― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大…戦?

連載第2回 我ら英国と戦う:ドイツ(後編)

この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。

民族自決の原則をどこまでも逆手に

 前回いきなりポーランドに手を焼き,フランス機甲部隊の前に祖国の命運を危うくしたばかりのドイツ軍。おそらくは不安と不平で胸をいっぱいにしているであろう前線の将兵はさておき,対英戦には二つの戦略的課題がある。

 

英国海軍に上陸を阻止されないようにすること
英国海軍に上陸部隊の補給線を切られないようにすること

 

ドイツ海軍の実力は,イギリスに匹敵しようもない弱体ぶりであり,いずれも正攻法では手の届かない課題なのが分かるだろう。そう分かった以上,奇策を弄するほかない。ヒトラーの戦略眼を疑問視する人でも,権力政治に関する独特のセンスまでは否定しない場合が多いのだから。

 

北アイルランド反政府勢力への資金供与。史実でも行われていたのだから,必ずしも奇想天外な作戦ではない

 ところで読者諸氏は,史実においてナチがIRAを支援していたことをご存じだろうか? 史実では見るべき成果を上げられなかったこの策動を,今回のプレイでは大々的にやろうではないか。節約したICで稼ぎ出した資金を惜しげもなく投じ,北アイルランドのパルチザンを支援して徹底的に治安を擾乱する。
 英国情報部のお株を奪うがごとく活躍を続ける工作員とパルチザン諸君は,北アイルランド2プロヴィンスの安定度をみるみる最低ランクまで引き下げていく。そんな頃合いを見ていよいよ北アイルランドに,鷲は舞い降りたのである。

 

英本土上陸に先駆けた,アイルランド空挺作戦。北アイルランドがパルチザン支配下なのは,昨年発生した暴動によるもの。そして北アイルランド市民に温かく迎え入れられる,我が降下猟兵部隊

 

北アイルランド平定後,即座にアイルランド侵攻開始。4日後にアイルランドは全面降伏し,そのまた4日後には新アイルランド政権が樹立される。連合国視点で見れば,パブリック・エネミー・ナンバーワンな国であろう

 極度に不安定な治安状態で英軍が正常に活動できず,軍事的な空白地帯となっていた北アイルランド2州に,降下猟兵師団を送り込むことで事実上の無血占領を達成する。続いてドイツは,英国との協調路線を採るアイルランド政府に宣戦を布告。パルチザン支援はアイルランド本国にも行き届いていたため,実効ICは0だ。首都ダブリンには旧式の歩兵3個師団が防備を固めているが,補給が途絶えて指揮統制値は0に落ち込んでいたため戦闘にもならず,ダブリンは瞬く間に陥落,即座にアイルランドを併合した。
 アイルランドの電撃的な制圧が完了したところで,旧英領北アイルランドと旧アイルランド領をまとめ,新アイルランドとして独立させる。支援工作によってパルチザン発生率が100%まで上がっていても,再独立させれば0%に戻る。それを計算に入れながらの,親独アイルランド国家誕生とあいなった。

 

北アイルランドだけでなく,アイルランド本国にも工作。英国に譲歩する腰抜けどもを打倒するのだ! とかアジってるに違いない

 

記念すべき新アイルランドの国軍ユニット第一号となる歩兵師団。この後もアイルランドはアイルランド軍自身が守り続けた

 続いて,アイルランドに大量の資源を譲渡して経済の復興を促すとともに,空挺部隊の補給を確保。時を同じくして,フランスに駐留させていた空軍部隊をことごとくダブリンの飛行場に移動させる。RAFの迎撃は足の長い双発戦闘機部隊がなんとか食い止め,戦術爆撃機・近接攻撃機・海軍爆撃機からなる大規模な航空部隊がアイルランドに展開を完了した。
 もちろん,イギリスも手をこまねいて見ていたわけではない。慌ててアイルランド奪還部隊を送り込むが,海軍爆撃機が徹底哨戒する海域を,足の遅い輸送艦が渡りきれるはずもなく,上陸部隊はあっという間に壊滅。かろうじて上陸に成功した部隊も,我が空挺師団によって海に追い落とされた。
 アイルランドを拠点としたドイツ空軍部隊は,大ブリテン島全域の制空権を掌握するともに,島内各地の軍港を爆撃,イギリス海軍の寄港地を奪っていく。イギリス海軍は海上でしばらく粘ったが,そこを海軍爆撃機につかまって,空母2隻を失う。
 これこそが待ちに待った好機である。確かに空母2隻を失った程度であれば,イギリス海軍の優位は微動だにしない。だが彼らは傷ついた艦艇を修理するため,どこか安全な軍港を目指さねばならない。そうでなければ海上で朽ち果てるか,上空を爆撃機に押さえられた本土の軍港で大破着底を待つのみである。
 ノルウェーは中立を維持しているので,民主国家たるイギリスはベルゲンに強襲上陸して自国の軍港とするわけにはいかない。またデンマークも中立なので,デンマーク領アイスランドも封じられている。ドイツ軍の目論見どおり,ロイヤルネイビーに残された安全な軍港は,もはや地中海の要ジブラルタルしかないのだ。

