― レビュー ―
クアッドコアCPU「Core 2 Extreme QX6700」はゲームに向くのか?
Core 2 Extreme QX6700/2.66GHz
Text by 宮崎真一
2006年11月2日

 

Core 2 Extreme QX6700/2.66GHzのエンジニアリングサンプル

 2006年10月27日の記事でお伝えしたとおり,Intelは11月中に,開発コードネーム「Kentsfield」(ケンツフィールド)こと「Core 2 Extreme QX6700/2.66GHz」を発表予定だ。
 今回4Gamerでは,「エンジニアリングサンプル」と呼ばれる開発者向けサンプルの,B3ステッピング(B3-Step)品を入手したので,x86アーキテクチャ初のデスクトップ向けクアッドコアCPUが,ゲーマーにとってどういった意味を持つのかを,さっそく見ていきたいと思う。

 

 

ConroeコアのCPUダイ2個が一つのパッケージに
L2キャッシュ容量は共有4MB×2

 

ヒートスプレッダを外した状態のKentsfield。Preslerコア版Pentium Dが,Cedermillコア版Pentium 4のCPUコアを2個使ったマルチチップ(=“デュアルダイ”)構造だったのを記憶しているの人は多いと思うが,Kentsfieldも同様なのがこの写真から分かる

 Core 2 Extreme QX6700は,一つのCPUパッケージに4個のCPUコアを内蔵する仕様だ。正確を期すと,一つのCPUパッケージに,ConroeコアのCPUダイを2個収めた構造になっており,2.66GHz動作のデュアルコアCPU「Core 2 Duo E6700/2.66GHz」を2個搭載したCPUとイメージするのが最も分かりやすい。

 

 こういった構造のため,L2キャッシュ容量は,一つのCPUダイ――2個のCPUコアごとに共有で4MBとなる()。
 Core 2 Duoのテストで明らかになったように,特定の1スレッドの負荷が高くなりがちなゲームアプリケーションでは,1CPUコアが利用できるL2キャッシュ容量の多いほうが有利だ。その意味では,マルチチップ構成を採用するCore 2 Extreme QX6700の“4MB×2”よりは,共有で8MBのほうが,パフォーマンスはより高くなったはず。また,L2キャッシュ内容の同期や,整合性を取る必要が出てきたときには,二つのダイ間でFSB(フロントサイドバス)を利用したデータ転送が必要になるため,パフォーマンスには負の影響が出てしまう。
 ただし,Core 2 DuoのCPUダイをそのまま流用してクアッドコア化できるため,開発期間やコスト面でのメリットも見逃せない。AMDに先駆けてクアッドコアをリリースしたかったIntelは,Kentsfieldにおけるこのアプローチが適切と判断したのだろう。

 

Kentsfield(左)とConroe/Conroe XE(右)のイメージ。ConroeコアのCPUが二つあって,それがFSB(図中水色の矢印)でつながったものがKentsfield,という理解で問題ない

 

 

定格&オーバークロックテストで
Kentsfieldの素性を明らかに

 

 CPUの詳細情報を表示できるフリーソフトウェア「CPU-Z」で,Core 2 Extreme QX6700とCore 2 Duo E6700/2.66GHzのスペックをそれぞれチェックして,下に並べてみた。また,細かなスペックは表1にまとめたので参考にしてほしい。

 

左がCore 2 Extreme QX6700のエンジニアリングサンプル,右が製品版のCore 2 Extreme E6700のスペックを,CPU-Zでチェックしたもの。基本的な仕様は同じであることと,同ソフトがCore 2 Extreme QX6700を「Core 2 Quad」として認識していることが分かる(※それぞれ,クリックすると全体を表示します)

 

 

