― 連載 ―

剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第4回:ホムンクルス(Homunculus)

 ホムンクルス(Homunculus)は,一般的には比較的マイナーな存在だったが,昨今の錬金術をテーマにしたアニメやマンガなどの影響もあり,ここ数年で知名度の高まった魔法生物である。
 ホムンクルスとは,錬金術(Alchemy)によって作られる人工生命体のこと。生成はフラスコなどのガラスの容器内で行われるが,容器が壊れてしまったり,外に出したりすると,ホムンクルスは死んでしまうといわれている。
 人間とは比較にならないほど小さいが,その体つきなどは人間とほとんど同じ。特殊能力として,生まれながらにして豊富な知識を持っているために,教育などしなくとも会話が可能だったらしい。
 ホムンクルスの姿は人間に似ているが,その属性は精霊に近いといわれている。孤独な錬金術師達のよき話し相手として活躍するさまが,容易に想像できるだろう。なお人間に敵対するようなことはないが,彼らを虐げるようなことをすれば,話は別かもしれない。といってもフラスコから出られないために,それほど脅威になることはないはずだが。
 また,生命創造は神の領域を侵すという観点から,ホムンクルスはしばしば禁忌の存在としてあつかわれることもある。

 

 ホムンクルスという名前は,ラテン語で“小さい人”を示す「Homullus」が語源となっているようだ。
 錬金術というと金を生成するイメージが強いが,本当のところは少々違う。かつて,錆びない金は「完璧な金属」だといわれていて,これを生成できるのは神だけとされていた。錬金術は,そうした神の御業に挑戦する作業であり,もちろんそこには命の創造なども含まれている。いわば錬金術は,神に挑戦する学問なのである。
 ホムンクルスを紹介するなら,錬金術師のパラケルスス(Paracelsus)の存在は欠かせない。彼は1493年(1494年説もあり)から1541年に活躍した錬金術師で,本名はテオフラトゥス・フィリップス・アウレオールス・ボンバトゥス・フォン・ホーエンハイム (Theophrastus Philippus Aureolus Bombastus von Hohenheim)という。古代ローマの高名な医者であったケルスス(Celsus)をしのぐ(para)という意味で,パラケルススと名乗ったそうだ。
 パラケルススは傲慢な発言が多かったようだが,相応の実力を備えており,科学や医学の発展にも貢献している。死因については,恨みをかったために殺されたとか,喧嘩に巻き込まれて撲殺されたなど諸説あるが,真偽のほどは定かではない。
 そんなパラケルススだが,彼はホムンクルスの生成に成功した数少ない人物とされている。彼の著書である「ホムンクルスの書」や「物性論」によれば,フラスコ内に人間の精液,薬草などを入れて密閉すると,やがて液体が腐食するが,透明な人型が出現するという。そこで馬の胎内の温度程度の温かさを40週間維持しながら生き血を与えて培養すると,やがて小さな人になるとされているのだ。こうして生まれたホムンクルスは,錬金術の成果の一つとして,研究室のフラスコ内で生きることになったとされているのである。なお,生々しすぎてあまり笑えないのだが,一部の錬金術師達は,自分の性癖や欲望を満たすためにホムンクルスを生成していたという話もあるようだ。
 ホムンクルスの生成に成功したパラケルススだったが,それだけでは満足しなかったようで,ホムンクルス生成で得た技術をベースに,さらに高度な実験をしていたようだ。それは死者の蘇生である。実はパラケルススの死因に関する説の一つに,次のようなものがある。パラケルススは,自らを実験体として蘇生術の実験を行っており,途中まで実験はうまくいっていた。だが,途中で弟子がミスをおかしてしまったために実験は失敗。そのまま死んでしまったというのである。

 

次回予告:ミノタウロス

 

■■Murayama(ライター)■■
どんなに忙しくても,決してへこたれないライター。前連載「剣と魔法の博物館」をまとめた書籍,「新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌」(ISBN:4-7973-3684-6)が無事発売され,心地良い解放感を満喫しているはずのMurayama。しかし,メッセンジャーのサブタイトルを見ている限り,「やる気がないなら腹を切れ」「らなうぇい」「パトラッシュ,あれがカンパケだよ……」「死にたい」「タネローンを求めて」「まだまだ続くぜ,ピンチのスパイラル!」などなど,なんというか,非常に気の毒な状況のようである。モンスター編を書籍化するだけのネタを書き終えるまでは,ぜひ踏みとどまってもらいたいところだ。


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