― 連載 ―

シヴィライゼーション4 (午前)3時のおやつは文明道
Tサイド第2回:オリエンタリズムを越えて

ローマによるプラエトリアンラッシュ。1190年ともなると時代遅れの感もあり,奇襲というより数を頼みの強襲に近い気もするが,ロマノ・ブリティッシュは遅まきながら大ブリテン島に定着できたことだろう

 多くのリアルタイムストラテジーには「序盤でのラッシュ」というセオリーがある。例えば「Age of Empires」における騎兵ラッシュが典型で,極論すれば現実の第二次世界大戦におけるドイツの電撃戦も「大戦初期における戦車ラッシュ」と言い換えられる。要は「相手の防備が固まらないうちに,優勢な戦力を用いて,取り返しのつかないダメージを与える」ということだ。
 この戦術は多くのゲームで有効だが,「正統的でない」という烙印を押される傾向にある。実際,RTSにおける序盤ラッシュは,作品が想定しているプレイ要素の多くを他者から剥奪する戦術であるから,やられたほうとして腹立たしいことこの上ない。勝負としては正しいが,同じゲームを楽しんでいる仲間としてはどうなのさ,というのがライトゲーマーにとっての「反序盤ラッシュ論」であろう。
 だがコアゲーマーにとってみれば,序盤ラッシュは戦術の一つでしかない。昨今の作品なら序盤ラッシュへの対応策が用意されているものだし,真剣勝負で臨むことにゲーム性(あるいはプレイの価値)を見出している人にとってみれば「攻めるほうもリスクを背負ってやってるんだから,しのげなくて負けたなら,素直に認めなさい」と主張したくもなるだろう。
 この問題はつまるところ,ゲームに対するスタンスの違いという解答に落着する。しかし,若干角度を変えて考えてみると,序盤ラッシュという構造自体が,別の論点を提示してくれるのである。
 ということで,今回は「序盤ラッシュ」を題材に,Civ4の文明論で遊んでみようと思う。

 

シヴィライゼーション4における序盤ラッシュ

 さて,「シヴィライゼーション4」(以下,Civ4)にも序盤ラッシュは存在する。しかし,いきなり最初の都市が陥落してゲームから脱落という現象は,なかなか起きるものではない。これは,ほぼあらゆる文明で最初期に作成できる「弓兵」の,都市防衛能力が際立って高いためだ。どうしても序盤で滅亡したくなかったら,とりあえず瞑想や青銅器の開発よりも先に弓兵が作れるようにすればよいのである。これによってほかの文明に後れを取ることにはなっても,ゲームからいきなり排除される心配はなくなる。

歩兵3ユニットのみで,プレイ劈頭(へきとう)の奇襲に挑む。時期的に防備はかなり薄いはず

 ほかの作品ではしばしば勢力の特色に強く依存する序盤ラッシュだが,Civ4では全文明が序盤ラッシュの資格を持っているといってよい。銅の鉱脈があって斧兵が作れれば,あとは他文明との位置関係と決断力次第でラッシュは開始できる。君主の能力として軍隊にボーナスがつく文明は,よりラッシュに向いているが,それがなかったとしてもほかの能力による経済的/技術的アドバンテージを生かして,ラッシュに持ち込むことは可能だ。
 またCiv4においては,序盤ラッシュの最も軽度なものとして,国境にいた労働者を捕獲するという形がある。序盤の労働者は非常に貴重であり,これを捕獲する以上戦争を覚悟するほかないのだが,一人しかいない労働者を奪われた文明に,即座に反撃してくる余裕などあろうはずもない。たいていの場合,戦うにしてもグダグダになって,どこかで手打ちができるものだ。いやまあ,シンプルかつ致命的な攻撃法だけに,話がまとまらなかったときは悲惨の一語に尽きるが。
 そして,この労働者の捕獲という作戦は,兵種も,その錬度も問わない。棍棒を持った初期配置の戦士が,たまたま国境に労働者を見つけたから拉致,でも,十分成り立つのだ。

 

