連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第21回:グリフォン(Griffon)

 グリフォン(Griffon/Gryphon)は,ファンタジー世界では比較的ポピュラーな存在で,ライオンの胴体に鷲や鷹などの猛禽類の上半身/翼を備える,恐ろしくも美しいモンスターである。
 断崖絶壁などに巣を作り,単独,もしくは3,4匹程度で生活を営んでおり,巣には金銀財宝がため込まれているとも,金銀財宝がある場所に巣を作るのだとも言われている。そのため,富と名声目当ての冒険者がグリフォンに挑むというシチュエーションは,物語やゲームなどでもおなじみのものである(黄金のありかを察知する特殊能力を持っていることもある)。
 グリフォンの攻撃方法はいたって単純だ。飛行能力を持ち,爪やクチバシを駆使して相手に襲いかかる。馬と同等かそれ以上の体長を誇っており,力が強く,騎乗した冒険者を馬ごと捕らえて空へと飛び上がることさえ可能だろう。
 物語や伝承によっては,馬を数頭まとめてわしづかみにしたり,勇猛果敢な攻撃でドラゴンを退かせたりすることもある。腕に自信のある冒険者でも,決して油断してはならない難敵といえよう。
 攻撃方法に色気はないものの,質実剛健を地でいくモンスターともいえるグリフォンは,実に魅力的な存在に映るのではないだろうか。

 

 ギリシャ神話出身のように語られることが多いグリフォンだが,そのルーツはインドやペルシャで,原型となる獣が存在したとも,龍の亜種だったとも言われている。それが古代ギリシャに伝わり,一般的に知られるような地位/容姿を得たようだ。
 グリフォンは,古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの「歴史」,動物誌「フュシオロゴス」,博物学者プリニウスの「博物誌」などに名前が見られ,古くは紀元前からその存在が語られていた,由緒正しい幻獣である。ちなみに,グリフォンという名前はフランス語読みで,日本では英語のグリフィン(Griffin)と呼ばれることも多い。名前の由来は,ギリシア語で曲がったくちばしを意味するグリュプス(Grups)であるらしい。
 初期のグリフォンは,かぎ爪で人々を襲うことから,キリスト教によって悪魔などの象徴とされていたことがある。しかし,キリスト教ではライオンや鷲を聖なる象徴としていることから,やがてそれらと同一視され,二輪馬車を引く聖獣としても扱われるようになっていく。
 ちなみにキリスト教における二輪馬車とは,教会やキリストを寓意化したものである。また馬車を引くことで考えると,ギリシャ神話の復讐の女神であるネメシス(Nemesis)の馬車を引く,漆黒のグリフォンも有名だ。

 グリフォンについては,馬との相性の悪さが論じられることがある。グリフォンは馬を見ると執拗に追いかけ回し,引き裂いてしまうというのだ。その理由については,神の馬車を引く役割を馬に取られるのではないかとの嫉妬心からとも,単純に馬肉が好きなのだとも言われている。こうした性格から,グリフォンと馬を掛け合わせたヒポグリフ(Hippogriff)というモンスターが生まれ,こちらは「不可能の象徴」として知られるようになった。
 グリフォンは美しい姿やその性格から,紋章のデザインとしてもよく使われた。金を見つけ出す特性から知恵の象徴,鳥類の王と百獣の王の合成獣という点から王権の象徴,縄張りを命がけで守るということから忠誠の象徴とされ,王族,貴族,騎士達はこぞって自らの紋章に取り入れたという。
 なおこれは余談だが,有名なファンタジー小説「ナルニア国物語」のモチーフになったとされるイタリアのナルニ市の市章も,グリフォンを象っている。

 

次回予告:ロック鳥

 

■■Murayama(ライター)■■
基本的にPCゲーム一辺倒で,コンシューマゲームはほとんど遊ばないMurayama。しかし,最近のWii人気には興味がわいたようで,先日友人宅で「Wiiスポーツ」を楽しんだという。最初はWiiを侮っていたそうだが,酒を飲みながらテニスやゴルフの対戦プレイをしているうちに,激しくヒートアップ。相手のサーブを中腰で待ったり,カップインしたボールを思わず拾おうとしたりと,大はしゃぎだった模様。しっかり筋肉痛にも苦しめられているという。いやぁ,人間変われるものである。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/021/sam_monster_021.shtml



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