 

アイルランドからの空襲を傘としてポーツマスに強襲上陸し,プリマスの英軍守備隊を包囲殲滅。アイルランドが半分くらい英軍に占領されているが,すでに上陸した英軍の駆逐は完了している

 かくして英海軍がジブラルタルに回航する隙をつき,ドイツ海軍によるドーバー横断が始まった。自由フランスやベルギーの,半分スクラップ化した残存艦隊が出撃してきたものの,海軍爆撃機ががっちり上空を押さえているため,ドイツ海軍に打撃を与える前に次々と沈んでいく。ポーツマスに上陸を図ったドイツ陸軍6個師団は,最初と2回目の上陸こそ阻まれたものの,3回目の上陸でついに英本土に橋頭堡を確保。そこに次々と機甲部隊が陸揚げされ,ポーツマスはドイツ軍が完全に掌握した。
 陸軍の規模でイギリス本島にいる敵部隊を上回ったことを確認したあとは(スパイで確認したのではなく,空軍があちこち飛び回っているので目視で確認できる),海軍爆撃機をフランスに移動,潜水艦部隊と連携してジブラルタルから来るであろうロイヤルネイビー主力を待ち伏せし,イギリス本土へ向かうドイツ商船への攻撃を防いだ。空母機動部隊で通商破壊を仕掛けられたら,上陸したドイツ軍は遠からず干からびてしまう。

 

こうなってしまえば英本土はおしまい。あとは時間との競争である

 イギリス本土に上陸した部隊数に比べて商船の数が少なすぎたため,また調子に乗ってイギリス本土でパルチザン支援をしすぎたため,ドイツ軍の輸送力(TC)負荷は相当なもの。そのため大ブリテン島での進軍は遅々としたものになったが,戦闘自体は一方的だった。しっかりした陸軍と,その補給路さえ確保してしまえば,地上戦ではドイツ優位なのだ。
 1941年3月に,イギリスでの戦闘はほぼ終了,保安部隊のイギリス移送と,攻撃部隊の帰還が始まった。これがまたTC負荷と連合国残存艦艇による輸送船へのゲリラ的襲撃によって遅々とした進行になったが,それでも同年7月には,全機甲部隊と空軍がソビエト国境に展開したのである。
 史実のカレンダーと比べて1か月遅れの1941年7月22日,ドイツはソビエトに宣戦布告した。

野放しのイタリア,中ソの電撃的な和解

三国同盟は締結しないことに。ソビエトと交戦中の日本は論外,イタリアを入れてもイタリア支援に回すだけの戦力はドイツにない

 さて,この段階でドイツ軍には,史実と比べていくつかの問題があった。まず,日独伊三国軍事同盟が結ばれていない。日本のみを除外する(アメリカがドイツに宣戦する可能性を減らす)ことはよくあるが,今回はイタリアとも軍事同盟を結ばなかった。それは,イギリスの脱落が確定するまで,北アフリカや地中海で余計な騒ぎを起こしてほしくなかったからだ。イタリア海軍がイギリス海軍を地中海に引き付けてくれている間に本土上陸作戦などという虫のよい夢よりも,イタリア海軍をこてんぱんに叩いて実戦経験を積んだ英海軍精鋭が,ドイツの海軍爆撃機に果敢な抵抗を繰り返す危険のほうが,現実的に思えたのだから仕方がない。

 

イタリアにとっての戦争が終わったところでイタリアを枢軸に招き,その翌日,ソ連に対し宣戦布告。手伝ってもらう予定はないのでご安心を。まあ,負けたら一蓮托生だけど

 

