― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第5回:世界は我々を軸にして回る(イタリア)

 第二次世界大戦をトータルに再現したストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,「それ,アリなの?」という戦争指導を行ってみる本連載。今回はあの,イタリアからお届けします。

 イタリアが小国分立状態を脱して統一されたのは1861年。ヨーロッパのほかの大国に比べて,微妙に遅いスタートを切ったことになります。そして,後発近代化国としての経済的なハンデと,求心性の低さ――国論の分裂しやすさと地域利害対立の生じやすさ――が,イタリア政治に終始つきまとう課題となります。

 

 オーストリアの支配を脱して統一を成し遂げた後も,イタリアは本来自国の領土であるべきと考える南チロルやトリエステ,トリエント,フィウメ,ダルマティアなど「未回収のイタリア」をめぐって,オーストリアと対立を続けます。ドイツおよびオーストリア=ハンガリーと同盟関係にあったにもかかわらず,第一次世界大戦においてイタリアが英仏協商側に立って参戦したのも,この「未回収のイタリア」を獲得するためでした。

 オーストリア=ハンガリーとの戦闘は長らく一進一退を続けますが,1917年秋に起きたカポレットの戦い(浸透戦術が初めて用いられたことから陸戦史上重要な戦いでもあります)で大敗を喫し,以降守勢に回ったまま終戦を迎えます。
 ベルサイユ講和会議での領土交渉は思うに任せず,フィウメ,ダルマティアの領有は失敗に終わります。そして戦後のイタリアを襲ったのは,大規模なインフレと,相次ぐ労働者/小作人の暴動でした。対外的な権威の失墜と,経済的な行き詰まり,貧困層の抵抗増大と社会主義運動の高まりは保守層の危機感を募らせ,お約束ともいえるナショナリズムの台頭へと短絡していきます。その波に乗ったのが,ムッソリーニ率いる後年のファシスト党でした。

 議会政治の外側に立ち,労働者/小作人の運動に対するテロルで権力基盤を拡大していったファシスト党は,政権の獲得手段も「ローマ進軍」という実力行使でした。にもかかわらず,時の国王ヴィットリオ・エマヌエーレ3世は,社会主義勢力の増大を恐れてファシストの保守的側面を歓迎,1922年にムッソリーニは首相の座に就きます。
 続く選挙法の極端な改正と,それに基づく選挙におけるファシスト党の大勝,さまざまな治安立法を通じて,ドゥーチェ(統領)ムッソリーニの独裁体制が確立していきます。その一方でイタリアは,独裁国家の宿命というべきか,古代ローマ帝国という輝かしい歴史に仮託した国威発揚体制を築き上げ,かつ自国の偉大さと指導者の有能さを証明するための対外戦争へと乗り出していくのです。

 エチオピア侵攻,スペイン内乱への干渉は英仏との対立を深め,イタリアは武力で気を吐くナチスに接近していきます。アルバニアへの侵攻に続き,第二次世界大戦にはドイツの同盟国として参戦,ギリシアや北アフリカに手を伸ばしました。
 しかしながら,ムッソリーニにとって残念なことに,当時のイタリアは近代ヨーロッパの後発組に過ぎませんでした。例えば枢軸側の軍需物資生産は90%がドイツによるもので,イタリアと日本を合わせて残り10%だったといわれています。ギリシアでも北アフリカでも,いわばドイツ軍の手を無駄に煩わせただけで,はかばかしい戦果は上がりません。
 前回引き合いに出した米軍のウェーデマイヤー中将,東アジア方面司令官に転出する前に,ヨーロッパ戦線における米軍の物資供給見積もりを担当した彼は,回想録「第二次大戦に勝者なし」で,いみじくも当時のイタリアについて「そのままにしておいたほうがドイツの行動の自由を奪えて良い」と考えた,と述懐します。つまり米軍の兵站責任者は,イタリアの戦争遂行能力を最初から問題にしていなかったのです。

 連合軍は,ウェーデマイヤーに言わせればチャーチルの口車に乗る形で1943年にシチリア島とイタリア半島に侵攻,イタリアを無条件降伏に追いやります。ファシスト党の内部反乱によるムッソリーニの失脚,ヒトラーの指示を受けたオットー・スコルツェニー少佐によるムッソリーニ救出と,イタリア社会共和国の設立などといった経過をたどりつつも,頼みのドイツが劣勢に追い込まれる中で,もはやムッソリーニのイタリアに挽回の余地はありませんでした。

 ここで今回のクエスチョンです。ファシズムの功罪をさしあたり論じないとしても,当時のイタリアの国力で,地中海の覇権をイギリスと争うのは無理な相談でした。アメリカまでもが敵に回った状況ではなおさらです。ムッソリーニ体制の,客観的認識を欠いた極端な軍事的冒険主義は,彼の独裁を支える役割を担ったにせよ,果たして政権維持に必要不可欠なものだったのでしょうか?

