― レビュー ―
199ドルGPU直接対決 Radeon X1950 Pro vs. GeForce 7900 GS
Radeon X1950 Proリファレンスカード
PowerColor X1950 PRO
Text by Jo_Kubota
2006年10月17日

 

 別記事でお伝えしているように,ATI Technologies(以下ATI)は,Radeon X1900シリーズの最下位モデルとして「Radeon X1950 Pro」を発表した。

 

Radeon X1950 Pro。「RV570」の刻印はない。ダイサイズは16.7mm×13.8mmで,トランジスタ数は3億3000万

 GPU(グラフィックスチップ)の詳細なスペックについては当該記事を参照してほしいが,注目すべきは199ドルという,搭載グラフィックスカードの想定売価である。
 199ドルといえば,2006年9月の登場以降人気となっている,GeForce 7900シリーズ初のミドルレンジ向けGPU「GeForce 7900 GS」を思い出す人も多いだろう。

 

 Radeon X1950 Proとその上位/下位モデル,そして直接のライバルとなるGeForce 7900 GSのスペックは表1にまとめたとおり。PC業界には,同じようなスペック,あるいは価格の製品であれば,後から発表される製品のほうが性能は上という,いわば“後出しじゃんけんの法則”といったものがある。それだけに,GeForce 7900 GSの対抗馬として登場したRadeon X1950 Proの性能は非常に気になるところだ。

 

 

 

相変わらず(?)のドライバ対応状況
変則的なテスト環境に要注意

 

 今回入手したのは,Radeon X1950 Proリファレンスカード×2と,Tul製のRadeon X1950 Pro搭載製品「PowerColor X1950 PRO」×1の計3枚。Catalyst Control Centerからチェックした結果は表2にまとめたが,ご覧のとおり,両製品のスペックは微妙に異なる。Tul製品のパッケージには,とくにオーバークロックモデルであることを謳う表現はなかったが,コアクロックが20MHz高いため,パフォーマンスはリファレンスカードより確実に高くなるはずだ。

 

 

 また,異なるといえば,両製品は冷却機構も異なる。リファレンスカードでは,カード全体を覆うような1スロット仕様の新型クーラーを採用するのに対して,PowerColor X1950 PROは,Arctic Cooling製の「ZAV-Accelero X2」を搭載しており,カードの外観はずいぶんと違った印象だ。

 

Radeon X1950 Proリファレンスカード。カードのほとんどを覆う,1スロット仕様のクーラーが印象的な外観である。外部給電の6ピンコネクタが,カード“後方”中央に設けられている PowerColor X1950 PRO
メーカー:Tul
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
予想実売価格:3万円前後

 

リファレンスカードのGPUクーラー。カードの外部インタフェースから見て右手前(一般的なATXケースでは正面から向かって左後方)に風を吹き出す,ユニークな仕様になっている。PCケースの構造によっては,クーラーによって“はき出された”空気の処理に難儀する場合があるかもしれない

 

 テストに当たっては,2枚用意できたリファレンスカードでのみ,CrossFire動作を検証する。また,直接のライバルとなるGeForce 7900 GSカードから,エルザジャパン製「ELSA GLADIAC 979 GS 256MB」とAlbatron Technology製「PC7900GS」の,リファレンスクロックで動作する2枚を用意し,シングルカードのスコアは前者で,NVIDIA SLI(以下SLI)のスコアは2枚の同時利用で取得。さらに,上位モデルとのスコア差をチェックするため,Radeon X1900シリーズ最上位の「Radeon X1950 XTX」を搭載したASUSTeK Computer製カード「EAX1950XTX/HTVDP/512M」,そしてGeForce 7950 GTを搭載した同社の「EN7950GT/HTDP/512M」も1枚ずつ用意し,スコアを比較することにした。以下,Radeon X1950 Proを除くカードについては,GPU名で表記する。

 

CrossFireを実現する「CrossFireブリッジ接続ケーブル」。いわゆるリボンケーブル状で,PCI Express x16スロット間が1スロット,あるいは2スロット空いているマザーボードに対応する。2スロット空いているマザーボードの場合,遊びがないのは少々気になるが,まあ,それほど大きな問題ではないと思われる

 