 このようにCiv4においては,序盤ラッシュは全文明にわたる常套戦術として組み込まれているのだが,それでも厳密に見ていけば,向き不向きについて多少の差は出てくる。
 まず,やはり「攻撃志向」な君主は序盤ラッシュに向いている。兵舎を建てれば条件はおおむねイーブンになるが,逆にいうと建てる前は攻撃的な君主にアドバンテージがあるし,攻撃的な君主が兵舎を建てると差は元に戻る。プレイの最初期においては,文明のインフラにほとんど差がないゆえに,「攻撃志向」という,ある意味最も原初の能力がかなり有効に機能する。
 次に,これまたいうまでもないが,ユニークユニットが初期に生産できる文明のほうが向いている。工業化時代以降に強力なユニークユニットが作れたとしても序盤には関係ないわけで,古代にユニークユニットを持っている文明は,やはり何かと有利だ。

 序盤で使えるユニークユニットを持つ文明をピックアップしていくと,いくつか候補が挙げられる。その内訳は下の表を見てほしい。

 

 序盤ラッシュに向いたユニークユニットを持つ文明

文明君主特性ユニークユニット
アステカ攻撃志向/宗教志向ジャガー戦士(剣士の代替,鉄器が必要)
インカ攻撃志向/金融志向ケチュア戦士(戦士の代替,生産前提なし)
エジプト創造志向/宗教志向重チャリオット兵(チャリオットの代替,車輪と馬が必要)
ギリシア攻撃志向/哲学志向ファランクス(槍兵の代替,狩猟と銅,鉄が必要)
ペルシア創造志向/拡張志向不死隊(チャリオットの代替,車輪と馬が必要)
マリ金融志向/宗教志向スカーミッシュ兵(弓兵の代替,弓術が必要)
モンゴル攻撃志向/拡張志向ケシク(弓騎兵の代替,騎乗,弓術,馬が必要)
ローマ拡張志向/組織志向プラエトリアン(剣士の代替,鉄器と鉄が必要)

それぞれ,エジプトの重チャリオット兵(左上),ギリシアのファランクス(右上),マリのスカーミッシュ兵(左下),ローマのプラエトリアン(右下)。前提となる技術によって登場させられる時期が前後するため,強さと実用性はあくまでタイミング次第だ

 

インカ風“神々の黄昏”で世界を染め上げる

今回の主役ともいうべき,インカのケチュア戦士

 この中であからさまに飛びぬけたダッシュ力を持っているのがインカである。なにしろケチュア戦士には生産前提がなく,しかも能力として対弓兵+100%を持っている。いや,確かにローマのプラエトリアンは非常に強力だし,モンゴルのケシクも恐るべき存在だが,「初期の都市周辺がどんな立地であろうが,とりあえず有益な能力を持ったユニットが作れる」ことの意義は,実に大きい。
 なにしろ彼らが跋扈する時期には,都市自体の防御ボーナスがまだ低く,都市に篭もった弓兵は普通の戦士(戦力2)を蹴散らせるにしても,対弓兵において戦力4相当のケチュア戦士となると,ある程度の損害を覚悟しなくてはならない。防備が弱かった日には,黎明期の文明がそのまま闇に返る危険も大きいし,ある程度整っている都市にしても,隣接した森やジャングルにケチュア戦士が篭ってしまえば,これを叩き出すのは容易なことではない。

 

インカによる覇業の立役者ワイナ・カパックさん。ゲームでは紀元前4000年くらいから大活躍だが,もちろん史実ではずっと後の人

ケチュア戦士は戦士代替ユニットだけに,ゲーム開始時点から存在する。これで他文明に殴りかかってくださいといわんばかりだ

 

 かといって,ケチュア戦士を放置すれば労働者が餌食になる。まだ道路もまともに引けていない状態では,侵略者と防衛側の移動速度に劇的な差は生まれていない。チャリオットでも作れば追い散らすこともできようが,ケチュア戦士段階でラッシュをかける勢力が,そもそも馬資源の確保を許すような速度で進撃してくることはないし,領内に馬資源がなければそこまでだ。白兵ボーナスを持った斧兵にしても,銅が必要である。領内に大量のケチュア戦士が伏せている状態では,いずれも夢物語だ。

