― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年5月31日掲載

 E3では新作ソフトのほかに,ハードウェアの出展も多数ある。毎年ユニークな形状の周辺機器を見て回るのも楽しみの一つなのだが,忙しくて十分な時間を取れないのが編集部やライター陣の悩みでもある。一方で,MicrosoftはWindows Vistaのリリースに向けて,Xbox 360ユーザーとの対戦も可能にしたシューティングゲーム「Shadowrun」を発表。このタイトルの発売で,ゲームデバイスとしてのマウスの存在がわずかに揺らぐ中,ちょっと気になる周辺機器も登場している。今回はそれらを紹介しよう。

 

E3 2006で見た最新マウス事情

 

「Live Anywhere」対応FPS「Shadowrun」でマウスの実力が問われる?

 

 E3 (Electronic Entertainment Expo)のようなイベントでは,我々取材班は血眼になって最新ゲームソフトの情報収集をしているため,どうしてもマウスのような周辺機器をじっくり見て回る時間がない。実際,LogitechやSaitekのようなハードウェア大手もE3にブースを出しているし,会場となったコンベンションセンター地階に当たるKentiaホールでは,レーシングカーのコックピットごと一つのゲームデバイスにしてしまったような大きなものから,見たこともない形状の入力装置まで多士済々。あまり馴染みのないメーカーによる新ハードウェアの展示も多いのである。
 グラフィックスカードやフィジックスカードなど注目度の高いハードウェアは別にして,やはりゲーマー的に最も気になるのは,マウスやキーボートといった入力デバイスだろう。今回のE3でも,LogitechのGシリーズやRazorのDiamondback Plasmaシリーズなどの新製品が登場したし,GDC06で初公開されたNovint Technologiesの「Novint Falcon」や,Sandio Technologiesの「Sandio 6DOF 3D Mouse」など,ユニークなデバイスも出展され,“デバイスファン”にとっても気になるE3だったに違いない。

Microsoftの新しいコンセプト「Live Anywhere」にのっとり,Windows VistaとXbox 360での対戦プレイが可能な「Shadowrun」。FPSにおける「マウスvs.ゲームパッド」論争に決着が見られるか?

 今年のE3で“マウス”的観点から着目しておきたいタイトルが,Microsoftが2007年早々のリリースを予定するマルチプレイ専用FPS「Shadowrun」である。同名のテーブルトークRPGを題材にしたもので,ヒューマンや,エルフ,ドワーフといったチームに分かれ,「Counter-Strike」のようにお金でショットガン,魔法,刀といった武器を購入/アップグレードしつつ,素早い展開のアクションが楽しめる。
 Shadowrunは最大プレイヤー数が16人と,PCのほかのFPSに比べるとこぢんまりとしたゲームになるようだが,一番の注目点は,Xbox 360との接続が可能になることだ。つまり,長い間ゲーマー達を賑わわせていた「FPSでの“マウスvs.ゲームパッド”」論争に決着をつけることになる可能性があるのだ。
 もっとも,ゲーム性などを考えると,両者は完全に同じ土俵にあるわけではない。Microsoftブースの係員に聞いたところ,Shadowrunでは「PCとXbox 360でゲーム体験に格差が生まれないよう,何度もテストを繰り返している」そうだ。現在のところはXbox 360では「Halo」スタイルのコントロールシステムを採用しており,ゲームパッド使用のXbox 360のほうに多少アドバンテージがあるようだが,スナイピングなどではマウスによる照準のほうが圧倒的に精密なはずで,今後もさまざまな調節が行われていくだろう。

PCと共に歩んできたマウスの歴史

 

 ここでちょっとマウスの歴史を振り返ってみよう。マウスの歴史は意外に古く,Stanford Research Center (スタンフォード・リサーチ・センター)で,Douglas Engelbart(ダグラス・エンゲルバート)氏の手によって発明された,1963年に遡る。ボールではなく,X軸用とY軸用の二つの車輪を持ったこのデバイスは,1968年にサンフランシスコで発表され,1970年にはエンゲルバート氏が特許も獲得している。この頃は“Bug”などとも呼ばれていたが,初期は手首側にコードがついていたことからネズミの姿を連想させ,いつしか“Mouse”の名称が主流になっていった。

これが後述する「R2 Mark II Gaming Mouse」。奇妙な形状だが,小型軽量なため,押しているのも感じないほどだ。マウスの進化型か,それともキワモノで終わるのか……

 デバイスの中にあるボールの動きを感知する仕組みのメカニカル・マウスが開発されたのは,1970年代に入ってからのことだ。そして,現在の一般的なマウスらしい形状に落ち着くのは,スイスのEPFL(Ecole Polytechnique Federale de Lausanne)が開発したもの以降となる。ちなみに,ここの研究者がスピンオフして設立したのが,現在のLogitechだ。
 入力デバイスとしてのマウスは,1983年になってAppleの「Lisa」に標準搭載されてから飛躍的に需要が高まる。付言すると,今我々の多くが使っている光学式マウスはその時点でとっくに開発済みだったが,実際にオプティカルセンサー技術の進歩と製造価格の低下の恩恵を受け始めたのは,1998年にMicrosoftが発売した「IntelliMouse Explorer」あたりからだろう。

