― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第3回:民衆の旗,赤旗は戦士のかばねを包む(ソビエト)

 第二次世界大戦を,全世界にわたって再現するストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,「よせばいいのに」という感じのリプレイを展開する記事,「ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!」。今回はここ,ロシア(ソビエト連邦)からお届けします。

 

 ロシア/ソビエトといえば歴史上,対外拡張主義の権化のように思われていますが,実は西欧こそ,近代以降絶えずロシアを軍事的に脅かしてきました。ナポレオンしかり,第一次世界大戦のドイツしかり,それに続くロシア革命への干渉戦争しかりです。
 ロシア/ソビエトの対外拡張政策が海外植民地に向かわず,しばしば自国の外郭領土/衛星国の獲得という形で現れたのは,西欧列強をいかにモスクワから遠ざけておけるかという,現実的な欲求に基づいていました。二次大戦直前のバルト3国併合やフィンランドへの侵攻,そして「打算的結婚」と揶揄された独ソ不可侵条約およびポーランド分割は,そうした危機感の直接的な現れであり,この体質は戦後,ますます強まっていきます。

 ソビエトにとっての1930年代は,波乱とともに幕を開けました。革命から十数年,農業分野を中心に広く市場原理と私有財産を認めて「資本主義との妥協」を図った新経済政策ネップ(NEP)は,提唱者にして革命のカリスマであるレーニンの死と,1927年の穀物危機を背景として全面的に払拭されます。それに続いたのは社会主義への強力な揺り戻し,いわゆる「上からの革命」でした。
 スターリンのもとで進められた農業の集団化は,多大な犠牲を払いながらも,国家による穀物管理を実現します。また,国民の抱く社会主義建設の熱意を受けた重工業中心の産業育成は,後に来る戦争への備えとなっただけでなく,戦後ソビエトを超大国の位置に押し上げました。
 1930年代を通じて,重工業はソビエトのアイデンティティとなりました。しかし,その過程は決して平和なものとはいえません。ジョージ・オーウェルが「動物農場」で風刺したとおり,工場労働者の統制には法律と警察力の使用を辞さず,そのノルマはむしろ資本主義国での労働条件より過酷でした。そして農業集団化にいたっては,富農(クラーク)階級の絶滅を目指した明確な闘争であり,折からの飢饉の影響も含めて数百万人の農民が犠牲になったうえ,多くの抵抗運動を誘発しました。実際,1933年から翌1934年にかけて,スターリンが農業集団化への反対者を党から追放しようとした「粛党」は失敗に終わり,1934年の第17回党大会では,スターリンへの反対票が22%にも上ったのです。
 こうした権力基盤の揺らぎに対して,スターリンの選択した反撃手段が,「大粛清」の名で知られる政治的テロルでした。NKVD(内務人民委員会。つまり政治警察)による摘発は党内部に及び,スターリンの政敵や反体制的傾向を疑われた各分野の専門家達,密告された人々を含め,百数十万人が犠牲になったといわれています。

 ここで今回のクエスチョンです。重工業化と農業集団化,それに続く政治的テロルと独裁体制の強化,文化と個人領域の抑圧,そして2000万人もの死者を出したといわれる対独戦争。戦後の超大国へと流れていく,この赤い血の大河=スターリニズムは,ロシアの後進性やボルシェヴィキの指導者体質を勘案するにしても,果たして歴史的必然だったのでしょうか?

