連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第30回:バジリスク(Basilisk)

 人間にとって危険な生物といえば,熊やライオンなどの肉食獣や,毒蛇をはじめとする有毒生物を連想する人が多いだろう。広い意味での「毒を持つ生物」は,肉食獣よりも広範囲に棲息しており,その毒は獲物の肉を溶かしたり,神経を麻痺させたり,短時間で死に至らせるほど強力なものもある。
 そうした毒の脅威は,古くから知れ渡っており,毒を持つ生物はたびたび神格化/怪物化されてきた。今回紹介するバジリスク(Basilisk)も,そうした流れの中で生まれたモンスターといえるだろう。

 バジリスクは,猛毒と石化能力を持っているとされる爬虫類で,容姿については蛇のようであったり,トカゲのようであったりと,言い伝えや記録によってまちまちである。中には4対の足(つまり8本足)を持ったものや,頭頂部に「王冠のような模様」や鶏冠(鶏のとさか)を付けている例もある。
 大きさについても,そのへんのトカゲと変わらぬ小さなものから,ゲームのボスキャラとして登場しそうな巨大なモノまで,さまざまだ。
 バジリスクを特徴付ける能力は極めて恐ろしいもので,その体からしみ出る毒液によって,植物は枯れ,大地は荒廃し,あらゆる生物が死んでいくという。
 伝承などでは,ある騎士がバジリスクと戦ったところ,命中した槍を通して毒に侵されてしまい,即座に死んでしまったというのだから,恐ろしい。
 またバジリスクの視線には石化能力が備わっており,視線を合わせた者は石像と化してしまう。距離をとれば視線による石化,接近すれば猛毒による攻撃,武器で殴っても毒の危険性があるのだから,バジリスクは極めて危険なモンスターと言えるだろう。

 

 バジリスクというネーミングは,ギリシャ語で「小さな王」を意味するBasiliskosが語源となっている。しばしば「蛇の王」と呼ばれることがあるのは,このためだ。
 古い文献では,プリニウスの記した「博物誌」に登場する。それによると,バジリスクは30センチほどの蛇の一種で,頭には王冠を連想させるような白い模様があり,北アフリカに棲息するとされている。また,「シューッ」という威嚇音を発したり,息を吹きかけるだけで人を殺したりもしたそうだ。
 どうもこれらの特徴を考えると,バジリスクの正体はコブラだったのではないか,とも思える。事実コブラは背に模様を持つものが多いし,毒を吐き出すものもいる。プリニウスは,コブラのことをバジリスクとしていたのかもしれない。
 また時代が進むにつれて,バジリスクは石化能力と,大きな体を獲得したほか,中には炎を吐くとされるものまで現れた。さらに,同じように石化能力を持つ「コカトリス」と同一視されることもあった。バジリスクは時代と共に変貌してきたのである。

 以上のように,まさに蛇の王と呼ぶに相応しい強さを備えたバジリスクだが,意外な弱点がある。それは「イタチ」だ。
 もしもバジリスクを見つけたら,そこにイタチを放り込んでみるといい。するとバジリスクとイタチは争い始め,毒気に当てられたイタチは死ぬものの,イタチが最後に発する臭気によって,バジリスクも倒れるという。また一説によると,ヘンルーダという薬草は,バジリスクの毒気に当たっても枯れなかったという。ヘンルーダには,バジリスクの毒に対する特効薬としての効果があるかもしれない。

 

次回予告:マンティコア

 

■■Murayama(ライター)■■
前回の著者紹介欄で,アルコールに関する失敗談を披露してくれたMurayama。その後日,最初に入った飲み屋の近くに止めていたバイクを回収しにいったら,ヘルメットが盗まれていたという。泣く泣くバイクを押しながら帰宅したMurayamaは,「酒にまつわるエピソードには事欠かないなぁ」と,他人事のように思ったそうだ。今後もぜひ,適度な不幸に見舞われて,著者紹介欄のネタを提供してください。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/030/sam_monster_030.shtml



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