― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第14回:ブラジルから来た……誰?(ラプラタ戦争)

 第二次世界大戦にそれほど関与しなかった国と地域も含め,当時の世界情勢をまるごとシミュレートしたストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,「いや,こんなこと起きてないし。」といった展開を目指す本連載,今回はここ,南アメリカからお届けします。
 南アメリカと第二次世界大戦の関わりといえば,ウルグアイのモンテビデオ港に逃げ込んだドイツの通商破壊艦アドミラル・グラフ・シュペーの最期や,連合国側に立って参戦したブラジル,ナチ高官アドルフ・アイヒマンの潜伏先として語られるアルゼンチンといったところでしょうか。
 また,例えばドイツ系移民は歴史的に,南米におけるアルゼンチンとブラジルの対立でも,しばしば独自の役割を果たしてきました。1826年から27年にかけて,独立間もないブラジルがアルゼンチンと戦ったラプラタ戦争に,参加した傭兵部隊にも,多くのドイツ人がいたのです。
 その史実に範をとってか,あるいは戦後政治にもさまざまに影響したアルゼンチンの親独姿勢を勘案してか,ハーツ オブ アイアンIIにはアルゼンチン(枢軸) vs. ブラジル(連合)の仮想戦「ラプラタ戦争」シナリオが用意されています。
 キャンペーンシナリオとは連結されていないので,そもそも第二次世界大戦全体の文脈と関連づけて語るべきではありませんが,南米全域を舞台に連合軍/枢軸軍タイプの両国の軍がぶつかったとき,どのような結末が待っているのでしょうか?

 なおこの連載は,第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものです。あらかじめご了承下さい。

 


両国の選択時画面。これ以外の南米小国家が選べたら,さらに面白かったかもしれないが,この地域で最も興味深い対立なのは確かだろう

 

少々小振りな第二次世界大戦

 シナリオ「ラプラタ戦争」は,純然たる架空戦である。南米を舞台に,アメリカの支援を受けたブラジルと,ドイツの支援を受けたアルゼンチンが戦うのが骨子だが,この戦争は次第に南米大陸の諸国家を二分(+傍観するウルグアイ)する大戦争へと発展していく。
 付属シナリオの中でもやや特徴的な作りになっていて,生産や技術開発,外交などには一切省略なし。そしてプレイ期間は1942年8月から1949年12月と非常に長い。登場する国家と,使用するマップが南米に限定されているだけなので,グランドキャンペーンをミニサイズで楽しむという感じだ。
 それはそうとしてこの戦争,山ありジャングルあり大河ありの戦場で,IC20〜40程度(最終的に大同盟を組んでいっても,1陣営でIC60程度)の中小国がポカポカ殴りあうという構図だ。ドイツとソ連の戦争に比べれば子供の喧嘩みたいな規模だが,そこにはどのような楽しみが隠されているのだろうか? さっそく確認してみよう。

アルゼンチンでぷち電撃戦……のようなものを

ブエノス・アイレスに配置された陸軍はすぐにブラジル国境へと吶喊(とっかん)できる。アルゼンチンでは開幕ダッシュがとても大事なので,弱気にならないようにしたいところ

 せっかくの仮想戦ということもあり,両国のうち,より複雑な立場に違いない枢軸アルゼンチンを選んでみる。まずは国情をざっと視察しよう。まぁなんというか,ぶっちゃけ何もない。技術開発状況を見ても,1936年か1938年でこれならうなずけるが,1942年でこれは……とくに,産業関係が事実上壊滅状態なのはいかがなものか。
 その一方で,何もないからこそ発揮されるメリットもある。その最たるものが陸軍ドクトリンである。なにしろ何一つ研究されていないので,互いに排他性を持つドクトリン・ルートのどれを使うか,自分でフルに選択できるのである。悲しいくらい後ろ向きだが,実に素晴らしいと,日記には書いておこう。
 さて,こうなれば方針も定まってくる。せっかくドイツの支援で戦うのだから,アルゼンチン大戦車軍団を作って電撃戦である! 電撃戦の主要な要素の一つである空軍支援は,予算の都合上絶望的だが,戦車と歩兵で“電撃戦のようなもの”くらいは,させてもらえるのではなかろうか。

 

スタッフはかなり有能なのだが,技術開発状況は劣悪。産業関係の研究が一つしか完了してないって,どういうこと?