そのままだとイタリア軍が暇そうなので,ユーゴスラビア平定を任せてみる

 これについては,対英戦が無事に終了したところでイタリアに資金援助を行い,独ソ開戦後すぐに軍事同盟を締結した。イタリアは無人の北アフリカを進撃,スエズに突進を始めた。……まったく,いい気なものである。
 また,ユーゴスラビアをはじめ東欧諸国はいまなお独立を維持している。それはそれで問題ないのだが,イタリアにはほんの少しでもよいからICを確保していただきたい。そこで,ドイツからユーゴスラビアに宣戦布告し,あとの処理をイタリアに任せることにした。爆撃機で軽く偵察したところ,ユーゴスラビア軍の末端には1917年式歩兵も混じっていたから,いかにイタリアといえども単独でなんとかするだろう。

 

バルバロッサ作戦発動前夜。機甲が北部に集中しすぎているのは懸念材料だが,赤軍主力はまだ極東にいるようだし,勝算は十分にある

 さて,史実と比較したときの問題はこの程度で済んでいた一方,ゲーム内の国際社会には,史実とかけ離れた大問題が発生していた。対ソという一点で協調していた日本と中国統一戦線だが,そのなかにあって日本領インドシナと国境を接する広西軍閥が,あろうことか日本に宣戦布告したのである。
 どう考えてもこれは個人的な領土欲に端を発し,かつ大局を見失った宣戦布告ではあるのだが,それでも広西軍閥は統一戦線の一部である。広西軍閥の敵は統一戦線の敵。というわけで中国統一戦線全体が日本に対して再度宣戦布告を行った。歴史の奇跡ともいえる反共アジア統一戦線(その一員として中国共産党を含む)は,もろくも瓦解したのである。
 これを好機と見てか,ドイツに宣戦布告されたソビエトは中国統一戦線と速やかに和平。極東に展開していたソビエト軍は,数か月以内に東部戦線に舞い戻ってくることが確定した。ドイツの「いつか必ず殺すリスト」の筆頭に,広西軍閥が載ったのは言うまでもないだろう。

機甲と浸透包囲でなく航空優勢のドイツ軍

バルバロッサ緒戦での勝利。ここで苦戦してもらっては困るのだが,これまで同じシチュエーションでいろいろ苦戦してきただけに,油断禁物だ

 局地的な情勢がいかに混迷を深めるにせよ,ドイツの目標は変わらず,打倒ソビエトである。まずは全戦域で攻勢に出て赤軍前線の全面的な後退を呼び込むと,そこに爆撃機で追い討ちをかけて,部隊の完全崩壊を図る。
 ちなみに,ちょっとしたプレイテクニックの話になるが,爆撃機は「塹壕修正」を得ている部隊にほとんど被害を与えられない。このため,意外なことに攻勢劈頭で敵部隊を爆撃しても,あまり大きな戦果は期待できないのだ。
 一方,塹壕修正を失って敗走している部隊への爆撃は「こんなに強くていいの?」というくらい効果的だ。包囲殲滅しなくても敵部隊が消滅するのは,たいへんありがたい。
 ただし,実際に爆撃機を使ってみると,プレイヤーの思ったところを爆撃してくれないケースが多い。爆撃機に対する指令は「地域」ベースで行い,実際の爆撃はAIが「ここが一番脆いはず!」と思った場所に行われるため,せっかく敵部隊を敗走させても,なぜか塹壕修正がたっぷりある敵部隊のほうを爆撃してプレイヤーはがっかり,ということも多い。

 

予定どおり,北部では機甲を中心とした大突破に成功。開戦1週間で赤軍の前線は綻びつつある

 この問題に対しては,まず攻勢に出たい地域に「阻止攻撃」で爆撃機を飛ばしてみて,その爆撃機が噛みついた場所に地上部隊で攻撃を仕掛けるのが楽だ。敵軍の指揮統制に対する攻撃である「阻止攻撃」は,塹壕修正があってもそれなりに有効。これで指揮統制を下げてから地上部隊を突入させれば,同程度の戦力ならまず間違いなく勝てる。
 爆撃AIが狙ったプロヴィンスの敵部隊が敗走し始めたら,爆撃部隊の任務を素早く「地上攻撃」に切り替えると,爆撃AIはほぼ間違いなくその部隊を追撃し,爆撃側の火力やプロヴィンスの地形によっては,全滅にまで追い込む。攻撃した陸上部隊は,突出しても大丈夫ならそのまま進撃させ,カウンターをもらって敗走しそうなら進撃を停止する。これを繰り返していくことで,ただ単に互いに対峙しているだけの戦線で,一方的に敵軍師団を削っていける。
 ちなみにこの戦術を採っていると,絶対負けないような錯覚に襲われるが,勝てないときはそれでも勝てないので,ご安心(?)いただきたい。一番苦しいのが制空権を奪われた場合で,

 

