― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第9回:我々の外交の成就だ(スペイン国粋派)

 第二次世界大戦に関わったさまざまな国や政治勢力を追体験できるストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,さまざまな歴史的課題に挑戦するこの連載,今回はここ,スペインからお届けします。

 

 20世紀を迎えたスペインは,ヨーロッパでも近代化の遅れた地域となっていました。大革命以前のフランスと同様に,極端な貧富の差がある社会では左右両派の対立が絶えず,王政が揺らいでからというもの,政権は交代を繰り返し,そのたびに少なからぬ血が流されます。
 右派を支持するのは,大地主,教会(この当時は大資本家を兼ねる),軍人,国王周辺といった高位の社会階層であり,左派の支持基盤は労働者,農民(多くが小作人),小ブルジョワジーにありました。20世紀前半という時代を背景として,左派にはソビエト共産党/コミンテルンの影響下にあるマルクス主義者や,革命を求める社会主義者がいたのはもちろん,バクーニン主義などアナーキズムが現実の労働運動として力を持っていたのが,スペインの特徴です。

 第一次世界大戦に参加しなかったにもかかわらず,国王と軍がモロッコの支配に固執して戦争の道を歩んだことは,左派による反対運動を激化させる一方,軍人の中に「アフリカニスタ」(アフリカ主義者)と呼ばれる有力な一群を生み出します。後に政権を握るフランコ将軍も,その一員でした。
 高まる不満を乗り切るべく,国王アルフォンソ13世はプリモ・デ・リベラなど軍人に独裁権力を与えますが,左派に対する行き過ぎた弾圧の反動で,1931年4月の選挙を機会に各地で反乱が起き,6月には王政の廃止が決まります。
 共和制下でさまざまな社会政策が打ち出されるものの,共和制を支持する諸派の足並みが揃わなかったためもあって,1933年の選挙では右派が巻き返し,共和制時代に打ち出された政策はことごとく撤回されてしまいます。
 1934年に起きた「十月闘争」への苛烈な処置を受け,かつ前回の総選挙での敗北を反省した結果として,左派諸勢力は党派を超えた選挙協力体制である人民戦線を結成して1936年の選挙に臨み,僅差ながら勝利を収めます。こうして左派が再び政権を掌握したものの,この結果を受けて有力な軍人達が共謀し,各地でクーデターを敢行,いわゆるスペイン内乱が始まります。はじめは各地方で反乱の鎮圧に成功していた人民戦線政府でしたが,モロッコでは反乱側が優位に立ったうえ,イタリアとドイツの支援を取りつけてスペイン本土に迫り,内乱は長期戦の様相を呈します。

 ヨーロッパ諸国は協議によって,内戦への不介入を決めますが,イギリス,フランスが実際に干渉を避けたのに対し,イタリア,ドイツは協議を公然と無視して反乱側に荷担,これに危機感を深めたソビエトが,人民戦線政府に武器および物資を提供しつつ,義勇兵を組織して支援に出ます。ファシズムに対抗すべく,各国から自由主義者が馳せ参じたことで名高い国際旅団も,コミンテルン主導で結成されたものです。
 しかしながら,英仏から支援が受けられなかったうえ,スペイン共産党を通じたソビエトの意向と,アナーキスト諸派との間で路線対立を抱え込んだままの人民戦線政府は,独伊が後押しする反乱側に対して,次第に劣勢に追い込まれ,1938年に降伏します。

 反乱の過程で権力を掌握したフランコによる独裁体制が,冷戦体制下でのアメリカとの接近もあって1970年代まで続くことになるスペインですが,2年半以上にわたる内戦は国民と産業を著しく疲弊させました。例えば工業生産が内戦前の水準に戻るのには,1950年までかかったといわれています。内戦の経緯からして,枢軸陣営と親しかったはずのスペインは,国土の荒廃に加え,軍部が最終的なドイツの敗北を予測したためもあって,第二次世界大戦には「不参加」(独ソ戦に義勇兵を送り,資源の供給に協力した程度)を貫きます。