 

ソビエトを選択したときの画面。解説文をスクロールさせていくと,インド洋を目指すのも面白いかもとか,いろいろな示唆がある。“インパール作戦”も面白かったかもしれない

 

大粛清を避け,極東戦線に主軸を

偉大なる同志スターリン。とりあえず孤立政策を採って国力を上げるにせよ,拡張政策を採るにせよ,プレイヤーにとってソビエトは扱いやすい国だ。この時期のソビエトに住みたいかどうかはともかく

 さて,ソビエトである。単純に勝つだけなら,ハーツ オブ アイアンIIの中でも最も簡単な国の一つだ。圧倒的な国力を背景に,ドイツと正面きって戦うプロセスが楽しめる。
 あるいは,無能な将軍がいれば「パージ」と叫んで罷免し,前線から逃げ出すような部隊は即刻労働力に戻してインフラ工事にまい進させるなどという,たぶん勝てないけど一部のプレイヤーには大満足のプレイも可能だ。

 なお,いささか不穏な記述の直後で恐縮だが,この連載は第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていない。ときに過激な表現が出てくることもあるが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものである。あらかじめご了承いただきたい。

 さて,普通に軍備を拡充し,対独戦に備えるのでは面白くない。ここはひとつ,歴史的に意義のありそうなことをやってみようではないか。というわけで,二つの基本路線を打ち出す。

 

  • 大粛清は行わない
  • 苦難にあえぐ中国人民を解放する

 

 旧東ドイツの劇作家クリストフ・ハインが聞いたら涙を流して喜びそうな,慈愛に満ちたスターリンを目指してしまうわけだ。ちなみにクリストフ・ハインの著作集「僕はあるときスターリンを見た」には,子供が描いたようなタッチでやさしい表情のスターリンの絵を見つけたときのエピソードが書かれている。ただしハインによれば,スターリンの実態との落差から鑑賞者が抱く「永遠の違和感」こそが,その絵の表現意図だろうという話。東欧の知識人は難しいことを考えるものである。
 ファシズムにとってコミュニズムが最大の敵である以上,ドイツとの衝突は不可避と考えねばならない。だが,なぜか史実の知識とプレイ経験が豊富な我が国のKGBは,ドイツの侵攻を1941年と予測した。つまり極東方面における我が党および軍の取り組みは,1936年から1941年の間に完遂されねばならない。そう,「五か年計画」だ。いやその,ソビエト史専攻のみなさん,たいへん不適切なボケでごめんなさい。

現有戦力のアップグレードが,隠れた課題

技術開発チームはなかなか優秀。ドクトリン研究よりも火砲の研究を優先するのが正解だろうなと思いつつ,ソビエトで軍事ドクトリンを研究しなかったらどこの国でやるのかとも思う

 何はともあれ赤軍の強さと弱さを確認しておこう。最大の優位点は数である。労働力とICは圧倒的といってよく,最初から配置されている軍隊の数も膨大。さらにインチキくさいことに,1936年から「1940年式自動化歩兵」が生産可能なため,ゲーム開始後数年のうちは,増援のクオリティが他国とは段違いだ。
 技術開発力もなかなかのもので,戦術ドクトリン関係はいま一つだが,陸軍,空軍関連の開発力は高い。工業関係は若干弱いものの,これを弱いと言ったらフランス人に怒られること必定である。
 最短でいけば,1940年頃にはT-34戦車の量産と,旧式戦車のアップグレードに入れるはずだ。さすがは世界最先端(当時)の計画経済,負ける要素がないではないか。

 と,プロパガンダくさいことを言ってみたが,実は弱点も多い。最大の弱点は数である。おいおい,優位点のはずだろ。いや,確かに赤軍の数は多いのだが,初期配置の歩兵は他国と同じく1918年式の(第一次世界大戦当時と変わらない)旧式歩兵である。これはつまり,膨大な数のアップグレードを行わなければ,烏合の衆にすぎないということだ。
 その一方で,ヘタに世界有数の技術開発力を持ってしまっているがゆえに,期待の新兵器の製造とアップグレードに夢中になっているうちに,気がつくと歩兵の大半は完全に時代遅れの装備でした,ということにもなりかねない。

 

