― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第15回:現在革命未だ成功せず(中国国民党)

 第二次世界大戦時の世界を再現し,さまざまな歴史的可能性に挑戦できるストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,壮大な割にうらやましくない夢を描く本連載,今回はここ,中国は南京からお届けします。
 辛亥革命(1911年)以降の中国では,国民国家を作り出すための悪戦苦闘が続きました。袁世凱の帝政が潰え,軍閥混戦の時代を経たのち,孫文と国民党による統一事業が前進していきますが,この間,近代的な意味での民族ブルジョワジーも労働者階級も,まさに成立途上にあったのです。
 二度の北伐を経て政権は一応の統一を見ますが,国民党と共産党は背後に支持層の階級対立を抱えたまま内戦を続け,地方の有力軍閥は国民党軍に組み込まれたあとでも,ときに結束して蒋介石の独裁に対抗し,全国的な内戦に発展したことさえありました(1929〜30年,蒋桂戦争・中原大戦・護党救国運動)。
 国民党内部とて一枚岩ではありません。容共/反共をめぐる内部対立は,1927年の上海クーデター(蒋介石が共産党員を襲撃,排除)をきっかけに政府を武漢(左派,汪精衛=汪兆銘)と南昌(後に南京。右派,蒋介石)に分裂させました。前述の中原大戦は,武漢政府と有力軍閥が手を結んで,蒋介石の打倒を目指す戦いとなったのです。この戦いは,主として東北軍閥の張学良の参入により蒋介石の勝利に終わりますが,党内の左右対立,蒋介石の独裁への抵抗は,その後も長く尾を引きます。
 そして,汪精衛(汪兆銘)の名が象徴的に示すとおり,これらに続く時期において,日本が中国に対して行った一連の帝国主義的策動,つまり満州の奪取と華北分離工作,汪兆銘政権工作,対伯工作(山西軍閥の閻錫山の抱き込み工作)などは,まさしくこうした中国の分裂状態につけ込んだものだったのです。

 ここでクエスチョンです。国民政府時代は,蒋介石の権力とパーソナリティを核にして,中国における政治権力のあり方が,大きな犠牲を伴いつつ模索された時期でもありました。それは史実において,有力者同士のヘゲモニー争いに留まらず,階級対立や地方利害の対立,経済的,倫理的価値観の変動を基層に持つだけに,容易ならざる混迷を続けることとなったのです。辛亥革命を“失敗した市民革命”とする見方にはさまざまな批判があるにしても,もし中国が,対立と混乱を早期に止揚し,強力な国民党主導体制を確立していたならば,そこにはどのような国家が出現したのでしょうか?

 

日本が覇権を意図して進出してくるのは,実はそれほど怖くはない。世の中にはいつだって「上には上がいる」のである

 

史実より不幸な結末は避けられる……かな?

基本ICは52だが,資源不足に国内政情不安で実質32。そして見事なくらいスカスカな陸軍技術開発状況。ドクトリンも真っ白

 さて,今回は中国国民党である。史実においては日本軍を正面から迎え撃って苦戦を強いられ,その後は国共内戦で共産党に敗北,まことに不運な正統政権,国民党である。
 現実がどうであったかはともかく,「ハーツ オブ アイアンII」では日本軍を追い散らしている姿も見ないではない。国民党だって,きっと頑張ればできる子のはずなのだ。
 では何をどう頑張ればよいのだろうか? まずは日本に対する「完全勝利」を目指して国民党で始めてみよう。
 なお,はじめにお断りしておきたいが,この連載は第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていない。ときに過激な表現が出てくることもあるが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものである。あらかじめご了承いただきたい。