 

どこの誰の恨みか知らないが,首都を守る戦士2ユニットを打ち倒し,スペインは真っ先に血祭りに上げさせていただいた。いやその,偶然ですよ,偶然。イザベルさん

 

アステカのジャガー戦士は,序盤で整備できるがゆえにケチュア戦士の強力なライバルだ

ケチュア戦士ラッシュから,斧兵と剣士のラッシュに切り替えていくところ。斧兵のスタックの上にはケチュア戦士の群れがいる

 インカ側もケチュア戦士万歳で突入してさえいればよいかといえば,もちろんそうではない。敵はきちんと選ばねばならないのだ。まず,通常より高い能力を持った弓兵であるスカーミッシュ兵が生産できるマリ,これはあまりよろしくない。そして鉄がなくても鉄器さえ開発してしまえば(!)剣士を生産できるアステカ,これもまた望ましからぬ相手だ。

 

 序盤ラッシュにはデメリットもある。一番よくないパターンは戦争を引きずりすぎて,自文明の成長が遅れてしまうケースだ。なるほど相手の唯一の都市を陥落させて,そこを自分の第2,第3都市とするのだから,開拓者を作るための時間を使ってケチュア戦士を量産,迅速に併合すればよいのだが,正直いって弓兵が3ユニットばかりスタックしてしまうと,ケチュア戦士だけで陥とすのは困難になる。
 理想をいうならば相手が労働者を表に出せず,また弓兵の生産にかまけてしまう隙を突いて第二都市を建設,銅を確保して斧兵で攻勢を継続したいところである。だがそうした読みが通じるのは,1文明を相手にするときだけであって,その間にほかの文明は順調な発展を遂げてしまう。このゲームで戦争をすれば,開発が遅れるのは必然なのである。

 

引き続きケチュア戦士でベルリンを攻略。イスラムやモンゴルならともかく,インカに攻められようとは。占領して四つ目の都市に

 しかしまあ,そこは考えようである。「開発が遅れる」にしても,世界全体で文明の発展が遅れていれば,自文明が遅れていることにはならない(笑)。というわけで,序盤ラッシュから始まる積極策は,紀元前4000年から始まる戦争に,可能な限り世界を巻き込んでいくこととなる。
 インカで太古から続く長い長い戦争を戦い抜くのは,このゲームのインカが,インカによる,インカの世界を構築していくことだ。21世紀になってコンピュータが開発されていなかったとしても,気に病む必要はない。史実で13世紀ごろに成立したインカは文字を持たなかったが,今なお人々を驚嘆させる工学技術に,裏打ちされた都市を造営したではないか。
 このゲームでは全体として,ヨーロッパ人が作った歴史と技術体系が“正解”なのかもしれないが,そもそもインカが主導する歴史に,同じものがあるとは限らない。ジャレド・ダイヤモンドはその著書「銃・病原菌・鉄」で,なぜインカがスペインに征服されたかを,洪積世以降の地理と技術史から明らかにしたが,そうした理屈が通用しない世界を目指すのだから仕方ない。インカ独自の未来図がCiv4には実装されていないのが悪い(?)のである。
 いやもちろん,インカを選んだからといって,是が非でもケチュア戦士の群れで他文明に押し寄せねばならないわけではない。世界の“先進国”がカウチとポテトとインターネットに豊かさを見出し,核の拡散防止とハイテク兵器による局地的な紛争にうつつを抜かしているなか,未だ電気すら知らぬ文明が独自の文化で世界を一応制覇可能というゲームコンセプトは,それなりに幅広いものではある。ただし,インカ(ワイナ・カパック)が文化勝利に向いた文明とは決していえないのだが。

 

西欧文明が唯一の選択肢ではない……はず

西欧文明を代表して(?),インカの侵攻に怒りをあらわにするスペインのイザベラ。よく分からないが,お互い様ですよ?

