帳簿を前に取り乱すねりー。いやそれよりも,あるまんぞが着けている,奇妙な仮面のほうが気になると思う
前回「ねぇ,この街にはもう一人,私達えすぱ田家の兄弟がいるのよ。知ってた?」という,謎の言葉を残したねりー姉さん。その兄弟とは誰なのか,すぐに教えてもらえるものとばかり思っていたが,なにせカフェ「セイウチ」の女主人は多忙の身。コインブラ到着から1週間が過ぎようとしているのに,一向にそれを聞くチャンスがない。
仕方なく,祖国で便りを待つ母に,いつもの手紙を書く主人公。最後の“殺人術”がたいそう穏やかでないが,主人公はいったい何を聞きたかったのだろうか。
次なるえすぱ田家メンバーが誰なのか,早く聞きたいのはあるまんぞも同じ気持ち。ろーらを寝かしつけ,ねりーと話をすべく店じまいしたカフェ「セイウチ」の1階へと足を運んでみれば……。
「あぁ,あるまんぞ……私,どうしたらいいの」
いったい何事なのか,普段は気丈な姉が頭を抱えて苦悩する姿を見て,胸が締めつけられる思いのあるまんぞ。
「姉さん,あなたのような美しい人にそんな苦悩は似合いません。さあ僕に,何でも話して」
頼りなげな外見のあるまんぞだが,さすが貴族の息子,こういった仕草は実によく似合う
ねりーの苦悩とは,カフェ「セイウチ」の経営状態。新鮮なアボカドサンドイッチに,甘いチョコラテ,さらに露出過多な女主人とくれば店は大繁盛だと思っていたのに,実はカフェセイウチの台所は火の車であった。どうりでアルバイト代を出し渋るはずだ。
しかも生半可な赤字ではなく,このままでは連載終了前に店をたたまねばならないと言うではないか。聞けばねりーの夫は,異国アビシニアンの料理を作れる数少ない名料理人。カフェ「セイウチ」のウリはもともとアボカドサンドイッチではなく,夫が作っていたアビシニアン料理だったとか。
その腕前に惚れ,足繁く通ってくれたアビシニアンからの移民によって,カフェ「セイウチ」は繁盛していたのだという。確か,ねりーの夫は3年戦争以来,行方不明だ。こればかりは姉を助けてやれないと,心が沈むあるまんぞであった。
「お願い,あるまんぞ。これからダンナを連れ戻しに行かなくてはならないの。彼はテトラ遺跡に閉じこもってしまったのよ」
いや,ねりー姉さん,たった今読者に夫は行方不明と解説したばかりなんですが……。
「やあねえ,それは最初のダンナよお。今のは二番目のダンナ。そしてこれがダンナがこもっちゃった場所の地図。一緒によろしくね」
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サラリと渡された,テトラ遺跡の地図。義兄はこの部屋の奥に隠れているらしいが,いったいどんな事情が? |
知らぬ間に再婚までしていた姉ねりー。ここで解説しよう。19世紀貴族階級における社交界デビューは16〜20歳前後。だいたい18〜25歳までに結婚するのが当然であり,適齢期を迎えた娘は髪を結い上げ,派手に肩や首周りを露出した装いで舞踏会デビューし,理想の結婚相手を探すのが通例だ。
なお,社交界デビューから3シーズン経っても婚約発表できないのは,相当に恥ずかしいこととされていた。そんな時代,そんな階級に生まれなくてよかった。いや本当に。
さて,前回のテトラ遺跡盗掘には,頼りになるリボルドウェ兵士,おるそん兄さんが同行してくれたわけだが,今回は民間人3人組で挑戦することになる。なお,これまで長剣と盾を使ったスタンス「ハイガード」を愛用してきた主人公の装備は,おるそんから譲り受けた槍に替わっている。
ねりー姉さんが使うスタンス「エスクリマ」は短剣専用で,本国では殺人術として知られるもの。ねりーいわく,この程度の殺人術は淑女のたしなみらしい。
エスクリマの特徴はその手数の多さで,ろーらが1度槍をぶん回す間に,ねりーは3回の刺突を繰り出す。ただし攻撃力は低く,とくにカタい敵(防御50前後)を相手にすると,与ダメージが1とか9とか一桁のことすらあるので,場面によっては苦戦するだろう。
と,ところで姉さん,仮にも飲食店を営む女主人が,毒を盛るスキル「ダガーヴェネノサ」を使うってのはいかがなもんでしょ? このダガーヴェネノサ,MAXのレベル10まで上げると,50%の確率で敵を毒が回った状態にしてくれるので,スキルとしては使いでのあるほうだ。
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姉妹二人が前衛で,間の男子が後衛という,えすぱ田家の複雑な事情を反映した配置。あるまんぞは体が弱いから仕方ないのだが…… |
