場するジャバウォックを見ると,グリフォン,ワイバーン,ドラゴンあたりと比較しても引けを取らない攻撃力を持っていることがある。かなりの強敵といえるだろう。ちなみに「鏡の国のアリス」の詩では,ある少年がヴォーパルソード(vorpal sword)という剣を振るって,見事にジャバウォックの首をはねている。
 ファンタジーRPGファンであれば,ヴォーパルブレードやヴォーパルウェポンという名をしばしば耳にしたことがあるかもしれない。この武器は多くの場合,攻撃力が高かったり,クリティカルヒット(一撃で敵を倒す)が発生したりする名剣/魔剣である。なお,それらの武器の源流は「鏡の国のアリス」であり,“ヴォーパル”という単語自体がルイス・キャロルによる造語だということは,覚えておくといいかもしれない。

 

 ジャバウォックの起源に関しては,「鏡の国のアリス」から生まれたことは言うまでもないが,その由来については諸説ある。(意味のないことを)べらべら喋る「jabber」,突き「jab」,粉砕する「jatter」,巨大な者「wacker」,子孫,果実「wock」あたりの合成語では? と言われているものの,結論には至っていないのが事実だ。
 ただし,ルイス・キャロルの言葉を借りれば,ジャバウォックとは「議論の賜物」を表しているとのことなので,ひょっとすると論議されることを前提に作り出したたモンスターなかのかもしれない。そう考えるならば,キャロルのたくらみは見事に功を奏したといえるだろう。

 ちなみに,こうしたことを踏まえてか,ジャバウォックを倒したとされるヴォーパルブレードにもさまざまな解釈がある。「vorpal blade」とすべて小文字で書かれていることから,vorpalは固有名詞ではなく形容詞であると解釈し,「鋭い」という意味だとしたり,言葉を示す「verbal」と(絶対の)真理を示す「gospel」の合成語として“真理の言葉”だとする説もある。

 ジャバウォッキーという詩を読むとき,これは単なるジャバウォック退治の話などではなく,(意味のないことを)べらべら喋る論議の場所を,真理の言葉で一刀両断する比喩なのだと解釈するのも面白い。そこに込められた真の意味は,ルイス・キャロルのみが知るところかもしれないが。

 

次回予告:フェニックス

 

■■Murayama(ライター)■■
今も昔も相変わらず,旨い酒と食事をこよなく愛するMurayamaだが,近頃明らかに体脂肪率が高まってきており,悩んでいるという。Murayamaの体型を見る限り,それほど太ってきてはいないように思えるのだが,本人いわく「ヘソを綿棒で掃除するのが好きなんだけど,最近綿棒の入りが悪くなってきた」のだそうだ。それって,いじりすぎたヘソが,腫れただけじゃないですか?


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/036/sam_monster_036.shtml



関連商品をAmazon.co.jpで
新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌
連載「剣と魔法の博物館」に大量の書き下ろし原稿を追加。ファンタジーファン必携の1冊。