ELSA GLADIAC 979 GS 256MB
静音クーラー搭載の「Lineage II」推奨カード
メーカー:エルザジャパン
問い合わせ先:エルザジャパンサポートセンター 03-5765-7615
PC7900GS
コストパフォーマンスがウリの手堅い製品
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
info@ask-corp.co.jp

 

EAX1950XTX/HTVDP/512M
入手しやすい,リファレンス仕様のカード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
EN7950GT/HTDP/512M
リファレンス仕様で安価な人気製品
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 

Radeon X1950 Proのカード長はRadeon X1950 XTXと同じ

 テスト環境は表3のとおり。今回はグラフィックスドライバが少々変則的になっている点をあらかじめお断りしておく。
 というのも,ATIのWebサイトで公開されているCatalyst 6.9(やCatalyst 6.8)では,今回用意したいずれの製品も認識されなかったためだ。Radeon X1950 XTXは,Catalyst 6.9で認識されてもよさそうなのだが,HDCP周りが引っかかるのか,ドライバのインストール時に「カードが見つからない」と言われてしまう状態。そこで,Radeon X1950 Proについては,Radeon X1950 Proリファレンスカードに付属してきたATI提供のバージョン(8.291),Radeon X1950 XTXは製品パッケージ付属のバージョン(8.282)を利用したという次第である。

 

 

 なお,Radeon/GeForceのシングルカードおよびRadeon X1950 Pro CrossFire環境のテストは,Intel 975X Expressマザーボード「P5W DH Deluxe」で行い,SLI環境のテストのみ,nForce 570 SLIマザーボード「P5N SLI」で行っている点も断っておきたい。Intel 975X Express,nForce 570 SLIともに,CrossFire/SLI構成時は2本のPCI Express X16スロットがx8接続となるので,テスト環境としてはある程度の公平性を確保できるはずだ。

 

P5W DH Deluxe WiFi-AP
Core 2 Duo対応で無線LANサポートのハイエンドマザーボード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
P5N SLI
入手のしやすさと価格が人気のSLI対応製品
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 

 最後にベンチマークレギュレーションだが,実はこれも通常とは若干異なる。基本はバージョン1.1であるものの,今回の環境ではRadeon X1950 Proで「TrackMania Nations」が起動せず,テストを見送らざるを得なかったためである。
 もっとも,ここで「いくらなんでも既存のゲームタイトルが起動しないというのはいかがなものか」と文句を述べたところで始まらない。そこで今回は,テスト対象のゲームタイトル数を減らさぬため,次世代レギュレーションで採用予定の「Half-Life 2: Episode One」のテストを,前倒しして実施することにした。テスト方法については後述するが,結果としてレギュレーションは“バージョン2β”的なものになっているので,この点もご注意を。

 

 

CrossFireは相変わらずだが
シングルカードではGeForce 7900 GSをほぼ凌駕

 

 いろいろお断りすることが多くて,前振りが長くなったが,とにもかくにも実際のゲームにおけるパフォーマンスを見ていこう。
 グラフ1は,「Quake 4」の標準設定におけるスコアをまとめたものだ。Quake 4はGeForce有利なスコアが出る傾向だが,クロックの高いPowerColor X1950 PROであっても,GeForce 7900 GSには及ばない。CrossFire構成時には,1024×768ドットでGeForce 7900 GSに並んだように見えるが,1280×1024ドット以上では引き離されており,1024×768ドット時は単にCPUがボトルネックになっただけであることが分かる。
 なお,Radeon X1950 ProのCrossFireとRadeon X1950 XTXの比較では,前者のスコアのほうが高い。CrossFireのメリットが見て取れよう。

 

 

 続いてQuake 4の高負荷設定時におけるスコアをグラフ2にまとめた。グラフ1と同じ傾向だが,リングバスメモリアーキテクチャの効果か,高解像度時におけるスコアの落ち込みは,Radeonのほうがわずかに少ない。

 

 

 続いて,「F.E.A.R.」のスコアを見てみよう。標準設定のスコアをグラフ3にまとめたが,シングルカードではRadeon X1950 Proリファレンスカードが安定してGeForce 7900 GSを上回った。ただし,CrossFireによるスケーリングは,Radeon X1950 XTX比ならまずまずといえる一方,SLIに対しては大きく水を空けられている。

