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奥谷海人のAccess Accepted

 Epic Gamesが開発中の「Unreal Tournament 2007」と「Gear of War」は,2006年中のリリース予定ながら最近めっきり話題が聞こえてこない。しかしその代わりに元気なのが,同社のエンジンライセンスのビジネスである。Epic Gamesの2作以外にも,「Unreal Engine 3」を利用したソフトが続々と制作されているのだ。

 

Unreal Engine 3の快進撃なるか

 

■ゲームエンジンのライセンスビジネス

 

 ゲームエンジンのライセンスは,日本においては次世代(Xbox 360以降)のゲーム機市場で,大きくクローズアップされ始めた。マシンスペックの向上に比例して,機材の購入費や人件費といった開発費は,数十億円単位にまでふくれ上がり,まるでハリウッド映画のような予算規模へと膨れ上がっている。ゲームエンジンをライセンスすることで,開発期間を短くして負担も減らしたほうが良いと考えるメーカーが,急速に増えているのだろう。

 

 “ゲームエンジン”という概念は古くから存在しており,アメリカのPC市場では,'90年代中期の「DOOM II」の頃から,ゲーマーの間で日常語の一つとして受け入れられるようになっていた。
 ゲームエンジンとは,つまりゲームプログラムのコアに相当するもので,自動車のエンジンが車の一部分を指すように,ゲームエンジンもゲームプログラムそのもののことではない。コンポーネント化されたAI,物理演算,アニメーション,モデリングなどのことは“アセット”と呼ばれており,ゲームエンジンとはそれらを総合的に管理するプログラムに限定して使われる名称である。「Quake」の場合は,Quake.exeがゲームエンジンであり,QAGame.dllやCGame.dllなどがアセットというわけだ。

 

2000年7月にリリースされた「Deus Ex」は,初代Unreal Engineのソフト群の中では最高峰といえる作品の一つ

 さて,本題である「Unreal」が発表されたのは,1997年11月のCOMDEX(コンピュータ関連の展示会)でのこと。まだシェアウェアのブランドというイメージが強かったEpic Games(当時はEpic MegaGames)が,会場のNECブースでグラフィックスチップ「PowerVR」の参考デモとして出展したのが最初である。開発を担当したのは,現在でも同社の開発部隊を率いているTim Sweeney(ティム・スウィーニー)氏で,ネット周りでは酷評されたものの,レンダラーの3Dグラフィックス描画能力は,Quakeシリーズの一歩先をいっていたのは間違いない。
 1998年2月,ION Stormがコードネーム「Shooter」の開発で,Unreal Engineのライセンスを受けることを発表した。これが,同エンジンの初めてのライセンス供与となり,その後,Unrealゲームエンジンの快進撃が始まった。
 なおこのShooterとは,のちに「Deus Ex」と呼ばれるプロジェクトのことで,初代Unreal Engineを利用したものの中では最も話題となった作品だろう。
 Unrealは1998年5月にリリースされたが,このときまでに10本程度のタイトルへのライセンス供与が発表されており,ビジネスとして十分成り立つのは明らかだった。

 

 最近では,2004年7月にキヤノンの傘下にあったCriterionの「Render Ware」がElectronic Artsに買収されている。Rander Wareといえば,「The Movies」や「Burnout 4: Revenge」などヨーロッパ勢から,セガの「Sonic Heroes」やNamcoの「kill.switch」など日本のゲームソフトまで,幅広くライセンス供与されている知名度の高いミドルウェアだ。

■Unreal Engine 3をライセンスされているメーカー群

 

恐ろしいほど美しく写実的なグラフィックスの「Unreal Engine 3」。しかし,なぜEpic Gamesは,同エンジンの顔となる最初のイメージに,こんな軍曹を持ってくるのか……。少しはNVIDIAやATI Technologiesを見習ってほしい