 ここでクエスチョンです。独裁体制ということでドイツやイタリアといっしょくたに考えられがちですが,フランコ独裁におけるファランヘ党は,ナチ党やファシスト党と異なり,政権そのものと一体になっていたわけではありません。ヨーロッパにおける枢軸陣営主流と,利害も違えばイデオロギーも微妙に異なるスペインが,史実に相違して少ないダメージで内戦を終えられたなら,そこにはどんな可能性が広がっているのでしょうか。

 

スペイン国粋派の選択画面。これまでの回でも,しばしばスペインが終盤になって大暴れしてきたので,ポテンシャルは十分にあるはず。歴史的可能性というより,ゲームとしての可能性を追求するには最適の国かもしれない

 

やればできる子,スペイン

 ハーツ オブ アイアンII,というか前作「Hearts of Iron」でも陥りがちな「食わず嫌い」論法がある。第二次世界大戦当時に存在した無数の国をプレイできるのはよいが,それでどうなるというのか。例えばスペインを選んでがんばれば,1940年の声を聞かぬうちに内戦は終わるであろう。それはそうとして,内戦後のスペインはいったい何をすればよいのか? ゲームが終了する1947年まで,ただぼーっと世界の情勢を眺めていること以外に,何かできるのか? というものだ。
 実は筆者も,このような疑いを抱いていた者の一人である。だって,スペインですよ。フランコですよ。仮に枢軸入りしたとして,ドイツがソビエトに負ければ赤軍の最大進出領域を広げるか,連合軍の揚陸地点候補を増やすだけ。連合軍に荷担すればフランスの先にまでドイツ戦車が押し寄せるのがオチだ。そのうえ,地政学の三文字を口にするまでもなく,地続きのエリアには進出可能な(あるいは進出して有意義な)プロヴィンスがほぼ存在しない。
 しかし,何度もスペイン以外の国で欧州戦線を戦うにつれ,なんとなく一つの可能性らしきものが見えてきたのも事実だ。

 

フランコ将軍。正直言ってこの人が指導者というのはつらい。だが,もっとひどい人はいくらでもいるので,まあ納得するしか

 スペイン(国粋派=フランコ側)最大の特徴は,枢軸寄りでありながら,枢軸への加盟を強制されないことにある。つまり,「自分から戦争を仕掛けていないのに,気がついたら米ソと敵対していた」といった事態を積極的に回避できる。
 これは言葉に尽くせぬほど大きなメリットである。例えばハンガリーやルーマニアのように,自国の意思とは無関係にソビエトと戦うハメにならないし,満州やイタリアのように“宿主”がどれくらいがんばれるかで自分の運命が決まったりもしない。スペインは周囲の戦況に左右されず,独自路線を行けるのだ。
 その一方で,連合にも枢軸にも加盟しない中小国家は,技術開発の点で大きなハンデを負う。枢軸の盟主ドイツは傘下の国に惜しげもなくテクノロジーをばらまくし,連合国同士では中小国家が細々と開発した技術が相互に飛び交うことになるが,独立独歩を選ぶ以上,こういった横のつながりからも切り離されることを覚悟しなくてはならない。

 

 さて,ではこの条件下において,何をすべきだろうか? 可能性は意外に広い。

 

  • 陸軍を育成して,ドイツの後背を突く
  • 陸軍を育成して,ドイツを蹂躙したソビエトを押し返す
  • 海軍と海兵隊を育成して,イギリス上陸作戦
  • 海軍と海兵隊を育成して,アフリカでイギリスと戦う

 