 

 

 グラフ4の高負荷設定も,標準設定と同様の傾向だ。4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した状態では,CrossFireスケーリングの非力さが強調されてしまう。

 

 

 続いてMMORPG「Lineage II」のスコアだ(グラフ5)。レギュレーション1.1解説ページにあるとおり,クロニクル5ではHDRレンダリング有効時にアンチエイリアシングを適用できないため,スコアは標準設定のみとなる。

 

 同タイトルでは,シングルカード動作時にRadeonシリーズ有利な傾向を示すが,予想実売価格3万円前後のRadeon X1950 Proが,実勢価格3万円台後半のGeForce 7950 GTを上回るスコアを出している点は注目したい。言うまでもなく,対GeForce 7900 GSでは圧勝。1600×1200ドットでも40fpsを超えているのは優秀の一言だ。
 ただし,CrossFire構成時は,スコアが伸びるどころか,シングルカード構成時よりも落ち込んでしまい,完成度の低さを露呈する結果となった。

 

 

 Half-Life 2: Episode Oneは,4Gamerのベンチマークテスト初登場となるので,テスト方法を説明しておきたい。
 同タイトルでは,Quake 4と同じく,コンソールからリプレイデータの保存と再生が可能だ。そこで,比較的HDR効果が高いゲーム中盤のシーンを“録画”したものを再生し,「Fraps 2.60」からフレームレートを取得する。計測時間は20秒。描画オプションは基本的にすべて「高」とし,HDRレンダリングも有効にしているが,ここを有効にするとGeForceシリーズで高負荷設定のスコアを取得できないため,Lineage IIと同じく,標準設定時のみでテストを行う。
 なお,今回利用したリプレイデータや,詳細なテスト方法は,近日中にレギュレーションとしてまとめて公開予定だ。詳細が気になっている人は,少々お待ちいただきたい。

 

 さて,結果はというと,シングルカード構成ではRadeon X1950 Proの優秀さが光る(グラフ6)。Lineage IIのように,GeForce 7950 GT以上……とまではいかないが,GeForce 7900 GSに対しては有意な差をつけている。Half-Life 2のSourceエンジンはもともとRadeonに最適化されているが,その恩恵を強く受けた結果といえる。
 また,最適化効果はCrossFire動作時にも見て取れる。Radeon X1950 ProのCrossFireは,Radeon X1950 XTXにも大きな差をつけ“独走”。最適化済みタイトルにおける実力を見せつけた格好だ。

 

 

 実際のゲームを用いたテストに続けて,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)で大まかな傾向を見てみることにしよう。何度も指摘しているとおり,3DMarkにおけるRadeonとGeForceの直接比較に意味はないので,基本的にはRadeonシリーズ同士で比較することにするが,総合スコアとなるグラフ7,8は,Half-Life 2: Episode Oneに似たグラフになっている。

 

 

 

 もう少し細かく見るべく,1024×768ドット,標準設定,シングルカード構成におけるFeature Testの結果をまとめてみた(グラフ9,10,11)。ドライバのバージョンが異なるうえ,動作クロックも異なるのであくまで参考程度になるものの,グラフ10で「ピクセルシェーダユニット数がR580の4分の3になっている」ことは十分に把握可能だ。
 逆に,グラフ11では,頂点シェーダユニットの数が同じであるため,Radeon X1950 ProとRadeon X1950 XTXのスコア差が動作クロック分の違い程度に留まっており,興味深い。

 

 

 

 

 最後に「3DMark06 Build 1.0.2」における1280×768ドット,標準設定の結果をグラフ12に示す。3DMark05でGeForce 7950 GTを上回っていたRadeon X1950 Proがここでは逆転されていたり,GeForce 7900 GSのSLI構成がRadeon X1950 XTXを上回っていたりと,3DMarkシリーズでRadeonとGeForceを比較することの難しさがよく分かる結果となっている。

 

 

 

Radeon X1950 Proの消費電力はGeForce 7950 GT並み
80nmプロセス採用の効果は確かにある

 

