― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 これまで多くの映画コンテンツがゲームに利用されてきたが,その逆の流れも少なからず存在していた。「スーパーマリオブラザーズ」に始まり,「ストリートファイター」や「トゥームレイダー」,そして最近では,全米で10月21日公開予定の「DOOM」に至るまで,映画化されてきたゲームを過去から順に振り返ってみた。

 

ゲーム映画事情・1

 

■"映画ゲーム"と"ゲーム映画"の黎明期


 映画がライセンスされたゲームと聞いて筆者がまず思い出すのは,知る人ぞ知る「E.T.」(1983年)である。前年に公開されて人気となったスティーブン・スピルバーグ監督の名作をAtari 2600用にゲーム化したものだが,そのライセンス料は,20億円という当時も話題になったほどの破格の金額。開発費といっても,数名のプログラマーの雇用費くらいで,1億円稼いだら大ヒットと言われた時代のことだ。
 E.T.のライセンスは,IP(知的財産)権管理が未熟だったAtari 2600において,「人気ソフトにあやかる粗悪な類似品の参入を抑える」という目的があったようだが,すでに1982年のクリスマス商戦ではAtari 2600市場は冷え切っており,強気な仕入れや開発を行っていた関連企業が軒並み倒産した"アタリショック"と呼ばれる業界危機を迎えていた。その経緯から,売れ残った500万本にもおよぶE.T.の在庫カートリッジの処理に困ったAtariが,ニューメキシコ州の砂漠で埋め立て処分したという信じられないような逸話も残っている。
 その後,その影響かアメリカではMS-DOSゲームの制作へ流れていく開発者が増え,コンシューマゲーム機においては,任天堂の"ファミリーコンピュータ"(NES)が登場するまで,冬の時代が続くこととなったのだ。

 

アタリショックといえば「E.T.」が思い浮かぶほど,両者には切っても切れない縁がある。なおライセンスを取得して,映画に便乗したゲームを展開する商法は,現在では恒常的に行われている

 1993年に,アメリカで興味深い社会現象が起こった。任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」が,映画になったのである。ディズニー系列のBuena Vista Home Entertainmentによって50億円近い制作費が投じられたにもかかわらずまぁ興行成績は惨憺たるものだったのだが,ゲームのコンテンツがハリウッドに逆流入したことの意義は大きい。

 その翌年の1994年,カプコンの人気格闘ゲーム「ストリートファイター」がUniversal Picturesによって映画化され,1995年には同じく格闘ゲームの「モータルコンバット」が続いた。
 映画ストリートファイターは,ジャン=クロード・ヴァン・ダムが演じるガイルを主人公にし,ゲームに登場する個性的なキャラクター達でストーリーを構築したものだ。ガイルは,日本の格闘ゲーマーの間では,ほかのキャラクターに比べて決して人気が高いほうではないかもしれないが,この映画はアメリカを中心に見事ヒットし,最終的に100億円近い収益を記録している。
 また,映画モータルコンバットもアメリカで支持を得て,ストリートファイターに劣らぬ成績を残しており,1997年には続編も公開されたほどだ。

■ゲームクリエイターのハリウッド参入


 これらの映画によって,"ゲームの映画化"という流れができたように見えたものの,この後はしばらく停滞期に入る。この期間は,それまでお互い一方通行だった映画界とゲーム界が,交差するような状態へと進化するために必要だったのかもしれない。

 

「ストリートファイター」(c)1995 CAPCOM CO. , LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
ソニー・ピクチャーズエンタテインメントからDVDが2000円(期間限定価格:税込)で発売中

 Origin Systemsから独立したChris Roberts(クリス・ロバーツ)氏は,自らハリウッドに乗り込んで「Wing Commander」(1999年)の映画化に取り組み,原作/制作/監督,そしてチョイ役として役者までをこなした。
 ただ,その制作費は30億円ほどと,ハリウッドのアクション映画にしては少ない予算だった。そのうえ,公開日からそれほど日を置かずして「スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス」が公開されたこともあって,劇場上映日数が削られるという不運に見舞われている。
 同時期では,日本からハリウッドに殴り込みをかけた作品,「ファイナルファンタジー」(2001年)の存在も忘れてはならない。こちらは総制作費が約140億円,キャラクターから背景まで完全CGという大作で,当時ハワイにあったスクウェアのオフィスで手がけられた技術力の高いCGアニメーションだ。Sony Pictures Entertainmentの配給で,監督は同シリーズの生みの親である坂口博信氏が務めていた。全米では,外国作品としては異例の2600館以上で上映された。
 しかし,残念ながら興行的には失敗となり,ハリウッドの厳しさを思い知らされることとなる。スピルバーグ監督のDreamWorks Interactiveが人気ゲームソフトを生み出せなかったように,その逆のパターンでゲーム業界のクリエイターが映画界で通用するのかといえば,今のところはやはり否定的にならざるを得ない。
 Wing Commanderにしろ,ファイナルファンタジーにしろ,メインストリームにアピールできるだけの,映画的なエッセンスが欠けていたのは否めないだろう。できれば日本から後に続くような作品や人物が出てほしいところだが,今のところはなりを潜めている状態のようだ。

■ゲームコンテンツの映像作品化は起用者次第?