 

エチオピアに対し「攻撃を行えば国際的な非難の的」と書かれてはいるものの,1936年のシナリオは,もう宣戦布告しちゃった状態からスタートする。行えばもなにも,あったものではない

 

今回はイタリア“込み”の方向で

 のっけから品の良くない話題で恐縮だが,WWII関連の読み物やゲームのファンの間で,イタリアの評判はいささか芳しくない。ドイツ人と日本人が目配せして「次はイタリア抜きで」と言い合うという,笑えないジョークの存在については,改めて述べるまでもないだろう。
 だが,連載第2回でフランスがベルリンを占領できたように,もしかしたらイタリアにも可能性は残されているかもしれない。いや,あるはずだ。今回はそれを探していく。

 なお,この連載は第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていない。ときに過激な表現が出てくることもあるが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものである。あらかじめご了承いただきたい。

 ということで,イタリアである。イタリアをプレイするに当たっては,前もって考えておくべき事柄がいくつかある。

 

  • 石油の確保が難しいこと
  • 海軍でイギリスに勝とうなどと思わないほうが身のためなこと
  • 陸軍でソビエトに勝とうなどと思わないほうが身のためなこと
  • ドイツ様の貴重な資源地帯を横取りすると,自分の首を締めること

 

 一番深刻なのは,言うまでもなく4.だ。フランスでのプレイにおける「速攻でイタリアを叩き潰し,経済的アドバンテージを握ってからドイツとの決戦に挑む」という図式を応用して,「速攻でフランスを叩き潰してからソビエトとの決戦に挑む」のでは,ドイツ様からフランスの工業力を奪ってしまうことになる。戦争全体の展望を考えたとき,これは明らかによろしくない。だが,史実どおりアフリカに固執したところで,

 

  • 補給は地中海経由だが地中海の制海権はイギリスのもの
  • そもそもアフリカにおいしい土地などない
  • ロンメルが助けに来るとは限らない。というか,普通来ない

 

 ということで,実のところ絶望的である。


イタリア軍初期の技術開発状態。ネガティブに言われがちなイタリアだが,ヨーロッパ主要国にふさわしいレベルにある

 ではイタリアにできることは何か? 素晴らしく消極的なアイデアとして「ドイツと軍事同盟を組まず,また三国同盟イベントにもノーと回答,ドイツの足を引っ張らないようつつましやかに生きる」という策があり得よう。これは,さまざまな見地から非常に良い選択肢のように思える。いやまあ,あくまで自分がイタリアを担当することを度外視したときの話だが。

 それはそれとして,現実にできることを考えてみたい。1936年イタリアの技術開発状態をチェックすると,これがなかなか立派な海軍国である。陸軍はいま一つだが,そもそも1936年のヨーロッパ諸国には,どこもイマイチ感が漂っているものだ。ICも絶望するほど低くはなく,研究ラインは4本と,ポテンシャルはある。

 ここでじっと考えてみる。石油がない以上,戦車は諦めたほうがよいだろう。ドイツから石油を輸入する始末では,なんの同盟国か分からない。戦車に限らず,石油を大量消費する兵器はとにかくパスだ。そうそう,海軍でイギリスに勝てるはずもないので,当然ながら海軍の増強もパスする。
 すると,残るのは歩兵ということになるのだが……いやいや,必要十分ではないか。マップをよくよく見ていくと,歩兵中心の戦略が功を奏する進出方向が浮かび上がる。ユーゴスラビア,バルカン半島からトルコ,カスピ海沿岸というルートがそれだ。
 このあたりは山と丘陵が多く,山岳歩兵には打ってつけである。対戦車砲と重砲,そして歩兵と山岳歩兵をひたすら磨き上げ,少数精鋭のコマンド部隊がソ連領中央アジアのバクー油田地帯からスターリングラードを突けば,ドイツ軍の突破を大いに助けられるのではなかろうか。
 というわけで,ユーゴスラビア・トルコ経由でソビエト南部の工業地帯を直撃する,大胆不敵な作戦を実行に移そう。

