― プレビュー ―
Core 2シリーズ対応チップセットの「対応状況」はいかばかりか
TForce P965 Deluxe
P5N32-SLI SE Deluxe
Text by Jo_Kubota
2006年7月21日

 

 2006年7月14日にお伝えしたCore 2 Extreme/Duoのプレビューは,Intel 975X Express(以下Intel 975X)搭載マザーボードのCore 2 Duo対応版を利用しての評価だった。だが,対応チップセットはそれだけではない。2006年7月21日時点で製品名が明らかになっているだけでも,以下のチップセットがCore 2 Duoを正式にサポートしているか,対応を謳っている。

  • Intel P965 Express
  • Intel G965 Express
  • Intel Q965 Express
  • nForce 590 SLI Intel Edition
  • nForce 570 SLI Intel Edition
  • nForce 4 SLI X16 Intel Edition(Core 2シリーズ対応版のみ)

 このうち本記事では,Intel P965 Express(以下Intel P965)と,Core 2シリーズ対応版のnForce4 SLI X16 Intel Edition(以下nForce4 SLI X16 IE)を採り上げてみたいと思う。前者はIntelをはじめとする何社かがすでに搭載マザーボードを市場に投入済み。後者は――現行マザーボードは非対応で,マザーボードレベルではIntel 975Xと同じく“新製品”が必要だが――既存のチップセットによる対応。その意味で後者についてはやや語弊はあるものの,「すでに市場で流通しているCore 2 シリーズ対応チップセット」同士を,Core 2シリーズの発売前に比較しておこうというわけである。

 

 

多くのスペックがIntel 975X Expressを上回る
Intel P965 Express

 

 Intel P965については,COMPUTEX TAIPEI 2006のレポートでも紹介しているが,もう少し踏み込んで説明しておこう。

 

Intel P965(型番 LE82P965)。ダイには刻印があるのだが,非常に薄く,特定の角度でしか読み取れなかった。上の画像をクリックすると表示されるほうの全体写真では,刻印が写っていないのでご了承を。ちなみにダイサイズは実測で11×12mmだった

 一言でまとめると,同チップセットは,Pentium 4/D用だったIntel 945P Expressの後継となる,ミドルレンジ向けのグラフィックス機能非搭載チップセットだ。もちろん最大の特徴はCore 2 Duoを正式に対応したことで,同じLGA775版CPUである,Pentium 4/DやCeleron Dにも対応する。
 ただ,2006年7月21日時点で公開されているIntelの資料には,どこにもCore 2 Extremeサポートについての言及がない。もっとも,Core 2 ExtremeとCore 2 Duoの間には大きなハードウェア的な違いがあるわけではないから,実際のIntel P965チップセット搭載マザーボードでは,多くが対応してくるのではないだろうか。

 

 スペック面を見てみると,Intel P965 Expressにはメモリ周りのアップデート項目が多い。とくに重要なのは,DDR2 800(PC2-6400メモリモジュール)に正式対応した点だ。2006年7月14日の記事でお伝えしたとおり,ハイエンド向けチップセットであるIntel 975XのDDR2 800サポートは非公式(公式にはDDR2 667までの対応)なので,デュアルチャネルアクセス時のメモリバス帯域幅は,チップセットの仕様上,Intel 975Xの10.6GB/sに対して12.8GB/sと,Intel P965のほうが上になる。

 

 また,Intel 975Xにない機能として,「Intel Fast Memory Access」(以下FMA)という機能が追加されているのもトピックだ。これは,これまでだとCPUやグラフィックス,各種I/Oからのリクエスト順に処理されていたメモリアクセスを,時系列を並び替えることによって効率よく処理しようというもの。うまく働けば,メモリアクセス時のレイテンシ低減やメモリ帯域幅の節約が可能となる。

 

一般的なセラミックパッケージを採用するICH8R。型番は「NH82801HR」となっていた

 サウスブリッジとなる「ICH」は,Intel 975/945世代の「ICH7」(あるいはRAID機能搭載のICH7R)から,Intel P965では「ICH8」(同ICH8R)になった。
 ICH8における最大のトピックは,Parallel ATA(≒IDE)インタフェースの廃止だ。Intelはレガシーデバイス,もっといえばパラレルインタフェースのデバイスをサウスブリッジから少しずつ排除してきたが,Parallel ATAの排除により,ICHにつながるインタフェースはほとんどがシリアル化を果たしたことになる(残る“大物”パラレルインタフェースはPCIくらいだ)。
 だが,現実問題として,新製品の多くがSerial ATAインタフェースへ移行したHDDはいいものの,光学ドライブは今もほとんどがParallel ATA接続。このため,Intel P965搭載マザーボードでは,別途コントローラを用意して,Parallel ATAインタフェースを用意することになっている。このあたりは,業界をリードして“いかねばならない”Intelの割り切りが見えるが,果たして光学ドライブがIntelの目論見どおりシリアルインタフェース化するかは,もう少し様子を見る必要がありそうだ。

 