戦闘機が空中戦で負けて制空権を奪われる
         ↓
空港が爆撃されて戦闘機の指揮統制が回復しない
         ↓
制空権を取り返せないので爆撃機を出せない
         ↓
地上で押し込まれて空港を失いかける
         ↓
空軍を基地移動させざるを得ず,せっかく回復した指揮統制がまた下がる(基地移動を命ぜられた空軍の指揮統制は下がる)

 

……というループに入ると,本当に何もできなくなる。実際,1944年開始シナリオでドイツを選んだりすると,本当に下り坂を転げ落ちるような展開で,涙が止まらない。

8月にはスモレンスクを占領。ここまでは実によいペースである。石油消費量もよいペースで困るのだが,いまは目をつぶる

 負け戦の話はさておくとして。なんとか8月にはドイツ機甲部隊の先頭がスモレンスクに到達,スモレンスク北方で機甲を用いた包囲作戦に成功したこともあって,レニングラード〜モスクワ間には大きな穴が空いた。
 一方,南部では苦戦が続く。なんともヒストリカルだが,機甲部隊の大半が北部に投入されていたこと,キエフ付近に赤軍の大部隊がいたことが重なって,どうしても進軍ペースが遅れたのである。ちなみに今回機甲部隊を南部に投入できなかった最大の理由は,イギリスから海上輸送された機甲部隊が旧リトアニアのメーメルに集められていたからという,たいへん分かりやすいものだ。え,えーと,作戦ってなんだっけ?
 それでもなんとかかんとか12月にはドイツ軍の最先鋒がモスクワに隣接,南部ではキエフ占領に成功した。本当は夏のうちに北方から機甲を回して,キエフ正面の赤軍を包囲殲滅したかったが,やはり1か月遅れの開戦でそこまでは無理だった。

 

南部は戦線が停滞しているが,北部ではモスクワが見えてくる。最北端では赤軍自動車化歩兵の包囲に成功,一時的に前方が開ける

 

冬のソビエト戦線。モスクワは実質丸裸なのだが,冬&渡河&市街地と悪条件が重なるので,機甲での突入は難しい。一方,モスクワ救援に向かおうとした赤軍は次々とルフトヴァッフェの餌食に

 さて冬が来たとはいえ,ドイツ軍は攻勢を維持できた。もちろん積極的な前進はできないが,上に書いたような空軍と陸軍の協調攻撃で,赤軍の増援を絶ち続けることに成功したのである。
 とくにモスクワ周辺における空軍の活躍は,想像を絶するものだった。モスクワ周辺にドイツ陸軍の手は届かないものの,赤軍はとにかく首都を守れとばかりに,行軍移動でモスクワを目指す。
 だが,そうやって雪原をのろのろ移動し,何の遮蔽効果も得られない部隊は,次々にストゥーカの餌食となっていく。1941年の冬から1942年にかけてモスクワを目指した赤軍約20個師団のうち,無事モスクワに入れたのはわずか1個師団,たまたま悪天候が続いたときに移動していた歩兵師団だけだった。
 ソビエト空軍も迎撃機で対抗を試みるが,パイロットの錬度と経験,ドクトリンの研究状態,機体の性能,空軍指揮官の能力と,あらゆる面でドイツが上回っている。護衛戦闘機付きの戦術爆撃機部隊に迎撃機部隊が追い返されるありさまでは,制空権の奪回など望むべくもなかった。
 かくしてロシアの冬は,赤軍を助けるどころか,赤軍の出血を助長したのである。

 

今回のドイツには非常に痛いイベント。空軍ドクトリン開発のエースにして,ストゥーカの父として知られるエルンスト・ウーデットが失われる ジェットエンジンの開発に成功。フォン・ブラウン的には不本意かもしれないが,彼の才能は以降も航空機研究に活かされることに

