連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第37回:フェニックス(Phoenix)

 ペガサス,グリフォン,ドラゴンなど,立派な翼を備えたモンスター達の姿は実に美しく,絵画や紋章などのモチーフに使われることも多い。そのなかでも独特の魅力を持っているのが,「不死鳥」と呼ばれることもある,フェニックス(Phoenix)だ。

 フェニックスは,クジャクとフウチョウ(風鳥,極楽鳥の一種)を合わせたような姿をしている。頭部に鶏冠を持ち,複数の長い尾をたなびかせながら空を飛翔する巨大な鳥として描かれることが多い。神社仏閣などで見られる鳳凰や朱雀,手塚治虫の漫画「火の鳥」あたりのイメージを思い描いてみれば,その姿がなんとなく理解できるだろう。

 炎の中で再生するという伝説があることから,ゲームなどではフェニックスを炎と関連付けて設置していることが多く,攻撃方法のほとんどは炎である。口からファイアーブレスを吐いたり,全身に炎をまとって体当たりしたりするのが一般的だ。
 ゲームによっては,炎属性の攻撃を受けると体力が回復するフェニックスもいる。魔法や属性攻撃をする際には,その点に注意しておいたほうがいいだろう。いずれにせよ,フェニックスは知能が高いことも多いため,敵に回せばかなりの強敵となるに違いない。
 ちなみにフェニックスの羽や尾は,その美しさから貴重品として取引されることが多いほか,その血を飲めば不老不死になれるという。そういった背景から,ゲームでは,回復/蘇生アイテムなどに「フェニックス」の名が冠せられていることがある。

 

 フェニックス(不死鳥)伝説は世界各国に存在しており,中国の四聖獣の一つである朱雀も,フェニックスと同義の存在と見ていいだろう。歴史書の中では,マンデヴィルの「東方旅行記」,ヘロドトスの「歴史」,プリニウスの「博物誌」などで紹介されているが,どれもあいまいな表現で書かれているだけ。「歴史」にいたっては,実物は見ておらず,絵で見たとして説明されているだけだ。
 なおフェニックスは,エジプトを発祥とするという説が有力。そこからギリシャへ伝わったときに,赤い羽根が印象的だったことから,ギリシャ語で“紅”の意である「ポイニクス」と呼ばれ,それが変化してフェニックスになったのだという。

 フェニックスといえば転生することが有名で,500年ほどで生まれ変わる「神鳥」とされている。フェニックスは死期を悟ると,香木を積み上げて自ら火をつける。炎に焼かれたフェニックスは一旦は液状化するものの,やがてそれが集まり,新たなフェニックスとして再生するのだという。
 こうした生まれ変わりに関してはいくつもの説があり,香木の上で横になって死ぬと,腐敗して小さな虫が生まれ,それが成長するとフェニックスになるというものや,死んだフェニックスの体内から若いフェニックスが生まれ,親鳥の死体を太陽へと運んで燃やすといったものもある。
 アジアやヨーロッパを中心にその存在が知られるフェニックス(および同種の神鳥)は,単なるモンスターとしてだけではなく,寓意としても広く利用されている。生と死を繰り返すことが,昇っては沈む太陽を連想させ“太陽”を,自らを焼くという行為から“自己犠牲”を,転生するという特徴から“復活・再生”を象徴しているのだ。一つのモンスターにこれだけ多くの寓意が込められている例は珍しい。そういった意味でも,非常に興味深い存在といえよう。

 

次回予告:ケットシー

 

■■Murayama(ライター)■■
以前,女性に格好いいところを見せつける目的で,業務用のコピー機を一人で運び,腰を痛めたというMurayama。そのダメージが治りかけていた矢先に,水の入った60センチ幅の水槽を運び,再び腰を痛めてしまったそうだ。なぜ一旦水を抜いてから水槽を運ばなかったのかと尋ねたところ,「俺ならできると思った」との返答が。お願いだから,「俺なら飛べる」などと考えないでくださいね。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/037/sam_monster_037.shtml



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