 

 それはともかく,シナリオ開始時点ですでにブラジルとは戦争状態にあるので,急いで国境線に軍隊を動かす。戦線の補強がすぐに必要になるだろうから,民兵の生産も怠らない。……のっけから電撃戦とずいぶん遠いところで話が始まっているが,なあに本家ドイツだって1944年頃になれば,世界最高の戦車で戦線を突破した後ろに学徒兵が続いたのだ。アルゼンチンは時代を先取りしただけのことである。

 

ドイツからの定期支援。ドイツ降伏イベントが起きてもなぜか持続する。「すごい!」というコメントがむしろすごい 南アメリカで米独の代理戦争。Uボート3隻はなかなか便利だが,この比ではない海軍がブラジルには到着していたりする

 

ドイツから歩兵2個師団が到着。同じ頃,ブラジルにも歩兵2個師団がアメリカから到着していたりする

 そうこうしていると,ドイツからドイツ兵が増援として送られてきた! こんなことなら民兵なんて作りませんでたよ,マイン・フューラー。たぶんブラジルにもアメリカからレンドリースがどんどん到着しているのだろうなあと思うと,暗たんたる気持ちになるが,とりあえずは順調に戦線を拡大し,大西洋岸を伝ってサンパウロも目前というところまで進出する。これぞ電撃戦である。
 だが案の定というべきか,そのあたりで攻勢限界がやってきた。海岸沿いに軍を前進させるには,戦車(ドイツから賜った1個師団)が通過したあとのプロヴィンスを守り抜ける歩兵が必要だ。当然,そうした要所ではドイツ兵が守りにつくのだが,戦線が伸びるにつれ,ちらほらと民兵さん達が混じり始める。もう1プロヴィンス伸びればと思う半面,その一つを伸ばすと民兵さん達でブラジル軍(もといブラジルに派遣されたアメリカ軍)の攻撃を受け止めることになる。大変よろしくない。

 

ボリビアの枢軸入り。ボリビアはなんだかんだでアルゼンチンの攻勢を支えてくれる ペルーが枢軸に。これによってエクアドルが連合に加盟する。が,あまりこれが全体に影響を与えることはない

 

 非常にミニマムな形で末期ドイツのジレンマと同種の問題を抱えていると,今度は国際情勢が急転する。ボリビアと同盟しませんかという打診にイエスと言ったら,チリが連合に加盟してアルゼンチンに攻撃を始めたのだ。

 さて,ここで状況を確認してみる。北方にはブラジル軍という名のアメリカ軍,その数「たくさん」。ご丁寧にアマゾン川を使った防衛ラインまで張っている。
 東方には山岳国家チリとチリ歩兵。チリ歩兵はさほど問題ではないが,アンデス山脈は議論の余地なく大問題である。
 同盟国ボリビアは素晴らしい勢いでブラジルとチリのサンドイッチにされている最中。なにそのイタリアみたいな国。
 で,ここで我が生産ラインを振り返ってみると,ブラジルを速度で圧倒するための戦車をほそぼそと量産中。当然だが,中戦車なんて立派なものは開発すら済んでおらず,数年前にフランスでドイツ軍にこてんぱんにされた類の軽戦車を作っている。
 まぁ軽戦車とはいえ戦車は戦車,歩兵相手には十分戦える。一番の問題は撃たれ弱いことと,山岳地帯に連れて行った場合にまるで力を発揮できなくなることだけ。つまりこれからのアルゼンチンには,

 

  • ブラジルに増え続けるアメリカ歩兵の波に耐えつつ
  • 山岳歩兵を研究生産してチリを叩き,側面の憂いを取り除いたうえ
  • 軽戦車と山岳歩兵を使って河川が縦横に走るアマゾンを突破

 

 することが要求される。なんというか,挑戦しがい満点だ。
 唯一の希望は,ドイツ式の陸軍ドクトリンを選んだことにある。ドイツ式陸軍ドクトリンには,早期に指揮統制値が高まるという特徴があるので,重砲を付けた歩兵で防御線を張っている限り,しばらくの間は戦線の大突破を許すことはない。軍のシステムも常備軍に寄せて指揮統制ボーナスを得ているので,時間はそれなりに稼げるだろう。

 

攻撃の先鋒を担う戦車部隊。チリ国境を守っているのはほとんど全部民兵。実にあぶなっかしい防衛ラインである アルゼンチンの誇る軽戦車部隊がサンパウロを攻略。これが序盤に成功しているとブラジルは増援がほぼすべてアメリカ頼みに

 

