連載 : キャラクターゲーム考現学


キャラクターゲーム考現学

第26回:プラネタリウムとギャル「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」

 

PC上で読む小説「キネティックノベル」である本作は,家庭用ゲーム機や携帯電話にもプラットフォームを広げてきた

 ひさびさにお届けするこの記事だが,今回扱うのは「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」だ。「キネティックノベル」に属するこの作品は選択肢がいっさいなく,ゲームというよりPC上で読む小説ではあるものの,その感性と題材,表現手法はキャラクターゲームと共通する。
 ダウンロード販売でスタートしたこの作品,PCパッケージ版やプレイステーション2版が発売され,携帯電話用アプリケーションとしても販売されている。また,パッケージ初回版に付属していた書き下ろしサイドストーリーのうち一編をドラマCD化したものが,5月25日に一般発売されている。

 

 

Character Side:終末世界における,とても小さな物語

 

 ネタバレを避けつつ作品のあらすじを語ると,以下のようになる。世界全面戦争によって人口が激減し,環境破壊で緩やかに滅亡しつつある世界。旧文明の廃物をあさって生計を立てている「屑屋」の主人公が廃墟に足を踏み入れたとき,ロボットの少女に出会う。
 彼女の名は「ほしのゆめみ」。戦争以前にそこにあったプラネタリウムの解説員だった。ロボットゆえに現在の状況を理解できず,主人公を久方ぶりに訪れた客と思ってもてなそうとする。そして,主人公がゆめみと関わっていくうちに,すさんでいた心が変わっていき……という物語である。
 登場するキャラクターは主人公である「屑屋」とゆめみの二人だけ。荒廃した世界で生き抜くため,すさみきった生身の人間である主人公と,ロボットであるがゆえに,プログラムされた「純粋な」心を持ち続けている,ゆめみ。この二人の,ときにすれ違ったりもするやりとりを通じて,主人公の心情の変化が描かれる。
 「純粋な」少女型ロボットという設定は,「To Heart」の「HMX-12 マルチ」以来,すっかり定着した感がある。この物語においても,ゆめみの純粋さがストーリーのポイントであり,果たす役割は非常に大きい。
 また,ゆめみのキャラクターデザインと原画は,メカと少女を得意分野とする駒都えーじ氏が担当しており,その造型もゆめみのイメージ形成に一役買っているといえよう。

 

ほしのゆめみ
主人公が廃墟である「封印都市」内で出会う少女。戦争前に,デパート屋上にあったプラネタリウムの,集客の目玉として導入された解説員のロボットで,戦争によって世界が滅亡に瀕していることを理解できず,足を踏み入れた主人公を久しぶりに訪れた客として歓迎する。自分のことを「少し壊れたロボット」というが,その言葉の裏には……。
(CV:すずきけいこ)

 

イエナさん
キャラクターではないが,この物語で重要な役目を果たすプラネタリウム投影機。昔ながらの二球式投影機である。モデルになったのは,明石市立天文科学館にあるカールツァイス・イエナ製のUniversal 23/3投影機で,これは日本で最も古いプラネタリウム投影機。老朽化などの理由により,残念ながら2010年度での引退が決まっている。

 

 

Game Side:PCを活用して丁寧に語られる,秀作叙情SF

 

 最初にも述べたように,このタイトルはゲームではない。選択肢はいっさいなく,画面に表示される文章を読み進めるだけである。パッケージ販売版/携帯電話版ではゆめみのセリフに声がついているが,ダウンロード販売版ではプロローグとエピローグ以外に声はついていない。
 分量的には,ゆっくり読み進めても1時間あれば終わる短編(というか掌編)で,そこに音声と挿絵代わりのグラフィックスが付いたものといえよう。アニメ的表現で魅力を増しつつも,それを最小限に抑えることで,読書という行為が持つイマジネーション要素と両立させた形だ。セーブが「しおりを挟む」と呼ばれ,いったん読んだところについて「目次」が表示されるという仕様からは,“読み物”であることへのこだわりがうかがえる。