1年と2か月で石油備蓄はほぼゼロに……

じりじりと戦線を押し上げ,モスクワ正面を確保。突入すれば勝てる気もするが,雪解けと包囲の完成を待つことにする

 1942年の春,泥濘の季節になると爆撃の成果はいっそう大きくなった。泥濘で攻撃効率は落ちるものの,機甲火力を集めた地域では赤軍歩兵に負けるはずもなく,ひとたび退却を始めた赤軍部隊が無事にそれを完了できることはほとんどなかった。赤軍戦線のあちこちがすりきれて綻び,ドイツ軍を阻むのは泥濘だけだった。
 ……と都合よく話を進めたいところだが,そうは問屋が卸さなかった。確かに赤軍はもはや戦線を維持できなくなりつつある。しかし,奥地に踏み込むにつれて兵站線は長くなり,輸送力不足による指揮統制値回復や進軍の遅れも目立ち始めた。
 また独軍の冬季攻勢は大戦果を挙げたとはいえ,その背後には無分別に「攻勢」ボタンを使いまくったという事情もあった。物資/燃料の消費が倍増するのと引き換えに,補給効率を強制的に上げる。その部隊の戦闘効率は間違いなく向上するが,発動した時点で自動的に資源を消費するという,悪魔のスイッチなのである。
 このため,バルバロッサ作戦開始時に8万ほどあったドイツ軍の石油備蓄は,1942年4月には3万にまで落ち込んだ。1年かからずに60%以上が煙と消えたことになる。このペースでいけば,あと半年でドイツ軍の石油備蓄は底をつく。だが,ドイツはいまだモスクワ・レニングラード・スターリングラードのいずれをも陥落させていない状況だ。
 4月中旬にモスクワを陥落させ,備蓄してあった石油を接収して一息ついたところで残り3万弱。その後,機甲を北に展開してレニングラード正面に迫った7月には残り1万5000。8月には主力を迂回させ,留守部隊のみでレニングラードの包囲を開始。9月に陥落させるも,石油の残りはついに3500である。このままではドイツ全軍が停止してしまう。ええい貧乏赤軍め,モスクワにもレニングラードにも備蓄がほとんどないとはどういうことか。それともこれが,噂に聞く焦土戦術というやつだろうか?

 

春になって泥濘の大地を進軍,モスクワ包囲網を完成させる。内部に篭もっているのはわずかな赤軍のみ。いかようにも料理可能

 

石油備蓄が尽きかけ(というか実質尽きて),全戦域で活動停止寸前のドイツ軍。赤軍の抵抗は弱いとはいえ,見ての通り数だけはまだまだ十分揃っている

 ここでシベリア方面まで突破すれば,敵が工場を疎開させた地域をもすべて占領して,事実上ソビエトの息の根を止められる。そうした状況を作っていながら,これ以上の機甲部隊の運用は難しくなった。独ソ戦開戦に先駆けて歩兵を自動車化中心で編成したのが,石油不足に追い討ちをかける。ドイツ軍は何を動かしても石油を消費するのだ。

 

 一応,通常歩兵の増産に入ったが,成果が現れる(編成が完了して指揮統制値が上がり,前線に戦略再配置され,そこで指揮統制値が回復する)のは,早くても来年の1月ごろだろう。いずれにしても大規模な夏季攻勢は不可能だ……とはいえ,いま目の前にある優位は維持されねばならないし,それには石油が必要である。そういう軍隊を作ってしまったのだから仕方ない。

 

きわどい綱渡りをしながらスターリングラードへ。赤軍は歩兵中心のため機甲と空軍の機動力に追いつけないが,こちらにはなにしろ石油がなく,作戦も滞りがち いや,君がバクー占領の知らせに接して「参謀本部は大戦果と吹聴するが,これは2年前に目指されるべき戦略目標だった」とか言いたくなる気持ちはよく分かる

 

 そこでベネズエラやオランダに外交官を派遣,ドイツ国内に有り余っていた石炭や鉄鋼と,石油の取引を行った。幸いアメリカはまだ参戦しておらず,イギリスはインドに引きこもっている。ベネズエラが相手でも,大西洋をまたいだ貿易を阻害する要因はない。こうして確保した石油約1万5000を元手に,山岳歩兵+機械化歩兵+空軍がバクーを攻略,赤軍の石油供給源をカットした。

 

ベネズエラ様頼みのドイツ軍夏季攻勢。これだけよい時期に,これだけ派手な包囲殲滅をして,南方には赤軍の影すらないのに,気がつけば今年の攻勢はこれが限界なのであった

 

 1943年夏も,大枚はたいて輸入した石油を使った戦線整理を中心とせざるを得ず,その隙に赤軍は,ある程度のレベルまで軍隊の機能を回復した。だが,そのころには戦線の各地でドイツ軍山岳歩兵が活躍するようになっていたし,占領したバクーの産油量が回復するにつれて,ドイツの石油収支は徐々に上向いていった。

 