 産業革命を起こし,ナショナリズムの機運を高め,鉄道を整備し,自由主義を標榜し,やがてコンピュータ・ネットワークが世界を覆ってアルファケンタウリに旅立ったり,国連事務総長になったり,ステルス爆撃機と最新鋭の戦車で軍事制裁を実施したりするのが,本当にインカという文明のありようなのか,そんなこと誰にも分かりはしない。これはRTSを含め,現実の歴史から帰納的にデザインしたゲームの宿命ともいえる問題だ。
 PCゲームのデザインが,アカデミズムを援用することで深みを増したのは事実だが,それはまだまだポストコロニアリズムどころか,カルチュラル・スタディーズの水準にすら届いていない。そもそもあらゆる文明が(下部構造とか,さまざまな条件はあるにせよ)完成形として北西ヨーロッパ文明と大同小異になるはずだという固定観念は,構造主義によって1960年代には決定的に揺らいだはずである。また近年の研究では,中世封建社会というのは古代帝国の亜周辺(周辺のまた周辺),つまりバビロニアから見た北西ヨーロッパ,中国から見た日本や東南アジアのような地域にしか見られないローカルな社会現象であって,文明共通の発展段階ではないという説が,有力になりつつあるくらいなのだ。

 

スペインのコルテス率いる騎兵(の外見)に,馬を見たことがないアステカ軍が恐れをなして敗走したという俗説は有名だ。それはともかく,今やインカでも騎兵隊が大活躍中

 例えばこのゲームで,インカが独自の道を模索しようとした場合,そこに広がっているのが戦争に次ぐ戦争になりがちなのは,先ほどの「未来図が実装されていない」という問題に帰着する。非ヨーロッパ系文明には「Civ4のパラダイムでは割り切れない部分」が残らざるを得ない。そこに序盤での強みを付与することには,もちろんプレイバランス上の配慮があるにせよ,ヨーロッパ文明が上書きして消してしまった“未開”への,無意識の憧れと軽侮と恐怖,そして幾ばくかの後ろめたさを主成分とするオリエンタリズムが,含まれているような気がしてならない。つまりは「ニンジャ」であり「カンフー」であり「禅」みたいなものである。
 そうした割り切れなさとプレイヤーが向き合ったとき,可能な選択肢はかなり少ない……。筆者は決してサミュエル・ハンチントン氏のうかつな言説に与するものではないが,この「割り切ろうとする意思」と「割り切れない現実」の衝突のことをこそ,文明の衝突と呼ぶべきかもしれない,とは思う。

 

ライフル兵にカノン砲と,インカの軍隊もすっかり近代化されたが,1978年の出来事として見ると,かなり微妙だ

 などといった長大な感慨はともかくとして。マップが「パンゲア」系の陸続きなら上記の戦術はなんとか実行可能だが,海を挟んで分かれた分布だと悲惨だ。18世紀くらいになっても,まだまだ余裕で鎚鉾兵とかが活躍しちゃう泥沼の戦争を戦い抜いて,一つの大陸を制覇した頃,海の向こうから鉄砲と騎兵隊とカノン砲で武装した軍隊が押し寄せてくる。彼らにあっという間に惨殺されてゲームセットだ。スペインのコンキスタドールもかくやという,まことに宿命じみた光景を迎える。
 そんな人達に迅速かつ効率よく侵食されていく国土を見て,「俺の3時間を返せ」ではなく,「これはこれでなんかいいよね」と思ったら,あなたも立派にこちら側の人,ということだ。

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
ボードゲームとPCゲームの間,ゲームと現実の間を自在に行き来するゲームライター。ボードゲームファンの間では,「ナポレオニック作品のプレイヤーは,史実を覆す大勝利より,逃れられない宿命による敗北を喜ぶ」という観測があるが,このヒトの執筆スタンスは,しばしばそれを思い出させる。「ワーテルロー,ワーテルロー,ワーテルロー。陰鬱なる平原よ」というヴィクトル・ユーゴーの慨嘆に対する感想を,ぜひ求めてみたいところだ。
タイトル シヴィライゼーション4【完全日本語版】
開発元 Firaxis Games 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/17 価格 オープンプライス
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1.2GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 2 MX/Radeon 7500以上,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

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