 まずは定番の技術力チェックなど。ICはそこそこだが,資源と工場のバランスが悪く,額面どおりのICは発揮されない。とはいえ研究ラインの数は修正前ICで計算するため,開始時に3本確保されているのは悪くない水準だ。
 だが,開発チームは悲惨である。スキル2や3が乱舞し,5が最高。歩兵の開発に向いた開発チームがいるにはいるが,スキル2。しかもこれが重砲関係の最適チームでもあるので,非常に痛々しい限りである。
 軍備もこれまた悲惨である。民兵同然の1917年式歩兵が国民党軍のスタンダードである。重砲の研究はまったく進んでおらず,陸軍ドクトリンもゼロだ。当然だが装甲の研究もゼロ。飛行機? それは新しい中華料理ですか?
 とはいえ,ないない尽くしの国家を何とかやりくりするのもこのゲームの楽しみだ。これまでだって,いくらでもないない尽くしの国はあったではないか。
 幸いと言うべきか,政府スタッフには「決定的に使えない」というほどの人物はいない。悪影響を与える大臣は存在するが,首のすげ替えが利くから問題ない。国家のトップがマイナス影響をもったルクセンブルクや南アフリカに比べれば,遥かにマシだ。

 さて,ラプラタ戦争のアルゼンチンもそうだったが,何もないということは,何でもできるということだ。国民党には日本やイギリスと違って電撃戦ドクトリンを選ぶ自由すらあるのだ。
 また,当面の敵が日本軍というのもありがたい。日本軍は戦車をほとんど使ってこないので,機甲戦術への対策は当面無視してよい。要は優秀な歩兵とどう渡り合うかが鍵なのであって,そうなれば歩兵,重砲,陸軍ドクトリンの研究を中心として,産業関係を固めていけばよいということになる。こまめな情報関係技術のアップグレードを怠らなければ,これでそうそう歩兵中心の陸軍に負けることはない。
 もちろん,理想は日本軍を機甲部隊で迎え撃つことだが,軽戦車の研究すら終わっていない国で,さらに機甲関係の研究チームが極端に劣っているとなれば,夢の見すぎということになろう。

 ふむ,手順が見えてくれば日本軍恐るるに足らず。研究ラインに余裕が出てきたら海軍ドクトリンと艦艇の研究をして,国民党艦隊で連合艦隊を正面撃破,東京に青天白日旗を翻そうではないか!

ROUND1:中国共産党 張学良の愛国的姿勢

 意気込みはともかく,ゲームを始めるといきなり中国共産党との戦争である。
 中国共産党は優れた歩兵を有し,指揮統制値も高い。同数では100%負け,2倍でも危険なシチュエーションはいくらでもある。守っては強度3の要塞に山岳と,まともにやっている限り国民党に勝ち目はない。
 一方,かつて中国共産党をプレイした経験からいえば,中国共産党には決定的な弱点がある――序盤から歩兵の数を揃えるような戦術には出にくいのだ。中国共産党は,その突破力とは裏腹に,突破後の戦線を維持する力に欠けているのである。
 そういう弱点が分かっている以上,問題はない。まずは中国共産党に好き放題領土を拡張させる。ただし,敵の本拠地たる延安の隣接地だけは,決死の覚悟でキープする。そのうち調子に乗って前進,前進,前進進した革命戦士達は,自分たちに維持できる以上の領土を確保するようになり,延安に兵隊がいない,重要なプロヴィンスの防衛に1個師団しかいないといった,決定的なチャンスが発生する。
 ここまで待てばあとは料理するだけ,延安に無血入城すると,周囲のプロヴィンスもここぞとばかりに温存しておいた火力で粉砕し,共産党の保持するVPプロヴィンス(一つも持っていない状態で首都が陥落すると,その国を併合できる)は残り一つ。リーチ,いやさ立直である。
 ……と,そこで西安事件である。そのタイミングたるや,ヒストリカルというか芸術的ですらある。張学良よ,気持ちは分かるんだけど,なぜあと3週間待てなかったか……ここで国共合作して抗日統一戦線を作らないことには,対日戦で地獄を見るのは必至。耐えがたきを耐えて統一戦線を結成する。中国共産党とは「現状復帰で和平」が結ばれ,蒋介石率いる精鋭部隊はこの内戦のなか,一発の銃弾も撃たないまま,延安を後にした。

 

西安事件。マップを見てもらえば分かるとおり,あと数週で中共併合の条件を満たせるところだった。実に,実にヒストリカル
ROUND2:日本 互いに残弾を数えつつ

この状況で対日戦争スタート。日本は実効IC120〜150,こちらは45……労働力では負けないぞ!

