連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年8月3日掲載

 「ターミネーター」や「タイタニック」で有名なジェームズ・キャメロンが監督する「The Avatar」がゲーム化される。しかも,これは単なる映画のゲーム化という話ではなく,ゲーム化を前提に進んでいたプロジェクトなのだそうだ。映画のゲーム化,ゲームの映画化,どちらも珍しくなくなってきたとはいえ,The Avatarは大きな話題になりそうだ。今回は,以前お伝えしたしたあの“迷”監督の近況も交えつつ,映画とゲームの関係について紹介しよう。

 

映画監督達のゲーム業界参戦

 

近づくハリウッドとゲーム産業の関係

 

 「映画を元にしたゲームはクソゲー」というのは昔の話。最近では「Spider-Man」や「Lego Star Wars」のように評価の高いライセンスソフトが多い。また,「The Chronicles of Riddick」のように映画以上に評価されたゲームもある。アメリカでは「Harry Potter and the Order of the Phoenix」「Ratatouille」(邦題 レミーのおいしいレストラン),そして「Transformers: The Game」など映画の公開に合わせたゲームが立て続けに発売されるという状況だ。
 もちろん,映画を題材にしたからといって,必ずしもセールス面での成功が約束されていないことは,ご存じのとおりだ。ただし,ゲームの市場価値は大きく向上しており,一昔前なら,とりあえず映画のネームバリューに頼り,手を抜いたなんちゃってゲームで小銭を稼ぐ会社もあったが,最近は手間暇かけたゲームが増えてきているのは間違いないだろう。

 

ゲームを題材にした映画で最近の話題といえば,Haloシリーズを題材にした「Halo: Arms Race」。画像の「Halo 3」は9月にもリリースが予定されているが,映画のほうは2009年中まで待たなければならない

 これまでは,映画やテレビ番組のライセンスゲームといえば,Electronic ArtsやActivision,Vivendi Gamesなどが手がけることが多かった。だが,このところ力を入れているのがUbisoft Entertainmentだ。アメリカで7月末に開催されたComic-Conというコミックファン用のイベントにおいて,同社はアメリカのテレビドラマとして人気の高い「Heroes」と「Lost」のゲーム化を発表。さらに,ジェームズ・キャメロン氏が制作中の映画「The Avatar」のゲーム化権をも手中に収めている。

 キャメロン氏がゲーム業界に手を伸ばしているというのは,Xbox 360発売前の2005年から,イベント会場などで紹介されていたインタビュークリップなどで知られていた。The Avatarは,ゲームと映画という二つのメディアを融合させるというプロジェクトで,同監督の前作「タイタニック」以来,長きにわたって温められてきたものだという。
 ゲームの発売は2009年5月ということで詳しいゲーム内容は明らかにされていない。映画は,意識が人間のままの状態で宇宙人の体に乗り移ってしまった元海兵隊員を描いたもので,「エイリアン」の大女優シガニー・ウィーバーが出演し,特殊効果は「ロード・オブ・ザ・リング」や「キングコング」で業界トップクラスのCG制作会社として知られるようになったWETA Digitalが行うなど,超大作の雰囲気が漂う。ゲーム版はXbox 360だけでなく,PCで発売する計画もあるようだ。

 このThe Avatarのように,今後は映画からゲームへ,もしくはゲームから映画へ,という一方通行な流れではなく,双方のメディア特性をうまく両立させ,プロモーション効果をも強化するといった試みが増えていくはずだ。日本にもマンガやアニメなどの強力な武器があるように,ハリウッドの資産や人材は,アメリカにとってのかけがえのないアドバンテージだろう。

 

 

あの映画監督がゲーム制作に参戦

 

ボル氏の“犠牲”になりそうな作品の一つが「Far Cry」。主人公ジャック・カーバーは,ドイツの俳優ティル・シュヴァイガー氏(2段目右)が演じる。彼は,映画「プライベート・ライアン」でトム・ハンクスを撃つドイツ兵の役どころを,悪役イメージの定着を嫌って蹴ったのだとか。映画版Far CryでB級映画俳優のイメージが定着しなければいいのだが……

 映画とゲームを語るうえで,外せない人物がいる。なにを隠そう,以前紹介したドイツ出身の映画監督,Uwe Boll(ウーヴェ・ボル)氏だ。ボル氏は2003年の「ハウス・オブ・ザ・デッド」を皮切りに,「Alone in the Dark」,そして「Bloodrayne」と,ゲームを次々と映画化し,21世紀の作品とは思えないような,チープなB級っぷりの映画を連発している。今後も,「Postal: The Movie」が10月に,「Dungeon Siege」と「Bloodrayne II」が2008年中,そして2009年には「Far Cry」とゲーム系の映画が続々と公開される予定だ。
 ボル氏の映画でゲームファンが我慢できないのは,原作ゲームには何の敬意も払わないかのように,設定や結末までを好き勝手に変えてしまうことだ。しかも,本人は相当血気盛んな性格のようで,自分の映画を酷評したレビュワー達に憤慨し,ボクシングでの“決闘”を申し込んだのだ。ただし,ボル氏は以前からしっかりとトレーニングを積んでいたという“イカサマ”っぷりで,遊び半分で気軽に引き受けたレビュワー達を,次々と殴り倒したという。しかも,その様子は撮影されており,Postal: The MovieのDVD版に収められるというウワサだ。

 Bloodrayneでは,実際に上映する劇場の数よりもはるかに多くのフィルムを作ってしまい大損害だったらしいのだが,それでもボル氏と彼のプロダクションが意気揚々としているのは,彼の母国であるドイツの税法をうまく利用しているかららしい。
 これは,どういうからくりかというと,ドイツでは文化保護政策によって,他国の投資家がドイツ国民の運営するプロダクション会社やアートスタジオなどへ出資して文化事業の振興を手助けすることを奨励している。ボル氏はこの政策を利用し,他国の投資家にタックスシェルター(経済的に意味のない取引を行い,税法の認識する利益を少なく見せかけ,税金を下げる手法)の一環としてボル氏のプロダクションへの投資を担ってもらうことで資金を調達しているらしいのだ。

 そんなボル氏は,「Tunnel Rats」という戦争をモチーフにしたオリジナル映画も制作中である。すでに撮影を終えており,2008年に公開される予定だ。2008年中に3本の映画を上映するという,仕事の速さは,ある意味尊敬できることではある。
 ボル氏はこれまでとは逆のパターンを画策しているようで,Tunnel Ratsのゲーム化が進行中で,ドイツにあるReplay Studiosへ開発を委託したそうだ。Tunnel Ratsは,ベトナム戦争時に坑道を利用して敵基地へと侵入したアメリカ人兵士の物語。果たして,ボル氏によるゲーム業界への殴り込みは,成功するのだろうか?

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。エビやナスなどを買い込み,久しぶりに天ぷらを揚げたという奥谷氏。家族4人では食べきれないほど作りながら「明日のランチは天とじ丼でムヒヒ……」などと心の中で計画していたそうだ。だが,朝起きれば台所にはブロッコリーの天ぷら(アメリカの日系レストランでは定番の天ぷらネタ)だけが残されていたという。「朝から天ぷらなんて食べるな」と思いつつ,昼食にブロッコリーだけの天丼を食べたのだとか。家族内でのコミュニケーションが,いまいち取れていないようで心配だ。


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