 1943年の冬になると,再び機甲部隊が猛威を振るえるところまで備蓄が回復,モスクワ〜スターリングラード間で河川に拠って頑強に抵抗を続けていた赤軍を少しずつ弱体化させ,年が明けるころには戦線に綻びが目立ち始めた。
 1944年春,泥濘が収まり始めたところで,機甲全軍が全戦域で攻勢に出る。石油の備蓄は3万にまで回復しており,また事実上「ドイツ最後の敵」であるソビエトを打倒するラッシュに入ったいま,何かを手控える必要はない。
 1944年6月にはシベリア方面に機甲部隊が突破,工場疎開を行ったシベリアの工業地帯の占拠が始まる。そして7月,ついにスターリンはドイツに全面降伏。ソビエトはシベリアと中央アジア地域を主体とする辺境国家になった。ドイツ第三帝国の悲願は,ここに達成されたのである。

 

春が訪れに合わせて前進開始。バクー油田の機能回復と,ソビエトの移転首都占領による戦略物資の接収,寛大なベネズエラ様との取引によって石油事情は大幅に改善 ついに宿敵ソビエトが降伏。寒さといい,泥濘といい,石油不足といい,赤軍による抵抗よりも,赤軍以外のものによる抵抗のほうが強かった気がする東部戦線だった

 

イタリア海軍,超がんばるの図。まあ,本国が失陥し,スエズも失ったイギリス軍を相手にがんばれないようなら,どこでがんばるのだという気もするが

 ……ちなみに,事ここにいたってヨーロッパ方面を見てみると,イタリアとユーゴスラビアが戦争していた。何が起こっているのか2秒くらい理解できなかったが,ソビエトの降伏でシベリアからベルリンに自動で送還されていた部隊があったので,彼らをユーゴに投入したところ,戦争は2週間で終わった。
 ユーゴスラビアもパルチザン活動が煩わしい土地なので,占領地はすべてイタリアに譲渡することにした。どうもイタリア軍に戦闘させること自体,間違いだったようだが,戦後の管理ならきちんとやってくれるに違いない。
 微々たる量とはいえドイツに石油を輸出し続けたアイルランドや,技術大国ドイツに青写真と最新式歩兵を提供してみせたウクライナといった同盟国の,爪の垢でも煎じて飲ませたいところである。ことに,産油地域をまったく含まないアイルランドが,どれだけの代償を払って石油を調達し,どんな想いでドイツに提供し続けたのかと思うと,なかなか涙を誘う話ではないか。

 

ロシア帰りの精鋭がユーゴパルチザンを一蹴。イタリア海軍はがんばったんだから,陸軍もちっとは真面目に戦争してください パルチザンによる輸送能力への圧迫が厳しいのでウクライナを独立させる。以降,枢軸にとって「最も有能な属国」となった

日本がアメリカ参戦を招くのは運命か?

日本,ご乱心その2。なにもいまさらアメリカに宣戦しなくてもいいだろうに。巻き込まれるこっちの身にもなってほしい

 ソ連が第二次世界大戦から脱落し,イギリスがインドと同義語になったいま,ドイツにとっての世界大戦は終わりかけていた。
 だがここで,思いがけない方向からの一撃が飛び込んだ。ソ連降伏によって極東地域を占拠した日本は,何を思ったのかいまさらアメリカに宣戦布告したのである。ときに1945年2月,まさに西アジアと南アジアのイギリス残存勢力を駆逐しようとしていたタイミングでの事件であった。
 そもそも日本は枢軸国ではない。だからどうでもいいやと思っていたのだが,アメリカはオランダともども連合国に加入して,同時に対独戦争を開始した。えーと,日本にやり返すのはいいとして,この状況でウチにまでケンカ売るのは,どうかと思いますよ?
 さて,売られたケンカを買うかどうか。正直こんな不毛なケンカは買いたくないというのが本音である。ドイツは陸の王者,アメリカは海の王者。おそらくこの構図は1953年末まで変わらない。これはライオンとクジラのどちらが強いかという争いであって,海に入ればクジラが勝ち,陸に上がればライオンが勝つのは見えている(ライオンがクジラに圧死させられる可能性は否定しないが)。

 

オランダが連合国入りしたため,大量のオランダ兵とアメリカ兵が中央ヨーロッパになだれ込んで,ドイツは一時パニックに。ハンガリー軍の活躍と機甲の再配置で,なんとか鎮火

 愚痴をこぼしても事態は変わらないので,まずは現状に対処する。マッカーサー率いる機甲や機械化歩兵などを取り混ぜたアメリカ軍は,インドのカラチに上陸,現地のイギリス軍と合わせて68個師団のスタックを形成した。対するドイツは113個師団。バクーと中東を押さえたいま,ドイツ軍に石油の問題は存在せず,いっさいの掣肘なしに全力を投入可能だ。
 だがこういったハイスタック同士のにらみ合いは,核攻撃でもしない限り,基本的に先に攻撃したほうが負ける。このまま終戦まで塔を高くし続ける競争をしてもいいのだが,それはそれであまりに不毛だ。せめてこの68階建ての塔を倒壊させ,インドを完全に制圧したうえで,新大陸の人間は新大陸にこもっていただこうではないか。合衆国第5代大統領,ジェイムズ・モンローも確かそう言ってたし。