 愛国心あふれる抗日統一戦線を作ったところで,一息入れて陸軍の再編と,徹底的な改革に挑む。陸軍ドクトリンをソ連式にするかドイツ式にするかはけっこう悩む。どちらでも最初の一手から指揮統制値が伸びるのだが,ドイツ式はその後も数年内に素晴らしい速度で上昇する。一方ソ連式は,同じ開発時期でみれば,いったん指揮統制が落ちたあと,もとに戻せる程度。歩兵の生産ICが減るので,まったく意味がないわけではないが,少々厳しい。
 しかし,それでも今回はソ連式を採用した。国民党最優秀技術開発スタッフは,ソ連式軍事ドクトリンの研究に熟達しているためである。これも軍事顧問ボロディンの功績であろうか? 無理にドイツ式に持っていくのも一興だが,研究が遅れる=恩恵が遅れるというわけで,早い時期に高い指揮統制を確保できるのが魅力のドイツ式を,選ぶ意味がなくなってしまう。

 

南京が危なかった一瞬。でもここまで引き寄せれば退路を断つのも簡単。いえ,強がりなんかじゃありませんよ? ……多分

 そうこうするうちに日本の宣戦布告。歩兵の研究と改良は追いついているが,重砲はいまだプレ1936年式,しかも生産すら始められていない。これはもう生産後にアップグレードでいくしかないと割り切って,旧式重砲の量産を開始する。軍事態勢が徴兵制に著しく偏っているため,量産効果は高いが,アップグレードには時間がかかってしまうのだが……。
 黄河を使って防衛ラインを築き,民兵を主体とした海岸防衛線で日本軍の上陸を阻む。この時期の上陸作戦なら,民兵や守備隊で十分以上に守りきれる。
 黄河正面で日本軍とがっぷり四つに組んで,猛攻を退け続ける。途中で数度日本軍の上陸を許すが,フィンランドで赤軍の圧力に耐えるのに比べれば格段に楽だ。引っ張り出して退路を断っての包囲殲滅,水際で早期撃退,わざと渡河を許し,渡河後に消耗した部隊を狙い打つなどなど,消耗戦のイロハのようなことを繰り返しているうち,日本軍の勢いが鈍りはじめた。
 しめしめ……と思っていると,そこに異変が。南の広西軍閥が日本軍の大上陸を許し,領土が分断され始めている。よもや南から上陸を許すなんて思ってなかったので,南側には国民党軍はほとんどいない。これが世に言う,日本軍の逆上陸か!

 

江南に上陸されピンチに。この後,雲南方向から巻き込むような形で殲滅していく。この頃すでに歩兵の質は国民党のほうが上

 

ついに研究ラインが5ラインに。こうなってくるとかなり楽。3ライン以下だと,どうしても暗号関係の技術がおろそかになりがちだが,戦闘において情報技術は極めて重要

日本陸軍94個,実効59個。国民党は実効63個。質と量で日本陸軍を上回った瞬間。でも国民党のほうが守るべき範囲は広いので,これでも圧倒的優位ではない

 慌てて黄河沿いの軍隊や海岸防衛隊から数部隊を引き抜いて,江南平定軍とする。その後も生産した部隊を江南に回し続けているうちに,広西軍閥は日本に併合されたが,日本軍は東シナ海に追い落とされた。この頃になると重砲付きの部隊が安定的に生産されていたため,実際それほど難しい戦線ではなかった。
 南方を平定した後,再び黄河沿岸の戦争に挑む。攻められにくい地形ということは,攻めにくい地形ということでもある。いまや攻守入れ替わった国民党にとって,黄河は守りの壁から,攻勢を阻む障害地形と化してしまった。
 しかし押したり引いたりするうち,日本軍が西安近隣の山地を手薄にする瞬間が発生,すかさずそこに大攻勢を掛け,黄河に死屍累々たる光景を生じさせつつ確保した。ハーツ オブ アイアンIIにおいて山地は攻めるに難い土地だが,いったん守りを固めてしまえば,これほど頼りになる地形もないのだ。

 

ついに黄河渡河に成功。良くも悪くも,黄河は日中戦争における生命線の一つになる

 