 このほか,Serial ATAポート数が従来の4から6,逆にPCIスロット数が6から4へと変更されたのも,比較的大きな仕様変更といえる。

 

nForce4 SLI X16 IE(Core 2 Duo対応版)のブロックダイアグラム

 続いてはnForce4 SLI X16 IEのCore 2シリーズ対応版だが,これは言ってしまえば,2005年8月9日に発表されたnForce4 SLI X16 と,基本的には同じもの。Core 2シリーズに対応すべく電源周りに手が加わっている以外,これといった違いはない……と書くとネガティブに聞こえるかもしれないが,Intel製チップセットでは非対応のNVIDIA SLIをサポートし,しかもPCI Express x16スロットはいずれも16レーンのフルスペックで動作するという,重要なメリットにも変わりはない。

 

 これらとIntel 975X,そしてIntel 945P Expressとの違いは表1にまとめておいたので,参考にしてほしい。

 

 

 

やや変則的なテスト環境に注意

 

 今回,テスト用に用意したのは,BIOSTAR MICROTECH(以下BIOSTAR)製のIntel P965搭載マザーボード「TForce P965 Deluxe」と,ASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)製のnForce4 SLI X16 IE搭載マザーボード「P5N32-SLI SE Deluxe」。前者は「マザーボードそのものと付属品は製品版」というレベル,後者はNVIDIAから入手した評価機であり,いずれも最終製品とは仕様や性能が異なる可能性がある。この点はあらかじめお断りしておきたい。

 

TForce P965 Deluxe
メーカー:BIOSTAR MICROTECH
実勢価格:1万6000円前後(2006年7月21日現在)
問い合わせ先:MVK(販売代理店)
support@mvk-japan.com

 というわけで,TForce P965 Deluxeから見ていくことにするが,BIOSTARというと,これまでは安価さがウリといった印象が強かったのに対し,今回はずいぶんとイメージが異なる。パッケージには,マザーボードのほかに,各種ケーブルやマニュアル入りのソフトケース,アナログ接続ヘッドセット,そしてなぜか各種キャリアに対応した携帯電話のUSB充電器が付属。先ほど述べたように今回テストしたのはサンプルだが,2006年7月21日現在,秋葉原では一部ショップの店頭で購入できるようになっている。
 気になるParallel ATAインタフェースは,VIA Technologies製の「VT6410」IDE RAIDコントローラが提供。光学ドライブからのブートが可能だ。拡張スロットはPCI Express x16/x4/x1スロット各1に,PCIスロット×3となっている。PCI Express x4スロットは4レーン動作である。

 

TForce P965 Deluxeの付属品。左から,各種ケーブルやマニュアルにドライバCD-ROM入りのソフトケース,アナログ接続ヘッドセット,ナゾのUSB携帯電話充電器

 

ストレージ周りを拡大してみた。ICH8Rによって6ポートのSerial ATAが用意され,一方VT6410がParallel ATA×1を提供している

 

P5N32-SLI SE Deluxe
メーカー:ASUSTeK Computer

 次にP5N32-SLI SE Deluxe。こちらは,ASUSTeK製の従来製品「P5N32-SLI Deluxe」と外観的には大きく変わっていないようだが,型番に「Special Edition」を意味する「SE」が加わり,新製品として登場することになる模様。発売日と価格はいずれも未定だ。
 ちなみに,従来製品と見分ける最大のポイントは,SLI給電用の12V 4ピンコネクタの有無。回路面の見直しによるものと思われるが,P5N32-SLI SE Deluxeではこのコネクタが省略されている。

 

左はCore 2 Duoをサポートせず,「SE」の付かないP5N32-SLI Deluxeの写真。4ピンコネクタのところを○で囲んでみた。これがないものがCore 2 Duo対応,という理解でOKだ。なお,こういったハードウェア的な変更に合わせてボードのリビジョンは上がっており,P5N32-SLI SE Deluxeでは整数部が2(P5N32-SLI Deluxeでは1)になっている

 

 両製品とも,Core 2 Extreme X6800/2.93GHzが動作したため,テストには同CPUを用いることにした。また,比較対照用に,Intel 975X搭載マザーボードであるIntel製マザーボード「D975XBX」を用意している。D975XBXで拡張版Intel SpeedStepテクノロジ(以下EIST)が無効にならないという問題は,最新BIOSであるバージョン1334で解消しているようだが,今回は日程の都合上,バージョン1226を利用した。
 また,メモリ設定に関していうと,今回はレイテンシを4-4-4-12に揃えてテストを行おうと試みたのだが,TForce P965 Deluxeでは4-4-4-12に設定すると起動できなかったため,5-5-5-15にしている。スケジュールの都合上,TForce P965 Deluxeのテストが一番最後に回った関係で,このような事態になってしまったのは申し訳ないが,最終製品とは異なるものを用いたプレビューということでご容赦いただきたい。代わりといってはなんだが,TForce P965 Deluxeについては,DDR2 800設定だけではなく,DDR2 667設定でもテストを行っている。