 ここで少々余談を。同じルートでパレスチナを解放し,スエズに向かう「十字軍」作戦(注:連合国側が実際に行ったクルセイダー作戦ではなく,中世の十字軍を想定してほしい)も検討した。これなら海軍力を問われることなくイギリスと戦えるのだが,実は効率が悪い。これだけ苦労して中近東を攻略しても,IC地帯もなければ資源地帯もないのでは,やる気も半減というものだ。
 そういえば,以前紹介したボードゲーム「ヒトラー帝国の興亡」の作戦研究案として,「オリエント急行作戦」なるものがあった。これは,ドイツがトルコに宣戦布告して,一気にバクーからスターリングラードを突くという奇策中の奇策で,実に壮大な作戦だったが,ルール改訂で途中から実行不可能になった。まあでも,今回のようにイタリアでこのルートに挑戦するほうが,現実味が増すような気もする。

「ファシズムは世界の伝染病である」

エチオピア戦線。イタリア軍の主力には民兵が混じっていたりするが,それでもエチオピア軍相手に苦戦することはないだろう

 1936年イタリアは,エチオピア攻略から始まる。すでに宣戦布告はなされているわ部隊は展開されているわで,そのまま引き上げるほうが面倒なため,手早く済ませることにしよう。IC6が手に入るので,やっておくに越したことはない。今回のプレイ方針では守備隊さえ残さず撤兵するので,やがてはイギリスかフランスに奪われるICだが,それまでの間,貢献してもらおうではないか。
 さて,エチオピアを攻略できたら,ここにいた部隊をさっさと本国へ呼び戻し,北アフリカの部隊もまとめて撤退させる。アフリカにある程度の兵力を残したところで,イギリスが大規模な上陸作戦を仕掛けてきたらそれまでだ。この時代,世界で1,2位を争う海軍国のイギリスを向こうに回して,地中海の制海権など見果てぬ夢にすぎない。

 

アルバニア侵攻。どこかの国に宣戦布告されたりはしないが,外交感情は徐々に悪化していく。「怒られなかったからOKじゃない?」と思っていると,どこかでツケが回ってくる

アルバニア上陸軍とイタリア本土軍とでユーゴスラビアを挟撃。面白いように連戦連勝できる。もちろんこのやりたい放題のツケは,どんどん溜まっているわけだが……

 続いて,いくばくかの山岳歩兵を新規に編成,重砲そのほかの開発を続けつつ,アルバニアに侵攻する。アルバニアを占領しても,なぜかゲーム内の国際社会に怒る国はいないし,アルバニア軍はごく小規模なので,そそくさと確保する。

 ここからが本番だ。まずはユーゴスラビアに宣戦布告。ユーゴ軍は旧式の1918年式歩兵で構成されているので,破竹の進撃ができる。エチオピアと大差ない展開である。
 ……ここまでで察してもらえたかもしれないが,今回のプレイの基本方針は「イタリアは弱いのだから,もっと弱いところとしかケンカしない」ことである。ユーゴスラビアを併合したら,オレよりも弱いヤツに会いに行く旅は,必然的にギリシアへ向かう。史実ではこの国をめぐる戦争で,ドイツの対ソ戦準備が遅れている。災いの芽は早めに摘むべし,だ。
 ここでギリシアに宣戦布告したら,なんとトルコから宣戦布告が。理不尽な戦争を仕掛け続けたせいか,イタリアは悪名高くなり,ヨーロッパ情勢は緊張の度合いを強めている。トルコ海軍とイタリア海軍の海戦だの,トルコ陸軍が北アフリカに上陸してイタリア領を占拠して回るだの,プレイ開始後数年にして,もう奇妙奇天烈ワールドに踏み込んでしまったが,売られたケンカは買わねばならぬ。正面から叩き潰そうではないか。
 イタリア陸軍はギリシアは一呑みにして,トルコに直行する。トルコには丘陵が多いが,そもそもそれを前提に準備した軍隊だけに,負けるはずもない。北アフリカはトルコにほぼ占領されたものの,トルコ本土をイタリア色に染めたあたりでゲームセット。トルコは無事イタリアに併合された。

 

対トルコ戦争。中世以来,イタリアとは因縁の深い国である。さすがにこの時期はオスマン=トルコではなく,ムスタファ・ケマルのトルコ共和国になっているが
戦乱相次ぐ,混迷のヨーロッパ情勢

