― 連載 ―


オートクレール(Halteclere)
 ローランの歌 

Illustration by つるみとしゆき
 フランスを代表する叙事詩ともいわれる「ローランの歌」では,シャルルマーニュに仕えた勇者ローランの活躍が描かれている。ローランに関する逸話というとロンズヴォー峠での戦いが有名で,その内容は一大悲劇となっている。ローランとデュランダルについては以前に「こちら」で紹介したので,今回はローランと共に活躍したオリビエにスポットを当ててみよう。
 ローランの歌におけるオリビエは"智将"と称される人物で,主人公のローランとは親友の間柄である。オリビエはロンズヴォー峠で,わずか2万の軍勢で10万のイスパニア軍と対峙したときには,角笛オリファンを吹いてシャルルマーニュに援軍を要請しようとローランに進言したが,救援を求めることを恥であるとしたローランによって却下されてしまい,全滅の危機にさらされてしまった。そして今度はローランが救援をと言うが,オリビエは今更,角笛を吹いて救援を求めることこそ恥であり名誉に関わる! と反論。この口論にチュルパン大僧正が割って入り「今,角笛を吹いてもすでに手遅れだが,吹かないよりはましだ。必ずシャルル王がかたきを取ってくれるはず」と諭して,角笛は吹かれるのだった。激戦のさなかで,ローランを始めとするシャルルマーニュの12騎士達は続々と命を落とし,王が到着したときにはローランもオリビエもすでに亡くなっていた。

 オリビエとローラン 

 実はオリビエの妹であるオードは,ローランの婚約者である。これについては,武勲詩「ガラン・ド・モングラーヌの武勲詩」を題材にヴィクトル・ユゴーが書いた「ローランの結婚」で,そのいきさつが書かれている。
 「ローランの結婚」では,オリビエとローランがローヌ川の中州で数日に渡って決闘することになり,決闘の序盤はデュランダルを手にしたローランにオリビエは苦戦させられる。あまりに強力な剣の腕の前に兜は脱げ(割れた?),剣を落としてしまうのだった。しかしローランは武器を持たぬ者と戦うのは性に合わないと,オリビエの新しい剣を従者に持って来させるという余裕を見せる。ここで従者が持ってきた剣がオートクレールで,以後3日経っても決着がつかないまま,決闘は続けられることになった。4日後,今度はオリビエがローランのデュランダルを川に打ち落とし,この間の礼に報いて新しい武器を手にするようにと話す。そして決闘は再開されるが,どうしても決着がつかず5日めに突入。いつまでも戦いに明け暮れるのも不毛だと判断した二人の間には,いつしか友情が芽生え,オリビエは妹と結婚して義兄弟になってほしいと話し,ローランは快諾するのだった。
 ちなみに武勲詩「ガラン・ド・モングラーヌの武勲詩」では,オリビエとローランは互角で,天使が仲裁に入り決闘は終了している。

 猛将オリビエ 

 オリビエはオートクレールという剣を持ち,フェラン・デスパーニュ(鉄色の馬の意)に騎乗して戦場を駆けた。ちなみにオートクレールは,柄は黄金,柄頭に水晶がはめ込まれた剣で,そのネーミングには「純潔」といった意味がある。オリビエは「智将」と称されることが多いが,筆者としては猛将と定義したい。それはロンズヴォー峠の戦いにおける彼の活躍を見れば分かる。
 ロンズヴォー峠の戦いにおけるオリビエは,当初は槍を使って戦い,ローランに「なぜオートクレールで戦わないのか?」という問いに対して,「敵が多すぎて剣を抜く暇がない」と話しながら,槍がただの棒になるまで敵を倒し続けたという。槍が使えなくなると,オートクレールを抜いて戦場を駆け,さらに数多くのイスパニア兵を倒していった。しかし,たった2万の軍勢で,10万のイスパニアと戦うのは無謀ともいえる行為。次第にローランの軍勢は追い詰められていく。そしてオリビエは,イスパニアの騎士マルガニスの槍に背後から刺されて致命傷を負ってしまうのだ。
 しかし,これだけでは終わらなかった。死を決意したオリビエは獅子奮迅の働きでマルガニスを討ち取り,おびただしい血を流しながらも戦い続けた。やがてオリビエは近くにいたローランの兜を粉砕し,驚いたローランがオリビエを見ると「ローランよ,私はもう目が見えないのだ。すまない」と話し,それでも敵と戦い続けると,やがて息を引き取ったという。



■■Murayama(ライター)■■
本連載のネタを求めて,知人に「なんかファンタジーネタない?」と聞いてみたMurayama。「タカツクニノミコトが持ってた,サルマロはどうだ?」と言われ,「それだ!」と思ったMurayamaは,さっそくいつものように資料集めに。しかし,いくら調べてもサルマロに関する情報が出てこない。どうやら知人が,それっぽい名前をものすごく適当にでっち上げて言ったらしい。