1944年ごろ,ドイツ内部でヒトラー暗殺計画が進められていたのは有名な話である。この計画の顛末は映画になり,SPIという会社からボードゲームが出て,日本のボードゲーム専門誌の付録にまでなった。この暗殺計画は,関与した,あるいは関与を疑われた者の数と社会的地位において特筆すべきものであった。疑われて自殺を強要された者の中には「砂漠の狐」ことロンメル元帥までいたくらいだ。
「ハーツ オブ アイアンII」でも,もちろんこの暗殺計画はイベントとして実装されている。しかし,ドイツの運命が風前の灯となった1944年では遅すぎるのだ。1940年ぐらいの段階でナチ政権が転覆し,新しい国家がヨーロッパに新秩序をもたらしていくことを目指すのは,なかなかにParadoxゲームらしい楽しみ方ではなかろうか。だが,1936年から始まるシナリオに,ヒトラー政権が転覆するようなイベントは含まれていないようだ。
ないならば強引に転覆させてしまえ,と,プレイヤーの心はすでに反ナチ活動家である。国民不満度を可能な限り高め,パルチザンを発生させて,ドイツ全土をパルチザンに占領させてみよう。パルチザンに占領された土地は,プレイヤーに資源もICも供給しない=プレイヤーの統治下にない,わけだから,全土が占領されれば,新政権が立つのではないか? さっそく試してみた。
わざと蜂起させたパルチザンがベルリンを占領する。でも,何も起きない……
まず驚くのは,ドイツ人の粘り強さである。国民不満度が50%を超えても,パルチザンが発生しない。ぜひともフランス人に見習わせたいところだが,今回は発生してもらわなくては困る。
不満度が100%に達してからしばらく放置していると,ついに初のパルチザン発生。軍隊はすべて解散してあるので,無人の野を行くがごとくパルチザン占領領域は広がっていく……と,いいたいところが,このパルチザン,実に足が遅い。1か月に1プロヴィンスの占領がせいぜいなのだ。ぐっと我慢して見ていると,もう一つパルチザンが蜂起したので,なんとか効率は2倍になった……それでもカタツムリが這うような速度だが。
パルチザンに国がのっとられかけているというのに,歴史イベントは次々と発生する。三国軍事同盟,オーストリア併合,ボヘミア併合,リトアニア問題,さらにはダンツィヒ回廊の割譲まで。同盟を結ぶと変な戦争に巻き込まれそうだし,どこかの地域や国家を併合するとパルチザン達の仕事が増えてしまうので,問答無用で全部「いらない」を選択。なんとも平和なヨーロッパ史の幕開けである。ドイツ国内を除いて,だが。
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オーストリアは併合しない,ズデーデンラントは要求しない,メーメルなんか知らない,ボルシェヴィキとは取り引きしない,ダンツィヒはポーランドのもの。ところでここ,どこの国でしたっけ? |
ドイツがパルチザンに占領されるまであと1プロヴィンス。ゲーム開始から実に3年の月日が経過していた
耐えがたきを耐え,忍びがたきを忍ぶうち,ついにドイツ国内のパルチザン完全占領まであと1プロヴィンスに迫った。
ここからは慎重に計画を進める。まずドイツの生産ラインが完全に止まっていること,ドイツの兵力が0であることを確認してセーブ。ゲームを一度リスタートして,セーブデータを読み込む。国際情勢はセーブした時点のまま,自分が使う国だけは再選択できるので,イギリスを選択する。パルチザンによって領土を全部占領されて,ドイツプレイヤーがゲームから転落しても,その瞬間だけイギリス人になっているので,回避できるというわけだ。パルチザンが活動を終え,ドイツに新政権が立ったところで,またセーブしてドイツに帰ればよい。
グレートブリテン島でBBCのニュース放送でも聴きながら,ドイツの最後のひとかけらが占領されたのを確認する。だが,計画は完璧だったはずなのに,何も起こらない。きっと時間が経てば何か変わるに違いないと思って少し放置するが,やはり何も起こらない。
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ようやくパルチザンによるドイツ占領が完了する。でも何も起きない。どこかにドイツ領があるのかなと思ったけれど,データ的にも存在しない。ICも当然0。研究ラインはそれでも1本残るようだ |
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完全に解体されているドイツ軍。ベルサイユ条約の軍備制限どころの話ではない。海軍がないのは,別にヒトラーが怒って“臆病者の海軍”を解散させたからではない。その証拠に潜水艦もいないし |
ドイツの存在しないヨーロッパ。でもドイツ政府はどこかに存在しているらしい
いくらなんでもこれはおかしいということで,イギリスでデータをセーブしてゲームを再開し,ドイツを選んでみる。滅亡した国家はプレイの選択肢に出てこないので,パルチザンに占領されたドイツは滅亡したとはみなされていない,ということか。
パルチザンに全土を押さえられたドイツでプレイは続行されてしまう……ICは0なので当然ながら何もできない。何もできないまま,ヨーロッパの歴史がどうなるかを見守るハメになるのだ。
ドイツがこんな状態であるにもかかわらず,ヒトラー暗殺には失敗。成功することがあるなら,ぜひ成功させてみたいイベントの一つだ
う,うーん,ある意味ヒトラー政権は崩壊しているが……何かおかしいような。せっかくなので,そのまま1947年12月30日を迎えられるかどうか試してみる。普通だと1942年にはソビエトが問答無用でドイツ侵攻を始めるはずだ。
が,ソビエトは静かにしており,ポーランドに攻め込む気配もない。モロトフ・リッベントロップ協定イベントでは「ボルシェヴィキと取引などできるか!」を選択,ポーランド分割案に乗らないという態度を示しておいたため,1947年にもしっかりポーランド王国が存在していた。というか,そもそもヨーロッパでは戦争が起こってませんよ,総統閣下。
何も起こらなければ,当然ながら国家は生き延びていくので,無事1947年12月30日を,ドイツ旧領土すべてを維持したまま迎えることができた(ただし領土はすべてパルチザンのもの)。すでに国家としての体裁を保ってはいないが,ヒトラーはしっかり生きている(らしい)ので,これでも史実と比較したとき,ひょっとすると勝利なのかもしれない。
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太平洋戦域は何もなかったように展開する。中国戦線は膠着状態だが,日本が優勢なのは明らか。でもインドネシアはオランダ領だし,フィリピンはまだ健在の様子 |
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領土数0,軍隊0でもエンディング画面を見られる。普通この状況なら,エンディングメッセージのダイアログが出る前にゲームオーバーである。その意味でレアな画面かも |