 Epic Gamesが現在開発中の最新バージョン「Unreal Engine 3」が,2004年のGame Developers Conferenceでの発表以来,大きな話題となっている。操作対象に重点を置いたオブジェクト指向型のデザインによって使いやすくなっており,PCやXboxはもちろん,プレイステーションやレボリューションなどもサポートした,クロスプラットフォーム設計になっている。
 コンポーネントも充実しており,これまで同社が蓄積してきたレンダラーやネットワークエンジンようなテクノロジーだけでなく,表情アニメーション制作専用ソフト「FaceFX」や物理エンジンの「NovodeX」(現「PhysX」)などを他社からライセンスすることで,より総合的なミドルウェア化を果たしている。このような改良も,Unreal Engine 3がこれまで以上に受け入れられている理由の一つなのだろう。

 

 さて,ゲームエンジンのライセンスを受けるデベロッパというと,「マンパワーやコストの面で大企業に太刀打ちできない,小規模なチーム」というのが,これまでの印象だった。しかし,それも前述したような人気ソフトや有名メーカーに採用されることで,ずいぶんと変わってきている。
 これまでEpic Gamesが口を酸っぱくして語ってきたような,「コア部分は既存のエンジンでまかなうことで,開発者達は,より重要なゲームプレイの部分に専念できる」という実利的な感覚が,ようやく広く浸透してきたようだ。

 

 Unreal Engine 3のライセンスを受けることを発表した会社や,予定されている作品のリスト(下)を見れば,かなり期待のラインナップとなっているのが分かるだろう。「Unreal 3」はおろか,Electronic Entertainment Expo(E3)で発表された「Unreal Tournament 2007」や「Gear of War」さえリリースされていない時点で,これだけのライセンスが判明しているのだから驚きだ。

 

Unreal Engine 3ライセンスを発表したメーカー/タイトル
メーカータイトル備考
10Tacles StudiosElveonスロバキアで開発中のアクションRPG
ACONY未発表ドイツの新参メーカーによるFPS
BioWare未発表RPG「Dragon Age」に期待したい
Buena Vista Games未発表ディズニーがゲーム開発に本腰!?
Atari未発表複数タイトル用にライセンス
Gearbox SoftwareBrothers in Arms 3プレイステーション3用で発表
Midway未発表Epic Games作品の販売元
Microsoft Game Studios未発表複数のXbox 360タイトル用にライセンス
Namco HometekFrame City KillerXbox 360用アクションゲーム
NCsoft未発表そういえば「Tabula Rasa」もUnrealエンジン……
RealTimeWorldsAll Points BulletinGTAの元開発者が開発中のMMOゲーム
Hi-Rez Studios未発表今年創設されたMMOゲームメーカー
Silicon Knights未発表「Metal Gear Solid: The Twin Snakes」で有名なカナダの会社
Time Gate Studios未発表Kohanシリーズの開発チーム
U.S. ArmyAmerica's Army陸軍がリクルートゲームをアップデート予定
Vibendi Universal Games未発表複数タイトル用にライセンス

 

 ところで,初代Unrealエンジンで「Deus Ex」をプロデュースしたあのWarren Spector(ウォーレン・スペクター)氏が,地元テキサスでJunction Point Studiosを立ち上げている。同社は,Valve Softwareと提携して,Sourceエンジンを使ったタイトルを開発することを発表したばかりである。
 2006年は,次世代ゲーム機も注目だろうが,PCゲームの最新情報にも耳を傾けておきたい。

 


次回は,最近旗揚げしたとある開発チームについてお伝えしよう

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。前回,Civilizationシリーズ4作のパッケージを,今も机の近くに置いていることを明らかにしていたが,どうやらほかにも,古いタイトルが並んでいるようだ。「Ultima Online」「Half-Life」「Diablo」「Command & Conquer: Red Alert」「DOOM」「SimCity 2000」などなど,'90年代のタイトル群が“手に届く範囲”にキチンと整理されているとか。プレミアがつくまで待っているのか,それとも単に片付けるのが面倒なのか……。


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http://www.4gamer.net/weekly/kaito/058/kaito_058.shtml