空挺師団か,歩兵師団か。空挺は降下させなくてもエリート歩兵として使えるので,ひどい損をしたりはしない

 さて勝負事には,重要なファクターとして「一貫性」がある。質より量で押すと決めたのに,途中で質がうらやましくなって質を追求し,なんとも中途半端な質の軍隊が,大量というには足りない数揃って,結局勝てないということはよくある。
 当然ながら,我がアルゼンチン軍はそのような愚挙を犯しはしない。アルゼンチン軍はあくまで質を追及する軍隊として構築されており,速度と打撃力をもって量を圧倒するのである。
 とか思っていたので,ドイツからの提案として「空挺部隊1個か,歩兵2個か,どっちかあげるけど,どっちがいい?」と聞かれたときには,迷わず「空挺」と答えた。なにしろアルゼンチンには最初から輸送機が用意されている。これに空挺師団が揃えば,ジャングルだってなんのその,機甲の打撃力と組み合わされば華麗な包囲殲滅が狙えるではないか!
 ということで,とりあえずは民兵を増員してチリ軍の攻撃を防ぎつつ,アルゼンチン−ブラジル国境で要害の地となったシウダードエステを空挺降下で奪取する計画を立てた。

 


シウダードエステの地獄。ここまで包囲攻撃すれば敵部隊は撃退できるが,進撃している間に攻撃部隊が指揮統制値を全損してしまう。川越えでジャングルに攻め込んでもダメという典型

 シウダードエステをアルゼンチン側から見ると,全方向を河川でふさがれたジャングルという,攻め込んでなかなか勝てず,勝ってもすぐに追い返される天然の要塞である。そんなとこ無視すればいいじゃないか,というのは正論だが,アルゼンチン軍には要害の地を包囲して放置しておくだけの兵力はない。なにしろ量の軍隊じゃないので。チリ軍くらいは民兵で防げても,ブラジル軍を民兵で防ぎ続けるのは無理だ。
 そこで空挺である。空挺なら渡河修正がなく,ジャングルによる移動ペナルティもなしにプロヴィンスを直撃できる。たった1個師団で何ができる,という気もするが,周囲から支援砲火を集めればブラジル軍の除去は可能だ。一度除去して,そのあと1週間持ちこたえれば,戦略再配置でシウダードエステに主力が配置可能になる。そして,ジャングルへの進軍には普通1週間以上かかる――要は最初の一手が成功するかどうかなのだ。
 思い立ったらすぐ実行である。重砲を備えた歩兵は,すでにシウダードエステを包囲している。補助火力としての戦車も十分だ。工兵旅団を付けて渡河対策した歩兵も予備兵力として待機している。あとは空挺部隊を降下させるだけ,いくぞ,世界で5番目に出来た,栄誉ある空挺部隊よ!
 ところが……え,えーと,まず空挺強襲するためには,空軍ドクトリンをある程度研究していなくてはなりませんでしたね。普通IC30くらいの国に空挺部隊はいないし(輸送機にIC20以上必要),逆に空挺を使える大国なら空軍ドクトリンは不足なく研究されている。が,今回は輸送機も空挺部隊も戴きもの,よく見れば空軍ドクトリンはまるで研究されていない。盲点というやつである。苦笑いしつつ空軍ドクトリンを研究する。1年くらいかかったが,どうにか空挺強襲が可能になる。

 さて,これで今度こそ空挺降下による電撃的反攻作戦の開幕だ! ……えーと,輸送機のスペックが低すぎて,うちの空港からだと届きません。
 まぁそんなこともある。しかし空港は確か1ICくらいで生産可能だから,生産して隣接するプロヴィンスに配置,そこから飛べばよいだけのことだ。
 ……あー,そういえば空港作る前提となる産業技術があったねえ。うん。当ったり前だけどそんなの研究してないよ。っていうか,普通はそんなの1942年には研究終わってるんだってば。
 半泣きになりながら6か月くらいかけて研究し,3か月かけて空港を作って,隣接プロヴィンスに配置。空挺部隊と輸送機も配備し直して,これで完璧。
 ……あれれ,隣なのに航続距離が足りませんか……って,なんだそれ! これを解決する方法は二つ,別の隣接プロヴィンスなら届くかもしれないと期待するか,輸送機を研究して航続距離の長いものにアップグレードするか,である。
 輸送機のアップグレードにどれくらい時間がかかるかなど,想像もつかない。ここは一か八か,空港を増やして届く場所探しをしてみよう。というわけで空港三つを並列生産して待つこと3か月,シウダードエステを包囲するように空港をみっしり並べる。……なんだか中世ヨーロッパの攻城包囲みたいになってきた。