 このうち,1.はドイツがソビエトに負け始めれば,いともたやすく実践できることが証明済み(連載第5回を参照)なのでパス。2.は数学的な意味における“可能性”があるだけで,現実として無理なのでパス。
 3.か4.かということだが,4.のアフリカでがんばってみても,資源エリアもなければICエリアもないのでパス。残る3.は,成功すればイギリス本島のICと資源エリアを確保できるので,その後インド亡命イギリス政府を叩くといった夢も生まれる。というわけで,3.に賭けてみよう。

外に出るか,引きこもるか

なかなか優秀な閣僚たち。一芸に秀でている者が多いので,うまくプログラムを組んで使っていきたい

 フランコのスペインをプレイする以上,内戦が始まっていないと話にならないので,1938年スタートでフランコ側を選択する。
 最初は共和派との内戦になるが,これはあっさり片付く。いきなり主力が分断孤立させられる危険もあるものの,オーバーテクノロジー(当社比)を駆使するドイツ軍事顧問団を利用すれば問題ではない。もっとも,本作にまだ慣れていない場合,十分惨敗できる程度なので注意は必要だ。実際A.I.同士では,よく共和派が勝つ。痩せても枯れても相手は政府軍である。
 スペイン国内の統一を済ませたところで,国家の概要を確認しよう。まずICは30程度。低くはないが,高くもない。イギリスとケンカするなら,まあ圧倒的に足りない。資源は不足しており,主に枢軸諸国からの輸入に頼ることになるが,実は南米からの輸入ルートもけっこう使える。
 技術開発スタッフはそれなりに揃っているが,優秀といえるだけの機関は多くない。スキル6がいないのは,中小国ではやむをえないところだ。
 一方,将軍と閣僚の人材はかなり豊富。とくに政治スタッフは技術開発ボーナス+10%を各分野にわたって付与してくれるので,うまく技術開発のタイミングと予定表を組み上げれば,細かい人事でぐっと効率を上げられるだろう。

 

この状態からイギリスに勝てる海軍を作る。……現実性はともかく,やりがいはある 将軍も優秀な人材が多数。スキル4は割とざらにいる。内戦で経験を積めるのも大きい
この内戦をミクロに見た結果として,世界的な評価を受ける小説や絵が多く創られた。それはそうと,戦略的に言えばここまではさほど難しくはない

 

 ここで,今後の選択肢は二つに絞られる。一つは外征。海外領土を確保し,ICと資源確保に努める。メリットは急速な拡張が可能なこと,デメリットは戦争になることだ。もう一つは工業化。工場を増築してICを高める。メリットは戦争しなくて済むこと,デメリットは発展の遅さと資源不足である。
 イギリスと本気でやりあうなら,地道な工業化ではまず追いつけない。なにしろ相手はIC200から300の大国である。戦域が世界中に広がっており,また陸海空すべてを視野に収めねばならないといったハンデがあるにせよ,大人と子供のケンカになってしまうのは避けられない。


ここからがタイミング勝負のフランス戦。早すぎれば圧倒的な数の敵を自分で引き受けて馬鹿を見る。遅すぎれば美味しいエリアは奪えない

 そうなると必然的に外征だが,進出先は二つしかない。ポルトガルとフランスである。サラザールには申し訳ないが,ポルトガルはいつでも確保できるので後回しにするとして,フランス戦にはタイミングと計画性が要求される。
 仕掛けるタイミングは,当然ながらドイツがベネルクス3国からフランスに押し寄せてきたときの火事場泥棒として,である。最大の戦略目標はパリだが,後にヴィシー政権の領土となる南部フランスを押さえておくのも重要だ――南部フランスにはICエリアも多いが,スペインのアキレス腱となるエネルギー資源の産地が多いのである。
 フランス戦に勝つこと自体は,拍子抜けするくらい簡単だ。ドイツがパリを陥とせば,南部をスペインに奪われているフランスは瞬く間に降伏して,ヴィシーフランス政権が立つ。
 しかしスペインの利害から考えるに,これはたいていの場合早すぎる降伏である。南部フランスの資源地帯を制圧できないまま,各プロヴィンスがヴィシー色に染まって終了というオチが多い。
 そこで今回のプレイでは,これまで定番にしてきた歩兵+重砲の「安い・大火力・遅い」セットを捨てて,支援旅団を装甲車中心にし,進撃速度を優先させてみた。本当は戦車がいいに決まっているが,そんなICがスペインにあるはずもない。

