― 連載 ―

剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第2回:トロール(Troll)

 トロール(Troll)は,幻想世界に登場する亜人間(デミヒューマン)の中では,ドワーフ,エルフ,オーク,ゴブリンなどに次いで知名度が高い種族。本来はヨーロッパで幅広く信じられていた妖精で,伝承によって小人だったり,巨人だったり,長い鼻を持っていたり,大きな耳を持っていたりと,容姿はさまざまだ。
 ファンタジー小説やゲームに登場する一般的なトロール像といえば,巨漢で日の光の届かない洞窟に住み,性格は愚鈍で悪意に満ちている。人間には敵対的で,自分より小さい者をなぶり殺しにして生肉を食らうほか,人々から金銀財宝などを奪って収集するという性質もあるので,トロールを倒してその住み処を探れば,多くのお宝が得られることも多い。
 トロールは非常に腕力が強く,その一撃をまともに食らえば,致命傷は免れないだろう。さらに強い自己再生能力を持っていて,酸や炎による攻撃で傷口を焼かない限りは,何度でも復活してしまうばかりか,手や足などの部位が失われても再生することがある。そうした特性は,しばしばゲームなどでも採用されており,トロールとの戦いは長期戦化することが多い。
 ほかにも,日光の下では石化してしまうために,夜になると洞窟から出てきて行動し,日が昇る前に洞窟に帰るという習性を持っている。実は石になるという特性については,トロールは魔法によって作られたのだが,暗闇の中で魔法をかけてしまったために,日に当たると魔法の力が失われてしまい石化する,という説がある。

 

 J.R.Rトールキンの「ホビットの冒険」にもトロールが登場する。物語の中で主人公のビルボ・バギンズは,トロールに捕まってエサになりかけるが,魔法使いガンダルフが機転を利かせて,トロール達に朝日を浴びせて石化させ,窮地を脱出するというシーンは,一つの見どころといってもいい。
 トロールの洞窟にはたくさんの財宝があり,スティング,グラムドリング,オルクリストといった三振りのエルフの剣が発見され,以後スティングはビルボの武器として振るわれただけではなく,「ロード・オブ・ザ・リング」では,ビルボから息子のフロドに受け継がれることになる。
 ちなみに「ロード・オブ・ザ・リング」には,オログ=ハイ(Olog-hai)と呼ばれる種族が登場するが,これはサウロンがトロールを改良したもので,知性や理性があるだけではなく,日光の下で活動可能なトロールの上位種のことである。武器の扱いにも長けているので,やっかいな存在だ。
 またトロールといえば,触れておかなければならない存在がある。それは日本でもアニメになったトーベ・ヤンソンの「ムーミン」。これもトロールの一種で,ムーミントロール(Mumin Troll)と呼ばれる種族である。こちらは一般的なトロールとは違い,非常に小さく優しくて平和的。もちろん人を襲うようなこともない。容姿はカバのような下ぶくれの顔をしているが,これは伝承などで“トロールの鼻は長い”と語られていた部分を,ヤンソンがうまくアレンジした結果だと思われる。ムーミンはフィンランドのどこかにあるムーミン谷(Muumin Dalen)と呼ばれる場所でひっそりと暮らしていて,冬には冬眠すると伝えられている。
 最後にオマケとしてノール(Gnoll)にも触れておこう。ノールは犬のような頭を持つ大型のヒューマノイドとされているが,これは魔法によって,トロールと大地の精霊であるノーム(Gnome)を合成して生まれたとする説がある。だが残念ながら,ノールはトロールやノームの特性をまったく受け継いでいないので,この説は少々眉唾である。ひょっとすると文字の綴りが両者に似ていたことから生まれた珍説なのかもしれない。

 

人気連載「剣と魔法の博物館」が書籍化。大幅加筆で9月11日発売

 4Gamer誌上で連載されていた「剣と魔法の博物館」が,ソフトバンククリエイティブを通じて書籍化され,9月11日に発売されることとなった。価格は1890円(税込)。

 書籍のタイトルは「新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌」。4Gamerではお馴染みのライター Murayama氏が手がけた連載が,(30歳前後のファンタジーファンならご存じかもしれない)「RPG 幻想事典」という人気書籍シリーズの,10年ぶりの最新刊という形で出版されることになったのである。
 書籍化にあたっては,全篇にわたって補足説明/内容修正が行われているほか,「フラガラッハ」「ジュワイユース」といった,連載未収録武器に関するコラムを多数追加。つるみとしゆき氏のイラストに関しても,モノクロではあるがすべて収録。さらに表紙を飾るカラーイラストも描き起こしてもらっている。興味のある人は,書店で本書を探す目印として,右のカバー画像を目に焼き付けておいてほしい。

 

次回予告:ユニコーン(Unicorn)

 

■■Murayama(ライター)■■
いつものように著者紹介ネタを聞き出そうとチャットをしていたら,「最近,目の調子が悪くてさ」と語るMurayama。さすがに心配になりあれこれ話を聞いてみると,理由は「扇風機」だった。実はMurayama,薄目を開けたまま眠る習性があるため,扇風機をつけたまま眠ると,目がひどく乾いてしまうのだ。今後は足だけに風を当てるよう気をつけるとのことだが,心配して損しましたよ,まったく。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/002/sam_monster_002.shtml