フェイブルは,Xbox向けタイトルとして国内では2005年3月にリリースされた「Fable」に,新たなマップ,クエスト,アイテムなどを加えてWindowsへと移植した,シングルプレイ専用のアクションRPG。「ポピュラス」や「ブラック&ホワイト」などを手がけたピーター・モリニュー氏が監修した作品ということでも話題を集めたタイトルだ。
主人公となるのは,英雄に憧れる普通の少年。しかしあるとき,突然村を襲った山賊によって村は焼き払われ,家族も村人と共に虐殺されてしまう。ただ一人生き残った少年は英雄ギルドに引き取られ,英雄としてのさまざまな訓練を経たのち,外の世界へと旅立つことになる。
英雄のギルドがあるというのも変な話だが,実はこの世界における英雄は,“なんでも屋”の傭兵的な意味合いが強い。村人からの要請や依頼を,クエストの形で依頼人から直接,もしくはギルド経由で受け,それらをこなすことでゲームが進行していく。
クエストには,ストーリー進行上に関わりのある「メインクエスト」と,ストーリーには直接関わりのない「サブクエスト」があり,寄り道を一切せずにメインクエストのみを進めていくことも可能だ。
クエスト開始時にはこうしたムービー画面が挿入される。サブクエストをじっくりこなしていくのも本作の楽しみ方の一つだ
特徴的なのは,一つのクエストに対し,人々のためになる「善」の側からのアプローチと,人々を傷つける「悪」の側からのアプローチが用意されているという点である。そして善行をなすか悪行をなすかによって,プレイヤーの「名声」や「モラル」が変動する。「名声」はこの世界における有名度を表すもので,悪行ばかりしていたとしても上がっていく。一方「モラル」はプレイヤーの行いの善悪の度合いであり,善行をなせば上がり,悪行をなせば反対に下がっていく。
この「名声」と「モラル」は,キャラクターの外観や,NPC達の反応にさまざまな影響を与える。善い行いを続けていれば,NPC達に敬意と賞賛をもって迎えられ,キャラクターの頭上には天使の輪が輝くようになっていく。逆に悪行ばかり行っていると,道を行くNPC達からはヤジや嘲笑を受けるようになり,プレイヤーの外観も次第に悪魔のように変化していく。
本作では,NPCの会話はすべてボイス付き。これは男性NPCに「結婚指輪をはめたいな」と結婚を迫られているところ。でも,ごめんなさい
本作における,キャラクターの外観に変化を与える要素は,非常に多彩だ。キャラクターはゲーム内の時間の経過とともに歳を取っていき,また取得したスキルの傾向によって体格が変化していく。それ以外にも髪型やヒゲのスタイル,体のあちこちに入れるタトゥーまで自由に変更できる。髪型やヒゲ,タトゥーはNPCに与える好感度に影響を及ぼし,それによって当然NPCの態度も変化するので,いろいろと組み合わせを変えて試してみてもらいたい。
ただ一つ残念なのは,キャラクターが歳を取るスピードが速すぎることで,あれこれ試していると,あっという間にオジサンどころかお爺さんになってしまう。この点はもう少し調整をしてもらいたいと感じた部分だ。
プレイヤーは,剣や斧を使った近接攻撃,弓を使った遠距離攻撃,ウィル(魔法)による攻撃という,3通りの攻撃方法を駆使して敵と戦っていく。そして3通りの攻撃のどれを使うかによって,それぞれ「強さ」「スキル」「ウィル」の3系統のスキルラインの経験値が,別々に蓄積されていく。それと同時に,敵を倒すことで出現する「XPオーブ」を取得することで,上記の3系統すべてに使用できる「共通」経験値が得られる。
キャラクターはこれらの経験値を消費して,それぞれの系統の中から希望するスキルをランクアップさせることによって成長していく。
NPCが主人公に呼びかけてくる「称号」は,称号屋で変更可能だ。あえて最後までダサい称号で通すのも可。気分次第で使い分けよう |
パーソナリティ画面では,実にさまざまなプレイ記録が閲覧できる。配偶者に先立たれた回数まで記録しているRPGはおそらく本作だけだろう |
本作は三人称視点を採用したアクションRPGであり,キャラクターはきびきびとした動きを見せてくれ,操作性はおおむね良好だ。しかし元はXbox向けのタイトルであるだけに,アイテムやアクションの選択をすべてマウスで行うのには,ややまどろっこしさを感じる。それでいながら本作はゲームパッドでの操作に対応していないのだ。できればデフォルトで対応してほしかったところである。
敵の攻撃は中盤以降次第に激しくなってくるが,ポーションなどの回復手段を多めに用意することで,比較的力押しでもなんとかなるレベル。無駄な経験値稼ぎの必要もあまりなく,クエスト単位でゲームが進行するため,テンポ良くプレイできる。マイクロソフトのゲームらしく,序盤は丁寧なチュートリアルが用意されているので,マニュアルいらずでプレイできる点も好印象だ。
各地で見つかるデーモンの扉。扉の出す条件を満たしたり,謎かけを解いたりすれば開く。中には貴重なお宝が
実のところ,フェイブルの世界はそれほど広大ではなく,ストーリー自体もさほど壮大ということもない。