EN7900GTX/2DHT/512M
「Splendid」など多くの独自機能を持つハイエンドカード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 テスト環境は表2にまとめたとおり。Core 2 Extreme QX6700が対応するチップセットはIntel 975X Expressのみで,Intel P965 Expressは非対応となるが,マザーボードメーカーが独自にCore 2 Extreme QX6700をサポートする例は少なくない。ASUSTeK Computerもそんなメーカーの一社で,4Gamerがリファレンスマザーボードとして利用している「P5B Deluxe」のほかにも,多数の製品が(BIOSを最新版に更新することで)対応すると,Webサイトで告知中だ。そういった状況を踏まえ,今回は4GamerのリファレンスシステムであるIntel P965 Expressベースでテストを行っている。
 なお,4Gamerが独自に入手した情報によると,メーカーによっては,特定の廉価モデルが非対応だったりする場合もあるようだ。対応マザーボードについては,必ずマザーボードメーカーの公式情報を確認してほしい。

 

 

 また,4Gamerのベンチマークレギュレーションは,10月31日に公開したバージョン2.0に準拠。ただ,せっかくIntl P965 Expressマザーボードを使っているので,先に同じ環境でテストを行ったCore 2 Duo下位モデルのベンチマークスコアと比較しやすくするため,バージョン1世代のベンチマークタイトルである「TrackMania Nations ESWC」(以下TMN),そしてPCアプリケーションの総合ベンチマークテストである「PCMark05 Build 1.1.0」(以下PCMark05)のスコアも取得している。また,グラフィックスカードへの負荷が高くなり,いきおいCPUパフォーマンス差が見えにくくなる高負荷設定でのテストは行わず,すべて標準設定のテストにしてあるというのも,先のCPU検証記事と同じだ。

 

P5B DeluxeのBIOSメニューからCPU動作倍率を12倍に設定している例。なお,試用した個体ではFSB 266MHz×12の3.19GHzで問題なく動作した

 なお,今回はCore 2 Extreme QX6700のオーバークロックテストも行っている。
 “Extreme”モデルということもあり,Core 2 Extreme QX6700は,CPU動作倍率の変更が可能。定格がFSB 266MHzの10倍であるのに対し,BIOSからは最高12倍の設定が可能だった。
 そこで,ボックスクーラーを用いた空冷という条件において「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3Dmark06)とPCMark05のテストが完走したら「安定動作した」と判断することにして,BIOSからオーバークロックを試みたところ,試用した個体は最終的にFSB 324MHz(システムバス1296MHz)×10の3.24GHzで動作するのを確認できた。以下グラフ内ではこれを「C2E QX6700(FSB 324MHz)」と表記する。 ちなみに,CPUコア電圧を上げても,これ以上のオーバークロックは不可能だったが,その理由についての考察は後ほど行いたい。

 

 ところで,これは言うまでもないが,オーバークロックはメーカー保証外の行為だ。オーバークロックによってCPUが壊れても,Intelや販売店,筆者,4Gamer編集部のいずれも一切の責任を負わないため,自己責任となる点には十分な配慮が必要なことをお忘れなく。

 

 

「マルチスレッド最適化済み」タイトルの
「低負荷時」にはクアッドコアのメリットが

 

 それでは,ベンチマークテスト結果を順に見ていくことにしよう。
 グラフ1は3DMark06のテスト結果である。総合スコアとなるGame Testsでは,同じ2.66GHz動作のCore 2 Duo E6700に対して450以上という差をつけており,2.93GHz動作のCore 2 Extreme X6800と比べてもスコアは上だ。CPUパフォーマンスを計測するCPU Testsの結果はより顕著で,3DMark06におけるマルチスレッドへの最適化は,間違いなくクアッドコア有利に働いているといえる。

 

 

 グラフ2は「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)の結果である。アプリケーションの世代的に,3Dmark06ほどにはマルチスレッドへの最適化が行われていないこともあって,Core 2 Extreme QX6700のスコアは,Core 2 Duo E6700と比べて伸びてはいるが,Core 2 Extreme X6800のスコアは下回っており,劇的でない。

 

 