発売元:東宝東和/販売元:ジェネオン エンタテインメント
「トゥームレイダー」のDVDは,3129円(税込)で発売中

 ところが当のアメリカ国内では,このところ目新しい題材や脚本の欠如が顕著になってきたことを受けて,ゲーム産業のコンテンツをライセンスする映画が増えてきているのも事実だ。
 ここ数年のE3(Electronic Entertainment Expo)では,個室プレゼンテーションなどで,プレスや業界人に混じって「オンラインRPGとは何がオンラインなのか?」などと,実にシロウトっぽい質問をしている人を見かけるようになった。そしてネームタグを見ると,ハリウッド系企業の買い付け人やプロデューサーだった,というわけである。
 このブームの牽引役となったのが,Paramount Picturesが制作した「トゥームレイダー」(2001年)である。主演はホットなアンジェリーナ・ジョリー,そして制作費も"大作"と呼ぶに相応しい約120億円が費やされており,全世界では300億円を超える興行収入を得るなど大成功になった。
 映画のポスターを見ると,ジョリーの名前よりもトゥームレイダーのロゴのほうが断然大きいことから,ゲーマーを対象にした映画であるのは明白であり,このあたりの割り切りが功を奏したとも考えられる。2003年の「トゥームレイダー2」は前作ほどは成功しなかったが,それでもこの2作は,ゲームコンテンツの実写化も大きなヒットになり得ることを証明したといえるだろう。

 

 そして2002年には,映画版「バイオハザード」がSony Pictures Entertainmentから公開されて(注:日本ではアミューズピクチャーズ配給),ゲームファン以外からも大きな反響を得る。
 アクションに比重を置いたことで「いまどきゾンビ映画なんて,はやらないだろう」という風評を吹き飛ばしただけでなく,その後のゾンビ映画ブームの起爆剤となった印象さえある。30億円という少なめな制作費ながらも大作感があり,また「バイオハザード II:アポカリプス」(2004年)では前作以上の成績を収めており,その人気は疑いようのないものとなった。

 

「バイオハザード II アポカリプス」(c)2004 DAVIS FILMS/IMPACT (CANADA) INC./CONSTANTIN FILM (UK) LIMITED. ALL RITHS RESERVED.
ソニー・ピクチャーズエンタテインメントからDVDが4179円(税込)で発売中

 ここで,ゲーム映画における"戦犯"も紹介しておきたい。2003年にリリースされた映画版「ハウス・オブ・ザ・デッド」を監督/プロデュースしたUwe Boll(ウーヴェ・ボル)氏である。
 彼はMTVのミュージック・ビデオでカリスマ的に台頭してきた若手監督だが,映画ハウス・オブ・ザ・デッドはバイオハザードと同じアクションホラーでありながら,少し昔のC級ホラー映画のようなていたらくで,一体何に約12億円もかけたのだろうかと,不思議になる。これでは,序盤のレイブパーティでロゴを引き裂かれたセガが可哀想にさえなってくる。
 さらに2005年1月に公開されたボル監督の「Alone in the Dark」に至っては,3週間で上映打ち切りとなり,ビデオやDVD販売を合わせても,約20億円の制作費の半分も回収できていない有様だ。2006年には同監督の手に成る映画版「Bloodrayne」もリリースされる予定になっているが,これではゲームファンとして心配にならざるを得ない。

 「ちょっとコメントがキツ過ぎる」と思う読者もいるかもしれないが,ボル監督の餌食になっているのは上の3作だけではない。すでにBloodrayneの制作は終了しており,今は「Dungeon Siege」を撮影し始めたところだという。さらに2006年から2007年にかけて「Hitman」「Hunter:The Reckoning」「Fear Effect」,そしてライセンス契約が発表されたばかりの「Far Cry」までを制作する予定とのこと。
 現代の映画監督にしてはあまりにも未熟なプロダクションということも気になるが,その本数の多さもまた,尋常ではない。ファンだけに絞って数撃ちゃ当たる,とでも思っているのだろうか。コンテンツを売る側も,映画化されるからといって叩き売りをしないでもらいたいものだ。

