― 連載 ―


ロンギヌスの槍(Spear of Longinus)
 キリストを貫いた槍 
Illustration by つるみとしゆき

 新約聖書では,イエス・キリストは12人の弟子と共に各地を放浪して教えを説きながら,数々の奇跡を起こしたとされている。キリストは,神はすべての者に平等の愛を与えると説いていたが,当時力を持っていたユダヤ教では,神は人を裁く存在とされており,こうした教義の違いから,キリストはユダヤ教に不興を買ってしまう。さらに弟子のユダの裏切りも手伝って,キリストはユダヤ教徒に捕らえられると,ゴルゴダの丘で十字架に磔にされてしまった。
 この逸話はキリスト教に詳しくない人でも知っているほど有名な話だが,ここに一振りの武器が登場する。それがロンギヌスの槍(Spear of Longinus)である。これは,磔になったキリストの死を確認するために,キリストの脇腹を突いたとされる槍。槍を用いた兵士は視力が悪かった(白内障とも)が,したたり落ちたキリストの血液が目に入ると,視力を取り戻したという。奇跡を体験した兵士は洗礼を受け,やがて聖ロンギヌスとなり,キリスト教の布教に努めたという。

 世界を統べる槍 

 キリストの脇を貫いたロンギヌスだが,次第に聖遺物としての価値が高まっていく。「運命の槍」(Spear of Destiny),「聖なる槍」(Holy Lance)などと呼ばれるようになり,いつの頃からか「ロンギヌスの槍を持つ者は世界を統べる」とささやかれるようになったのだ。そのためにローマのコンスタンティヌス1世,西ゴートの王アラリック,東ゴート王のテオドリック,ローマ帝国のカール大帝(シャルルマーニュ),フリードリッヒ1世(バルバロッサ)など,多くの権力者がロンギヌスの槍を欲した。
 ほかには,ナポレオンなどもロンギヌスの槍に激しい執着心を燃やし探索させているが,略奪を恐れた人々によって槍はニューンベルクからウィーンに運ばれ,結局ナポレオンが槍を手にすることはなかったのである。
 また槍にまつわる逸話としては,十字軍の話も興味深い。第一次十字軍遠征の際,アラビア軍と戦っていた十字軍は圧倒的に劣勢だった。ある日,十字軍の一人は啓示を受けて導かれると,地中から一本の槍を発見した。その槍は,かつてコンスタンティヌスが持っていたロンギヌスの槍で,サラセン人の略奪を恐れて埋められたものらしく,これを契機に十字軍は劣勢を挽回。見事アラビア軍に勝利を収めるのだった。これは偽モノだったとする説もあるが,とはいえロンギヌスの槍による士気向上の効果は素晴らしく,戦局を一変させてしまったというだけでも,その大きな価値が理解できるというものだ。
しかしロンギヌスの槍を所持することは,大きな力を手に入れるのと同時に,危険を伴うとの説もある。カール大帝やフリードリッヒ1世は破竹の勢いで戦いに勝利したが,槍を落とすとなぜか直後に死を迎えている。これはヒトラーも同じで,彼は1945年4月30日午後2時10分に自殺しているが,実はそれをさかのぼること1時間20分,アメリカ軍がニューンベルクの教会に突入し,ヒトラーの手からロンギヌスの槍を奪還しているのである。

 複数のロンギヌス 

 ロンギヌスといネーミングには諸説あり,キリストを刺した兵士が「ロンギヌス」(Longinus)であったためとするもの,ギリシャ語で「槍」を表す「ロンケー」が訛ったとするもの,キリストを刺した槍が長かったことから,当初は長い槍としか記述されていなかったが,ラテン語で「長い」を示す「Longus」が誤訳されて生まれたとするもの,古代ローマで「暗殺者」を表す「ロンギヌス」(カエサルの暗殺をブルータスと共に実行した人物が語源)からきたとするものなどがある。
 現在,なぜかロンギヌスの槍は複数存在している。有名どころではバチカンのサン・ピエトロ大聖堂が秘蔵している(未公開)ほか,ウィーンのホーフブルグ宮殿内で展示されている。
 なおウィーンで展示されているロンギヌスの槍はレプリカで,本物はヒトラーの手によって別の場所(南アフリカ説や南極説がある)に移送されたとする仮説もあるようだ。世界を統べるとされる槍だけに,未だに歴史の陰では争奪戦が繰り広げられているのかもしれない。

 

フレイの剣

■■Murayama(ライター)■■
先日洗濯をしていて,「どうも靴下が多いなぁ」と思ったMurayama。気になるので家にある靴下を数えてみたら,なんと80組もの靴下があったそうだ。なにか,一般人には理解できない特殊な趣味でもあるのかと思いきや,「一時期,洋服を使い捨てにしてたから,捨て損なった靴下だけがたまっちゃったのかも」とのこと。靴下プレイにハマッているわけではないようで,一安心である。しかし,洋服を使い捨てって,どんな富豪ライターなんでしょうか。

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http://www.4gamer.net/weekly/sandm/063/sandm_063.shtml