レビュー : SteelSound 3H&4H

積極的なチューニングが行われたミドルレンジヘッドセット向け2モデル

SteelSound 3H
SteelSound 4H

Text by 榎本 涼
2007年2月16日

 

SteelSound 3H,SteelSound 4H
メーカー:SteelSeries
問い合わせ先:パソコンショップ アーク(※2007年2月16日現在,SteelSeriesが同店での購入を推奨)
TEL:03-5298-7020
SteelSound 3H実勢価格:7000円前後(税込,2007年2月16日現在)
SteelSound 4H実勢価格:8000円前後(税込,2007年2月16日現在)

 Soft Tradingからその名を変え,日本市場への本格展開も狙うSteelSeriesは,最近になってミドルレンジ向けのヘッドセット「SteelSound 3H」「SteelSound 4H」の2製品を発売した。実勢価格はSteelSound 3Hが7000円前後,SteelSound 4Hが8000円前後でそれほど変わらない。だが,2007年2月15日の記事でも紹介されているとおり,SteelSeriesは両者について,「ポータブルプレイヤーやボイスチャットに最適」「『SteelSound 5H』のクオリティを維持しつつ安価にした製品で,足音や銃声,アラートなどといった,競技性の高いゲームにおける重要な音を聞きやすくした」と,明確にその特徴を分けて説明しており,なかなか興味深い。

 果たして,約1000円の価格差で同時に登場と相成った2モデルは何がどれだけ違うのだろうか? 今回はSteelSeriesから2モデルを同時に借用できたので,並べて分析してみることにしよう。

 

 

外観からして大きく異なるSteelSound 3H&4H
同じように見えるマイクも実際は違う

 

 2005年11月2日にレビューをお届けしたSteelSound 5Hを覚えているだろうか。SteelSound 3Hと同4Hが登場するまで,SteelSound 5Hとそのバージョンアップ版「SteelSound 5H V2」がSteelSeries(当時はSoft Trading)唯一のヘッドセット製品だったわけだが,同製品と比較した場合,外観から受ける高級感のようなものはSteelSound 3Hも4Hも一段落ちる。

 

SteelSound 3H(左)とSteelSound 4H(右)。ガンメタリックをベースとしているという意味ではよく似た2モデルである

 

SteelSound 3Hは,このように折りたたんで持ち運べる

 SteelSound 3Hはポータブルプレイヤーでの利用が想定されていることもあって,折りたためるのが特徴だ。
 ただし,折りたためることを最重視したためか,スピーカーエンクロージャーが小型で,いきおい肌に触れるイヤーパッド部も小さくなっている。さらに,肌に触れる部分は合成皮革製で,正直,装着感はあまりよくない。2個のエンクロージャーをつなぐヘッドバンドはクッションのない,“ただの”ベルト仕様となっており,頭の大きさによっては,窮屈に感じる人もいるだろう。
 ヘッドフォンにはスリット状の空気穴のようなものがあり,いかにもセミオープン型風だが,このスリットはあくまでデザイン上のものであり,実際は密閉型。音漏れや,外部の音が入ってくることはほとんどない。

 

4Gamer編集部の松本隆一に取り付けてみた。窮屈そうな感じが見て取れる

 

SteelSound 3Hとは異なり,可動域がそれほどないSteelSound 4H

 一方のSteelSound 4Hは,大きなスピーカーエンクロージャーを有し,SteelSound 3Hとは趣が異なる。確かにSteelSeriesが主張するとおり,SteelSound 5Hに近い雰囲気だ。
 エンクロージャーには,SteelSound 3Hと同じようなスリットが入っているが,こちらはきちんと(?)空気口。ヘッドフォンの仕様はセミオープン型になる。

