連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第34回:バンシー(Banshee)

 人々に死を告げる存在として,デュラハンと並ぶほど有名なモンスターが,バンシー(Banshee)である。これはスコットランドやアイルランドを中心に知られている妖精の一種で,日本のRPGにもよく登場する。名前くらいは知っている人も多いことだろう。
 バンシーは,真っ赤に目を腫らした女性の妖精で,どこか不吉な印象を与える容姿をしている。特徴は,死者の出る家の前に現れて泣くことであり,人間に直接的な危害を与えるようなことはしない。もっとも,力ずくで死をもたらすわけではない(バンシーを倒したからといって死の運命から逃れられるわけでもない)ので,バンシー自体は危険性の低いモンスターだといえる。
 しかし,戦闘能力がまったくないわけではない。いざ戦闘となれば,バンシーは強烈な金切り声を上げて応戦する。その声には呪術的な力が込められており,金切り声を耳にすれば,精神的なショックを受けたり,一時的に混乱状態に陥ったりしてしまう。金切り声は物理攻撃ではないので,剣で受け流したり,盾で受け止めたりといった防御手段が通用しない。
 また,バンシーの金切り声は「音」であるため,その有効範囲はかなり広く,バンシーの周囲にいるだけでその影響を受けることになる。バンシーはそれほどタフなモンスターではないので,有効打さえ決まれば容易に倒せるだろうが,近づくまでが問題といえそうだ。
 もしバンシーと戦うのであれば,金切り声の効果範囲外から遠隔攻撃をしかけたいところ。といっても,彼女らは比較的無害な存在なので,よほどの理由がない限り,戦闘は発生しないのではないだろうか。
 なお,お馴染みのテーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」では,バンシーはアンデッドに分類されている。その場合は,ターンアンデッドなどの呪文も有効だろう。

 

 バンシーというネーミングは,アイルランド語で女性を示す“Ban”と,妖精を示す“Shee”の合成語である。ちなみに男性は“Fear”といい,男性の妖精はファーシーと呼ぶ。
 民間伝承では,出産に際して死んだ女性がバンシーになると伝えられており,死すべき者の家の前で泣くとされている。が,それは誰にでも泣くというわけではなく,ちょっとした法則があるようだ。
 バンシーが泣くのは,由緒正しい名家の人物が死するときのみとされている。バンシーが現れて泣くということは,名誉の一つでもあるのだ。また稀に,複数のバンシーが現れることもあり,そうした場合は名君などの徳の高い人物が死ぬ前兆であるらしい。
 興味深いところでは,バンシーを見つけたらそっと近づいて,その乳房を吸えば願いを聞いてもらえたり,これから死すべき者の名前を教えてもらえたりする,という逸話がある。……まぁ,妖精相手にそんなことをするのはかなり難しいだろうが,もしも実行できれば,大きな見返りが得られそうだ。
 ヨーロッパ地域には,バンシーが出現したという伝説が多く残っており,現場となった家も多数残っている。幽霊などが現れた家は気味悪がられ,買い手が付かないことも多いように思うが,バンシーが現れたという屋敷などは,旧家,名家としての評価がつき,気味悪がられるどころか,高値で取引されることもあったそうだ。

 

次回予告:バルログ

 

■■Murayama(ライター)■■
つい先日,新宿・歌舞伎町へ一人で繰り出したMurayamaは,街で声をかけてきたフレンドリーな外国人と意気投合し,彼のオススメする店へ飲みに行ったという。彼と共に楽しいひとときを過ごし,さてお会計という段階に差しかかったとき,それまで愛嬌のある笑顔を浮かべていた彼が急に怖い顔になり,どう考えても高額な支払いを求めてきたそうだ。いわゆる「ぼったくり」である。しかし泥酔状態のMurayamaは,彼の頭を優しく撫でつづけながら,「ごめんなー,俺あんまりお金持ってないんだわ」と事情を説明。彼は困ったような顔になり,Murayamaを解放してくれたという。突っ込みポイントは多々あるが,とりあえず,著者紹介ネタを作ってくれてありがとうございました。次回もこの調子で一つ。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/034/sam_monster_034.shtml



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