 

 と,いうわけでカラチのタワー攻略を開始するに当たり,せっかくなので日本を枢軸に誘ってみる。アメリカとの戦争が始まってしまった以上,いまさら日本を排除する意味は薄い。海軍の育成を無視している現在,海軍先進国である日本からの青写真はあまり大きな意味を持たないが,日本が保有する東南アジアの空軍基地が利用できれば,インドでの戦争も楽になる。
 外交的措置が終わったところで戦闘開始。最初に,爆撃機でカラチのインフラに打撃を与える。これによってカラチの部隊の指揮統制値回復が遅れることになる。インフラ整備率が一ケタに落ちたところで阻止攻撃に切り替え,指揮統制値をじわじわと削っていく。また気休めではあるが,海軍爆撃機に周辺海域の哨戒を行わせ,米軍がカラチに直接戦力を送り込みづらくする。
 とはいえ,それだけでなんとかなるわけではないので,意を決してカラチのタワーに枢軸のハイスタックをぶつけてみる。思ったより指揮超過ペナルティは低かったが,それでも予想どおりの敗退。だが,連合軍タワーの指揮統制値はだいぶ下がっている。
 続いて第二波の攻撃。これも敗退したが,連合軍タワーにはあちこちでぐらつきが見える。インフラ攻撃が効いているのだろう,指揮統制の回復も遅い。こちらは閣僚に指揮統制回復速度+20%の大臣を入れているので,回復は比較にもならないくらい早い。
 そして第三次攻撃で,ついに連合軍のタワーは崩れた! 連合軍はなだれをうってハイデラバードに撤退する。

 

陸軍タワー(?)同士の対決。救いようのないくらい激しい戦闘ののち,先に倒壊したのは連合軍タワーだった。空軍力の差が大きい

 

 さて,問題は次である。カラチからハイデラバードへの攻撃には,インダス川の渡河が絡む。正面から部隊をぶつけていたのでは,まずもって勝ち目はないだろう。1度仕掛けるたび,損害の埋め合わせとして労働力100が要求される(このときドイツの労働力は700くらい)規模の攻撃を,そう何度も繰り返すわけにはいかない。
 というわけで,力押しの次はドイツらしく機動力を活かした戦争をする。機甲師団12個ほどを枢軸タワーから分離し,インダス川の上流で渡河させる。そのままハイデラバードの後背に突進させ,連合軍の包囲を図るのだ。
 包囲網が完成したころになってようやく,連合軍のタワーは包囲を解くためドイツ軍機甲部隊に攻撃を開始するが,これはかつてのワルシャワ空挺強襲同様の罠である。ハイデラバードで塹壕を構築していた連合軍は,ドイツ機甲部隊に対し攻撃に出たため塹壕修正を失い,爆撃に対しても無防備になった。そこに向けてインダス川の向こうに待ち構えたドイツ軍スタックが攻撃を開始,また空挺部隊がハイデラバードに強襲を仕掛け,空軍はここぞとばかりに爆撃を集中させた。
 包囲され,補給線を絶たれていた連合軍はこの攻撃を支えきれず,68個師団が降伏。アメリカ陸軍は実に全軍の3分の1を失った。ここにおいて,インドにおける戦争は終結したのである。

 

ハイデラバードでの第二ラウンドは,機甲による包囲殲滅で幕。インドでの戦争はこれにて終結

 

 ちなみにかなりどうでもいいことだが,ここで最終的なヨーロッパはこうなった,というスクリーンショットを撮ろうと思ったら,ユーゴスラビアでは1プロヴィンスがパルチザンの手に落ちていた。……もう何も言うまい。