モロトフ・リッベントロップ協定。この後,ポーランドの東半分が,軍隊を動かしてさえいないのに自動的にソビエト領になる。ひどいイベントもあったものだ

 もう一つの問題は,国境線が長く,それぞれに事情が込み入っていることだ。1936年段階では,国境を接するすべての国と不可侵条約を結んでいるが,そのすべてと仲が良いわけではない。ましてや,そのすべてが温和な国であるわけもない。ヨーロッパ側国境が最大の問題なのは当然としても,ペルシア方面,アフガン方面,中国北西部方面,満州国境と,目を光らせるべき地域が多すぎる。

 そして最後に,大粛清という課題がある。これはイベントとして処理され,粛清すれば将軍がざっくりといなくなり,しなければ国民不満度+30%の大盤振る舞いという,かなり凶悪なものだ。ハーツ オブ アイアンIIにおける将軍の効果は決して小さいものではない。経験豊富で有能な将軍をまとめて失ってしまうと,そこからの建て直しは極度に難しくなる。しかし,国民不満度+30%は,国内反乱に直結しかねない危険度だ。
 いや,確かに大粛清が都市プロレタリアート層の地位上昇を実現した側面はあるけど,そこまでイデオロギーに忠実になられると,穏健な指導者としては困ってしまう。みんな,落ち着け。

 

大粛清の二択。将軍死にすぎ。不満度上がりすぎ。史実では将官クラスで8割以上が殺され,旅団長さえも5割が粛清されているわけで,これでもリストは短いというべき

 

 我が党の路線として大粛清をしないと決めた以上,しない方向で物事を考えよう。ここで最も有用なテキストはユヴェナリウスの「パンとサーカス」であろう。国民不満度+30%がペナルティだというなら,強制イベントまでに国民不満度を0%にしておき,その後も国民に猛烈にICをばら撒いて,不満度を下げてやればよい。「なるほど労働者諸君,軍幹部が賄賂を日常的に受け取っているという主張は理解した。だがあれは賄賂ではなく特別危険手当であって,同志スターリンは労働者諸君にも戦時特別労働手当を配給する!」というわけだ。こうして不満度が10%程度まで落ちたら,戦時労働特別手当も給付終了である。イデオロギーがタテマエに終始するあたりが,微妙にスターリンらしい手法だ。

 

大粛清を避けても普通の粛清はある。帝政ロシア時代から伝わる政治的伝統なので,こればかりは仕方ない。ちゃんと国葬になるあたり,まだマシか 外務大臣が辞任。というか,たぶん良くてマガダン送りか白海運河での強制労働,銃殺の可能性も大きい……。そしてあのモロトフ外相が登場する
帝国主義列強と半封建社会から中国を救え

新疆軍閥に宣戦布告。道なき道を踏破する地獄の遠征が始まる。しかしソビエト軍は,アフガニスタンから何も学ばなかったというのだろうか(それは1979年ですってば)

 こうして大粛清イベントを乗り切ったところで,今度は中国人民の解放について考えよう。1927年の上海クーデター以降,一転して反共姿勢を示す国民党政権と,人民からの収奪を繰り返す軍閥勢力,そして中国を侵略する帝国主義勢力たる日本とその傀儡国家は,除去されねばならない。

 自動化歩兵と戦車を押し立てて,中ソ国境の軍閥領に侵攻を開始しよう。軍閥に戦線布告すると,国民党まで一斉に対ソ戦線布告してきた……あれ? 中国共産党も対ソ宣戦布告? 恐縮ですが毛沢東主席,ちょっと時代を間違えてませんか?

 

中国共産党は愛国心が高いようで,中国に侵攻したソビエトと和平を結ぼうとしない。いやいや,そんなイデオロギー的ぜいたくを言える状況ではないと思うんですが

 そしてここで,いきなり最初の関門に突き当たる。軍閥は弱いのだが,中国北西部の地形を甘く見てはいけなかった。砂漠に山岳の連続また連続。自動車化されているにもかかわらず,部隊の進軍は極度に遅く,また補給源から遠いうえにインフラの整備もないため,攻撃 → 攻撃成功 → 進軍開始 → 進軍途中で補給切れ,または到着したものの補給切れ → そこに軍閥からの攻撃 → 退却という,実に頭の悪い戦争が続く。通常の2倍くらいの時間と部隊数を使って,かろうじてスチームローラーを維持できるかどうかというありさまである。

