連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第32回:マーメイド(Mermaid)

 「人魚」に関する伝説は,洋の東西を問わず,世界中に存在している。ゲームなどでもしばしばその姿が見られるが,人魚の中でも,とくに女性形のものをマーメイド(Mermaid)と呼ぶが,彼女たちは人間女性の上半身と,魚の下半身を持っているものが一般的だ。ちなみに男性形はマーマン(Merman)と呼ばれることが多い。ゲームによっては,人間と同じように社会生活を営んでいることがあり,さまざまなクラスが用意されている場合もある。その場合,攻撃方法は近接戦闘だけではなく,弓矢や魔法を用いた遠距離攻撃も仕掛けてくるだろう。
 マーメイドとの戦闘が発生するシチュエーションは,水中もしくは水上が多く,冒険者達は地形的な不利を抱えたまま戦うことになる。もしも戦うのであれば,水中での活動をサポートする類の魔法やポーションが欠かせないかもしれない。
 とはいえ,彼らの領域を侵すようなことをしなければ,戦闘になることは滅多にない。基本的にマーメイド/マーマンは友好的な種族として,あるいは冒険の鍵を握るキーパーソンとして登場することが多い。海底都市への案内役だったり,特殊なアイテムを得るために,人魚からの依頼を解決したり,といった具合だ。
 また,「人魚姫」などのおとぎ話に代表されるように,マーメイドとの恋は悲しい結末になることが多いので,ファンタジー世界の悲劇役者ともいえるかもしれない。

 

 マーメイドという名は,海や湖を示す「Mere」と,女性を示す「Maid」の合成語である。ルーツについては諸説あるが,人魚,もしくは半魚人ということで言えば,今から約6000年前にバビロニアで信仰されていたという海神オアンネス(Oannes)が,最も古い存在かもしれない。
 オアンネスは,昼は陸で生活し,夜になると海へと帰るという特性をもっていたために,半人半魚の姿で描かれており,人々は航海安全などを祈ったらしい。
 一般的に広く知られている「金髪の美女」として描かれるマーメイドは,手に櫛や鏡を持ち,歌声によって男性を誘惑する存在で,これはギリシャ神話のセイレーンの影響が色濃い。ギリシャ神話によれば,もともとセイレーンは女性と鳥の合成獣で,歌声によって人々を魅了する能力を持っていた。しかし,女神ミューズに歌の勝負を挑んで負けてしまい,海に落とされたという。そして海に落ちたことで,半人半鳥ではなくなり,マーメイドになったというのだ。
 といっても,セイレーンがマーメイドになった理由は,実は誤訳にあるとも言われている。ラテン語で翼はPennisといい,魚のヒレはPinnisという。よく似た単語だけに誤訳されてしまい,いつの頃からかセイレーンは人魚になってしまったというわけだ。そしてこれが,かのローレライ伝説へとつながっていくのである。
 ちなみにフランス語圏では,人魚はマーメイドというよりも,セイレーンといったほうがイメージが伝わりやすいらしい。またドイツにもマーメイド伝説があり,こちらはメロウ(Merrow)と呼ばれている。
 日本の民話にもマーメイド,(というより人魚)は多く登場する。少々物騒な話だが,人魚の肉を食べれば不死身になるとか,1000年もの寿命が得られるという話は,どこかで聞いたことがあるのではないだろうか。
 また人魚の油を体に塗れば,水中でも体温を奪われない,武器に塗れば鉄をも断ち切る,ろうそくとして用いれば雨に濡れても消えないなど,さまざまな言い伝えがある。人魚の油といえば,「南総里見八犬伝」に登場する人魚膏油が有名なので,興味がある人は一読するといいだろう。

 なお日本では,人魚が輸出品の一つだった時期もある。江戸時代のことであるが,猿などの上半身と,魚の下半身を縫合したミイラが作られ,ヨーロッパなどに輸出されていたのである。もちろん,我々が考える美しい人魚とはかけ離れたしろものだが,その不気味な容姿が,一部のコレクターに人気だったようだ。

 

次回予告:オーク

 

■■Murayama(ライター)■■
最近,電車やバスの利用が増えてきたというMurayamaは,携帯電話で「テトリス」をダウンロードし,移動時間の暇つぶしとして遊んでいるらしい。しかし彼は,乗り物に乗りながらゲームをすると,ものの数分でゲーム酔いをしてしまうという。「昔はこんなことなかったんだけどな。年かねぇ」などとぼやくMurayamaだが,毎晩のように飲み歩いているのだから,まだまだ若いと思いますよ。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/032/sam_monster_032.shtml



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