 3DMarkの結果からして,Core 2 Extreme QX6700が優位性を発揮するかどうかは,アプリケーション側のマルチスレッド最適化具合にかかっていそうである。
 となると,まずチェックしたいのは,マルチスレッドへの最適化が行われている「Quake 4」(Version 1.2)だ。テスト結果はグラフ3にまとめたが,描画負荷の低い1024×768ドット時に,Core 2 Extreme QX6700のスコアが,Core 2 Duo E6700に33fpsという大きな差をつけている点に注目したい。Core 2 Extreme X6800と比べても11fpsという差があり,Quake 4における,クアッドコアの効果は明らかである。
 また,オーバークロックを行うと,1024×768ドット時に200fps近い平均フレームレートを叩き出している点は,特筆に値する。ただし,そんな優位性も,1600×1200ドットだとわずか数fpsになってしまうことは覚えておきたい。

 

 

 続いて「Half-Life 2: Episode One」(グラフ4)。Quake 4ほどではないものの,1024×768ドットにおいて,Core 2 Extreme QX6700のスコアがCore 2 Extreme X6800を上回っており,クアッドコアのメリットが見て取れる。一方,オーバークロックの効果は小さい。

 

 

 Quake 4やHalf-Life 2: Episode Oneと対照的な姿を見せるのがグラフになるのが,「F.E.A.R.」(Version 1.08)のスコアである(グラフ5)。
 F.E.A.R.においてCore 2 Extreme QX6700のスコアは,Core 2 Duo E6700と見事に同程度。F.E.A.R.はマルチスレッドへの最適化が行われていないため,1CPUコアのパフォーマンスが,クロックに応じてそのままグラフに反映されているわけだ。

 

 

 グラフ6の「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)もF.E.A.R.と同じ傾向を示している。GTR2は描画負荷がそれほど高くなく,同時にCPUよりもグラフィックスカードの性能がスコアを左右しやすいタイトルということもあって,そもそもCPUの違いがスコアには影響しにくい。そのため,描画負荷の低い1024×768ドットでも,ForceWareのマルチスレッド最適化がわずかに効いていそうなのを確認できるだけである。オーバークロック動作でスコアが大きく伸びるのを見ても,CPUコアの数がスコアを大きく左右しているとはとてもいえない。

 

 

 レギュレーション1世代のテスト対象だったTMNは,GTR2よりさらに描画負荷の低いタイトルということもあり,同じ動作クロックのCore 2 Extreme QX6700とCore 2 Duo E6700で比較すると,1280×1024ドットで2fps強と,それなりの差が見て取れる(グラフ7)。だが,そのスコアは2.93GHz動作のCore 2 Extreme X6800を上回るほどではなく,4コアのメリットというほどでないのも確かだ。

 

 

 グラフ8の「Lineage II」も,「スコアにクアッドコアのメリットがないわけではないが,CPUコアの数が倍増したにしては劇的でない」という意味で,F.E.A.R.やGTR2,TMNと同様といえる。

 

 

 最後に,参考としてPCMark05のスコアも示しておく(グラフ9)。CPUスコアの詳細は別途表3にまとめたので,興味のある人は参考にしてほしい。マルチスレッド対応アプリケーションや,複数の一般アプリケーションを同時に利用するような,いわゆるベストケースでは,クアッドコアに期待してもよさそうではある。

 

 

 

消費電力は著しく上昇
冷却機構への要求も高くなる

 

Core 2 Extreme QX6700のCPU底面。LGA775パッケージのCPUという意味では,従来のCore 2 Duo系デュアルコアCPUと変わりない外観だ