対米封じ込め政策,鉄のカーテンは大西洋に

さまざまな工作の結果,平和が訪れたヨーロッパ。ここからドイツは次世代をにらみ,核開発とロケット開発に邁進する

 その後1953年末までゲームを進めてはみたが,振り返ってみればインドで連合軍のタワーが崩れたとき,ドイツの戦争は終結していたといえる。
 インド解放以降,ドイツは核関連技術の開発と原子炉生産を進め,アメリカよりも早く水爆とICBMの開発/配備に成功。また原子力潜水艦を中心とした艦隊を結成して制海権を争うことも考え,第一陣がキールで進水式を行った。だが,ジブラルタル〜北西アフリカ沿岸に超音速海軍爆撃機を哨戒させていると,アメリカの艦艇が次々に沈んでいくし,試みに日本軍に同じ最新鋭の海軍爆撃機部隊をどっさり供与したところ,太平洋でも次々とアメリカ艦が沈んでいったため,大きな海戦が起こることはなかった。
 ドイツとしてはアメリカとシロクロつけてもよかったが,日本軍支援を優先したため,時間的に海軍再建が間に合わないこともあって(アメリカの工業力で量産される主力艦の数に比べれば,海軍爆撃機が沈める船の数など問題にもならない。艦隊決戦なしにアメリカを攻略することは不可能だろう),アメリカとの戦争にはこれ以上の積極関与を避け,中国に陸軍主力を派遣して国民党政権および各軍閥を(道すがら中国共産党も)打倒,汪兆銘傀儡政権を樹立してベルリンに凱旋した。ドイツにとって最大の仮想敵国はいまなおソビエトであり,ソビエト極東地域への押さえとして考えた場合,国民党中国が備える無尽蔵の労働力と,そこから生み出される非常識な数の歩兵は魅力的だったのだ。アメリカとの戦争は,この後も冷たい戦争として継続されることだろう。

 

中国を平定し,水爆の実用化に成功。軍隊の規模も実動戦力で600個師団近く。海軍を再建すればアメリカに負ける要素はない

 

 今回のプレイで感じたのは,なんだかんだでこのゲームのドイツは,それなりに強いということだ。戦略としてかなり冒険的な方針をとりつつも,どうにか勝ててしまう底力は驚嘆に値する。ドゥームズデイ拡張によって実現する“延長戦”を,存分に楽しめる勢力なのは間違いないだろう。
 とくに,メッサーシュミット,ハインケル,フォン・ブラウンの3大技術開発チームが進める,航空機関連技術の進展速度と効率が素晴らしい。1941年には空軍ドクトリン研究のエースであるエルンスト・ウーデットをイベントで失うとはいえ,あとを継いでくれる人材には事欠かない。
 もちろん陸軍の開発力も非の打ちどころがない。戦車関係の開発が優秀なのは当然として,モーゼル社の高度な歩兵技術開発力,補給関連技術の脇を支えてくれる自動車メーカーの優秀さなど,どこにも弱点が見当たらないのだ。かてて加えてドクトリン研究には,グデーリアンとマンシュタインがいる。
 研究関係における弱点をあえて挙げろというならば,空母を開発するのに向いたチームがいないこと,産業関係技術の開発チームの層が薄い(だが質は高い),というくらいか。
 燃料,労働力といった致命的な問題を抱えてはいるものの,世界最高水準の技術開発力から生み出される驚異のオーバーテクノロジーは,それを補うアドバンテージを,一時的とはいえ与えてくれる。あとはそのアドバンテージが有効な間に,かりそめの優位を汎用的な優位に変換できるかどうか……それがドイツが背負った課題なのだといえよう。

 

枢軸の勝利。危ない場面は何度かあったものの,きちんと下準備ができていた地域の戦争(イギリスとソビエト)はワンサイドゲームだった。むしろ最大の危機はフランス戦。格下と思ってゆめゆめ侮るべからず,である

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
「ドゥームズデイ」のコツもだいぶ掴んだ,PCゲームライター。ドゥームズデイでは新ルールもさることながら,AIの行動様式がかなり改善されており,史実および「ハーツ オブ アイアンII」の常識で判断すると,ときに煮え湯を飲まされる。「低地諸国で,ドイツ軍を上回る規模できちんと運用されるフランス機甲部隊に出くわしたときは,自分が何のゲームで何軍をやってるのか,本気で分からなくなりました」とのこと。システムの拡張とともに,展開の幅もかなり増強されたようだ。
タイトル ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/08/04 価格 通常版:8925円,アップグレード版:4725円(共に税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(Pentium III/1.20GHz以上推奨),メインメモリ:128MB以上(512MB以上推奨),グラフィックスメモリ:4MB以上(8MB以上推奨),HDD空き容量:900MB以上

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ジョン・ダワー著。これを日本人以外に書かれてしまったことの衝撃が,ひところ言論界を賑わした,日本戦後史概説の決定版。

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鷲は舞い降りた 完全版
ジャック・ヒギンズの冒険小説。失意の降下猟兵指揮官シュタイナ中佐と部下に下ったのは,IRA工作員と協力し英国に潜入する任務だった。