和平ですって? ご冗談を。空母と戦艦で艦隊作って東京にお邪魔しますのでお待ちくださいね……と,この頃は思ってました

 黄河渡河に成功した後は,もはやワンサイドゲームだった。国民党軍は歩兵と火砲の圧力で山西軍閥領を回復しつつ北上,蒙古国を凱触一蹴併合すると,満州に突入。この段階で陸軍の数は国民党軍が日本軍を上回っており,白と青の津波は満州を併合したあと,朝鮮半島もあっさり制圧した。ときに1941年。日本はなぜかこんな劣悪な戦況にもかかわらず,アメリカに宣戦布告とかしていたが,まぁ気にする必要もあるまい。真珠湾奇襲の報に大きく安堵したという史実の蒋介石が聞いたら,憤死しかねない余裕である。

 

最初で最後のレンドリース。自力で頑張っている人に,アメリカは冷たいです 満州を失い,朝鮮半島もあやういなか,日本は真珠湾に奇襲攻撃。いや,普通どうだろう

 

 時を同じくしてアメリカから同盟加盟を打診されたので,喜んでイエスと回答する。でもよく見たら,アメリカは連合国に入っていない! というわけで今回の世界大戦「連合国はアメリカ抜き」が確定した。国民党的には知ったことではないのだが,ヨーロッパは大丈夫なのだろうか?
 やがて,ヴィシーフランス領の南ベトナムが日本領になるが,それに乗じて軽戦車2個師団を先頭にジャングルを突破,資源地帯を美味しくいただいた。国民党ではとにかく資源が足りないので,南ベトナムの希少資源は非常にありがたい。

 

アメリカからの同盟打診。よくよく考えれば,これはノーだったかも。結果として連合国に入るチャンスが消えてしまうのである このアメリカ艦隊は,国民党の軍港に寄港し,多大な物資と石油を奪って去っていきました。日本の空母くらい沈めてから帰ってよう

 

ROUND3:ソ連 北狄に対する伝統的政策

ちょっと……それってどうなのよ。しばらく絶句。こちらの有効ICは137,ソ連は倍以上。条件的には対日戦開始のときと似ているとはいえ……

 さて,中国大陸も事実上制覇し,あとは中国共産党でも包囲してから適当なときに戦線布告しようと思いつつ,いやいや,将来に向けて国民党海軍も作らなきゃなぁと,一人で戦後世界に没入していたとき,とんでもないニュースが飛び込んだ。

「ろくでなしのソ連が国民党に宣戦布告しました」

 ねえねえ,首都南京に日本軍を寄せつけることなく戦い,普段なら秒速で併合される山西軍閥まで生き残っちゃうような善戦をしたのに,この仕打ちですか。新手のいじめですかこれ。
 えー,少々言葉遣いの荒い感想文はともあれ,事態に対応しなくてはならない。相手はソ連,つまりドイツに勝ってしまうような大国である。翻って,中国国民党は修正後IC120程度の,やや大国とは言い難い国家。バランスからいうと日本対アメリカくらいの勢力不均衡がある。唯一の希望は,我らが敵,ナチスドイツがソ連に宣戦布告してくれることだが,なんだか望み薄そうで怖い。
 勝負の行方をドイツ頼みにするのはよいとしても,ひとたび赤い津波に飲み込まれたら,その後でドイツが来ようが何が来ようが変わらない。なんとしても,赤軍の物量を受け止めねばならない。
 じっと考えてみる。幸い(プレイヤーの趣味で)既存部隊はすべて最新式の歩兵にアップグレードしてある。末端では1917年式歩兵が混じる赤軍に,質で負けたりはしない。また,軍の体制も徴兵制から常備軍に移行させておいたので,指揮統制値でもソ連軍には負けない。人海戦術ドクトリンを選びつつ常備軍というのも実に愚かしい選択だが,世の中,何がどう役立つか分からないものである。
 問題は戦車である。仮想敵国として日本しか想定していなかったので,対戦車砲などの開発は皆無。ここにT34の大部隊が来れば,いくら歩兵で勝っていても,まったく無意味だ。
 ふむ,ならばまずは国民党軍らしく,宿敵に戦法を習うとしよう。朝鮮半島と満州を放棄,守備隊と民兵を結集させ,旧満州国境付近の山地を使って防衛線を張る。戦車は山地で著しく効率を下げるので,戦車の突破力を削ぐにはこれが一番良い。
 しかし全面を山地で守れているわけでもない。中には丘陵地帯もあって,ここを戦車で突かれたら,多分終わる。
 そこで要塞化である。毛沢東が延安に穴を掘ったように,蒋介石は旧満州国境に穴を掘るのだ。要塞レベルが5を超えれば,めったなことで突破される心配はなくなる。10までいけば,まずもって難攻不落だ。

