― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年6月7日掲載

 「キングコング」や「ダ・ヴィンチ・コード」,さらには「ドラゴンボール」や「ザ・シンプソンズ」など,昔から映画やアニメをライセンスしたゲームは少なくなく,本連載でも何度となく取り上げてきた。しかし今回は,ここ数年のブーム(?)である「テレビドラマやバラエティ番組のゲーム化」に焦点をあてて紹介してみたい。これまでは,大成功とはとても呼べないタイトルが目立っていたのだが,近頃は,元ネタに頼っただけのライセンスゲームから“ゲームとして面白いもの”への脱皮を意識した作品が増えているようだ。

 

テレビ番組からゲームへ

 

欧米で増えつつあるテレビ番組からのライセンス

 

アメリカ産のアニメとしてゲーム化されることの多い「ザ・シンプソンズ」から,2003年の「The Simpsons: Hit & Run」。最近では,ドラマやバラエティ番組からのゲーム化が目立つようになってきた

 映画がゲームのテーマとして使われるのは珍しいことではないが,これまで欧米では,テレビ番組がライセンスされることは少なかった。もちろん,THQが提携しているNickledeon(ニコロデオン)のような子供用の“カートゥーン”や,「クイズ$ミリオネア」をはじめとするクイズショーなどをライセンスしたゲームソフトは昔から作られていた。しかし,純粋なドラマやバラエティ番組を考えてみると,アメリカでのライセンスゲームが意外に少ないことに気づくはずだ。頭をいくら捻っても,「スタートレック」あたりしか浮かんでこないのではないだろうか。
 文化が異なるとはいえ,古くからさまざまなアニメがゲーム化され,さらに「風雲!たけし城」のようなバラエティ番組のゲームソフトまであった日本とは,ずいぶんと事情が違っていたようだ。

 ところが最近は,映画のネタも尽きてしまったのか,ついに人気テレビ番組からのコンテンツに頼り始めたようだ。先のE3(Electronic Entertainment Expo)で見たところ,「CSI:科学捜査班」のゲーム化でまずまずの成功を収めたUbisoft Entertainmentは,このシリーズの続編ならびに,ABCネットワークの人気ドラマ「Lost」のゲーム化を発表している。なぜABCを傘下に収めるDisneyの子会社Buena Vista Gamesで開発しないのか不思議だが,こちらは同じく人気ドラマの一つ「デスパレートな妻たち」でこの分野に参戦だ。ほかに気になったところでは,THQがイタリアンマフィアの悲哀を描いた「The Sopranos」の版権を取得するに至ったし,過激な内容がMTVで話題になっている「ジャックアスTV」のプレイステーション2版の制作発表がされている。

失敗することもある,テレビとゲームの“取り合わせ”

 

 本連載の第65回「ゲーム内広告がもたらす影響」などでも触れたが,アメリカでは人々のインターネットを楽しむ時間の増加に伴って,テレビを見る時間の減少が著しいという。にもかかわらず,これらテレビ出身のコンテンツをゲーム化するという流れは面白い現象といえるだろう。アクションゲームやアドベンチャーゲームにしやすい番組が選ばれがちに思えるが,ジャックアスといった“リアリティTV”と呼ばれるジャンルにまでライセンシーが波及しているのは注目すべきだ。ここからは,「ただのライセンスに甘んじない」ゲーム作りの姿勢も見て取れる。

開発中止となったFPS「Stargate SG-1: The Alliance」は,MGM系列のSFドラマ専用ケーブル局Sci-Fiチャンネルで放映されていたカルトなシリーズ。現在,復活を願うファンによって,嘆願の署名が集められているが……

 ただし,映画のライセンスゲームが,劇場公開と同時リリースされることの多いタイアップ商品であるのに対し,テレビ番組は人気を見極めてからゲーム化するために,開発能力や企画はもとより,そのコンテンツの鮮度や人気の持続力など,ゲームの販売実績に影響するファクターが多い。昆虫の踊り食いや高所での恐怖感を煽りながら参加者を競争させるリアリティTVショーをゲーム化した「Fear Factor Unleashed」は,Arush Entertainmentで開発中だったが,現在は頓挫してしまったし,SFドラマとしてカルト的な存在であるシリーズ「Stargate SG-1: The Alliance」も,パブリッシャのJoWooD Studiosからプロジェクトのキャンセルが発表されている。テレビ番組をそのままゲームにしてしまうというのは,まだ十分に旨味のあるビジネスにはなっていないようだ。
 それでは,今後リリースされる作品を含め,この「テレビ番組からゲームへ」のトレンドに乗った作品を以下に紹介してみよう。