ねりーがダガーヴェネノサを発動すると,なぜか味方まで,毒を喰らう確率急上昇。姉さん,どういうことですか,その振る舞い |
テトラ遺跡を走り抜け,地図の示す場所に辿り着いた3人。しかしそこにあるのは,小さな割れ目があるだけの壁だ。どうやら義兄はこの奥に閉じこもり,出てこなくなってしまったようだ。どこの国の話だったか忘れたが,岩屋の奥に引き込んだ相手を誘い出すのに有効なのは,歌と踊りだと聞いている。
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内側から閉ざされた岩屋の奥にいるのは,天照大神ではなくてねりーの夫。かまわねえ,火ィつけろ,というわけにもいかないしね |
ヨーロッパ貴族といえばワルツとかのはずなのだが,少なくともこれは違うようだ。ヴェスパニアの文化水準がちょっと心配に |
作戦どおり歌が気になって,壁の向こうから姿を現したダンナ。あ,あなたは“炎の料理人”じゃないですかっ。彼の名は「あるばーと・えすぱ田」。婿養子の形でえすぱ田を名乗っている。え,えーと,ねりー姉さんがどうやって自分の店を手に入れたのか,にわかに気になってきましたが,聞かないほうがいい気もします。
せっかくダンナが出てきたというのに,ろーらとあるまんぞの目の前で繰り広げられたのは,犬も食わない夫婦喧嘩。一方的に責められて肩を震わす,見かけより気弱なあるばーと。思わず止めに入るあるまんぞであった。
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紹介しよう,こちらがねりーの夫「あるばーと・えすぱ田」だ。よく見ると,なかなか端正な美男子である |
ヒートアップする夫婦喧嘩のすえ,ついに刃物(毒拭いてない)を抜いたねりー。さすがにそれはシャレになりませんがな |
何はともあれ夫婦の危機は去った。あるばーとはカフェ「セイウチ」に戻ることを承諾し,あるまんぞという義弟に会えたことも,ことのほか喜んでくれている。あとはあるばーとの得意料理,アビシニアン料理でカフェ「セイウチ」の人気を取り戻すだけだ。
なお,アビシニアン料理に欠かせない素材「オクトパスアーム」の採集に,ろーらとあるまんぞが駆り出されたことはいうまでもない。夫婦して人使いの荒さは並じゃないようだ。
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新マップ「ポルトベルロ」に姉夫婦とお出かけ。足元の赤いやつがタコ足「オクトパスアーム」だ。に,義兄さん後ろ後ろ! |
さすが料理人,見事な包丁さばきでタコを解体,タコ足を入手していく。ちなみにその場で寿司(回復アイテム)も握ってくれます |
「今日までねりーを支えてくれてありがとう。心から感謝する」
優しい顔でろーらとあるまんぞに謝意を伝える,義兄あるばーと。カカオ集めに続いて,妻のわがままにつき合ってくれた二人にアビシニアン料理をごちそうしてくれると言うではないか。集めたタコ足を前に,キリっと表情が引き締まるあるばーと。
「ピーーツァーーーインジェラアアァァァ!!!」
その夜,臨時休業したカフェ「セイウチ」には,いつまでも灯りがともり,えすぱ田ファミリーの笑い声が絶えなかったとか。ちなみに「インジェラ」とは,酸味のあるエチオピアのクレープである。そして「ハリマオ」とは,マレー語で虎のことである。
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かなり度肝を抜かれるシーン。必殺料理って,た,食べて大丈夫なんでしょうか? |
食中毒でうめくあるまんぞと,心配そうに覗き込む二人の姉妹。ろーらの胃袋が鉄壁なのか,あるまんぞが弱すぎるのか
美しいコインブラの朝,新たな家族捜しの旅に出るはずの二人だったが,あるまんぞの様子がおかしい。どうやら慣れない異国料理におなかを壊したようなのだ。ただでさえ虚弱体質のあるまんぞ,旅の疲れがここにきてドっと出たのか。どうなるあるまんぞ,どうなるこの連載? そして結局,ねりーがほのめかした,もう一人の兄弟とは誰だったのか? 本筋を明かさないまま次週に続く。
テトラ遺跡内部を今度は本格的に調査,義兄あるばーととの出会いも果たせた。コインブラの隣,ポルトベルロ港にはおいしいタコが出ることも発見。食料にはしばらく困らないだろう。