ドイツと組んで枢軸陣営となったイタリアに,ポーランド戦のタイミングでフランスが侵攻を開始。どうにか耐えられる規模の攻撃で事なきを得たが,アフリカの保持はまず無理

 さて,この段階からイタリアは対ソ戦の準備に入るわけだが,さすがにトルコ併合はやりすぎだったらしい。ドイツがポーランドに宣戦布告するのに合わせて,イギリス・フランスはドイツ・イタリア両国に宣戦布告。英仏はイタリア領北アフリカをすばやく分割し,イタリア北西部にはフランス軍の侵入を許すことになった。
 この攻撃をかろうじてしのぎ,ドイツ様がフランスを一蹴するまで耐えるわけだが……プレイヤーの内心は不安でいっぱいである。もしドイツが対仏宣戦布告しなかったら(まれに起こる),また,ドイツがマジノ線を正面突破しようとして大損害をこうむったら(ときどき起こる)。どちらにしてもイタリアはほぞを噛むだけだ。おまけに1942年になると,ほぼ間違いなくソビエトのほうからドイツに宣戦布告が行われるので,それまでにフランス戦が片づいていなかった日には,もう確実にヨーロッパ全域が赤化される。

 

ドイツと早めに同盟を結ぶと,有用な技術を次々に供与してもらえる。これはこれで非常にありがたいのだが,連合国による攻撃も早まるので,困ることも

 さらにトルコ戦線は,不思議な様相を見せ始めた。フランス領シリア・ヨルダン(これらは将来的にヴィシーフランス領になるので,「中立国の壁」になってくれる)に隣接する英領イラク,ここがトルコにイギリスが接する唯一のポイントとなる。かくしてイタリア領トルコの「ヴァン」という町(かどうかも不明。識者のご教示を乞う)が,イタリアとイギリスがぶつかるホットスポットと化した。
 さて,イタリアとしてはここに大軍をスタックしてイギリス軍の侵入を防ぎたいわけだが,ここで多くの部隊を拘束されてしまうと,スターリングラードまで進むだけの余裕がなくなってしまう。というわけで,イタリア軍の方針は「穴を掘る」ことに決定。マジノ線もかくやという要塞をヴァンに築き上げ,イギリス軍への防壁とした。4000年後くらいにこの要塞が遺跡として発掘されたら,カッパドキアと並ぶトルコ史上のミステリーとなりそうだ。

 

イギリス軍がトルコ南東部から侵入。逐次投入気味だったこともあり,山岳歩兵がまとまって待機していたイタリア軍に蹴散らされる。ここから,長い長いヴァン篭城戦が始まる

 

ルーマニアが対枢軸宣戦布告。いやそれ,どう考えても自殺行為でしょ……と思ったものの,ルーマニア軍はなかなか強い。ドイツ軍が本腰を入れるまで,駆逐できなかった

 対イギリス正面にフタをして,対ソ戦の準備も万端,あとはドイツ様がフランスを懲らしめてくれるのを待つばかりになったところで,さらにすっとんきょうなニュースが舞い込む。なんでも,ルーマニアがドイツに宣戦布告したという。ドイツはこのとき対仏戦線に兵力を集中していたし,イタリアはあさっての方向に軍を持っていっている。そこを突いたタイムリーな内乱である。いや,今回のプレイでルーマニアは枢軸側じゃないので,ただの戦争なのだが,WWIIを知るものの目から見れば内乱だ。ドイツはこれに機甲師団をもって対応,イタリアもタイミングよく生産されたばかりの山岳歩兵で,ルーマニア分割レースに乗り込む。

 

チェコスロバキアが対枢軸宣戦布告。一時はかなり危険なところまで領土を拡大したものの,ドイツ軍主力の反撃で沈静化

 ルーマニアが落ち着いて,ドイツがデンマーク・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクに宣戦布告したあたりで,またもや椿事が発生する。今度はチェコスロバキアが対独宣戦布告である。いったいもう,何がなにやら。チェコ軍はドイツの内懐を食い破ろうとするが,ドイツはまたも機甲師団を反転させてチェコ軍を鎮圧,チェコスロバキアは瞬く間にドイツに併合された。

 ドイツ軍は返す刀でベルギー,オランダ,ルクセンブルクを占領,フランス軍を蹴散らしていく。かっこいいですドイツ様。チェコ戦があったせいで,さすがに史実よりは遅れたが,実質2か月でフランス戦は終了,ヴィシーフランス政権が立った。
 展開は史実よりもずいぶんと過激だったが,結果的にドイツは史実より広い領土を獲得。イタリアはバルカン半島と小アジア半島を押さえた。あとは赤い巨人を打ちのめすだけである。

