― 連載 ―


アンドゥリル(Anduril)
 指輪物語に登場するアンドゥリル 

 J.R.R.トールキンの手になる「ロード・オブ・ザ・リング」(指輪物語)の,作り込まれた世界観に魅力を感じる人は多い。もちろん筆者もその一人だ。それまで曖昧であったドワーフやエルフに明確な性格付けをしたのもトールキンであり,現在のファンタジーゲームに登場するドワーフやエルフなどには,「ロード・オブ・ザ・リング」の影響を受けているものが多い。トールキンは言語学者であったこともあって,独自にエルフ語などを創作してしまったことからも,彼が「ロード・オブ・ザ・リング」の舞台となる世界に大きな愛を持って接していたことが窺える。以前「こちら」で,「ロード・オブ・ザ・リング」の主人公であるホビットのフロドが持っていた「スティング」(つらぬき丸)について解説したが,今回は物語中でも大きな役割を果たすアンドゥリル(Anduril)について話してみよう。

 人間の王エレンディルと魔王サウロン 
Illustration by つるみとしゆき

 「ロード・オブ・ザ・リング」では,すべてを統べる一つの指輪を巡って,ホビット/エルフ/ドワーフ/人間と,魔王サウロン(Sauron)の軍勢がしのぎを削ることになる。が,実はそうなる以前,すでに人間達はサウロンと戦っている。そのとき人間の王であるエレンディルは,ドワーフの名工テルハール(Telchar)によって鍛えられたナルシル(Narsil)という剣を用いてサウロンと戦った。
 この戦いでサウロンとエレンディルは相討ちとなり,ナルシルも二つに折れてしまった。そこでエレンディル(Elendil)の息子であるイシルドゥア(Isildur)は,折れたナルシルを使ってサウロンの指を切り落とし,そこから指輪を奪取した。この指輪こそが「ロード・オブ・ザ・リング」で問題になる指輪で,イシルディアが川で紛失してしまい,やがてゴラム(ゴクリ)のものとなり,ゴラムからビルボ,ビルボからフロドの手へと渡ることになるのだ。
 少々話がそれてしまったが,前述した戦いで折れてしまったナルシルは,イシルドゥアから従者オホタールに渡され,イシルドゥアの末子ヴァランディル(Valandil)が育てられていた裂け谷へ運ばれた。こうしてナルシルは,エルロンドの嫡男に伝えられることになったのである。

 ナルシルからアンドゥリルへ 

 「ロード・オブ・ザ・リング」の後半で,エルフの住む裂け谷で開かれたエルロンドの会議が開かれた。この会議では指輪やサウロンについて話し合われたあと,ナルシルは新たに鍛え直されてアンドゥリルと命名。以後,アラゴルンの剣として活躍する。また,その鞘はエルフの王妃であるガラドリエル(Galadriel)からの贈り物であると同時に,彼女から「もしも戦いに敗れたとしても,アンドゥリルは決して折れず,汚されることもないでしょう」と予言された。ちなみにアンドゥリルというネーミングはシンダール語(Sindarin)で"西方の焔"という意味である。
 アラゴルンはアンドゥリルを手に,婚約者であるエルフの姫君アルウェン(Arwen)から贈られた,ロヘリン(Roheryn)という愛馬にまたがって戦場を駆けた。アンドゥリルは片手で持てる両刃の剣で,刀身には三日月と太陽,七つの星,ルーン文字が刻まれていたという。この剣と彼の戦術/戦略が功を奏したこともあって指輪戦争は終結し,彼は偉大なる王として人間の王国を統治。なおアラゴルンの死後は第一子のエルダリオンが継ぎ,その後も素晴らしい治世に邁進した。
 これは余談だが,「ロード・オブ・ザ・リング」というと,アラゴルンの恋愛にも注目する人が多いようなので,少しだけ補足しておこう。アラゴルンの妻となったアルウェンはエルロンドの娘であり,美しいエルフの姫君として描かれている。本作の中ではエルフはほぼ不死の存在となっているが,なんと人間と結婚するためにアルウェンは永遠の命を捨てることを決意した。結果,戦争で大きな活躍をしたこともあって二人は結婚を許され,数人の子供を設けて幸せな生活を送った。やがてアラゴルンが亡くなるとアルウェンは黄金の森ロスロリアンへと戻った。これには大きな理由がある。実はロスロリアンにはアラゴルンと結婚を誓ったケリン・アムロスの丘があり,彼女はそこを最期の場所と決めていたのだった。



■■Murayama(ライター)■■
メタル大好きなMurayamaは,当然ギターを持っている。とはいってもつい数年前に購入したフェルナンデスのZO-3(ぞうさんギター )で,しかもあまり弾けない模様。上手くなるには,とりあえず自分の好きなミュージシャンのスコアを買って練習すべしとアドバイスされているのだが,好きなギタリストが超絶速弾きタイプばかりで途方に暮れているらしい。