 そう,この段階から,暗雲はかなり深く立ち込めていたのだ。この作戦,独ソ戦開始までに日本を屈服させなければ話にならない。もちろん軍閥勢力を根絶したところでいったん兵を引き,全軍をヨーロッパ戦線に戦略再配置するという手もあるが,日本を打倒するところまでこぎ着けねば,中国の解放は達成されない。
 おまけに今回のプレイでは,目の前で中国共産党が日本軍に踏み潰されて,毛沢東主義ごと地上から根絶されている。「革命農村が都市を包囲する」という“異端思想”で,我がボルシェヴィズムとは相容れなかった彼らだが,国際共産主義の同志として,彼らの恨みも晴らさねばなるまい。

 

 かくして我がソビエト赤軍は,必死の思いで山岳部を抜けた。中国東北部から北部を日本,北西部をソ連,南部を国民党が支配するというニセ三国志を展開すること数か月,日本とソ連は中国を縦にぴったりニ分割した。

 

豊かな華南を目指して,日本軍と領土拡張レース。日本は丘陵と平原部が主体,こちらは山岳と砂漠だらけ。分が悪いが,突破すれば戦車の速度で勝てる 第二次大戦三国志。魏=日本,呉=国民党,蜀=ソビエトといった感じの分布だ。実際には呉が極端に弱いので,瞬く間に縦に二分割されて,三国時代終了
“第二次日露戦争。ノモンハンじゃないです

国民党からの停戦の申し込み。ちなみにこの段階で国民党の保有するプロヴィンスは0。世界のどこかに国民党亡命政府があるようだ。アメリカとかかなあ

 さてここで,筆者はいまさら重大な問題に気づいた。近代における機動戦の原則とは何か? その一つは「ハンマーと金床」理論である。戦車が突破点を作り,歩兵が浸透包囲したら,退路を絶たれた敵を機甲部隊が踏み潰す。機甲部隊が「ハンマー」であり,歩兵が「金床」だ。たとえ突破後包囲を図らず,純粋に戦車の突破力だけでスチームローラーをかけていくとしても,金床がしっかりしていないことには,相手は後ろに下がっていくだけなのだ。
 例えば前回のフランス戦においては海が金床になって,大陸軍はイタリア軍を包囲殲滅できた。その後ドイツに侵攻したド・ゴール将軍は,東から侵攻してきたソビエト軍を金床にしてベルリンまで進んだ。このように,金床は必ずしも自軍でなくても構わない――大事なのは,それがしっかりしているかどうかだけだ。

 

 

 さて,ここで画面を見ていただきたい。中国を縦に二分割し,四角形の隣りあう2辺を押さえたということは,これから赤軍の採れる戦略は二つしかない。つまり,横に押すか,縦に押すか,だ。押さないのが正解じゃないの,と思ったあなたは,素晴らしい慧眼の持ち主だが,それについては後ほど議論しよう。
 横に押せば東シナ海から日本海が金床になるが,必然的に日本軍が縦方向に押し出されて,北のアムール川方向への圧力が高まる。縦に押す,つまり軍をいちど仕切り直してアムール川から行く,あるいは南部を一気に制圧してから北上する場合,北から押せば横に伸びられ,南から押せばアムール川を越えた日本軍にソビエト領が荒らされる。
 ならばアムール川方面で鉄壁の守りを固めてから攻勢に出ればいいんじゃないか,という話になるが,それにはいかんせん戦力が足りない。強力なハンマーで叩けば叩くだけ,金床にも強靭さが求められる。ヨーロッパ国境を空っぽにすればなんとかカバーできるが,それでも日本軍の突破を阻止できるか微妙だ。
 だが,ドイツが虎視眈々とソ連を狙う情勢下,じわじわ追いつめる時間などない。そこで,アムール川国境は無視して,シベリアに防御線を張ることにした。これなら最少5エリア,つまり軍隊五つで封鎖できる。シベリアも中国北西部と同様に軍隊の移動が遅いので,よほどの軍勢を連れて来ない限り,攻撃に成功しても進軍できない状況を生み出せる。