ブラジル,歩兵63個師団。全軍合計したときの数の差は2倍以上。ここからアルゼンチンが巻き返せるのだから面白い

 都合4か所の空港から試してみたところ,届くところが一つだけあった! 決意から苦節2年,ついに空挺作戦の実施である。2年前に比べると,ブラジル軍の数が60個師団ほど増えているような気がするが,きっと気のせいだ。その間アルゼンチン軍だって軽戦車と山岳歩兵の数を増やしてきている。なんだか歩兵の質でブラジルに負けているような気もするが,そこは気合いでカバーしよう。別の枢軸国の陸軍でも,そう言ってた気がするし。

 

 だいぶ風向きが悪くなってきたが,空挺降下は見事に成功。やはり火力の瞬間最大風速でいうならば,アルゼンチン軍がブラジル軍を上回っているのだ。このチャンスを逃してはならないとばかりに,全機甲部隊を投入,ブラジルの防衛線を決壊させる。

 

ブラジルの誇る天然の要塞を攻略した瞬間。1943年に空挺部隊を獲得してから,実に4年めの快挙。時間かかりすぎ シウダードエステが陥落してから1年で,ここまで均衡が崩れる。大西洋岸に強引な強襲上陸を行ってとどめを刺した

 

チリを山岳歩兵で攻略中。ここまで押し込めば,もはや戦力外

 ジャングルとアマゾン川に足を取られつつ,攻勢限界が見えてきたあたりで,最後のバクチ,強襲上陸。旧式戦車などなど不良在庫を詰め合わせた上陸部隊が,ブラジル軍最後の防衛拠点に波状攻撃を仕掛け,これを粉砕する。見たか,これが数の力だ! って,あれ?
 最後まで実に首尾一貫しない戦争でブラジルを降伏させたあと,チリを山岳歩兵で一蹴したら,同盟軍が勝手に南米を統一していった。かなり遠回りしたような気もするが,電撃戦型アルゼンチンの勝利である。これはあれだ,うん,急がば回れってやつだ(編注:たぶん違うと思います)。

 

こうなってしまえば,あとはただの惰性。タイムリミットまではかなり余裕もある 機甲部隊の勝利。シャーマン戦車ができた頃には,戦争終わってましたけどね

 

物量頼みの巻き返しで勝つ,連合国ブラジル

ブラジルの技術開発状態。陸軍ドクトリンのシートがまっさらだったアルゼンチンに対し,ブラジルはすでに二つ研究完了。開発スタッフは使いづらいが,それを差し引いても大きなアドバンテージ

 アルゼンチンでは無理な戦略プランを立てたこともあって,ひどい苦戦をしたが,ブラジルはどうだろうか。アメリカからの歩兵の増援がふんだんに期待できること,連合国系陸軍ドクトリンであることを考えれば,素直に歩兵による数押しを狙うのがよさそうだ。
 で,シナリオを開始してみる。技術開発状況はなかなか良好。産業関係もアルゼンチンとは雲泥の差だ。ちゃんと初期状態で空港を作れるだけの技術開発も終わっている。歩兵の研究状態もよく,重砲も割と先に進んでいる,海軍は数が揃っているし,ドクトリンも研究が進んでいる。研究機関だけはかなり劣悪だが,それ以外に負ける要素は見つからない。
 だが,ある程度進めてみると問題が二つ浮上した。最初の問題は,資源生産バランスの悪さ。エネルギーが完全に赤字になるため,実質ICが30をあっさり割り込む危険がある。輸入しようにも,南アメリカでエネルギーが余っている国はアルゼンチンだけ。絶望的である。
 次の問題は国土の広さと,その広い国土のほとんどが悪路であることだ。そして初期の部隊数は少ない。アルゼンチンが最初から持っている戦車で掛けてくる攻勢はかろうじて防げるが,それをするとアマゾン方面から攻めてくるボリビア軍に対応できない。ボリビア軍の前進速度はさほど速くないが,なにしろこちらには2個軍程度しかいない(うち1個軍は半数が民兵)とあって,旗色はかなり悪い。
 ないものはないなりに歩兵を生産しつつ,またアメリカが次々に送り込んでくる援軍を再配置して防衛ラインを張りつつ,アルゼンチン+ボリビア軍の攻勢を防ぐ。ここで構図を見直してみると,要するに「ボリビア+アルゼンチン」という地続きの枢軸国に対し,「ブラジル+パラグアイ+チリ」と,それを包囲する形の連合軍が出来上がっていることに気づく。まさにミニ欧州戦線である。

 

チリが連合国に。山岳ゲリラが敵の背後に出るのはありがたい。チリの運命については関知しないが まずはアメリカ様が海軍基地と空軍基地を建設,以降ここに増援が続々と到着していく