 消費電力について見てみよう。計測にはワットチェッカーを利用。Windows XPが起動してから30分放置した時点を「アイドル時」,3DMark05のGame Testsを30分間リピート実行し,最も消費電力が高かった時点を「高負荷時」として,その結果をグラフ13にまとめた。

 

 マザーボードが異なるGeForce 7900 GSのSLI構成は参考程度となるが,それ以外では,グラフィックスカードを除く環境が同じであるため,比較が可能だ。それを踏まえて見てみると,Radeon X1950 Proリファレンスカード搭載システムの,高負荷時における消費電力は209Wで,Geforce 7900 GSよりも約30W高い。だが,GeForce 7950 GTと同じ程度で済んでいる点は,80nmプロセス採用のメリットと評価していい。

 

 

 グラフ13の時点における,GPU温度を計測した結果がグラフ14だ。計測時の室温は21℃。当然のことながら,全製品でGPUクーラーが異なるので,直接の比較にそれほどの意味はないが,PowerColor X1950 PROが採用するArctic Cooling製クーラーの高い冷却能力は特筆できる。2スロット仕様のうえ,横方向にせり出す形状なのでユーザーを選ぶが,GPUの冷却能力を重視するなら,意味のある選択となりそうである。
 また,リファレンスの1スロット型クーラーも,冷却能力はまずまずのレベルにある。前述したように,排気の管理は少々難しそうだが,少なくとも素性は悪くない。また,動作音も思いのほか静かだ。

 

 

 

安定感に欠けるものの,ポテンシャルは非常に高い
価格も低く,GeForce 7900 GSと勝負できる存在

 

クーラーを取り外したRadeon X1950 Proリファレンスカード。試用した個体は2枚ともSamsung Electronics製の1.4ns品メモリチップを搭載していた

 以上,なかなかまとめづらい結果が出たわけだが,まず問題点を指摘しておこう。最適化が済んでいないタイトルにおけるCrossFireの体たらくや,いくら正式版のドライバスイートではないとはいえ,公式ドライバを利用しているにもかかわらず,登場から半年以上経過したゲームタイトルが動作しないという不安定さは,たいへん気になった。
 いずれもソフトウェア面の話なので,時間が解決する問題であり,ATI派からすれば「いつものこと」なのかもしれない。しかし,ゲーマーの嗜好が多岐にわたることを考えたとき,「ATIが最適化を行っているタイトルを除くと,ゲームプレイ時に安定してパフォーマンスを発揮するかどうか分からない」というのは,やはりどうかと思う。

 

 ただその一方で,ハードウェアのポテンシャルは,明らかにGeForce 7900 GSより上といってよさそうである。NVIDIAの次世代GPU,「G80」(開発コードネーム)の影が近づいてきている2006年10月中旬というタイミングは,決してベストではない――むしろ,致命的に遅い――が,最後の最後で,ミドルレンジにおいてNVIDIAと互角以上に勝負できるGPUが登場したこと,それ自体は大いに歓迎したい。

 

 また,別記事でお伝えしているとおり,店頭価格は2万8000〜3万2000円前後になる見込み。GeForce 7900 GS搭載製品の平均価格と比べると,若干高めではあるが,あくまで若干だ。2006年10月時点においてGeForceには不可能な「HDR+AA」が可能という点を考えても,Radeon X1950 Proは実に魅力的である。
 どうしてもさまざまな留保が必要になるため,万人向けではない。この点は非常に残念だが,ATIが最適化してくれそうな,DirectX 9世代の大作をこの年末にプレイしたいということであれば,Radeon X1950 Proは,GeForce 7900 GSと同等か,それ以上にコストパフォーマンスの高い199ドルGPUだ。

 

製品パッケージ

 最後に,PowerColor X1950 PROについても触れておくと,同製品のメリットは,一にも二にもArctic Cooling製クーラーということになる。Radeon X1950 Proを購入するに当たって,とにかく安定した冷却能力を確保したい場合には,十分お勧めできる。
 とはいえ,リファレンスカードのクーラーも悪くないので,このあたりは,予算や店頭価格を見ながら判断するといいだろう。

 

タイトル ATI Radeon X1900
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2006/01/24 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/radeon_x1950_pro/radeon_x1950_pro.shtml