 

冬戦争。中国が忙しくて,とてもそれどころではありません。来たるべき対独戦争で,フィンランド軍にまで攻められるの嫌だし ドイツがポーランド戦を開始。いやはや,ヨーロッパで比較的まともな歴史が進行しているのは,今回のプレイが初めてかも

 

赤軍のハンマーは順調に日本軍を叩いていくものの,やはり金床が脆くては決定的な打撃にならない。でも現実に日本がこうなったら,停戦に応じるような気はするが

 かくして,戦車8個師団(うち6個師団がT-34装備である)を中核に,第二次日露戦争を開始する。日本軍も歩兵は侮れない強さだったが,やはり強力な戦車の前には無力である。瞬く間に華南はソビエトの支配下となった。
 しかしここでソビエトも,日中戦争の「泥沼」に足を取られていく。パルチザンの発生である。パルチザン掃討部隊を作り,足の速い部隊を二つほど火消しに回した結果,生産計画が乱れて増援は遅れ,戦線は予定どおり前進せず,いたずらに時間だけが過ぎていく。

 

不安的中。南からの圧力に対し,日本はアムール川を越えてシベリアに侵攻。渡河修正があっても,三方面で前線を維持するのは無理だった
“冬将軍はモスクワを防衛してくれるか

4月30日,大祖国戦争(独ソ戦)勃発。史実ではこのころまだドイツ軍はギリシアあたりで無駄な消耗戦をしていたというのに

 それでも,ここまで来たからにはやるしかない。同志スターリンのために! と念じつつ,満州国境が見えてきた絶妙のタイミングで,ついにドイツが対ソ宣戦布告。中国戦線から少しずつ戦力を回していたし,ヨーロッパ戦線の増強も怠らなかったつもりだったが,あっさりと突破を許してしまう。
 もっとも,多少侵略されたところで,中国全土の資源とICと労働力を確保している以上,経済的打撃は問題にならない。むしろ問題は,宣戦布告が4月という,やけに早い時期だったことだ。史実は6月22日だから,2か月ほど早まっている。

 

対独国境。極東戦線を重視した以上仕方ないのだけれど,どうしても脆弱に。どだいこのゲームで二正面作戦なんてやるものじゃないのですよ ドイツ軍の突破を許す。河川で防御体制をしいても,瞬く間に突破され,包囲殲滅を避けるため全軍を下げれば塹壕修正を失う。悪循環だ

 

 たかが2か月,されど2か月。独ソ戦の経過をご存じの人なら,この差がかなり決定的だということをご理解いただけると思う。史実では寒波の到来とともにドイツ軍の足が止まり,赤軍大反攻が始まったわけだが,その段階でドイツ軍はクレムリンが目視できる距離まで来ていた。

 

一方そのころの中国。満州国境が見えてきた。日本の生命線を食い破るまであと一歩だ

 だが,ここで極東の攻勢を諦めては毛沢東烈士(余談だが,「烈士」は生きている人には使いません。憶えておくとよいでしょう)に申し訳が立たない。幸いT-34の4個師団をモスクワに置いてあるし,1941年式装備の精鋭歩兵師団も分厚く展開している。西でひたすら冬を待ちつつ,一刻も早く日本軍を列島に追い返すのだ!