 

旧満州国境付近で弧の字を描いている防衛ラインには,要塞が強度10で設置されている。そのままカーブを描いてモンゴル北部に要塞線は続く。マジノ線がなんぼのもんじゃい 総統閣下の優雅な日々。最後までドイツが対ソ宣戦布告することはありませんでしたとさ。でも共産勢力打倒というヒトラーの目的は果たされているからずるいのである

 

 かくして「万里の長城(中華民国30年製)」作戦が発令された。うずたかく積み上げられた守備隊を嫌い,満州と朝鮮の占領を優先したソ連軍が改めて満州から突破を図ろうとしたとき,そこには既に最初の要塞が構築されていたのである。
 一方,守り続けるだけでは,守備は不完全だ。限定攻勢を交えてこそ,守りは威力を発揮するのである。国民党軍は全力で山岳歩兵の研究を行い,最新式の山岳歩兵でモンゴルに侵入,ウランバートルを陥落させる。モンゴル北部は「万里の長城(中華民国30年製)」を延長するように山脈が続いており,ここで赤軍を食い止めれば戦車恐怖症に陥る心配はない。
 また北西部では予想どおり,自動車化されたソ連歩兵が山地と丘陵に足をとられ,むしろ国民党軍優勢の展開となっていた。中央アジアの平原まで突破できてしまうと戦車恐怖症が始まるが,この付近の山地でゲリラ戦を繰り返す限りにおいて,年単位で守りきれるのは疑いない。
 最大の問題は,同盟国アメリカだった。アメリカは日本を戦略爆撃する拠点として中国本土の飛行場を利用し,また機動部隊の寄港地として軍港も利用した。その補給物資と石油を支払うのは,我が国民党である。アメリカはちょくちょく各種資源を送ってくれるものの,まったくもって足りない。赤軍の圧力に耐え得る数を保ちつつ,資源切れによるIC低減を回避できるかどうか。それが勝負の鍵となってきた。
 ここで威力を発揮したのが,土地転がし式バブル経済である。理屈は簡単。まず,生産量をぎりぎりまで絞るか,一時的に部隊の生産をカットするかして,全力で物資を生産する。生産した物資が10000〜15000程度になったら,包括的交渉で物資5000単位と,各種資源をバーターする。これで維持したICで物資を生産し,その物資でまた資源を買うのである。
 まぁこれはよくある「第三世界からの搾取」の構造で,今回こちらは搾取される側を演じてしまっているわけだが,背に腹はかえられない。ロシア人に負けるわけにはいかないのだ。

 

国民党軍が遅れた軍隊だなんて誰にも言わせない。もはや世界有数の質と量を誇る一大陸軍国である……でも,戦車と飛行機と船の話題はカンベン アメリカからの支援が一時的に途絶えた瞬間。資源が足りないというか,抜本的に計算が合ってない。ベトナムからの資源で少しは楽になっているのだが
ROUND4:アメリカ 世界有数のエンターテイナー

不思議なオブジェ。はじめはこれくらい小さかったのです

 大要塞に頼って満州方面を支えつつ,山岳歩兵と対戦車砲を使ってヒマラヤ北方で攻勢に出た国民党。とくにヒマラヤ側での攻勢は1年で1プロヴィンス前進する程度という,凄惨かつ遅々としたものだったが,それでも攻勢ラインは進み続けた。国民党は,ソ連相手に陸戦で終始優位を維持したのである。まあ土俵が世界有数の山岳地帯で,こっちは山で戦うことしか考えていない部隊編成なのだから,当然といえば当然だが。
 このまま中央アジアまで突破できるか? とタクラマカン砂漠を遥かに望みつつ次の作戦を考えていると,カラフトのほうに異様なオブジェを発見した。

