連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第31回:マンティコア(Manticore)

 剣と魔法の世界には,スフィンクス,グリフォン,ケルベロス,キマイラなどを筆頭に,さまざまな合成獣が棲息している。とくに前述したモンスターは,人気が高いことから多くのゲームや小説などに登場している。
 さて,それらに次ぐ合成獣というのも何だが,小説などで人気の「ハリー・ポッター」や,多くのゲームに登場している興味深い合成獣がいる。それがマンティコアだ。
 マンティコアは,老人のような頭部,獅子の体,サソリの尾を合わせ持つ魔獣だ。なかにはコウモリの翼を持つタイプも存在するが,空を飛んでいる姿はあまり確認できない。
 マンティコアの武器は,3列に並んだ牙による噛み付きと,針の付いた尾による攻撃で,尾に付いた針の数は1本,ないしは24本とされている。
 針が1本の場合は突き刺し攻撃のみだが,複数本の場合は発射可能なこともある。マンティコアに遭遇したら,まずは尾の形状をチェックしておくと,その後の対策が取りやすいかもしれない。もしも尾の針が複数だった場合,発射される針に備えて大型の盾などを構えるといいだろう。なおマンティコアの針には,致死性の毒が備わっている場合もあるので,解毒剤などを用意しておくのが無難だ。
 老人のような顔を持つことと関係があるのか,マンティコアは人語を理解できるとされているが,どうやら頭は良くないようだ。オウムのように,人の言葉をマネられるだけという説もある。
 基本的に人間には敵対的であり,彼らにとって人間は交渉相手でも共存相手でもなく,単なるエサでしかない。マンティコアと遭遇したら,ほぼ確実に戦闘になると考えたほうがいい。特定の弱点などは知られていないので,戦闘が発生したら,駆け引きなどは考えずに,正攻法をとるのがいいだろう。

 

 実のところ,マンティコアの正確なルーツはよく分かっていない。起源とされる特定の神話や民間伝承は確認できないのだが,初出としては,歴史学者クテシアスの著書「インド誌」だと言われている。またアリストテレスの「動物誌」,プリニウスの「博物誌」などにも登場したほか,紋章のデザインとしても少なからず採用されている。
 一説によればマンティコアの原型は,アジアを中心に棲息するベンガルトラだとされている。マンティコアという名前をたどっていくと,ペルシア語で「人を食らう生き物」を意味する「Martiya Khwar」にたどり着く。そして,これはベンガル虎の異称でもあるらしいのだ。
 確かにベンガル虎は,人食い虎と呼ばれることがあり,古来から多くの被害者が出ている。そうしたことから人々はベンガル虎を恐れ,その恐怖がマンティコアというモンスターを生み出したのかもしれない。

 ともあれ,マンティコアはメジャーな合成獣達とは,若干異なる起源を持っているようだ。突如,民間伝承の世界に登場し,欲望のままに人間をむさぼるマンティコアは,由緒正しいモンスターが多いファンタジー世界では,異端とも言える。そこに,そこはかとない不気味な魅力を感じてしまうのは,筆者だけではないだろう。

 

次回予告:マーメイド

 

■■Murayama(ライター)■■
「楽しく飲み食いするためならばどんな苦労もいとわない」と日頃から公言しているライター,Murayama。毎年この季節には,数十人〜100人規模のお花見を仕切ってきた彼だが,今年は仕事が立て込んでおり,どうやら不参加になりそうだという。若干可哀想ではあるが,仕事があるなら仕方がない。土日のお祭り騒ぎがなくなれば,毎週月曜日に掲載している当連載も,「著者急病のため休載」せずに済みそうだ。


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/031/sam_monster_031.shtml



関連商品をAmazon.co.jpで
新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌
連載「剣と魔法の博物館」に大量の書き下ろし原稿を追加。ファンタジーファン必携の1冊。