 

できればパリを取りたいが,難しい。この画面の場合も,できればあと1プロヴィンス欲しかったところ

 

 フランスに宣戦布告すると,必然的に対イギリス戦が始まるので,上陸可能地点に守備隊を置いて「大西洋の壁」を構築する。もっとも,A.I.はなかなか上陸作戦に踏み切らないのだが……。
 フランス戦が終わったら,ポルトガルを制圧し,ジブラルタルを陥落させる。ジブラルタル攻略は非常に困難な作業になるが,不可能ではない。対仏開戦前にジブラルタル対岸をスペイン歩兵で埋めておけば,そのままジブラルタル海峡を確保できることもあるが,さすがにここまでやるとイギリスは遮二無二アフリカ側プロヴィンス(スペイン領モロッコ)に攻め込んでくる。今回のプレイでも,イギリス海軍に補給線を断たれたところを,フランスの在アフリカ部隊が押しつぶしていった。ジブラルタル確保の戦略的アドバンテージは言葉にできないくらい大きいので,なんとか守りきりたいところだが,さすがに難しいようだ。

無敵艦隊というロマン,もしくは懐古趣味

悪魔の誘い。ソビエトと戦う危険を冒すくらいなら返事はノーで。アメリカは……今回は不可抗力

 この段階で,スペインの有効ICは80弱。基本ICが伸びきらなかったので研究ラインは3本のみ,やはりパリを陥落させないと厳しい。パリをスペイン領にできていれば,研究ライン4本と100を超える有効ICを確保できるので,かなり自由が利くのだが……まあ,1938年からフランス戦まではやり直すとしても手軽なので,完璧な勝利を狙うなら,試行錯誤する価値はあるように思う。
 さて,ここでイギリスと戦うスペインとしては,アフリカに派兵してイタリアを手助けしようとも考えたのだが,またしても世界は不思議ワールドに突入しつつあった。イタリアはイギリスからアレクサンドリアを解放,スエズを渡り,イラクまで併合してしまったのだ。イタリア人あなどり難し――まあ,もしかしたら珍しくドイツアフリカ軍団が派遣されていたのかもしれないが。

 

イタリアすごくがんばるの図。ジブラルタルを封鎖できれば,これを維持できるわけだが

 もはや隣接地域にICを求めることもできなくなったところで,何をするか。伸びようとするなら,海を越えるしかない。宿敵はイギリスであるし,350年ぶりくらいに昔日の栄光を思い出して,再び海洋覇権国家への道を歩もうではないか。
 当然ながら,時代は空母である。我がスペインの「今度こそ無敵艦隊(仮)」も,空母機動部隊にしたほうがよいに決まっている。だが,スペインはここまで空母の研究をまったく行っていないし,いざ生産しようとしても気が遠くなるような時間が必要になる。なにしろこのゲームのルールで空母を機能させるには,付属旅団として空母航空隊まで作成しなくてはならない。スペインはここまで航空機の研究を(以下略)。
 ええい,ならば大艦巨砲主義である! すでにして敗色濃厚な気もするが,大艦巨砲はロマンである。そもスペインでイギリスに一泡吹かせようなどという段階でロマンに溢れている以上,ここで少々ロマン成分が増えたところで,問題はなかろう。

 