 エンクロージャーに合わせて大きくなっているイヤーパッドは肌に触れる部分が布製になっており,耐久性こそSteelSound 3Hには劣るものの,装着感は良好。ヘッドバンドは最近流行のメッシュ仕様で,SteelSound 5Hが用意していた幅広の合成皮革と比べると目に見えて狭くなっているものの,エンクロージャーが大きくて安定しているためか,ヘッドバンド部でコストダウンしたことによる負の影響はあまり感じられない。

 

SteelSound 4Hを,やはり松本に取り付けてみたところ。ゆったりとして余裕を感じられるのが分かると思う

 

SteelSound 4Hのブームマイク

 マイクの外観は両モデルで非常に似ている。どちらもSteelSound 5Hと同様の引き出し式ブームマイクを採用しており,調整の自由度はかなり高く,扱いやすい部類に入るといっていい。もっとも,マイク入力端子を見てみると,どちらもミニピンではあるものの,SteelSound 3Hがステレオ,SteelSound 4Hはモノラルとなっており,外観以外はまったく異なると理解しておいたほうがよさそうである。

 

上段がSteelSound 3H,下段がSteelSound 4Hのブームマイクと接続インタフェース部のカットだ。ブームマイクの構造自体は同じだが,赤/ピンクのマイク入力端子にあるリングの数は前者が2本,後者が1本で,明らかに異なっている

 

 なお,ケーブル部には,やはりSteelSound 5Hゆずりのリモコンが用意され,両モデルに共通して,ノブ式のボリュームコントローラ(=ロータリーコントローラ)と,マイク入力のオフ(off)/低感度(low)/高感度(hi)を切り替える3段階式スイッチを備えている。ボリュームコントローラを絞り,スイッチをオフにすれば,ヘッドフォン,マイクともミュート(=無音化)できる。
 ケーブル長はSteelSound 3Hが約2m,同4Hが約1.8m。SteelSound 5Hの約3mと比べて短くなっており,取り回しやすくなった印象だ。

 

 

低域重視の3Hに高域重視の4H
音質傾向は見事に真逆

 

 以上,外観を眺めてきたが,ここからはスペックと照らし合わせながら,実際のサウンド入出力品質をチェックしていきたい。
 SteelSound 3H&4Hを接続するサウンドカードには,Creative Technology製の「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」(以下X-Fi EP)を利用し,ドライバのバージョンは最新の2.07.0007を用いる。OSはWindows XP(Service Pack 2適用済み)だ。X-Fi EPにはヘッドフォン端子とマイク端子を持つブレイクアウトボックスが用意されているので,テストに当たっては(プラグ変換アダプタを利用したうえで)こちらを利用した。なお,マイク入力は「MIC2」を用いている。

 

エンクロージャーとイヤーパッドの様子。序盤で説明したように,肌に当たる部分は合成皮革製だ。スピーカードライバは自社開発の「Sound Dancer(LCP)」。口径は40mmとなる

 まずSteelSound 3Hだが,これはいかにも密閉式ヘッドフォンらしい,低域が非常に強い,圧迫感のある音質傾向だ。どの音楽を聴いても,耳に張り付いたような高い音圧感とパワー感が特徴的である一方,重低域というよりは中低域が前に出てくる格好になり,その分高域が(マスクされ聞こえづらくなって)弱く感じられてしまうきらいもある。
 まあ,これは店頭価格数千円レベルのオーディオ用ヘッドフォンにある典型的な特徴でもあり,SteelSound 3Hだけがそうというものではない。価格を勘案すると,特筆すべき点はそれほどないといったほうが正確だ。
 もっとも,似たような価格帯のヘッドフォンと比べると,中域の位相(≒ステレオ感)は割といい。7000円前後の予算でヘッドフォンを買うつもりなら,ヘッドセットとしても使えるSteelSound 3Hのほうが買い得感はあるといえるだろう。音漏れをそれほど気にせず,地鳴りや爆発などといった低域成分を多く含むゲームサウンドや,勢いのある音楽を楽しみたいという人に向いている。

 

