連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第25回:ケルベロス(Kerberos/Cerberus)

 人間界と異界が接する境界に,特殊な力を持った「番人」がいるという伝説は,世界中の神話/民間伝承でよく見られる。その中でもとくに有名なのは,ギリシャ神話に登場する冥府の番犬,ケルベロス(Kerberos/Cerberus)だろう。
 ケルベロスは,三つの頭と蛇(あるいは竜)の尾を持つ巨大な猛犬として描かれるのが一般的だが,古代ギリシャの詩人,ヘシオドスの「神統記」では,50の頭と蛇のたてがみを備えているとされている。また,口からは毒や炎を吐き,青銅が鳴り響くような吠え声をあげるとも伝えられているほか,それぞれの首が違う方向を監視していることや,完全には眠らない(必ずいずれかの頭が起きている)ことも,ケルベロスの特徴といえるだろう。
 冥府の番犬と言われることからも分かるように,ケルベロスは冥府の神ハデス(Hades)のしもべとして,冥府の入り口を守護している。冥府に入ろうとする死者には危害を与えないが,抜けだそうとする死者や,生きたまま入ろうとする者に対して,その凶暴な本性をあらわにするのだ。
 ゲームでは,強力なモンスターとして登場することが多いが,もし冥府の番犬としての役どころを与えられた,ボスモンスター級のケルベロスと対峙したなら,かなりの苦戦を覚悟したほうがいいだろう。可能ならば,後述するギリシャ神話の英雄達のように,知恵を絞って突破したいところだ。

 

 ケルベロスは,紀元前700年頃に活躍した古代ギリシャの詩人,ヘシオドスが記した「神統記」にもページが割かれている,由緒正しきモンスターだ。先述したように,同書では50の頭と,蛇のたてがみをもつ怪物として紹介されている。
 なお三つ首として描かれる場合は,それぞれの首が過去/現在/未来を象徴しているとか,再生/保持/精神化を象徴しているなどとされることもある。
 ギリシャ神話では,ケルベロスのガードをかいくぐり,冥府へ進入した生者もいる。一人は詩人のオルフェウス(Orpheus)で,彼は妻のエウリュディケ(Eurydike)を冥府から連れ戻すため,リラを奏でてケルベロスを魅了し,冥府の門を通過した。
 冥府に到着したオルフェウスは,ハデスとその妻ペルセフォネに懇願し,妻と共に地上に帰ることを許してもらう。しかし,「地上に着くまで,決して振り返ってはならない」との指示を破ってしまったため,エウリュディケは地上に戻れなかった。
 日本にも,「古事記」「日本書紀」などでお馴染みの,イザナギノミコト/イザナミノミコトをテーマにした黄泉国の逸話があり,オルフェウス/エウリュディケの逸話との類似が非常に興味深いところだ。
 オルフェウス以外では,トロイアの王子アイネイアス(Aeneas)という人物が,ケルベロスに芥子と蜂蜜を混ぜたお菓子を与えて手なずけ,冥府の門を通過している。この故事に倣い,古代ギリシャ/ローマでは,死者の棺に蜂蜜入りのお菓子を入れる風習が生まれたそうだ。ちなみに,英語で「give(throw) a sop to Cerberus」といえば,面倒な人を買収したり,賄賂を贈ったりするという意味がある。これも,アイネイアスの逸話を由来とするものだ。
 知恵ではなく,力でケルベロスをねじ伏せたのは,かの有名なギリシャ神話の英雄,ヘラクレス(Hercules)だ。彼は自分の罪を償うために12の難業に挑戦したのだが,その中に,「ケルベロスの捕獲」というものがあったのだ。ヘラクレスはケルベロスを羽交い締めにして(!)地上へと連れて行ったという。そのとき,ケルベロスの口からたれたよだれから,毒性の強いトリカブトが生まれたとされている。

 

次回予告:ワーウルフ

 

■■Murayama(ライター)■■
どちらかというと遅筆なライターかもしれないMurayamaだが,時折,担当編集者が驚いてしまうほど早いタイミングで原稿をくれる。今週がまさにそれだったのだが,「仕事を真面目にやっている=あまり遊んでいない」ということなのだろう,著者紹介ネタになるようなオモシロエピソードがないというのだ。無理を言って考えてもらったところ,「最近寒さに弱くなったことくらいかなぁ」とのこと。……次回は多少原稿が遅れてもいいので,ぜひ著者紹介ネタになるような遊びをしてください。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/025/sam_monster_025.shtml



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