 

 このほかテスト環境は表2のとおり。グラフ内に限り,TForce P965 Deluxeは「P965」,P5N32-SLI SE Deluxeは「P5N32」と表記する。なお,テストは,4Gamerのベンチマークレギュレーション1.0を利用して行うので,詳しいセッティングはそちらを参照してほしい。

 

 

 

性能面で大きな違いはないが
FMAとSLIの効果には注目したい

 

 CPUやGPU(グラフィックスチップ)の比較ではないため,スコアには劇的な差が付きづらいことを踏まえつつ,実ゲームアプリケーションのテスト結果を見てみよう。グラフ1「Quake 4」の結果をまとめたものだが,いったんSLIのスコアを置いておいて話を進めると,TForce P965 Deluxeのスコアが若干よく,FMAの効果らしきものがうかがえる。

 

 

 そこで,L2キャッシュの容量がベンチマークスコアを左右しやすく,相対的にFMAが効きにくそうな「F.E.A.R.」「TrackMania Nations ESWC」(グラフ2,3)を見てみると,やはりTForce P965 Deluxeのスコアが低めに出ており,FMAの効果が裏付けられたといえそうだ。
 同時に,F.E.A.R.でIntel製チップセットを抑えてトップに立っているnForce4 SLI X16 IE(=P5N32-SLI SE Deluxe)が,TrackMania Nationsでは大きくスコアを落としており,まだメモリ周りでは不安要素を抱えていることがうかがえる。

 

 

 

 「Lineage II」のテスト結果はグラフ4のとおり。Lineage IIのようなMMORPGの場合,CPUの性能がゲームの体感を左右しやすく,逆にいえば,CPUが同じ今回のようなテストでは,1280×1024ドット時のような,フラットなグラフになると予想していたのだが,1024×768ドットの結果は,予想よりデコボコしたものになった。これは,負荷が軽すぎて,空回りしたような感じになったためだろう。

 

 

 最後に,グラフィックスカードの性能がモノをいいやすい,「3DMark05 Build 1.2.0」と「3DMark06 Build 1.0.2」のスコアをグラフ5,6に示す。グラフ5については,低解像度のテスト結果を理由に,1600×1200ドット設定のテストを省略しているが,見て分かるとおり,スコアの差はほとんどない。GPU側がボトルネックになる状態において,チップセットの違いや,メインメモリレイテンシの違いは,ほとんど意味を持たないようである。

 

 

 

 SLIについても言及しておく必要があるだろう。SLIについては,とくに比較対象があるわけではなく,現時点では「ひとまず測定してみた参考データ」の域を出ないが,これまで4Gamerで再三指摘してきたSLI構成時におけるCPUのボトルネックは,Core 2 Extreme X6800によって,かなり解消した印象を受ける。
 例えばQuake 4のベンチマークテストを採り上げてみよう。4Gamerでは,レギュレーション1.0を公開する前からこのベンチマークテストを使っているが,従来は終了までに一定時間を用意していた1600×1200ドット設定時に,テストが4〜5秒で終了するあたりは,かなり衝撃的だった。4Gamerのベンチマークレギュレーションに沿って別のハードウェア構成のPCと比べれば,4〜5秒という値の“すごさ”が分かるはずなので,時間のある人は試してみてほしい。

 

 

Intel P965 ExpressとnForce 590 SLIが
次世代のゲーマー向け標準に?

 

 今回はスケジュール的な制約があったため,テスト結果から明快な結論を出すのが難しい。このため,テスト結果を元にした筆者の予測が含まれることを断ったうえで話を進めるが,TForce P965 Expressが,メモリのレイテンシ設定が不利であるにもかかわらず,D975XBXと同等のスコアを出している点は,大いに評価していいだろう。Intel P965マザーボードが潤沢に出回り,“初物”に付きものの細かなトラブルが解決してくれば,Intel 975Xよりも高いスペックと相まって,多くのゲーマーに勧められる,標準的なチップセットということになりそうだ。

 

 また,P5N32-SLI SE DeluxeのSLIパフォーマンスを見ると,NVIDIAの次世代チップセットである,nForce 590 SLI Intel Edition(以下nForce 590 SLI IE)への期待が高まってくる。
 まだP5N32-SLI SE Deluxeの製品版が発売されてもいない状況なので,気が早いと思うかもしれないが,マザーボードメーカー筋の情報によれば,nForce 590 SLI IEの登場は2006年8月,つまり来月だ。もちろん,噂どおりコトが運ばないのもPC業界の常なのだが,それでも,こういった噂が流れる以上は,そう遠い未来でもないはず。Intel 975XとIntel P965を持ち出すまでもなく,nForce4 SLI X16 IEよりもnForce 590 SLI IEのほうがスペックでは上になるわけで,仮に噂どおりのスケジュールで登場するなら,SLIを想定したゲーム環境は今後,nForce 590 SLI IEを中心に展開することになるのではないだろうか。

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/p965_nf4_pre/p965_nf4_pre.shtml