 2個のCPUダイを一つのCPUパッケージに収めた“先駆者”の「Pentium D」には,その弱点として,消費電力の高さがついて回っていた。となると,同じ構造を採用するCore 2 Extreme QX6700にも同様のことが言えそうだが,果たしてどうだろうか。
 ワットチェッカーでシステム全体の消費電力を計測し,まとめたのがグラフ10だ。グラフ中の「アイドル時」はOS起動後30分放置した直後,「高負荷時」は,なるべくCPUだけに負荷をかけるため用意したMP3エンコードソフトベースのベンチマークソフト「午後べんち」を30分連続実行し,最も消費電力の高かった時点を示しており,それぞれの時点における消費電力をスコアとした。

 

 グラフを見れば明らかなように,Core 2 Extreme QX6700は,アイドル時こそ,Core 2 Extreme X6800よりやや高い程度に収まっているものの,高負荷時になるとCore 2 Extreme X6800の+52W。Core 2シリーズは,Pentium Dと比べて消費電力が大幅に下がり,それが特徴となっていたが,消費電力に関してはまたPentium D時代に戻ってしまったかのような印象を受ける。
 オーバークロックを行うと,消費電力の増大はさらに顕著となり,Core 2 Duo E6700と比べて120Wも高くなった。

 

 

 最後にグラフ11は,グラフ10の時点におけるCPUコア温度を,「Core Temp」で測定したものだ。
 EISTが有効で,動作クロックが1.6GHzまで落ちている状態では目立たないものの,無効化されると,既存のCore 2シリーズと比べて,Core 2 Extreme QX6700の温度が高いのが分かる。また,高負荷時で比較すると,Core 2 Extreme QX6700のファン回転数が,Core 2 Extreme X6800やCore 2 Duo E6700のそれよりも,耳で違いを聞き分けられるほど自動的に引き上げられるにもかかわらず,CPU温度は80℃前後にまで達してしまう。
 ちなみに,オーバークロック時は90℃を超えてしまっている状態。CPUコア電圧を上昇させても,試用した個体が3.24GHz以上で動作しなかったのは,このCPU温度が原因と思われる。

 

 

 

クアッドコアが意味を持つかはあくまでゲーム次第
対応タイトルの登場を見極めたい

 

デバイスマネージャで確認すると,CPU-Zから見たときと同じく,Core 2 Extreme QX6700はCore 2 Quad×4として認識されている

 以上のベンチマークから確実に言えるのは,Quake 4にどっぷりハマっていて,Quake 4におけるフレームレートを1fpsでも向上させたいのであれば,Core 2 Extreme QX6700が最良の選択肢になるということだ。ただこれは,F.E.A.R.やGTR2などのような,マルチスレッドに最適化されていないタイトルを多くプレイする,ほとんどのゲーマーにとって,Core 2 Extreme QX6700が,まだそれほど“引き”のある存在ではないということと,もちろん同義である。
 NVIDIAによれば,ForceWareは今のところクアッドコアに最適化されていない――今回スコアがわずかに上がったのは,2スレッドに対して4MB×2のL2キャッシュがうまく働いたからに過ぎない――ので,ドライバに期待するのはやはり無理があろう。

 

 ただし,Xbox 360とプレイステーション3の効果かどうかはさておき,2007年には,注目のFPS「Crysis」をはじめとして,マルチスレッド最適化タイトルのリリースが,少なくとも10本以上予定されている。また,2006年10月27日の記事でお知らせしたように,Intelは2007年の夏頃をめどに,より安価なクアッドコアCPUを投入する可能性がある。ゲームのタイトル的にも,コスト的にも,クアッドコアに追い風は吹いてきそうだが,それは今すぐではなく,あともう少し先になりそうだ。
 そうなると,マルチスレッド最適化タイトルが出揃い,同時に導入コストが下がるまで,クアッドコアに対しては注意深く見守りつつ,“待ち”を決めこむのが,ゲーマーとしての正しいスタンスであるように思う。少なくとも,まだ価格の発表されていないCore 2 Extreme QX6700が,仮に最近の“Extreme”モデルに共通した999ドルという価格で登場するのなら,2006年秋の時点では見送りが正解である。

 

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/kentsfield/kentsfield.shtml