世界はいくつもの小さいエリアによって構成され,エリアを移動するごとにローディングが発生する。ストーリーも,村を襲った山賊の正体を追っていくうちに,死んだと思っていた人物が実はまだ生きていることが分かり,その背後にある黒幕の正体と陰謀が徐々に明かされていく……といった具合に,ドラマチックな展開を見せてはくれるが,昨今の大作志向のRPGに比べると,ややこぢんまりとまとまっている印象を受ける。
しかし本作の楽しみ方は,そういった大作RPGとは異なる点にある。フェイブルの世界は,ただ歩いているだけで非常に心地良いのだ。こぢんまりとしたそれぞれのエリアには,丁寧に作り込まれた箱庭のような温かさが感じられる。そしてフェイブルの住人達は,その小さな箱庭の中で実に表情豊かに,いきいきと生活しているのだ。
彼らはそれぞれ,朝に起床し,昼間は働き,夕方になるとパブに集まって談笑し,夜にはベッドに潜り込んで眠るといったように,各自のスケジュールに従って行動している。フェイブルの楽しみ方は,本筋であるメインストーリーを追うことよりも,むしろこうしたNPC達の生活を覗いたり,ちょっかいを出して反応を楽しんだりすることにあると筆者は考えている。
NPC達の反応は,プレイヤーの名声に応じてさまざまに変化する。名声はクエストを達成しているだけで次第に高まっていくが,クエスト達成時に時折入手できるトロフィーを見せびらかすことでも高められるという,本作ならではのユニークなシステムもある。
トロフィーを見せると,NPC達は手に持った荷物を取り落とし,全身全霊で大絶賛を送ってくれる。制限時間内にできるだけ多くのNPCにトロフィーを見せることによって,より高い名声を得られるので,ぜひ村中を必死に走り回って,自分をアピールしたいところだ。
かつてこれほどまでにストレートに自分の手柄を見せびらかせるRPGはなかったと言っていいだろう。日頃,NPC達のあまりにそっけない態度に胸を痛めていたプレイヤー諸氏は,この機会に思う存分そのうっぷんを晴らしてもらいたい。
女性NPCをナンパしていると,男性NPCから「オレの女に手を出すな!」などと言われることも。どこの世界でも結婚には障害が付き物のようだ
名声が高まってくると,初めは主人公を小馬鹿にしていたNPC達も,次第に好意と尊敬を向けてくるようになる。英雄といえど人間である。こうなると,次には世界中の女性達に憧れと羨望のため息を吐かせたいと考えたとしても,なんら不自然ではない。
本作では,プレイヤーに好意を抱くNPCの頭上にハートマークが現れ,好意が大きくなるごとに,そのハートマークが大きくなっていく。ここは一つ,世界中の女性達を虜にさせることをプレイの目標に付け加えたい。そのためには,理髪店で身だしなみを整え,クドいたり贈り物をしたりして女性達の気を惹こう。時折,主人公に言い寄ってくる男性NPCもいるので,ソッチ方面に関心のあるプレイヤーにも本作は安心して(?)お勧めできる。
最終的には,好意が最大まで高まった相手に,家を所持した状態で結婚指輪を渡すことによって,結婚が可能だ。なお家は,各村に一軒ずつ購入可能。家ではベッドで休んで体力を回復できるだけでなく,お金をかけてより豪華に改装したり,人に貸して賃貸収入を得たりもできる。そして重要なこと(?)は,家一軒につき一人のNPCと結婚ができるという点だ。つまり,それぞれの村で家を購入すれば,行く先々で第二夫人,第三夫人を持つことさえ可能なのだ。この世界では重婚は罪ではなく,英雄のバロメータなのだと前向きに考えたい。結婚したあとはパートナーとベッドインすることも可能なので,この先はぜひプレイヤー自身の手で確かめてもらいたい。
……と,ここまで書いてきて,胸のどこか奥のほうがチクチクと痛む思いがするが,ぜひ筆者の人格を疑わないでいただきたい。さまざまな場面ごとに,それに適した豊富なリアクションを返してくれるNPC達の喜怒哀楽はどこまでも楽しく,つい自然と「次はあれをやったらどうなるだろう」という気持ちになってしまう。そう,あくまでフェイブルの魅力がそうさせるのだ。
もちろん,上で述べたようなプレイとは対極の“悪人プレイ”をすることも可能。授業中の学校に乱入して先生や子供達を追い散らしたり,深夜に店のドアをぶち破って店内の品物を根こそぎ奪ったりなんてこともできる。こうしたときでも,NPC達は怒号を発して攻撃してきたり,怯えて助けを請うたりと,実にさまざまな反応を見せてくれる。
|
|
筆者がクリア後にも時折本作をプレイしたくなる理由の一つは,間違いなくこのNPC達の見せる豊富なリアクションにある。フェイブルの世界には,確かに感じることのできる“手応え”があるのだ。それは従来のRPGの世界に,ザ・シムズシリーズのゲーム性を持ち込んだような感覚に似ている。従来のRPGにどこか物足りなさを感じていた人や,「ザ・シムズ」にもう少しストーリー性やアクション性が欲しいと感じていた人達の双方に,ぜひ一度プレイしてほしいタイトルだ。