 

こんな豪華なものがいきなり振ってくる。最後まで攻勢の主軸として重宝する部隊

 ともあれ,着実に増え続けるアメリカからの増援で防衛ラインを強化しつつ,最初からいた騎兵と,重砲を備えた民兵,アメリカから送られてきた戦車を核として,反撃に出る。A.I.は軽戦車の山を作ったり,アルゼンチンで電撃戦ドクトリンを研究したり,空挺降下を狙って七転八倒したりはしないようで,普通に数で圧倒してスチームローラを掛けたら,アルゼンチンはあっさり脱落した。少々あっけない。

 

とにかくどんどん増援が到着。こりゃ普通に勝てますって

 

 まぁ,ブラジルの難しいところをあえて挙げるとすれば,エネルギーを消耗しきって実効ICが低下し,自国の生産能力に依存した増援を出せなくなる前に,アルゼンチン戦にケリをつけたい――が,どうしても最初は守勢を保つしかないことだろうか。とはいえ,エネルギー枯渇で実効ICが低下しても,アメリカから定期的な増援が来るわけで,実際上の問題はない。
 もっとも,最初にサンパウロあたりまで攻め込まれてしまうと,それなりに苦戦する可能性はある。戦略再配置という概念を知らないと,敗北の可能性もあるので事前にチェックしておこう。

 

アマゾン方面の防衛ラインが完成,ボリビア軍の攻勢がストップする。ここからアルゼンチン側に攻勢主力を展開する アルゼンチン方面への突破。結局南米の枢軸主力はアルゼンチンなわけで,その首都があっさり落ちるようでは先は見えている
パルチザン活動がうるさいのでアルゼンチンを再独立させる。南端にある国なので,攻撃できない国が出来たりしないのもよい 南米が連合国で染まる。まだヨーロッパではドイツががんばっている時代ですが。アルゼンチンでの苦労とは大違い
キャンペーンプレイに向けた演習場

いや,最後まで戦うも何も,もうあなたがたとは戦争していませんってばさ

 双方とも,物資は定期的に「パトロン」から振り込まれてくるので,物資の生産は0でよい。アルゼンチン側だと1945年中盤にドイツが降伏するイベントがあって,それ以降ドイツから増援は来なくなるが,なぜか物資の供給だけは続くので,心配ない。

 ラプラタ戦争は,バランスだけで見るとちょっとブラジルが有利すぎな印象はあるが,それ以前にこのシナリオは,ハーツ オブ アイアンIIにどこから手をつけようか悩む人向けの,練習用に最適だと思う。繰り返すが,グランドキャンペーンから省かれているルールはない。それこそアルゼンチンが輸送機を持てるように,可能な限りすべての要素を詰め込んだ印象がある。
 そして事実,連合国側のブラジルは序盤,速度で優位に立つアルゼンチン相手に防衛を強いられ,後半も実に連合国的に物量で押しきれる。反対に枢軸国側のアルゼンチンには,速度と衝撃力とトリックで物量的な不利を克服することが求められる。「本番前の演習場」とでもいうべきだろうか。
 そのうえで,とくにアルゼンチンには相当量のフリーハンドが認められている点にも注目したい。今回はあえてドイツ式の軍隊を模倣してみたが,ソ連式の軍隊にもできるし,あるいは少数の陸軍に優秀な空軍支援を加味するような軍も作れるだろう。アルゼンチンは全体に研究機関が優秀なので,なにかと実験しやすいはずだ。勝てるかどうかはまでは関知しないが……。
 マップが南アメリカしかカバーしておらず,登場するユニットも少ないので,キャンペーンシナリオで発生する“大戦末期の重さ”は皆無,ストレスなくプレイが楽しめる。ハーツ オブ アイアンII初心者はもちろん,キャンペーンを触りたいが時間に余裕がない,奇妙奇天烈な実験軍隊を組んでみたいという熟練プレイヤーにも,まったく異なる意味でお勧めできるシナリオだ。

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
紙のボードゲーム雑誌でもリアルタイムに活躍し続けるゲームライター。今まであらためて確認したことはなかったが,紙でのペンネームも同じとのことで,紙の雑誌の読者の中にも,この連載を読んでくれている人がいるそうだ。ストラテジーというゲームジャンルの長い歴史を思えば,決して不思議なことではないはずだが,コンピュータのストラテジーゲームがボードゲームから学んでいるようで学んでいない事柄を,いろいろ考えさせられる話である。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

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