馬を購入したおかげで，以前にも増して中つ国を東へ西へと駆け回っているエディーだが，このところエルフの里である裂け谷に足繁く通っているらしい。
　なので，今回は裂け谷の滞在中に出会ったビルボ・バギンズとの謎かけ遊びや，フロドを追いかける黒ずくめの謎の人物ナズグルのこと，そしてエディーが思わず見とれてしまったという絶世の美女，ゴールドベリーとのことについて語ってもらおう。

　最近は物騒な話が続いたから，たまにはほのぼのとした話でも聞かせてあげるよ。
　ついこないだ，裂け谷に行ったときのことなんだけど，バギンズ家のビルボに会ったんだ。ビルボと会うのは誕生パーティ以来だからね，懐かしくていろいろ話し込んだんだけど，そこへエルフのリンディアがやってきて謎かけ遊びをしようって言うわけさ。実を言うと，頭を使うのはあまり得意じゃないんだけど，引き下がるのもシャクだったから受けて立つことにしたんだよ。

　最初の問題はこうだ。
「あなたの手を握るけど，握る手がない。夏にはよく寝るけど，寒いほうががんばれる。仲間をよく失くすけど，本当言うと，ぜんぜん，悲しくないもの」

　次の問題は
「ごわごわの長い髭が生えている，でも生えているのは，あごでもほっぺたでもない。たくさんの手が私をつかむ，乱暴に，でも，散らかりを最初に片付けるのは，いつも私」

　どうだい，分かるかい？　この問題に関する物が裂け谷のどこかにあるってんで，あちこち探し回ったら，とあるところで見つけたよ。どこかって？　えーと，旅に関係した場所とだけ言っておくよ。

で，3番目の問題は
「息が必要。聞き入れた忠告。誰かがやってくる，ソードとナイフを持って。私の仕事は終わった，もう一度，私が必要とされるまで」

　これはモノではなく，ある人物に関する問題だった。けっこう有名な人だから，きっとその名前を聞けば分かるはずだよ。

　裂け谷中を走り回ることになって，頭よりも体力のほうが必要だったから，オイラにも解けたんだけどね，へへへ。

　裂け谷のエルフ達とは音楽の話が合うから，とくにライブがしょっちゅう出かけるんだよ。
　そういえば，裂け谷に行く途中に立ち寄った野営地でナズグルっていうヤツらの話を聞いたなあ。フロドを追いかけてた連中なんだけど，ブルイネンの浅瀬のあたりで洪水に流されたので，その後どうなってるか調べてくれないかって話だった。

　ブルイネンの浅瀬あたりで聞き込みをしたら，生き残りが南のほうに逃げていったらしいことが分かった。南のほうはうっそうとした森でね，分け入っていったらトロルがいっぱいいてビックリした。あのあたりはトロルの森とかって呼ばれてるんだけど，まさしくその名前の通りだね。
　街道から外れて森の中に入り，何日も進むと廃墟みたいなのがあってさ。そこには，それこそトロルがうじゃうじゃといやがった。こいつはまずいと思って引き返そうとしたら，そいつらの真ん中に黒い馬が横たわってたのが見えたんだ。ナズグルの奴ら，黒い馬に乗っていたっていうからピンときてね，こっそりと忍び寄ってみたら，どうもただの馬じゃないみたいなんだ。ピクリとも動かないし，息をしてる様子もなかったんで死んでたんだと思うけど，馬具も毛色もぜんぶが真っ黒でなんとも不気味な馬だったよ。
　引き返そうとしたところでトロルの一匹に見つかっちゃってさ，泡食って逃げ出したよ。

　追いかけてくるトロルから命からがら逃げ出して，ようやく野営地に戻ってこの話をしたら，やはりその馬がナズグルの乗馬だろうってことだった。ただ，肝心のナズグルの姿がどこにもなかったのが気になるんだよね。
　聞いた話では，ナズグルってのはものすごい力のある指輪に関係しているとかなんとか……。でも，なんでそんなのがあのフロドを追いかけているんだろう？　だけど，そのことを誰に聞いても，はぐらかされちゃうんだよね。中つ国が物騒になっていることと，なにか関係してるような気もするんだけどなあ。

　ああ，そういえばゴールドベリーの話が途中だった。えーとね，塚山丘陵で悪霊のボスを退治した帰り道，古森で道に迷ったら滝のそばでゴールドベリーと出会ったって話だったね。
　そのとき，彼女の頼みごとを引き受けることになったのさ。腹ペコで道に迷ってたオイラを助けてくれたし，あんな美人の頼みを引き受けないわけにはいかないからね，へへへ。

　彼女の頼み事ってのは，アガマウアに生えているオークンバークっていう木の実を取ってきてくれっていうことだった。お安い御用ってんで，すぐに向かったよ。
　アガマウアってのは，さびし野にある赤沼の北部一帯のことさ。行ってみたら，アンデッドがうようよしている場所だった。アンデッドとの戦いは塚山でさんざんやったからね，慣れたもんさ。敵の数が多いときは，オイラのリュートで子守唄を弾いてやればイチコロで眠り込んじまう。
　変な連中にかまっているヒマはないので，どんどん奥のほうへ進んでいくと，ひときわデカイ木があったから，それがオークンバークだってすぐに分かった。でも，問題はそこからさ。木の実を取ろうと思って近づいたら，いきなりその木が動き出しやがった！　地面からにょきにょきと根っこが出てきて，オイラを殴りつけてくるんだよ。こんな話は聞いてねえって思ったけど，ゴールドベリーちゃんのためならしょうがないやね。そらーもう，必死に戦ったよ。
　それでもどうにかこうにか倒したら，そこら中に木の実が落ちてるのに気がついたんだ。戦っている時に落ちてたらしくてさ，だったら途中で木の実だけ拾って逃げちまえば良かったよ。もう，オイラのおバカさん。

　まあ，でもってゴールドベリーの所に行ったら，彼女すごい喜んでくれてね。へへへ。やっぱり苦労した甲斐があったってもんさ。彼女の手料理をご馳走になったり，今度はオイラの演奏をお礼に聞かせたりして，すっげえ楽しかったよ。へへへへへ。

　ただあれだな，なんで彼女は古森なんかにこもってるんだろ？　あそこは薄暗いし道は曲がりくねってるしで，行くたびに道に迷うんだよね。え，トム・ボンバディルっていうオヤジとつき合ってるらしいって？　え〜，マジ〜？　信じねえ，オイラ信じねえぞ，そんなこと。ぜったい間違いだよ，そんなの嘘に決まってらあ！

Illustration by めざし  ※クリックで続きを読む

　ゴールドベリーのこととなると，妙にムキになるエディーだが，たしかにあの不気味な古森に咲く一輪の花のようなゴールドベリーに，のぼせてしまうのも無理はないかもしれない。
　さて，ナズグルに絡んだ事件を追うことで，この中つ国に広がる凶事の一端を垣間見たエディー。いまだその全貌には気づかないにしても，何かが起こりつつあることに不安の色を隠しきれないようだ。果たして，彼の行く先には何が待っているのだろうか？