 

 

 

発売日:2001年12月

発売元:Atari Europe

放送局:CBS (日本: TBS/BS-i)

 元になったのは,世界の辺境で生き残りをかけてサバイバルな生活を行うリアリティTVショーの大家だが,日本でも放映される直前の人気絶頂期,“テレビ番組ラインセンスゲームの祖”ともいえる本作「Survivor: The Interactive Game」が登場した。オーストラリアの砂漠地帯での火起こしをはじめとするさまざまなチャレンジを,番組と同じ13エピソードに分けて勝ち抜いていくものだったが,操作性からグラフィックスまで,その出来は悪かった。

発売日: 2003年3月

発売元: Codemasters

放送局: FOX (日本: FOXJAPAN)

 アメリカ版「スター誕生」。全米から集まる10万人以上の候補者の中から,視聴者による電話投票によって究極のアイドルを探すオーディション番組だ。Codemastersによるゲーム版は,音ゲーと育成シミュレーションを合体させたようなゲームシステムで,自分のキャラクターをうまく操作してコメンテーター3羽ガラスに自分の実力を納得させるのが目的だ。背景が異なるだけでいつも同じゲームであるため,すぐに飽きてしまうという難点があった。

発売日: 2003年3月

発売元: Ubisoft Entertainment

放送局: CBS (日本: WOWOW)

 「CSI:科学捜査班」として日本でも知られる,最新の科学技術を使って複雑な事件を解決していくという刑事ものドラマだ。ゲームは綿棒やUV照明装置を駆使して現場検証を行い,押収した証拠品から謎を解き明かしていくアドベンチャーというストレートなゲームに仕上がっていた。並クラスの作品だがセールスは悪くないようで,今年5月には4作目がリリースされており,さらに今回のE3ではニューヨークを舞台にする新作の発表もあった。

発売日: 2005年5月

発売元: Vivendi Games

放送局: NBC (日本: BS2,CS LaLaTV,スーパーチャンネル)

 救急救命室を舞台に,医師や看護士達の葛藤を描いた医療ドラマ。リアリティあふれる描写で,1990年代からアメリカでゴールデンタイムの視聴率トップを維持してきた。実に13年に及ぶ長寿番組でもある。ゲームではプレイヤーがインターンとして病院にやってきた医学生となり,簡単な治療からやがては難しい救命処置までを行う。100人に及ぶキャラクターのスキルを利用するストラテジー風RPGとして,それなりの評価を受けた。

発売日: 2006年第4四半期 (予定)

販売元: Buena Vista Games

放送局: ABC (日本: BS2)

 ご近所同士の人妻達のハレンチな行動を赤裸々に描いた「Desperate Housewives」(邦題: デスパレートな妻たち)は,現在アメリカで評価の高いドラマシリーズの一つで,当然のごとくゲーム化が決定した。面白いのは,これが「The Sims 2」風のシミュレーションゲームとなることで,プレイヤーは新しく近所に引っ越してきた新人として,隣人同士の付き合いを通して彼らの秘密や欲望を暴き出していくという。かなり本格的なゲームになりそうだ。

発売日: 2006年中 (予定)

販売元: THQ

放送局: HBO (日本での放映は未定)

 ニュージャージーに住むマフィア一家をコミカルかつリアルに描き上げた「The Sopranos」は,有料ケーブルチャンネルHBOでの放映ながら900万人という視聴者に支えられた大人気のシリーズだ。ゲームは一家の重要メンバーの一人“ビッグ・プシー”の隠し子となって,ドンのトニー・ソプラノへの忠誠を示していくというアクションアドベンチャー。Xbox 360とプレイステーション2でのリリースが予定されているが,PC版については未定。

 

 


次回は,珍妙なストラテジーゲーム特集。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏の住むサンフランシスコは国際色豊かな都市だけあって,彼の二人の子供が通う小学校にも,イギリス,ブラジル,ウクライナ,オランダ,メキシコなどワールドカップ出場国の出身者がたくさんいるそうだ。先日も,父親達が集まってサッカー談義に花を咲かせたのだが,話題の中心は「過去3回の大会すべて開催地にまで出向いているツワモノ」のこと。その人物,すでに家族を置き去りにドイツに発ってしまったとかで,奥谷氏らほかのお父さん達にうらやましがられることしきりだった。編集部としては,奥谷氏が,その人物を見習おう,などという気持ちを起こさないことを願うばかりだ。


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