連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第24回:ワルキューレ(Valkyrie)

 正確に言えば,ワルキューレ(Valkyrie)はモンスターではない。とはいえゲーム,アニメ,小説など多くの作品に登場しており,その知名度は非常に高い。ファンタジーファンにとっては,馴染み深いキャラクターと言えるだろう。
 「戦乙女」などと訳されることがあるワルキューレは,北欧神話に登場する,ある意味天使のような存在だ。性別は女性のみで,羽つき兜,円盾,甲冑,剣(もしくは槍)などを身に着けた姿で描かれることが多く,さまざまな魔法を使いこなす。その姿は実に神々しく,美しいとされ,オーロラは,ワルキューレの鎧のきらめきだという言い伝えも残っているほどだ。
 ワルキューレが人間に敵対することはまれなので,そうそう戦うことはないだろうが,もし剣を交えることになれば,苦戦は必至。彼女達は戦士として一流の実力を備えているし,何より彼女らに逆らうということは,その主である北欧神話の主神・オーディンを敵に回すことでもあるのだから。
 ワルキューレの本来の目的は,オーディンの命によって世界中を飛び回り,死んでしまった英雄の魂を導くというもの。よって死に際して(もしくはそれ以前から)ワルキューレと接触したならば,それは神々によって認められた英雄,ということになり,やがては天界へと導かれることになるかもしれない。戦士にとっては,これ以上ない栄誉だと言えるだろう。
 ちなみに,ワルキューレに導かれた英雄達には,安息がもたらされるわけではない。神々の住むアースガルドの「戦死者の館」ヴァルハラ(Valhalla)で,日々戦いの腕を磨くことになり,やがて勃発する神族と巨人族の決戦「ラグナロク」で,神々の側に立って戦うことになるのだ。

 なお,これは余談だが,日本のゲームファンに「ワルキューレ」という名が定着したのは,1986年にリリースされたファミリーコンピュータ用ゲーム「ワルキューレの冒険」による影響が大きいと思われる。女性を主人公としたRPGというのは,当時非常に斬新であったし,北欧神話としてのテイストは弱かったものの,ゲームの出来もよかった。その後リリースされたシリーズ作の評価も高く,当時はややマイナーだった北欧神話の「ワルキューレ」像を,ゲーム業界に定着させた功績が認められるだろう。

 

 日本ではワルキューレと呼ばれることが多いが,これはドイツ語での発音がベースとなっており,英語読みではヴァルキリーという。現在では,スクウェア・エニックスの人気RPGシリーズ「ヴァルキリー プロファイル」の登場によって,ヴァルキリーという名もかなり定着してきたように思える。
 北欧神話によれば,ワルキューレという名前には「戦死者を選ぶ者」という意味が込められている。彼女らは正確には神ではなく,オーディンに選ばれた女性がワルキューレになるため,その出身は人間であったり,巨人族であったりとさまざまだ。有名どころでは,運命の三女神ノルン(Norn)の三女であるスクルド(Skuld)も,ワルキューレの一員として知られている。
 またワルキューレといえば,ワーグナーの「ニーベルングの指輪」が有名だが,そこではオーディンの娘という設定で描かれている。

 先ほども述べたように,ワルキューレの主な任務は,英雄の魂を運ぶことだが,伝承などを見ると,死を見守るためだけに登場するのではなく,英雄を祝福したり,守ったり,恋仲になったり,結婚したりすることもある。しかし,結果として悲しい結末を迎えるケースが多く,中には,恋人を殺されたワルキューレが復讐を果たす,というようなエピソードもある。
 「ヒョルバルズの息子ヘルギの歌」は,ワルキューレのスヴァーヴァ(Svava)とヘルギ(Helgi)の愛の物語だが,ヘルギは巨人族との戦いで致命傷を負って倒れてしまう。
 その後の話である「フンディング殺しのヘルギの歌」では,スヴァーヴァはシグルーン(Sigrun)と言うワルキューレに転生しており,同じく転生したヘルギと愛を育む。しかしシグルーンにヘズブロッドという婚約者がいたことから,ヘルギはヘズブロッドとシグルーンの親兄弟を相手に戦う羽目になる。ヘルギはその戦いに勝利するが,なんとも後味の悪い思いをしてしまう。そしてつかの間の幸せを得るが,生き残ったシグルーンの兄弟によって,ヘルギは殺されてしまうのだ。
 ほかにも「グズルーンの歌」では,愛を誓い合った英雄シグルド(Sigurd)とワルキューレのブリュンヒルト(Brynhildr)が登場するが,結局シグルドは死に,ブリュンヒルドもあとを追って自殺してしまう。興味があるなら,北欧神話の関連書籍や,古エッダなどをチェックしてみるといいだろう。

 

次回予告:ケルベロス

 

■■Murayama(ライター)■■
毎回毎回,さまざまな言い訳と共に当連載の原稿を送ってくるMurayama。今回の言い訳は,「なぜか台所の電子レンジの電源が,仕事部屋の電源と同じブレーカーで管理されていて,隣の部屋で友人がレンジを使ったら,ブレーカーが落ちた」というものだった。前回の著者紹介でも述べたように,無駄遣いにかけては天才的な才能を発揮するMurayamaだが,言い訳の才能はイマイチのようである。


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/024/sam_monster_024.shtml



関連商品をAmazon.co.jpで
新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌
連載「剣と魔法の博物館」に大量の書き下ろし原稿を追加。ファンタジーファン必携の1冊。