Sound Dancer(LCP)の上位モデルとなる「Sound Dancer(Sd)」を,SteelSound 4Hは搭載する。口径は同じく40mm。音質傾向の大部分はこのスピーカードライバが決定しているようだ

 一方,SteelSound 4Hの出力品質は,一言で非常にユニーク。傾向についてまず述べるなら,高域が強く,低域がやや弱め。同時に中域がうるさいこともまったくない,タイトで上品な音だ。よくある「そもそもの設計上,(例えば50Hz以下といった具体的な)重低域が出ていない製品」ではなく,よく聞くと重低域そのものはしっかり存在しており,ただ弱くなっているだけなのが面白い。イコライザを使って低域の周波数成分を弱くして,高域を聞き取りやすくしている,そんな印象だ。

 その結果何が起こるかというと,ゲームプレイ時において,銃声やリロード音,剣のぶつかる音,足音などが,本来あるべきバランス以上に聞こえるようになっている。おそらく4kHz以上,とくに8kHz以上がかなり強く再生されるように調整されているものと思われる。
 こういった音響調整を「アコースティックチューニング」というが,このチューニングによって,とくにFPSなど,音情報がゲームのプレイしやすさを直接左右するタイプのジャンルにおいて,SteelSound 4Hでは音情報をしっかり認識できる。「競技性の高いゲームにおける重要な音を聞きやすくした」という謳い文句に,偽りはないのだ。SteelSound 4Hは,「ゲームプレイを左右する音だけ確実に聞こえればよく,残りはあまりはっきり聞こえなくても問題ない」といった,明快な“哲学”に基づいて開発されているのである。

 スピーカードライバレベルで一定方向に特化した製品というのは,明確なメリットと同時にデメリットも存在する。SteelSound 4Hの場合,最近の,音圧の高いロックやポップミュージックを聞いたときに,「シャカシャカ」といった金物系の音が,耳障りになりやすい。音量を上げると耳が痛くなり,下げれば低域が不足する,といった具合だ。現代的なロックやポップスを聞くにはまったく向かず,同時に,そういったタイプのサウンドがBGMになっているゲームのプレイもかなりキツい。総じて,非常にクセの強いヘッドフォンということは憶えておく必要があると感じた。

 

 

かなりリファレンスに近づいたマイク入力
両製品ともマイク周りは合格点レベル

 

 続いて,マイク入力品質の評価に移ろう。
 詳細なテスト方法については2006年9月12日の記事を参照してほしい,と断ったうえで簡単に説明すると,マイク入力のテストに当たっては,口の代わりとなるスピーカーをマイクの正面前方5cmのところへ置き,モノラルの「ピンクノイズ」という,低域から高域までまんべんなく持つノイズをスピーカーから出力。ブームマイクが拾った音をサウンドカードへ入力し,PCにセットアップしておいたWaves Audio製のソフトウェアオーディオアナライザ「PAZ Psychoacoustic Analyzer」からグラフ化(=可視化)する。
 下がスピーカーから出力するピンクノイズの波形で,リファレンスとなる。基本的に,ブームマイクで入力される波形がこのリファレンスに似ていれば似ているほど,品質は高いことになる。

 

上段が周波数特性,下が位相特性のグラフとなる。周波数特性は,オーディオレベル(≒音の大きさ)を周波数(≒音の高さ)ごとに並べたもので,単位は dB。グラフ左端で縦に並んでいる数字がオーディオレベルの値を示しており,0に近いほうが「オーディオレベルが高い」=「その帯域が強い」ことを示す。位相特性は,「青い扇状の部分にオレンジの波形が入っていれば,入力した音に不自然さはなく,ヘッドセットのマイクとして合格」と理解しておけばOKだ

 