このころすでにモスクワはドイツ軍支配下。生存圏を求めて日本に宣戦布告? それは無謀すぎる気が

 そんな怪気炎をヨーロッパの西端で上げている間に,独ソ戦が始まった。正直言って,独ソ戦がどうなるかなどスペインには無関係だ。今や南フランスの工業エリアと資源エリアを持っているため,枢軸国からの輸入に頼る割合も低い。枢軸が世界から消えそうなら,そのときは新大陸の人達に媚を売っ……もとい,外交努力で,不足した資源を調達すればよいだけのことである。
 などと思っていたら,ドイツが破竹の勢いで進撃し,フィンランドもがんばる。モスクワ,レニングラード,スターリングラードが次々に陥落し,赤軍はシベリアへと逃げ込んでいく。
 ここで何を思ったか,ソビエトは対日宣戦布告をする。いや,何それ。しかしこれにはきちんと根拠があった――アジアに目を向けてみると,日本が国民党と謎の握手をして,残り2プロヴィンスまで追い込まれていたはずの国民党は中国のほぼ全域を回復したのだ。これによってソビエト首脳部は「日本がアジアで弱体化した」と判断,満州に攻め込んでいったのである。

 しかし,それは当然ながらとんでもない勘違いで,日本は東京に再配置された陸軍をカムチャツカ沿岸に揚陸させ,ウラジオストックから満州北方にわたる巨大な包囲網が出来上がった。また,歩兵中心の日本軍はモンゴルの山地をものともせずに進軍し,モンゴルほぼ全域を支配した。ちゃっかり徳王の蒙古国とか出来ちゃってるのもチャーミングだ。
 やがてスターリンは苦い和平条項を飲み,ソビエトはシベリアと中央アジア奥地を中心とした中小国として余生を送ることになった。共産主義が地上から根絶されなかっただけ,よしとすべきか。ちなみにそのころ,国民党はチベットに宣戦布告し,併合して巨大な山岳国家となった。……どこかで見たような気がして,たいへんコメントしづらい世界の歴史である。

 

徳王の蒙古国建国。だからどうした,という気もする……。いや,先週起きてたら良かったのだが チベットを併合した国民党。「中国政府」がチベットを志向するのは,仕様なのですかね
スターリンではない,負け組ソビエト。後にスターリンが返り咲くあたりも,実に笑える
スペインのボム(爆弾)は,主に港に降る

地味だが今回最大の不思議イベント,アメリカの単独ドイツ宣戦布告。世界を分割するのは,枢軸,連合軍,アメリカ,ソビエトだ

 世界では相変わらず不思議な出来事が続いているが,スペインにとって最も重要な事柄は,アメリカが単独でドイツに宣戦布告したことであった。アメリカは連合に与することなく,アメリカ大陸の諸国家をまとめ上げて,ドイツに宣戦布告したのである。モンロー主義もここまでいくと,ジョン・ヘイに合わせる顔がないというものだ。
 そしてこれが,イギリスとの艦隊決戦を目指すスペインにとって極めて有利な情勢であるのは言うまでもない。アメリカの海軍力を気にせず,イギリス海軍とだけケンカすればいいのだ。これなら勝機もあるんじゃ?
 とりあえず重巡洋艦を量産ラインに乗せて,18隻を製造する。そのうえで海軍ドクトリンを研究しつつ,戦艦の生産に入ろう。理屈の上では1947年2月頃には戦艦10隻,重巡洋艦18隻を主力とした艦隊が完成する予定だ。

 

無敵艦隊建造開始。経験から言えば,これの2倍くらい作れると大艦巨砲主義でイギリスを粉砕可能。スペインではこれが限界か

 


イギリス海軍はスペイン海軍の3倍。空母と戦艦を揃え,質的にもスペイン海軍を圧倒。まあ普通勝てないわけですが,それでも夢とロマンとプライドを賭けて,いざ海へ

 ……それはそうとして,このときイギリスの海軍力は空母11隻,戦艦19隻を中核とし,巡洋戦艦5隻,重巡洋艦9隻,軽巡洋艦34隻という陣容。アメリカの空母43隻,戦艦22隻に比べれば小ぶりとはいえ,相手にしたくないだけの規模を持つ海軍である。
 そのうえ,イギリスは大規模な空軍力でスペインの海軍基地を爆撃していく。戦艦5隻が完成した1946年1月には,重巡洋艦はすでに16隻。戦う前に2隻が港の中で沈められたのである。こんなことなら,艦艇を港に配備しなきゃよかったと思う反面,指揮官のスキルは度重なる艦隊襲撃と爆撃を経て急上昇しており,2隻は演習費用ともいえる。高いには高いが,指揮官の経験はICだけでは買えないので,決して無意味ではない。