 

基本画面は,このようにその場の情景の「絵」と本編の文章が表示され,マウスクリックで文章を読み進めていくスタイルだ この作品でセーブは「しおりを挟む」と呼ばれる。また,左の「目次」で各段落の先頭から読めるようになっている

 

 筆者の涼元悠一氏は,ゲームのシナリオを手がける前は小説家として作品を発表しており,第10回ファンタジーノベル大賞において「青猫の街」で優秀賞を受賞している。この「青猫の街」はコンピュータがテーマの一つになっていることもあり,横書きの体裁で出版されている。
 こうした表現手法の追求のなかでゲームのシナリオという形態を見出したわけで,表現の方法と内容の組み合わせとして,キネティックノベルではより印象に残る形を模索しているようだ。planetarianでポイントになるのはゆめみの純粋さであり,それを表現する手段として,声やグラフィックスが効果的に使われている。

 

おそらくこの物語のなかで最も哀しい場面。戦争が起こる前のプラネタリウムの演目「宇宙に羽ばたく人類の夢」では,人口やエネルギーといった地球規模の問題がいずれ解決され,人類は宇宙へ羽ばたくであろうという。しかし,現実は……

 メインとなるストーリーに関しては,どこかで見たネタがあちこちに見受けられるものの,これらは茶化しとしての「パロディ」ではなく,言葉の正しい意味としての「オマージュ」であろう。涼元氏はplanetarianより前に手がけた「CLANNAD」の担当シナリオにおいても,モチーフに叙情SFの傑作の一つといわれるロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」(邦訳は事実上絶版状態)を,うまく使っている。
 そこでテーマとなったのは「時間」であり,planetarianでも終末を迎えた世界,異質な存在と共有した時間と,それによる主人公の心情変化が,「切ない」エンディングへと収斂していく。分かりやすい「お涙頂戴」ではなく,そこに至るまでの描写がきちんとなされているという意味で,れっきとした叙情SFである。
 日本の作家で叙情SFといえば梶尾真治氏が有名で,「クロノス・ジョウンターの伝説」(朝日ソノラマ)や「美亜に贈る真珠」「梨湖という虚像」(どちらも早川書房の選集に収録)など,日本SF史上のオールタイムベスト入り確実な数々の作品を持つ。筆者個人としては涼元氏のplanetarianも,そうした作品群に見劣りしない出来だと感じている。
 アニメ/漫画的,ライトノベル的パッケージングがこの作品のターゲットを広げたことは間違いないが,旧来的な叙情SFファンの鑑賞にも十分に耐えるものであることを,あらためて強調しておきたい。

 

封印都市内に踏み込んだ主人公が出会った少女ゆめみ。自分はロボットで「多少壊れ気味」だと言う。30年間放っておかれたことによるものと,そのほかに…… プラネタリウム投影機「イエナさん」を修理することになった主人公だが,ゆめみとは会話がいま一つかみ合わない。このあたりは微笑ましいストーリーが展開する

 

■■田村眞治(フリーライター)■■
硬軟取り混ぜて,SFとキャラクターゲームに詳しいPCゲームライター。プラネタリウムに明るい……かどうかはあずかり知らないが,クラシックカメラには通じているので,明石市立天文科学館の話はカールツァイス・イエナに関連したトピックスとして仕入れているのかも。まあイエナと言われて,「1806年」とか「さねよしいさ子」とか答えられるよりは,安心して聞いていられる気もする。
タイトル planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜
開発元 Visual Art's / Key 発売元 Key
発売日 2004/12/06 価格 2940円(パッケージ),1365円(ダウンロード版,ともに税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 5.0以上),Pentium II/300MHz以上[Pentium III/600MHz以上推奨],メインメモリ:48MB以上(Windows XPの場合256MB以上),HDD空き容量:200MB以上

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http://www.4gamer.net/weekly/charagame/026/charagame_026.shtml