 今やマウスホイールは当たり前となり,最近では,現在の光学式マウスよりさらに精密なレーザー・マウスも登場した。PCで人気のFPSやRTSなどにおいて,マウスはなくてはならないデバイスであり,3DアドベンチャーやMMORPGでも“マウスルック”の利便性は揺るぎないものになっている。
 ただ最近は,ゲームパッドでのゲーム性に調整を加えず,そのままPCに移植しているタイトルも増えており,マウスとキーボードでは遊びづらいものが少なくないのも事実だ。そんな不満が高まり,筆者のようなPCゲーマーとしては「何か,もっと新しいマウスを」という感じで,デバイスに対する欲望がまったく別の方向へ向かったり(?)もするわけである。

究極のゲーム用デバイスFlagpedalとは?

 

GWSystemsのブースフロアにあった「Flagpedal」。少し試してみた限りでは,ドラマーのように両足を動かしながらでは,疲れて長く遊べそうもない。ただ,一方の足で踏み続けるだけで連射できるように設定されているボタンがあり,少なくとも,人差し指の筋肉痛や腱鞘炎からは解放されそう

 ここで,やや無理やりではあるが,E3のKentiaホールで発見した,筆者の琴線に触れるややキワモノ的マウスを紹介しよう。「R2 Mark II Gaming Mouse」がそれだ。
 このマウスは,2005年のE3にも出展されていたと記憶しているが,その名称からも分かるように本作は先代に続く2代目。以前のようなモノトーンの野暮ったさはなくなり,七つあるボタンやグリップ,マウスの底など,あちらこちらから光を放つようになった。大げさに言えば「未知との遭遇」のマザーシップを彷彿させるフューチャリスティックな印象である。
 面白いのがその形で,このGaming Mouseは上から見ると円形になっており,近頃流行のエルゴノミックスなデザインとは正反対の方向に進んでいるようだ。しかし,たった70gと軽量なため,あまり操作に不都合は感じられない。薬指と小指を軸にし,そのほかの三つの指でマウスを操作している感じで,実際に使ってみると,あまり力を入れずに扱えるのが意外なほどだった。
 なんでも,このマウスを製作するGW Systemsは,John Hyde(ジョン・ハイド)氏らかつてIntelに在籍したハードウェアエンジニア達が独立して設立した会社であるらしい。なんと,その小さなマウスには,専用のCPUと32KBメモリチップが搭載されており,このサイズながら「1980年代前半のPCよりも高性能」なのだそうだ。1600dpiのオプティカル・マウスだが,グリップ部分で特許を取得しているなど,侮れない存在。

 しかし,もっと筆者を驚かせたのが,小さなブースのカーペットにさりげなく置いてあった四角いデバイス。2005年3月に,すでにGW Systemsが市場に投入していた新製品「Flagpedal」は,足で踏みつけるタイプのコントローラだ。全体としてはレーシングゲームのペダルのような感じで,片方に二つずつの突起物が付いた四角い形状をしている。
 この突起物の中にあるセンサも,R2 Mark II Gaming Mouseと同じように独自のマイクロプロセッサとメモリで制御されており,キーの割り当てやダブルクリックなどの細かい動きにも対応できるようだ。キーボードのShiftやAltキーとのコンボをもマクロで設定できるという。
 ブースでは「Unreal Tournament 2004」のデモを使ってFlagpedalを試すことができたが,踏みつけるだけで連打できるなど,手の負担を軽減するのに役立ちそうだ。ただし,デモで対戦相手になってくれた係員が本気になってかかってくる(!)ので,実際に一つ一つボタンやコンビネーションがどのような役割を担っているのかを確かめる十分な時間がなかったのが残念。椅子に座るのが絶対条件ではあるものの,二つ1組で60ドルと,なかなか良心的な価格と言えるだろう。
 このような,本気か冗談か分からないような発明品が出てくるのも,PCゲームの面白さの一つであるのは間違いない。開発者の一人は,「東京ゲームショウにも出展してみたい」と話していたが,果たして日本での需要はあるだろうか?

 

 


来週は,テレビドラマのネタを一つ。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。自宅に仕事場を持つ奥谷氏の昼食といえば,昨晩の残飯かインスタントラーメンが定番。在米期間も長くアメリカンな食生活と思いきや,「ハンバーガーにはもう飽きた。ポテトの油のニオイだけで吐き気がする」と言って憚らない。ところが最近,サンドイッチチェーンのSubwayにハマッてしまったらしい。氏に言わせるとヘルシーな感じが良いそうで,たかだか400円程度のために週に3度は車で10分ドライブしてまで買いに行くという。ガソリン代が高騰している現在,ある意味リッチな食生活であるような。


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