連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第35回:バルログ(Balrog)

 J.R.R.トールキン著の「指輪物語」は,ミドルアース(中つ国)という世界を舞台としたファンタジー小説である。ミドルアースにはさまざまな種族が生活しているが,中でもホビットをはじめとするオリジナルキャラクターの人気が高く,トールキン作品とは直接的な関連がないゲームにも,しばしば登場する。
 今回は,トールキンが創造したキャラクターの中でもとくに強大な力を秘めている,バルログについて紹介しよう。

 「指輪物語」に登場するバルログは,暗黒の王メルコールが生んだ,黒い肌をした人型のモンスターだ。鼻孔からは炎を噴出し,首には炎のたてがみ,背中にはコウモリのような羽を備えている。主な武器は複数の鞭(べん)を持つ炎のムチだが,片手に炎の剣を持っていることもある。
 これらの武器はどちらも強力で,神(ヴァラ)ですら苦戦を強いられた巨大蜘蛛ウンゴリアントを,バルログが炎のムチで追い払ったというエピソードがあるほど。メルコールの創造したモンスターの中で,バルログはドラゴンに次ぐ力を持っているとされているのだから,その戦闘力の高さは,推して知るべしといったところだろう。

 バルログは,「指輪物語」の見せ場の一つである,モリアの坑道の終盤で登場する。物語中ではガンダルフと死闘を繰り広げ,ガンダルフが勝利したかと思った瞬間に,炎のムチを絡みつかせ,ガンダルフと共に崖下へと落下していった。その結果,両者はどうなったのかが気になるというファンタジーファンは,小説や映画「ロード・オブ・ザ・リング」で確かめてみるといいだろう。
 ちなみに,モリアの坑道に出現したバルログは,もともと地中で寝ていたのだが,ミスリルを採掘中のドワーフが,誤って起こしてしまった。深い眠りから目覚めたバルログは,二人のドワーフの王を殺してドワーフ達を追い出し,その後2世紀にわたってモリアの坑道に君臨した。なお,このバルログは「ドゥリンの禍」とも呼ばれる。

 

 バルログという名は,エルフ達の話すシンダール語で「力強き悪鬼」という意味を持ち,上(かみ)のエルフ達(ヴァリノールのエルフ)の話すクウェンヤ語では,ヴァララウコ(Valarauko)と呼ばれ,恐れられている。
 バルログに関しては,神話/民間伝承上にルーツとなりそうなものが見つからなかったので,ここではトールキンの著作物を通じて,バルログの起源を探ってみよう。

 先述したように,バルログを創造したのは,ミドルアースの神々(ヴァラ)の一人,暗黒の王メルコール(Melkor)だ。彼は精霊・亜神であるマイアール(単数形はマイア)を,怪しげな儀式によって悪鬼に作り変えた。それがバルログになったのだという。以後,バルログ達は,メルコールの配下として戦場へと赴き,大きな戦果を挙げた。
 なお,バルログは種族名であり,その頂点に君臨したのが,ゴスモグ(Gothmog)という名のバルログだ。彼は数々の戦いに参戦して,エルフの諸侯を三名も殺害したほか,アングバンド要塞の総司令官を務めるほどの力を持っていた。モンスターにこのような賛辞を送るのもなんだが,ゴスモグは戦士としても,司令官としても一流だったのだろう。
 しかし,メルコールやバルログの悪行は,長くは続かなかった。エルフ達などの活躍によって,メルコールは虚空へと追放され,バルログ達の多くも滅ぼされてしまったのだ。そのとき,ほとんどのバルログは死亡したが,一部は地中へと逃れ,眠りについたという。このあたりの話は,トールキンの「シルマリルの物語」で確認できるので,興味がある人はぜひご一読を。

 

次回予告:ジャバウォック

 

■■Murayama(ライター)■■
ゴールデンウィークのまっただ中ということもあり,連日お酒を飲み歩いているというMurayama。先日は,飲み仲間と酒と食料を買い込んで,某公園でひなたぼっこをしつつ,飲み食いしていたのだという。そう聞くと,何やら健康的というか,平和な感じがしないでもないが,そこで終わらないのがMurayamaである。その後夕方からは焼き肉屋で食い,さらにバーで飲み,そこから一人で飲みに行き,最後はラーメン屋で朝を迎えたという。……なるほど,だから今回の原稿が遅れたんですね,この野郎!


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/035/sam_monster_035.shtml



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