SteelSound 3Hのブームマイク

 さて,ハードウェアの仕様について述べた段で指摘したように,SteelSound 3Hと同4Hでは,マイクの仕様が異なる。
 先ほどはSteelSound 3Hのマイクがステレオ仕様,SteelSound 4Hのそれはモノラル仕様と述べたが,もう少し細かく説明すると,前者は360°全方位から集音する「無指向性」,後者は特定の一方向(方向や角度は製品によって異なる)から集音する「指向性」になっている。無指向性には,マイクの向きにかかわらず集音できるが,ノイズを拾いやすくなるという特性があり,指向性マイクは想定されている角度を外れると極端に集音能力が下がる一方,よけいなノイズを拾いにくいという特性を持つ。
 余談だが,一般に指向性マイクは電源が必要(ステレオ端子でサウンドカードから電源供給),無指向性マイクは電源が不要(モノラル端子で電源供給不要)になるケースが多いので,SteelSound 3H&4Hはまったく逆の仕様ということになる。

 以上を踏まえて,SteelSound 3H,SteelSound 4Hの順にテスト結果を下に並べたが,やはり波形にはかなりの違いが生じている。
 位相特性には大きな問題がないため,周波数特性について見ていくと,SteelSound 3Hでは,120Hz付近を頂点とした低域の強さが目を引く。3kHz付近の落ち込みは気になるが,一方,人間の声に含まれる高域成分のうち,最も高い部分になる6kHz付近と8kHz付近はしっかり入力されている。低域と高域の強い,いわゆる「ドンシャリ」サウンドで,とくに低域が強めなのもマイナスであるものの,6〜8kHz付近の山のおかげで,比較的通話相手が聞きやすい音質になっている印象である。

 SteelSound 4Hでは,低域が小さくなり,一方で6kHz付近に大きな山が生まれている。また,8kHz以上の落ち込みが大きい。ドンシャリという意味ではSteelSound 3Hと変わらないが,実際に試してみると,指向性マイクが低域ノイズを拾わないことも手伝ってか,シャリ(=高域)のほうがドン(=低域)よりも強く,チャット相手は,StelSound 3Hよりも幾分聞き取りやすく感じるはずだ。

 いずれにせよ,SteelSound 3Hは十分に,SteelSound 4Hはそれ以上にしっかりと音声を相手に伝えられる。ゲームで使うマイクとしては,問題のない品質を確保しているといえるだろう。

 

なんといっても120Hzの山と3kHz付近の谷が気になるが,高域の高さによってバランスが取られている印象だ

 

徹底して6kHz付近を強くしてあるのが分かる。125Hz以下や8kHz以上が落ち込んでいるのは,人間の声の成分に含まれない部分をカットしているからで,これ自体に問題はない

 

 

価格なりのヘッドフォンにマイクを付けた3Hか
目的特化型の4Hか

 

 以上,並べて見てきたが,両製品は非常に対照的な個性を持っている。各論でも触れたように,SteelSound 3Hは「ゲームや音楽を問わず迫力のあるサウンドを楽しみ,かつボイスチャットもしたい」という人向け。対するSteelSound 4Hは,ほぼFPS専用といっていいほど,情報としてのゲームサウンドを細大漏らさず再生し,かつ安定したボイスチャット環境を提供してくれる製品である。少なくともヘッドフォン再生品質に関して,一般的な意味における音質評価は無意味だ。
 共通して言えるのは,オリジナルの音を忠実に再現しようという作りにはなっていないこと。間違いなく人を選ぶ製品に仕上がっているので,この点は十分に認識しておく必要がある。

 

 ただし,SteelSound 4Hにおいて,音楽や映画などにまるで向かなくなる危険を冒してまで,競技性の高いゲーム用のアコースティックチューニングを――わざわざスピーカードライバを新たに設計してまで――行ってきたというこのこだわりは,特筆しておくべきだろう。
 何もすべてのメーカーが,いわゆる“原音忠実再生”を目指す必要はない。SteelSound 4Hのような独自性の高い製品が多く登場することで,ユーザーの選択肢は広がっていくのだから。

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A