連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第26回:ワーウルフ(Werewolf)

 残念ながら日本では絶滅してしまったようだが,狼は北半球を中心に幅広い地域に棲息しており,はるか昔から,人間には馴染み深い生物であった。といっても,その関係は穏やかなものではなく,狼による家畜被害などに悩まされた地域も多かった。そのため,世界各国で狼に関する民話や伝承が生まれたが,その中で最も有名なものが人狼,ワーウルフ(Werewolf)伝説だろう。
 これは人間が,呪いや魔術などでワーウルフとなってしまい,日中は人間でありながら,夜になるとワーウルフ(Werewolf)に変身して暴れるという伝説。変身してしまうと人間としての理性が薄れ,凶暴な本能に任せて家畜や人々を手当たり次第に襲うことになる。そして朝になると人間に戻るのだが,狼としての記憶はなく,手や口に付着した血に驚いたりするわけである。
 ワーウルフの特徴といえば変身能力,機敏な動き,爪や牙による攻撃といったところだろう。主に白兵戦を得意とするモンスターだ。ゲームや小説などに登場する場合には,咆吼になんらかの特殊能力が付与されていることもある。
 また月の満ち欠けによって力が増大するという設定も多々見られ,満月の夜,ワーウルフの力は最大となる。
 なおワーウルフには通常の攻撃が効かず,銀でできた武器(メッキでもいいらしい)か,魔法しか効果がないとされているので,冒険者たるもの,銀製武器の一つくらいは常備しておきたいものだ。
 現実世界の伝承などでは,ワーウルフ退治に銀の弾丸が用いられることが多く,これは近接戦闘を得意とするワーウルフには非常に効果が高い攻撃方法といえるだろう。なお,銀の武器を持っていない場合は,銀のフォークでも燭台でも,武器として代用できなくはないが,そのような道具でワーウルフとまともに戦えるのかどうか,疑問が残る。そんな場合は,さっさと逃げたほうがいいかもしれない(機敏なうえに犬以上の嗅覚を持つワーウルフから逃げるのは,非常に困難だろうが)。

 

 人狼は,ワーウルフとかライカンスロープ(Lycanthrope)と呼ばれることが多い。どちらも単純に,狼と人間を示す語をつなげただけであり,ワーウルフは古ゲルマン語で人を示すWerと,狼を示すWolfの合成語。ライカンスロープはギリシャ語で狼を示すLycosと,人間を示すAnthroposの合成語である。
 なお,ワーウルフはヴァンパイアとセットで扱われることが多く,一つの物語に両者が登場することも珍しくない。これは,伝承によってはワーウルフとヴァンパイアが同一視されていることと関係があるのかもしれない。
 ワーウルフのルーツについては,古代からあるトーテミズム(特定の動植物や事物と特殊な関係を持つとする観念や,それに基づいた制度。しばし鳥や動物,自然現象などがトーテムとされてきた)にその痕跡が見られる。トーテミズムには,自分達の祖先が獣であったとする信仰があり,狼は優れた狩猟能力を持っていることから,狼を祖とした部族は多かったのだ。
 また北欧神話に登場するウールヴヘジン(Ulfhedinn)も興味深い。彼らは狼の毛皮をまとった者で,呪術師の暗示や自己暗示によって狼と同化したと信じて戦う。トランス状態で戦う彼らは非常に勇猛だったという。ちなみに,同じく北欧神話に登場するバーサーカーは,熊の力を宿した戦士達である。
 ほかにも狼に関する逸話は多い。旧約聖書には,ネブカドネザル王が自らを狼と信じて苦しむ話があるし,ローマを建国したロムルスは,狼に育てられたと伝えられている。またチンギス・ハーンなども,狼を始祖に持つと言われている。
 なおチンギス・ハーンの始祖伝説は「元朝秘史」に書かれており,彼はボルテ・チノという狼と,ホワイ・マラルという牝鹿の系譜に連なる人物ということになっているのだ。これは余談だが,ボルテ・チノとは灰色の狼/まだらの狼を示す言葉であるそうで,よく言われる「蒼き狼」という形容は,直訳というわけではない。

 

次回予告:サイクロプス

 

■■Murayama(ライター)■■
食通かつ大食漢として一部に知られるMurayama。最近の食に関するマイブームは,ラー油だという。近所のラーメン屋さんで出される大盛りチャーハンに,ラー油を一本分ほどかけてしまうというのだから,相当好きなのだろう。しかし,そんなにラー油を使ってしまっては,もはやラー油の味しかしないような気も……。とりあえず,食通という称号は剥奪して,ただの大食漢と呼ぶことにしよう。


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/026/sam_monster_026.shtml



関連商品をAmazon.co.jpで
新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌
連載「剣と魔法の博物館」に大量の書き下ろし原稿を追加。ファンタジーファン必携の1冊。