 

二つの東欧動乱が終わったあとのヨーロッパ。ドイツ広いです。ついでにハンガリーも広がってます ドイツ軍がフランス軍を一蹴する。さすがドイツ様。イタリア軍じゃあ,とてもこうはいかない
目の覚める,もとい目を覆う電撃戦

独ソ戦開始。今回のリプレイの目玉といえる戦いだ。イタリア軍の活躍が期待される

 かくして対ソ戦争の火蓋が切られた。独ソ戦開始と同時に,トルコ北東部からソビエト領内に向けて,イタリア陸軍が進撃していく。山岳戦につぐ山岳戦だが,我が精鋭山岳歩兵の前に敵はない。イタリア軍は着実に南部ソビエトに食いこみ,バクーおよび南部工業地帯を陥落させた。ソビエトの受けた経済的ダメージはいかほどのものか! イタリア軍としては大戦果である。

 

 と,喜んでいたのもつかの間。ドイツ軍,とにかく下手。なんというか下手。あり得ない機動と作戦展開で,次々に自分から包囲され,撃破されていく。こんな電撃戦があったものか。

イタリア軍はついにカスピ海沿岸に到達する。次なる攻撃目標スターリングラードに向けて,全軍前進である

 ここでちょっとデータを巻き戻して,ドイツ軍の作戦行動をすべて自分でコントロールしようか(軍の統帥権を預かることで可能になる)とも思ったが,それでは何のためのイタリアプレイか分からない。せっかくここまで他人のフンドシで相撲をとってきたのだから,最後までパラサイトを貫かなくては意味がないではないか。
 ドイツ軍は南方で大突破に成功するも,北方では逆に赤軍の突破を許してしまう。うーん,何やってるんだか。さらにはなんと,グデーリアンの率いる機甲部隊が包囲殲滅されるという悲劇まで。いやその,私がドイツプレイヤーなら投了してますってば。
 これはもう勝てないなと覚悟しつつも,イタリア軍は黙々と前進を続け,ついにはイタリア陸軍によるスターリングラードの解放に成功する。これは間違いなく,歴史に新たな1ページを刻んだことになろう。そのまま北方はゲルマン人に任せておこうかと思ったが,いつまで経ってもモスクワ陥落の気配はなく,押しくらまんじゅうを繰り返すのみ。うーむ,ファシズムの同志としてご忠告申し上げるが,南方で突破できたからといって全機甲師団を南方に回すのは感心しませんぞ,ヒューラー。南方に行った機甲師団は歩兵部隊の不足で戦線維持ができず,自ら防衛ラインの先頭に立つありさまではないかね?

オーウェルもびっくり,スペイン共和派の躍進

イタリア軍の北上は続いてついにモスクワが陥落。しかし,このときすでに南方戦線には,大きな綻びが出来つつあった

 いただくものをさっさといただいて対ソ戦を切り上げ,ヴァン前面のイギリス軍をどうにかしたかったのだが,ドイツ軍が大突破を果たして,後顧の憂いが絶たれない限り,対英攻勢には踏み出せない。というわけで,ドイツ軍を援護すべく,イタリア陸軍が北上を開始。ふがいないドイツ軍に代わってあちこちで赤軍を打ち破り,モスクワを陥落させる。……イタリア軍強いじゃん。
 しかしそのころ,またしても得体の知れない破滅の足音がヨーロッパに近づいてきた。スペイン共和派(反フランコ側)が突然の対独宣戦布告。いや,この展開自体はよくあるのだが,今回はドイツ軍が消耗しすぎていて,スペイン軍の前進をまったく止められない。しばらく東部フランスでもみ合った後,あろうことかスペイン軍が突破に成功する。
 イタリア軍としてはこれを許すわけにいかないので,ぜひとも軍を派遣したいと思ったものの,東部戦線はとても軍の引き抜きを許す状況ではない。まぁドイツがなんとかするでしょ,腐ってもドイツ軍なんだし,と思って見ていたら,なんとスペイン軍がパリを解放するところまで行ってしまった。

 

東部戦線で無益な損耗を重ねたドイツ軍は,実働わずか26個師団に。満州国より部隊が少ないありさまだ

 さすがにこれは異常だ。というか,東部戦線でもさっきからドイツ軍の姿を見ない。いくらなんでもおかしくない? と思ってデータを確認……ドイツ陸軍が合計でたったの35個師団。そのうえ機甲師団は0。えー,もしもし,これはどこのイタリア軍ですか?
 何をどう見ても35個師団。そのうち7個は自発的な攻撃能力を持たない守備隊で,2個は司令部ユニット。要するに実働部隊は全部で26個師団。えっと,満州国軍より少ないんですけど,どうしたものでしょうか?