 ああ同志スターリンよ,哀れみたまえ。冬の訪れまで耐えがたきを耐え忍びがたきを忍んだ我が赤軍は,「降雪」と「気温:氷点下」の表示に狂喜乱舞して,ドイツ軍に全面攻勢をかけた……かけようとした。

 

南方を完全に突破される。この段階で決着はほぼついているが,もしかしたら冬が来れば,冬さえ来れば変わるかも……っていうか変わってください モスクワ大包囲。12月だというのにドイツ軍は元気も元気,まったく衰えを見せませんでしたとさ。中国に浮気したスターリンに,ロシアの大地は冷たかったようだ

 

 だが,あろうことか歩兵中心の構成を採っていたドイツ軍は,冬でもまったく機動力,破壊力を低下させず,雪のモスクワは瞬く間に包囲下に置かれる。そうこうするうちにレニングラードとスターリングラードが陥落。今や我が国家防衛委員会は,中央アジア方面にSS歩兵連隊が突破していくのを,クレムリンの屋根から拝むのが精一杯だ。

 

そしてこちら,世界最高水準の満州軍。数も多ければ質も高い。塹壕修正だけでT-34合計7個師団の攻撃を悠然と跳ね返す精強さ。……カンベンしてください

 そこに追い討ちをかけるような事件が,今度は中国戦線で発生する――西部戦線の鬱憤を晴らすかのように,貧弱な日本軍を追い散らしていた極東赤軍が,ドイツ軍よりも精強な部隊に行く手を阻まれたのだ!
 その名も,満州国軍。ああ,なるほど。考えてみれば,日本とソビエトが喧嘩してる間,満州はずっと「戦時体制だけど中立」なスタンスだった。アムール川を越えてシベリアに行くとか,砂漠と山を越えてモンゴルに行くとかは全部日本軍に任せ,満州は独自の技術開発と軍備拡張をしていたわけだ。なるほどなるほど,甘粕さんには参った参った。石原莞爾もびっくりだ。

 スターリンの経歴から「ソ連邦英雄」の可能性がすべり落ちたところで,今回のリプレイは投了としたい。ソビエトの国力からすれば,モンゴル高原あたりに西の防衛戦を引き直して対処できるかもしれないが,いずれにせよ「人間の顔をした社会主義」による人類全体の「進歩」は,反動勢力によって大きく阻まれてしまった。ソビエト国家という,社会工学上の壮大な実験は,残念ながら実験に終わりそうである。
 しかし,よもや中国の「解放」を,満州国に阻まれるとは思わなかった……。これはさしづめ,中国のナショナリズムを,ソビエトに都合のよい国際共産主義の立場でせせら笑った者に対する,痛烈な皮肉といったところだろうか。

 仮に同じことを試すなら,

 

  • アムール川を越えて満州を叩く(将来の禍根を絶つ。そして海と英領インドのほうがシベリアよりも金床として適切)
  • 朝鮮半島を制圧して日本と素早く和平(朝鮮半島は講和条件として放棄しても可か)
  • 中国の軍閥勢力を叩く(モンゴル方面の防備に注意)
  • ヨーロッパ戦線に戦略再配置
  • ドイツ軍が歩兵主体でもいいように,重砲の開発も怠らない

 

 この手順がよいかもしれない。敵をイメージだけで侮ってはいけないという,当たり前だが貴重な教訓を得たところで,今回のリプレイを終わりにしよう。次回は勝てる……かなあ。

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
Paradox Entertainment作品に限らず,ストラテジーゲームに詳しいゲームライター。面白いもの≒滑稽なもの≒コメントに困るものを見つけてしまうのも特技で,そんな彼によれば,東欧地域から寄せられた「ヨーロッパ ユニバーサリスII」のAAR(After Action Report。いわゆるリプレイ投稿記事)では,スターリンの出身地たるグルジアを,意図的にひどい目に遭わせる場合もけっこう多いらしい。いや,ソビエトの罪悪をすべてスターリン個人から発するもののように感じているとすれば,むしろそれこそスターリニズムの悪影響であるようにも思えるのだが,どうだろう。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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第二次大戦に勝者なし(上)ウェデマイヤー回想録
アルバート・C・ウェデマイヤー著。欧州方面兵站計画の担当から中国戦線米軍総司令官に転じた軍人による回想録。戦後体制まで見通した分析が見どころ。