■DOOMに続く,これからのゲーム映画


 もっとも,今後公開が予定されているゲーム映画は,ボル氏の作品群ばかりではない。今年(2005年)で期待できるのは,なんといっても10月21日に全米公開予定の「DOOM」である。
 監督はAndrzej Bartkowiak(アンジェイ・バートコウィアク)で,主演はプロレスラーの"ロック様"ことThe Rockとなっている。すでにアメリカでは予告編のトレイラー(「こちら」)が公開されており,映像を見ただけではゲーム版「DOOM III」風の第一人称視点カメラのシーンも満載されているなど,ちょっとワクワクしてくる。ストーリーも,ゲーム版を忠実に再現している様子だ。
 日本のゲームコンテンツからは,「サイレントヒル」に注目だ。2006年公開予定ではあるが,2005年7月にカナダのオンタリオでの撮影は終了しており,すでに編集作業へと入っている。監督はフランスの新鋭Christophe Gans(クリストフ・ガンス)氏で,脚本は「パルプ・フィクション」のRoger Avary(ロジャー・エイヴァリー)氏らが担当した。主人公のローズにはWoody Allen(ウッディ・アレン)監督の「メリンダとメリンダ」に主演したRadha Mitchell(ラダ・ミッチェル)が選ばれ,「ロード・オブ・ザ・リング」のボロミール役としての印象が強いSean Bean(ショーン・ビーン)も競演する。

 

「Halo 3」を制作中のMicrosoftだが,映画版の公開予定が2007年末というのも気になるところ。Microsoftは,ライセンス料として500万ドルと米国内の10%の興行収入を受け取るそうだが,映画化されるゲームも高額取引の時代に突入か!? しかし,同じく映画化される(されてしまう?)Dungeon Siegeの立つ瀬がない気も……

 さらに,最近話題になっていたように,Microsoftの「Halo」もUniversal Pictures/20世紀フォックスによって映画化されることが決まったばかり。実は,現在制作中のゲーム「Halo 3」は,映画「ビーチ」のAlex Garland(アレックス・ガーランド)氏によって脚本が練られており,映画化のウワサは2004年末からすでにあったのだ。
 詳細はまだ決まっていないようだが,「スパイダーマン」や「チャーリーズ・エンジェル」を引っ張ってきた敏腕プロデューサーのPeter Schlessel(ピーター・シュレッセル)氏が関わっており,2007年末のリリースを目指しているらしく,すでに準備は整っている様子だ。

 

 ほかに気になるところでは,まず「Duke Nukem Forever」。こらちは,最初の発売元だったGT Interactiveと,映画制作会社のThreshhold Entertainmentの間で1998年に取り交わされた契約が,なんと今も残っている。Threshhold Entertainmentは,映画版モータルコンバットの制作チームで,Threshhold Digital Research LabというCG映像会社を傘下に持っており,ここですべてがまかなわれるようだ。
 ゲームの制作期間と同じほど古い契約だが,実際にプロジェクト自体は死んでおらず,現在は脚本の推敲を重ねている状態であるという。ゲーム開発元の3D Realmsは,キャラクターの描き方から配役までに口出しする権利を保有しているらしく,それも映画の制作が進展しない理由の一つかもしれない。3D Realmsとしてはなるべくゲームと同じ時期に出したいと考えるだろうし,映画制作会社としては,売れないゲームなら継続保留という選択肢も残せると考えているのだろう。
 次に,Electronic Artsからリリースされた「American McGee's Alice」だが,こちらは脚本も出来上がり,主演女優には「バッフィ・ザ・ヴァンパイア」やアメリカ版「呪霊」のSarah Michelle Gellar(サラ・ミッシェル・ゲラー)に決まっている。監督も「テキサス・チェーンソー」のMarcus Nispel(マーカス・ニスペル)氏で決まっているなど,Universal Picturesでは制作段階に進展しつつある模様。
 「Deus Ex」のように制作中止になったものもあるが,ゲームコンテンツの映画化は,その本数もライセンス料も,増えていく傾向にあるといえそうだ。

 


次回は,"ゲーム映画"事情・2を予定しています。「え,まだあるの?」なんて言わず,ぜひお楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。娘のサッカーチームのアシスタントコーチに志願した奥谷氏。日曜の朝からコーチ養成セミナーへと出かけたおりに,大学時代のクラスメートと10年ぶりに再会したという。久々の出会いに思い出や学友の最新情報などを交換したとのことだが,口ひげに長髪のラテン系という芸術肌だった彼の頭は,見事に禿げ上がっていたらしい。「なんか学友が老けていくの見ると,気が滅入る……」と,奥谷氏は悲しげに話していた。


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