 ……まぁ,この段階で負けは確定していたといえる。いやそもそも,対ソ戦序盤においてドイツ軍が無意味な消耗を繰り返していた段階で,何をどうできるはずもなかったのだ。ドイツには溢れんばかりの工業力があったものの,すでに兵士となれるだけの人間を使い果たしていたのである。

 

イタリア栄光の一瞬。レニングラード,モスクワ,スターリングラードを占拠。レニングラード攻防戦がすさまじく厳しかったが,1945年式歩兵にアップグレードして攻略成功。だがすでに退路はない

 かくして,いつしかガラ空きになった東部戦線南部では,米英からのレンドリースで大量の補充を受けた赤軍による,大反攻が開始される。そして,もはや枢軸側に,これを止めるすべはなかった。イタリア軍は最後まで北部の戦線を維持し,モスクワ・レニングラード・スターリングラードをイタリア軍が保持する事態にすらなった。イタリア単独の戦果として,これ以上は望みすぎだろう。

 もっとも,この3都市を制覇してみたはよいが,占領部隊はあっという間に包囲され,やがて消耗しきって殲滅された。イタリア半島にはイギリス軍部隊が次々に上陸し,はじめはなんとか持ちこたえていたイタリア軍も,やがて圧倒的な物量に屈し,ミラノに押し込まれた。

 イタリア軍はそれから半年以上抵抗を続けたが,ソビエト軍総勢74個師団の攻撃の前に,ミラノは陥落。枢軸陣営はヨーロッパから完全に除去されたのだった。
 スペイン共和派,イギリス,ソビエトがヨーロッパを分割するという,かなりねじれた戦後世界が完成したところで,今回のリプレイは終了である。最大占領地数ランキング1位が,アメリカではなくスペイン,しかも共和派というあたりを筆頭に,なんだか今回は,本来脇役であるはずの国々が,がんばったプレイといえようか。

 

イギリス軍が南イタリアとシチリア島に上陸。なんとか食い止めるも,物量差はいかんともしがたい。米軍ユニットが見えないほどだ え,えっと,我が軍の21個師団というのも大したもののはずだが,ソ連軍は全部で74個師団……いくらなんでも多すぎだってば!
敢闘したイタリア軍。部隊数ばかりでなく,ドクトリン研究も技術開発も世界のトップクラス。東部戦線で赤軍を押し込んだ実績からして,このゲームでイタリアが弱いとは必ずしもいえない

 

 これでドイツがもうちょっとまともに戦っていれば,今ごろスターリンはカムチャツカ送りだったろうに,とは思う。だが,考えてみれば必要以上にヨーロッパの緊張を高めて,戦争戦争また戦争の風潮にした国がいるから,ドイツが無用な消耗を強いられたのだという,救いのない見解も一面の真理かもしれない。
 とはいえ,きちんとタイミングを見計らえば,この作戦でヨーロッパを枢軸色に染め上げることも可能だろう。石油の問題はバクーの油田でだいぶ解決するし。だがまぁ結局のところ,ドイツ軍の活躍次第なのは宿命だろうか。

 

第二次世界大戦終盤のヨーロッパ。イタリアはどうにか,ドイツより半年ほど長生きした。しかし,スペインがドイツを併合するとは……

 

ちなみに今回のプレイでも,日本は南方資源地帯を確保できず,インドシナ半島は英軍優勢だった。枢軸陣営でがんばったのがイタリアだけってのは,ヒストリカルゲームとしてどうなんだろう?

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
本文でも作品を引き合いに出しているとおり,ボードストラテジーゲームにも明るいゲームライター。「イタリア軍っていうと,ゲーム内のユニットシンボルに捕虜の写真が使われちゃったりとか,あまり良い思い出がないんですよね〜」などと,いつにも増して警戒モードで今回のプレイに臨んだ様子である。それにしても,「パスタ」というファイル名で原稿を送ってくるのは,分かりやすいけどどうかと思います。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

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