 

オブジェはついに,天まで届きました オブジェ作成のため,中ソ国境は静かに

 

 え,ええとですね。ここで東アジアに大兵力を送るアメリカもどうかと思うんですが,それに付き合うソ連もまことにアレな感じではないかと。全部で300個師団程度の陸軍,そのうち3分の1近くはドイツ国境に貼り付けているだろうから,自由になるのは200個師団程度のはず。そのほとんどをカラフトに送るとは……。
 ここでプレイヤーは重大な決断を迫られた。きっとアメリカはじきに,送った百数十個師団をカラフトで無駄に全滅させる。これは過去の経験からいって間違いない。だが今少なくともあの大軍は,ソビエトの大軍を釘付けにしている。
 国民党は,ここにつけこむべきではないのか? 確かに強度10の要塞に頼っていれば,ゲーム終了までソ連に南京を蹂躙されることはあるまい。だが,「守りとは,適切な攻勢があって活きる」のではなかったか! 頑張れ,決断しろ自分!
 たかがゲームとはいえ,ここまでやってきた戦略をある意味全部否定し,要塞線から飛び出して攻勢に出るには勇気がいる。でもまぁ,こっちにはセーブという神の業もあることだし,面白ければやってしまえ!で突進開始。これ,リアルで同じ状況になったら,普通は進軍できないと思います。
 まあ,リアルで同じ状況になんて,そもそもならないだろうという話はさておき。結果から言うと,この攻勢は大正解。唯一の自動車化部隊である司令部(石油は相変わらずアメリカが根こそぎ使ってしまうので,国民党軍の部隊はすべて石油消費0。いちどシャレで作った戦車もスクラップにした。また1945年式歩兵には石油消費があるので,これも採用せず。……貧乏はつらい)でシベリアを大突破,極東ソビエト軍をまとめて補給切れに追い込む。

 

中国共産党もついにアメリカが盟主の対日対ソ対独軍事同盟入り。考えてみれば,これって世界の7割くらいを敵に回した同盟だ

 これによって全軍の半数以上を無力化されたソビエト軍は,極東では米中連合軍に圧倒され,中央アジアでは無限に湧き出る国民党軍の前に,はずるずると後退を続けるのみだった。
 かくしてソ連のほとんどを国民党が支配したところでタイムアップ。やりすぎるとドイツがソ連に宣戦布告して,今度はドイツと血みどろの戦いになりそうだったので,最後のほうでちょっと攻勢を緩めたのは,革命党の秘密にしておこう。

 

……蒋介石がいないのは気のせいですかね。いなくても,ゲーム上はそんなに気にならないけど,いいの? 世界最大の陸軍,国民党軍。軍の質としても他国に引けをとらない。輸送能力的に戦線の拡大には困難が伴うが

 

 今回の国民党プレイは,とにかく疲れた。なにしろ1936年から1947年まで,常にどこかの国と戦い続けていた。途中でやることがなくなって手持ち無沙汰,といった状況に陥らないのはよいが,それはそうとしていろいろな意味でやりがいがありすぎだ。まあ,戦闘であれこれ考えるのが何より好き,という人には強くお勧めできる(展開になることもある)国だと思う。

 

いろいろ独立させたら,いろいろ不思議な属国ができた。ソ連崩壊が史実よりもずっと早まった世界の様子 思ったより大きくなった中国。ポテンシャルの高い勢力なのは疑いない。白い土地は国民党の属国「シベリア国」
■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
もっぱらストラテジーゲームの記事で活躍する,ゲームライター。連載「誰もがRPGを愛していた」で原稿を書く機会があったら,「Wizardry2:ダイアモンドの騎士」を熱く語りたかったという。そういえば以前,まことにもって氏独特のアプローチで,その魅力を語るのを聞いた覚えがあるが,そういうことはぜひ,早めに言ってください。連載終わっちゃったし!
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

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アルバート・C・ウェデマイヤー著。欧州方面兵站計画の担当から中国戦線米軍総司令官に転じた軍人による回想録。戦後体制まで見通した分析が見どころ。