 

よーく見るとイギリスの戦艦「ネルソン」が沈んでいるのが分かる。フランス海軍が一緒でないのが残念だが,実に微妙な符合である

 さて,あと1年待てば無敵艦隊は計画通りの姿となるが,それまでに少なからぬ艦艇が沈められるのも事実。空襲は日に日に激しさを増しており,このままでは1年待ったあげく,弱体化した艦隊が完成するおそれすらあった。
 事ここに至ってはやむを得ない。無敵艦隊は見切り発車でドーバー海峡に出撃した。
 その結果。スペイン海軍の約3倍の数で待ち受けたイギリス海軍は,戦艦3隻,空母1隻を失うという大損害を受けた。対してスペイン海軍は,新鋭戦艦1隻,重巡洋艦4隻を失った。戦力比からいえば大戦果である。

 

ドーバーの海賊となったスペイン艦隊。連戦連勝でイギリス海軍を粉砕していく。まあ,たとえ海軍を駆逐できても,さすがに上陸作戦は無理そうだ

 だが残念ながら,この段階でスペイン/イギリス両海軍ともに継戦能力を失っていた。そして,イギリス艦隊が母港に戻って高度な技術に基づく修理を受けているさなか,スペイン艦隊は母港でイギリス空軍の丁重なもてなしを受け,完全に戦闘能力を失った。戦闘に勝ったが戦争に負けたとは,このことだろう。
 とはいえ,些少なりとも1588年の雪辱を果たしたことは,スペインの歴史の輝かしい1ページとなったはず。そして,ドーバー海峡のような限定された海域では,水上砲撃戦力が空母機動部隊の破壊力を瞬間最大風速的に上回ることがあるという戦訓は,おそらく後世の海軍史をいい感じに歪めてくれるに違いない。

 

スペインによる連合国の牽制も微妙に効いたのか,ヨーロッパを席巻したドイツ。確かにイギリスこそ残っているものの,ヒトラーの戦争目的はもう果たされているような気はする

 改めて言うまでもないことだが,戦争では国家の持つすべてが問われる。それが今回のプレイの帰趨を決めたといえよう。確かにスペインの海軍技術はイギリスのそれを凌駕していたし,3倍を超える相手を向こうに回して,互角以上に戦った。しかしイギリスにとってその敗北が「戦争における1000の敗北の一つ」だったのに対し,スペインが同じ戦闘で蒙った消耗は,敗北への片道切符だった。
 スペイン海軍にとどめを刺したのがイギリス空軍だというのも,ほぼ同じことを意味するだろう。たとえスペイン海軍が空母を揃えたとしても,結果が変わるとは考えづらい。
 まあ,国家が負けたとて文化が滅びるわけではない。イギリスの軍門に降ったところで,スペイン人がみな謹厳実直になるわけでもあるまいて。近代戦にロマンを持ち込むのは誤りだが,ヘミングウェイが書く闘牛士のごとき不屈のロマンが,非フランコ化された戦後スペインの再建に貢献するものと信じよう。

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
史実の知識を微妙な形で動員しつつ,日々国家指導者としての腕前を上げていくゲームライター。挑戦しがいのありすぎる課題を意欲的に探す今日このごろのようで,それが祟ってか,直近の戦績は(あくまで国家としては)3連敗。そろそろ勝ち星が見たい気もするが,まあ面白ければいいか。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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